「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ワンパターンとアンサンブル・・・・・・ThePolice

 
ほとんど同じに見える1stと2nd。この2枚が全て、後の3枚は聴かんでよろし♪

 80年代初頭、よく日本盤のLPのオビに付いてたキャッチコピーに、「80年代のビートルズ」っちゅーのがある。世紀の一発屋「ナック」も「マイシャローナ」でデビューしてそう騒がれたし、以前取り上げたチートリなんてそんな風に言われたもんだから、彼等一流の親日家ぶりと韜晦さを発揮して、「デイトリッパー」のカバーシングルなんかを出したりもした。
 結局、そんな売り文句、レコード会社の安っぽい宣伝文句に過ぎなかったのだけれど。

 そして「ポリス」である。彼らも同じように騒がれた。極めて才能にあふれ、ラフなようで緻密に計算しつくした楽曲とイメージ戦略で一時代を築いたバンドだった。今は「スティングが昔やってたバンド」、ってゆーた方が通りがいいかな?

 今日はこれまで取り上げた中では最もメジャーな、彼等に付いてちょっと書いてみよう。

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 当時流行の最先端だったパンキッシュなルックスとトリオ編成で登場はしたものの、実際はそれぞれがミュージシャンとして長いキャリアを持ち、矢継ぎ早にヒットを飛ばし、たった5枚のアルバムで世界の頂点を極め、サッサと解散したゴッツいバンドがポリスである。この点で彼らこそが「80年代のビートルズ」に最も近かったように思われる。
 もしこれ読むあなたがギターソロにだけ血道を上げるギターキッズでなく、曲のアレンジや音作り、空間処理、アルバムでの曲の配列等に興味があるのなら、彼らのアルバム、中でも1st「アウトランドスダムール」と2nd「レガッタデブラン」は聴いて損はしないと思う。

 おれは彼らの曲の特徴である「レゲェ+8ビートのストレートなロック+ダブ」には全く影響を受けなかったが、上に挙げたような部分でこの2枚のアルバムを聴きまくった。勉強しまくった、っちゅーた方が正しいかもしれない。

 ま、ミーハーだったのも事実で、高校生のおれが結成したバンドも3人バンドだったし、ピートコーニッシュの手による、まるで「黒い畳」のようなエフェクターボードにもあこがれたし、ペダルムーグ(足鍵盤のシンセサイザー)が手に入るお値段ぢゃないので、「普通のシンセを床に置いて、使う音の部分にだけ木の棒をガムテで貼って踏む」(笑)、なんてーナサケないこともライブでしたけどね。
 
 彼らの曲のコア部分はメッチャ単純である。クセのあるハイトーンとメロディセンスが印象的とはいえ基本的に同じラインの繰り返し、コード進行も単純っちゅーか明確で、プログレ系に見られるような変奏や転調、変拍子はまず出てこない。レゲエの横ノリと8ビートの縦ノリを機軸にした新味くらいで、あくまで基本は「分かりやすいロック」である。
 歌詞が過激で発禁喰らったとかゆうけど、全然おとなしいしね。あくまでパンクはポーズ、売れるための方便、ファッションよ。

 なのに何回聴いても飽きさせないのは、明確なそれらの骨格に様々な個性と仕掛けをちりばめてあるからだろう。

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 まずは声も含めた音色の特徴。何たってスティングの声はやはりすごい。だって、誰が聴いてもスティングだってすぐ分かるもん。おれはもしP・ガブリエルかR・リード、あるいはこのスティングの声で歌えたらもぉ何も要らんね。これはベンキョーしたってムリやな。

 次がS・コープランドのタイコ。皮をビロンビロンに緩めてそれにミュートかますのが大流行だった時代(あ、今でもそうか・・・・・・)に、極端なハイチューニング。スネアなんてスナッピーがほとんど共鳴せず、終始リムショットしてるような、缶カン叩くような音で脳天に突き抜ける。さらにはこれまた甲高いオクタバン(タマのとても変わったパーカッション)まで組み合わせてるから、何叩いてもコンコン・カンカンってカキクケコ系の音しかしない。ものすごい個性的。パッと見は平凡だったけどね(笑)。
 そんなセットをおそらくはオーソドックスなスティックの持ち方なのだろう、叩き方が全然重くないのだな。頻出するシンバルトップのレガートもハードロックのような重さは全然ない。オカズは少なめで、とにかくスピード感あふれるタイコだった。おれは「ネクストトゥーユー」のイントロだけでノックアウトされたね。あれ、実際叩くとメッチャむつかしい。

 そしてギター。トレードマークだったサンバーストの改造テレキャスを多くの曲で弾いてると思うが、あの独特の金属的な響きを活かし、歪むギリギリまでアンプのレベルを上げたクリーントーン+コーラス。これまた「ロックには無条件で甘くて太いディストーション」、の時代に超個性的だった。
 個人的な話だが、おれは音色的に、この人にものすごい影響受けてまっしゅ。


けっこう細かく手が入れてありますなぁ。

 ベースもフレットレスの8弦っちゅーメチャクチャなのをピックで弾くっちゅー、およそ類例のないユニークな組み合わせで、ブヨブヨしながら妙に中域に張りのある個性的な音で、それをピョンピョン飛び跳ね、歌いながら弾くのだからテクも相当のものだ。

