「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
油湖の夢の半分


フツーのオッサン等やなぁ・・・・・・・こうして見ると

 「あぶらだこ」を漢字で書くとどうなるのか知らないが、2ndアルバム−−通称「青盤」−−の中で長谷川裕倫は歌詞カードの「油湖の夢の半分」を「アブラダコノユメノハンブン〜〜」と絶叫してるので、「油湖」なのかもしれない。ま、どぉでもいいことだけど。

 ・・・・・・「日本の現役バンドでオマエの好きなバンドを3つ挙げろ」、と言われたら、間違いなく「あぶらだこ」はその中に入る。今日はその彼等について書いてみよう。

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 初めて聴いたのは徳間JAPANから出た1st−−通称「木盤」−−の頃で、バンドのベースだったMがLPを買って「面白いから聴いてみろ」と貸してくれたのだ。ハードコアシーンでアタマ逆立ててた時期よりちょっと後だろう。
 当時は関西系のバンドの方におもろいのが多かったし、どれがどれやら区別がつかんハードコアにはあまり興味がなかったので、名前は知ってたけどノーマークだった。しかし、聴いてみてパンクの範疇から大きくはみ出したおもろい音だな〜、と思った記憶がある。

 直後にアルバム発売ツアーがあって、宮西の時と同じく、おれ・S年・Mの三人は銀閣寺CBGBに出かけてったのだった。前座はたしか「ヴァンパイア」。そぉいやおれたちの最初のライブも場所はCBGBで、対バンは彼らだった。ワダはん、今は学者業の傍らバンド続けてはるらしい(笑)。
 集まった客は150くらいか、白ボディに黒ピックガードのムスタングがトレードマークのワダはんを中心とする、ヴァンパのソリッドでスカスカなトリオ編成の演奏が終わって、器材が並べ替えられ、しばらくして無造作に「あぶらだこ」のメンバーが出てきた。無論、まだギターが和泉、ドラムが吉田達也の頃の編成だ。ギターがヤマハのSG持ってるのと、ドラムがパンク系では珍しいツーバスだったのがわりと珍しい印象だ。

 ドンガ♪ドンガ♪ドンガ♪ドンガ♪、とこれまたパンクでは珍しい3連ノリでライブは始まった。1stトップの「Farce」だ。タテノリのポゴを期待して前に押し寄せたハードコア連中はノレずに当惑してる(笑)。ヒロトモ登場。白のジャケットにツンツンウニ頭なところにハードコアの面影。そおいや和泉もパイナップルみたいなモヒカンだったような・・・・・・。どれも1曲1〜2分のを続けて4曲ほどやって、最後は「翌日」。

 「あ゛お゛い゛た゛い゛よ゛ぉ゛〜わ゛ぁ゛〜〜〜♪」と繰り返して呆気なくライブ終了。演奏時間きっかし15分・・・・・・15分!?はぁ!?そりゃねーぜセニョール!こっちゃ〜コスト意識高い関西人だっせ!(笑)。

 強烈な、そしてちょっと割り切れない印象だけを残して、アッという間に彼等は去って行ったのだった。

 ・・・・・・当時、彼等のライブは極端に短いことで知られていた。7分、って記録もあるらしい。これより短いのは、今はなき扇町ミュージアムスクエアであった「南海ホークウィンド」の1分ライブくらいだろう。またまた登場だが、いきなりメンバーの山塚アイが暴れてコケて器材の角でアタマ打ってケガして流血して終わり(笑)。ボクシングの試合ぢゃあるまいし、1分はねぇだろう、って思うよね、フツー。

 翌年、2ndが同じく徳間から出る。この時は関西ツアーはなかったような気がする。

 おれはこのアルバムがいっちゃん好きだ。3rd以降顕著になる、マニエリスティックなまでに複雑に解体され構築された楽曲群と、初期のストレートさの中間にあって、独特の突き抜けたような透明感と凍りついたようなテンションが良い。それかあらぬか、A面・B面それぞれ1曲目は「北極」「南極」と題されいていたりする(笑)。ちょっと「クリスチャンデス」に近い曲や、「ツェッペリン」を思わせるリフがあったりして、彼等の音楽のルーツの幅広さが伺えるのもいい。
 このアルバムは、おれ、どの曲も好きだなぁ。

