「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
我、B級ギターを偏愛す(V)・・・・・・Tokaiの巻


メチャクチャミントなストラトのコピー

 トーカイについては前回のアリアプロよりもさらに「A級ちゃうんか?」と思われる方が多いに違いない。80年代初め、エレキでは後発メーカーだったにもかかわらず、確かにトーカイはA級ブランドの一角を占めていたのだ。ただし「国産では」ってただし書きつきだけどね。
 アコースティックの方のブランド「Cat’sEye」はエレキより古く、本家本元のマーチンとの技術提携がウリで、コストパフォーマンスの高いなかなかいいギターをリリースしていた。今でも、スノーフレークのポジションマークを見ると、おれはなんだかキャッツアイを思い出してしまう。なぜだろう?

 でもね、ブランド名がね〜、っちゅーのが当時のおれのトーカイに対する印象だった。「トーカイ、っちゅーたらキューリのキューちゃんちゃうんかい!?」みたいな。「日本語使うんやったいっそ、松竹梅とか鶴亀、竹雀とか梅鶯にすりゃエエのに。あ、東海なんだから富士でもエエかぁ〜」とも思ってた・・・・・・いやはや、アオいガキでした。お恥ずかしい。

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 そんなワケで実際、レプリカブームで攻勢に出てくるまでのトーカイについては、あまり印象にないのも事実。木が良い、とか言われても分からへんしね。

 おれが始めてここの製品に触れたのは、前回の怪しい楽器屋「K.G.Country」だった。たしかストラトのコピー。触ってみた感じも、音もとてもよかったのは覚えている。分厚いカタログには延々と、いかに本物と同じに仕上げたかが書かれてるのは、まぁグレコ・フェルも同じだったが、特徴的だったのは、「NC旋盤を使って削り出してる」ことをえらく強調していたことと、出来ばえの監修に元ガロのトミーこと日高富明を据えてたことだろう。

 当時のNC旋盤なんて、今思えば多分8ビットで、さほど凝ったことができたとは思えないが、それでも「コンピュータ制御です」と言われると何となく寸分の狂いもなくコピーした、って気がしたものだ。ま、コジマさんに言わせると、トーカイのホントにすごいところは、旋盤でどうしても出る1mmくらいの誤差を手で修正してるトコだ、ってことだった。真偽のほどは分からない。
 オマケに本物レスポールのコレクターであったミュージシャンのお墨付きまである。ガロってすでに解散したフォークグループやろ?何でレスポールやねん?っちゅー疑問はあったが、ともあれ本物の58年だか59年を採寸してるんだから間違いあるまい。

 おれは何となくトーカイが好きになっていった。

 この当時の伝説に、トーカイは本物のギブソン59年レスポールを入手して、採寸のために分解しちゃった、ってーのがある。
 実際は件の日高氏所有のレスポールを借り受けて、レントゲン(!?)やら超音波で内部構造を調べたのが事実みたいだが、その甲斐あってかネックの仕込みが他社とはちゃいまっせ!ディープジョイントでっせ!っちゅーのが大きな差別化になっていた。ま、ディープは高級ラインだけみたいだったが・・・・・・。

 大学に入ってしばらくして知り合いになったS年は、おれより年季の入ったトーカイ好きであった。彼はおれほど構造がどぉとか気にしないので多分に感覚的だったが、今はおれの手許にあるレスポールのコピーは普及クラスとはいえ、非常に良くできていた。
 ますますトーカイは気になるブランドになっていった。ギブソン系・フェンダー系、どちらもコピーの完成度が恐ろしく上がったのがこの前後である。

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 こうして書けば書くほどトーカイはA級に思えてくるが、やはりB級なのである。理由はカンタン、倒産したからだ。東海、倒壊したんですわ。・・・・・・で、その後雄々しく復活したんならともかく、以来低空飛行を続けたままなのだ。残念だがA級とは呼べない。

 A級ブランドの条件は性能ではない。性能だけで言えば、消えて行った弱小ブランドにだって素晴らしいものはたくさんある。否、商売抜きで品質を追求しすぎて、それが原因で消えてったブランドだってあるのは、別段楽器の世界にとどまらない。
 ではA級ブランドの条件とは何か?@誰でも知ってること A続いていること B別にややこしい能書きやヲタな知識がなくともあこがれとなりうること、それだけである。これらの条件に合致しないのはA級ではないのだ。資本の論理とはそぉゆうモンだ。
 しかし、おれはそんなB級が好きなのだ。時計だってロレックスよりはゼニスやジャガールクルトが好きなのだ(笑)。