 ね、パンクは見かけだけって分かって来たでしょ?彼らのしたたかな戦略だったのよ。ファッションもトリオ編成も。

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 さらに、これらの音色による独特の疾走感あふれる演奏のあちこちに仕掛けられた、色々な大ネタ小ネタがすごい。彼らの計算の真骨頂だろう。

 最初に取り上げるべきは、何たって、エコーやディレイ、つまり空間処理の巧さだな。

 例えば「ウォーキングオンザムーン」や「デスウィッシュ」のギターリフ、「レガッタデブラン」のベースライン。どれも律儀に全ての音を弾いたって同じようなことはできるが、あえて弾かずにディレイで手を抜くことで、却って緊張感と広がりが出ている。あろうことかタイコにまで同様のディレイ仕込んでトリッキーなことしてるのもあった。
 「キャントスタンド〜」や「メッセージインアボトル」の間奏でのホヨホヨホヨ〜ンって奇妙な音も、ディレイとハーモニクスで出してると思われる。これらは全てルーツをたどると、ダブの手法なのだが、アレンジではなく一歩進めて曲のパターンにまで組み込んだところがスゴい。
 個々の楽器だけでなく、楽曲全体に掛けられたエコー処理や音の定位も、スカスカしながら奥行きを持って広がって聴こえる工夫がしてある。その一方でラウドな曲では生々しくするためにエコーは浅く、モノラルっぽく仕上げてあったりと、ホント芸が細かい。

 その次がA・サマーズの「アイデア勝負の引き算ギター」だろう。もう職人の芸風。バッキングやるために生まれてきたような人やね。

 解散後に出したソロアルバムで分かるように、ホントはこの人ムチャクチャ上手。なのに、ポリスではとにかく必要最小限しか弾かなかった。ぢゃ、簡単なことしてるのか、ってゆうとおそろしく凝ったコトしてたりする。上記「メッセージ〜」のリフは超ワイドストレッチな運指が曲を通して必要だし、「ベッドトゥービッグ・・・・・・」のバッキングのアルペジオ、ピッタリ曲のキーに合わせたフィードバックから始まるソロもすごい計算。
 そうかと思うとアホみたいな手癖だけのギターソロ弾いたり(これも計算づくなんだろうけど)、三流ハードロックギタリストだってもうちょっとは工夫するでしょ?っちゅーくらい単純な低音弦リフ出したり、とにかく「全体のアンサンブルのためには、恥ずかしいことでも何でもわしゃやりまっせ〜!!」といった、お笑い芸人的スタンスは素晴らしい。
 ちなみに日本で始めてエフェクター(ファズ)を使ったのは、何と加山雄三だそうだが、それを彼にプレゼントしたのは、どうやら60年代末、アニマルズの一員として来日した、このA・サマーズらしい。
 加山はん、あのボンボン丸出しの笑顔で図々しくおねだりしたんかな?(笑)・・・・・・ま、噂だけどね。

 3つ目はアレンジの仕掛けだろう。スタジオ録音なのにワザと1発録り風に仕上げる(良く聴くと緻密なオーバーダブやSEがかかっていて一発ではない)、イントロでバスドラが裏の拍子だと思ってたらいつの間にか表打ちになってる、イントロで普通の4拍子と思わせて、4拍目の裏からリフが始まる(ツェッペリンの「ロックアンドロール」のパクリかな?)、音数をムリしてでも減らしてスカスカにする、基本的には前ノリなのに、曲によっては引きずるような極端な後ノリで演奏、ノンコードの多用・・・・・・書ききれないが、どれもサラッとやってて分かりにくいけど、相当のテクがないとできないことばかりだ。ホント勉強になりまっせ。

 さらに最後にもう一つ、アルバムでの曲の配列の潔さ。最初に売れ線の曲を徹底して固める。コンセプトあるように見せかけて、その実、何もない。売るためには何でもやる!ってこの姿勢は、しょーもないノーガキ垂れて消化不良起こしてるより清々しいぞ。

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 こうして整理すると、ポリスの魅力とは、シンプルなようで練りに練ったリフやメロディーラインの反復に、個性的な音色と絶妙の技術に基づくアンサンブルで演奏して、さらにこった仕掛けで深みを与えてること、に尽きると思う。
 誰でもちょっと真似するなら容易だが、そっくりそのままはとても困難な音なのだ。

 おれはそうして知恵の限りを尽くして必死になりあがろうとしてた、最初の2枚が好きだった。ビッグになってからの3枚は数回聴いただけで止めた。セールス的には3枚目以降の方が好調だったと思う。いや、いいアルバムなんだよ。今でも「ドゥドゥドゥ〜」とか「見つめていたい(原題忘れた)」なんて、良くカバーされたり、インストにアレンジされてBGMで流れてたりする。名曲なんだろう。あ、話はそれるが、日本語版シングルはサムかった。クイーンの日本語バージョンも聴いてて恥ずかしくなるが、こっちも相当のモンだったなぁ(笑)。

 ともあれ、おれのポリスへの傾倒は高校の半ば過ぎで終わった。上に挙げた数々のネタが出尽くした気がしたのもある。しかし何より、初期のキレと毒気が感じられなくなってしまったのだ。キレと毒気を説明することは非常に困難だが、ま、ロックがこれなくしちゃおしまいだわなぁ〜。

2005.09.02

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