 そして3年ほどして、3rd「亀盤」。これもかなり好き。一時はクルマの中でこればっかし聴いてた。ますます曲は複雑になり、他のどんなバンドとも似てない完全に独自の世界に入っていった感があるが、しかし、この発表以来、彼等はナリをひそめてしまう。てっきり自然消滅したんだと思ってた。

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 さて、「あぶらだこ」の音を知らない人に、この、ややこしさの極致のような曲風を説明するのは実にむつかしい。ジミヘンがツェッペリンに加入して、中期クリムゾンの曲をコピーしてボーカルを町田町蔵にやらせたら似たような感じになるだろう・・・・・・って既にじゅうぶんワケが分からへんやんけ(笑)。
 とにかく、世界に唯一無二の個性的な音だ。噂では1曲演奏できるようになるのに半年かかっている、とも言われるが、まんざらウソではないような気がする。変拍子・煩雑に入るブレイク・何度も変わるテンポ・難解で意味不明で漢字だらけの歌詞・・・・・・ことほどさように複雑怪奇な曲構成なのだ。よくちゃんと歌えるもんだ。

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 6〜7年したある日。S年が家に電話をしてきた。すでにどちらも働いており、特におれは大阪の場末の町にある工場で忙しくしてたもんで、すっかり音楽とは遠ざかっていた。

 ------おい、あぶだこ、ライブやるぞ。
 ------えっっ!?アイツ等まだやってたん?
 ------いや〜、おれも解散した思っててんけどな、何かアルバム出て、心斎橋のクアトロでライブやりよるみたいなんや。
 ------ほんまかいな!?
 ------おお、オマエ行くか?
 ------行く行く、絶対行く。チケット取っといてーや。

 ・・・・・・オールスタンディングで2〜300人は入ってただろうか、しょーもない前座の後に10年ぶりに見る彼らが登場。相変わらずぶっきらぼうに出てきた。和泉はすっかり禅坊主のような風貌になって、うつむいてストラト持ってる。ベースの小町は恐ろしく低くプレベ構えてる。ビジュアル的な演出はゼロ(笑)。

 唐突にインストナンバーが始まった。後から思えば「夜霧の停車場」だった。小町のものすごくデカく、ディストーションかかりまくったベースの音にビックリした。えらく複雑なラインをあんなに低く持って、オマケに飛び跳ねながら完璧に弾きまくってる。
 全員のテクは素晴らしい。こんな因果な音をやらんでもやってけるやろ!?っちゅーくらいに巧い。アルバム聴いてなかったのでどれがどれやら、後の曲は分からなかったが、どの曲も極限まで複雑怪奇になっていた。途中で失敗して裕倫が律儀にあやまってもっかいやり直したのには笑った。ちなみに地声の裕倫はどうやらドモリのようである。
 もっと驚いたのはアンコールまであったことだ。たしか「硬貨と水」、みんな踊り狂ってた。

 この時は新宿ロフトと、ここクアトロの2回しかライブしなかったはずなので、この場に居合わせることができたおれはファンとしてはケッコー幸せな方だと思う。

 一般的なウケはあまりよろしくないようだが、この4th「鮒盤」は2ndの次くらいに好きだ。独特の枯れたようなユーモアセンスがどことなく現れ始めて、彼らが愉しみながら演奏してる気がする。一方で、スタジオ録音にもかかわらずやはりベースが爆音でバランスを欠き、さらに、曲が寄せ集め的で全体としての統一感にもやや欠けるのも事実で、その辺がも一つ評価されない点かもしれない。
 おれはしかし、も一つ「あぶらだこ」らしくない、「グリーンパーク」や「タッピングペースト」が好きなんだけどね〜。正調あぶらだこの「邁進」「蕎麦桜」とかも好きだけど・・・・・・。
 後から知ったことだが、このアルバムを最後にギターの和泉が脱退してる。このアルバムの中で彼の手による数曲は、どれも4ビート的なアプローチなので、興味がジャズの方に行ってしまってたのかも知れない。再び長い沈黙が始まる

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 また5年過ぎた。その間におれは東京に暮らすようになり、都内で働くようになったので、時間を工面すればライブにもまた出かけれるようになっていた。