 我等がトーカイの話だった。

 レプリカブームで一躍、トップブランドに躍り出たまでは良かった。しかし、よしゃーエエのに世紀の珍作・タルボを開発してしまった。一つ作るのに砂型が一つ必要な、えらく手間のかかる鋳造のアルミボディ。デザインは画像見たら分かるが、お世辞にもカッコいいとは言えない。
 事情は何となく分かる。完成度が上がったがゆえにレプリカ路線が本家の脅しを受けて、本来いずれも中小企業であるメーカー各社は製品群の変更を迫られていた。オマケに肝心の材木も良材が払底しかかっていたと言われる。その中でも特に、グレコやフェルのようなオリジナルモデルを持たず、また、資本基盤も脆弱だったトーカイは、思い切った賭けに打って出ざるをえなかったのだろう。
 さらに、エフェクターまでも売り出した。当時は国産のBOSSvsMAXONの二強の図式が崩れ始めた頃で、アムデックとかBigJAMとか色々出てたのだが、売り出されたそれらのシリーズは、黒一色の何とも地味なボディで、著しく購買意欲をそそられない代物だった。

 そんな、ちょっといかがなものか状態のまま、これらを戦略商品と位置づけ大々的に売り出したのだが、予想通り売れ行きははかばかしくなかった。当初は小川銀次か誰かをモニターに据えてバンバン広告も打ってたのも、そのうち見なくなったと思ったら・・・・・・倒産していた。
 予兆はあった。倒産の1〜2年前から、それまでは大事に売ってあまり値引かなかったのが、段々店頭価格が下がって奇妙だなぁ、とは思っていた。品質に特に変化は見られないのに。
 話はそれるが、今でもS年が「何のかんのでこれがいっちゃん使いやすい」という、ローズネックで金の60年型のストラトのコピーも、その頃、おれが偶然梅田のナカイで見つけて勧めたものだ。定価7〜8万のものが29,800円になっていたのである。事実これはものすごくよく出来ていて、形状は無論ドンズバ。軽く、良く鳴り、ネックのタッチもバツグンにいい。ライブはほとんどこれ一本で彼はやってたはずだ。

 倒産してからっちゅーもの、もう店頭価格は地滑り状態。おれの金タルボは10万円が12,800円。S年はそれ聞いてマニア心が騒いで買い占めに走った(笑)。銀と赤のタルボがそれぞれ14,800円。エフェクターは良くワゴンセールで千円均一で売られていた。

 加えてそのちょっと後だったか、倒産とは直接関係ないとは思うが、前述のドンズバレスポールの広告塔だった元ガロの彼が自殺したのも、何とも悲しい因縁話ではあった。

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 そんなおれも、今は何のかんので2本のギターと3つのエフェクターのトーカイオーナーである。

 決してよいオーナーではない。正確に言うと1本はS年のレスポールを永久貸与してもらったから、オーナーっちゅーよりはユーザーだ。残りは倒産処分品をタダ同然で買ったのだから・・・・・・まぁいいや。でも、詳細は楽器ギャラリーを見ていただければ分かるが、どちらもものすごくデキがいい。エフェクターはアカンけど・・・・・・。

 今は他社のOEM製品で細々と食いつないでる印象が強い。カタログも往年の分厚いアート紙はどこへやら、折りたたみのペラペラで画像も何だかきれいとは言えない。オマケにホームページもこれまたナサケない。自社ドメインでさえない。浜松の楽器メーカーのサイトとしては、ネギドラムと並ぶショボいサイトだ。

 ホント、でも、頑張って欲しい。


補足:
 トーカイに関してはここのサイトをぜひ見て欲しい。外国のマニアの濃さには恐れ入る。

http://www.tokairegistry.com/tokai-info/tokai-fender.html



数が比較的少ない335コピーのミント。もうバリトラの杢目が美しい・・・・・・

※2005.11.08附記

 この文章の一部が2ちゃんに引用されてることが知り合いからの連絡で分かった。引用した人に悪意はまったくないと思うのだけど、おれとしては「面白おかしく読んでもらう」ことを主眼に書いてるので、史実にはかなり忠実ではない(笑)。だから引用禁止なんっすよぉ〜!
 ただ、おれのアバウトな記述を信用してしまう人が現れるのも、こりゃまた良くないことなので、少し正確に註を加える。

1.「ディープジョイント」というコトバは80年代初め頃にはまだなかった。記憶が不確かだが、80年代も半ば過ぎになってどっかのメーカーが謳い始めた気がする。その点で、「グレコがその嚆矢ではないか」とする書き込みはかなり信憑性がある。上の文章ではだから「便宜的に」使ったことをお許しいただきたい。
2.一方、カタログにはなかったが、実体としてディープジョイントだったと思わせる話をおれは80年前後に楽器屋のオッサンから聞いたのもこれまた事実。この辺の本当の真偽は、要は当時の高級ラインのFピックアップを取り外せば判明するのではなかろうか?
3.ディープジョイントが音質に対して影響を与えない、って書き込みがホントに正しいかどうかは分からないが、おれ的には大賛成。どぉでもいいことだ。むしろホゾの噛み合わせの精度の方がよっぽど重要だろう。でもな〜、デタッチャッブルでもエエ音するヤツぁするしなぁ・・・・・・
4.トーカイの人気が高まっていることは我がことのようにうれしいけど、やはりナンボ80年代以前製品でも、安いラインはも一つでっせ。あまり「ジャパンヴィンテージ」の幻想に振り回されないのが結局は大吉。ギターは性能3分・ウデ7分ですから。

2005.06.19

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