 「あぶらだこ」は、というと、いつの間にか新ギターを迎え、活動を再開してかなり頻繁にライブをやるようになっていた。コンピレーションへの参加もしたし、5th「月盤」もリリースされた。おれは4thの複雑怪奇さが極限と思っていたが、甘かった。とはいえ、あまりこれは好きではない。枯れたユーモアセンスが加速してるのには好感が持てるけど・・・・・・

 ・・・・・・で、社内でも数少ないややこしい音楽ファンの若い衆を誘っていったのが、何ちゅー偶然か、下北沢シェルターでの伝説的1曲ライブ。
 1stの「翌日」を原曲の3倍以上の時間をかけて、それだけ!おれはライブ始まって5分くらいして、演奏してる曲に気づいて(出だしは極端にスローテンポで、まるでSWANSみたいだったのだ)、まさか!?とは思ったが、予想通りこれ1曲。ナメとんかぁ〜っ!?(笑)。
 このときの模様はライブ盤でリリースされたのでご存知の方も多いかもしれない。初めっからその気やってんやんか!!

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 そして昨年、6thとなる「穴盤」発表。これはかなり好きかも。前作より少し曲の揺り戻しというか、余裕があるというか、適度なバラエティ感があって、聴き込める。

 これの発表ライブにも若い衆といっしょに出かけてった。場所は新宿ロフトで対バンなしの完全ワンマン。客の入りはおよそ400。ちょとビックリ。幼い子供を肩車したオッサンもいて、バンドの年季が伺える(笑)。
 相変わらず素っ気無くライブは始まった。ますますテクは上達。どないしたらこんなん、バンドアンサンブルとして演奏できんねん?新ギターの大国も固さが取れたカンジで、テレキャスをなんとサムピックで弾いてるのには驚いた。信じられんわ。
 裕倫は見るたびに痩せて行ってるような気がする。パンクの東海林太郎とでもゆうか、直立不動で宙の一点を見つめながら一息で絶叫するような芸風は変わってないなぁ〜。篳篥やら、テルミンなのか小さな箱やら、テーブルトップギター(おそらくはプリペアド?)までフィーチャーされて、ずいぶん音はカラフルになった気がする。
 おれは篳篥が小さいクセにサックスのような肉感的な音がするのに驚いた。持ち運びしやすそうだし、マスターすると楽しいかもしれない。
 アンコールはなんとゆうサービス。2曲もやりよった(笑)。「Farce」と「アンテナは絶対」・・・・・・おれは年甲斐もなく前に突っ込んでって踊り狂って、若い衆に呆れられた。

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 ・・・・・・結成してはや20年、彼等はどこに向かおうとしてるのだろう?「辺境で屹立した音」とでもいうべき独自の世界は、さらに極北に向かうのだろうか?

 ロックの中にあってロックのイデオムを解体していくような、半ば逆説的なアプローチはシーンの中でも完全に孤立してる。ま、本人たちはやりたいようにやってたらこうなっちゃった、って感じなのかも知れないけれど・・・・・・・。リスペクトするミュージシャンは数多いが、フォロワーもエピゴーネンも一向に現れない。現れても仕方ないか(笑)。

 おまけにほとんど宣伝活動も行わず、たまに思い出したようにアルバムがリリースされるだけ。それでも最近は、かなり活動活発でコンスタンスにライブは行ってるし、フジロックにも出演を果たしたし、「長谷川静男」なる別ユニットも始動した。

 中年といわれる年頃を迎えてますます意気軒昂なのである。頑張ってジジィになっても続けて欲しい。おれもジジィになったって聴くから。

 
おれのフェバリットはこの2枚。2nd「青盤」と4th「鮒盤」(別名「釣盤」)

※知ってる人は当然知ってるが、彼等のアルバムタイトルはどれも「あぶらだこ」なので、ジャケットから通称がついている。

※これを読んで興味を持たれた方は、あぶらだこのファンサイトを是非とも覗いてみて欲しい。非常に充実した内容で、潜在的に彼等のファンがたくさんいることが良く分かる。

http://www.yo.rim.or.jp/~bridge/oilmen/

2005.07.17

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