「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
Kill,Kill,Kill !! For Inner Peace

 
1st、2ndのエゲつないジャケット。いやもう死体派

 今は東西統合されてしまったが、60年代末期、旧西ドイツはハイデルベルク大学の付属病院で結成されたという、キチガイ左翼過激派集団、「SozialistischePatientenKollektiv(社会主義患者集団)」は、60年代末期からの日本の新左翼がそうであったように、新左翼ならぬ「珍」左翼と呼んでかまわないような奇妙な連中だったらしい。

 キチガイ左翼、と書いたけどまんざらウソではない。その高邁な理論(らしきもの)は昔読んだが、アホなおれにはサッパリ理解できなかった。精神病患者を革命のための爆弾闘争の戦士として集めたとか、ホンマかいな?とは思うけど、ともあれまぁバーダーマインホフグループのように功成り名を上げることもなく(?)、さしたる活動もしないまま当局によって壊滅されられたんだそうな。当然ではあろう。

 このくだりは「西ドイツ過激派通信」っちゅー本に詳しく載っている。大学で習ったドイツ語のセンセがこの著者の一人で、マトモに語学の勉強をするはずもなかったおれはテストの際、この本の感想を滔々と書き連ねてお茶を濁したのだが、無論、そんな姑息な手段に訴えて単位もらえるほど世の中甘くなかったのは言うまでもない。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 さて、この奇妙なテロリスト連中の名前をいただいたのが、オーストラリアのノイズ/インダストリアルバンド「SPK」である。何でよりによってオーストラリアやねん?と思うが、元祖ゴシックバンドのひとつ「クリスチャンデス」だって、アメリカのウェストコーストのバンドだったくらいで、出物腫れ物ヘンなヤツぁどこにだっている。土地柄関係なしに登場するもんなんだろう。
 まぁ、以上のことは知ってる人は誰でも知ってる常識。今でもコアなファンはいるらしく、ネットでも「SPK」でサーチすると大量に引っ掛かる。ヤフーや何やらのミュージックポータルにも紹介されてたりもする。

 しかし、彼らは分かりにくい。

 ●第一にメンバー。

 初期の頃のメンバーのクレジットがみんな記号みたいで、何が何だか良く分からない。

      EMS/AKS、Ne/H/il、Operator、ToneGenerator、Mr.Clean、Kitka、Sushi、Charlyiev、Skome、Oblivion、
      Pinker・・・・・・この中には同一人物の変名もかなり含まれているらしい。

 ・・・・・・ナメとんのか!?コラァ!!ま、おれもこんな感じのHPネームだけどね(笑)。

 ●第二にバンド名。

 頭文字とってSPKになりゃぁ何でもエエ!って感じで色々なパターンがある。ちょっと列挙してみよう。

      Surgical Penis Klinik
      System Planning Korporation
      SoliPsiK
      Sozialistische Patienten Kollektiv
      SepPuKu

 「切腹」なんて良く見つけたよなぁ〜。ホンマ、感心するわ。余談だが、日本にはSPKって自動車部品屋もあるんだな。知ってて名前つけたんかな?(笑)

 ●第三にスタイルの変遷。

 最初期は、変態テクノパンクとでもいうべきペラペラでジージーと神経症的なタテノリ。1stアルバム「Information Overload Unit」から始まる、重厚で構築的なノイズ(しかし、ほとんどの曲が口ずさめるのが彼等のすごいところ!)、そしてメタルパーカッションを前面に打ち出したエスノファンク的な世界を挟んで、ユーロビート全開のディスコ路線、さらにはおれは詳しく聞いたことないが、環境音楽への傾斜・・・・・・そしてなんと今では唯一のオリジナルメンバーのG・レベルさん、ハリウッドで映画のサントラ専門の作曲家やってはるみたい。
 全く首尾一貫してないでしょ?そう、最初の紹介で「ノイズバンド」と書いたけど、彼等はそこから大きくはみ出していたのだ。

 現在の活動について調べてみると出てくる出てくる。ブルースリーの息子の触れ込みだった何とかの「クロウ」、タランティーノの「From Dusk Till Dawn」何と「StreetFighter」、日本でも似たようなんが作られた「交渉人」、「デアデビル」「セイント」「ルルオンザブリッジ」「バスケットボール・ダイアリーズ」「TheSiege」「チャイニーズボックス」「コラテラルダメージ」etcetc・・・・・・結構なメジャー映画のサントラを担当してるやん。もはや大家・巨匠と呼んでもかまわない。わしゃ驚いたわ。
 ノイズ出身でここまで商業ベースで成功したのは他に例がない。しかしガンガン作りまくったもんだ。苦労人である。何だか、J・ウォータースやS・ライミとかの名前が浮かぶぞ(笑)。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 結局SPKとは何だったのだろう?

 とりあえずSPKがオーストラリア生まれのバンドであることは間違いない。ダンス路線移行前後のライブカセット「Wars of Isram」の出だしで、メンバーの誰かが「OK!」をおもっきりオージー訛りで「オカーイ!」と言ってるのが聴こえるもんな(笑)。
 初期の相方だったニールヒル(ニヒルのアナグラムである)に、若干病んだところがあったのも事実だし(このような特殊音楽やるくらいだから当然か・・・・・・)、そんな因業な音楽やってるくせに親日家の愛妻家で、その奥さんが心臓麻痺かなんかで死んで世をはかなんで後追い自殺したのも事実。
 ただ、彼が関与したのはノイズミュージック史(そんなんあるんかいな?)に燦然と輝く傑作「Leichenschrei」までで、その直後に脱退して「KPS」とか「サンパクガン」なんてバンドを細々やっていたのも間違いない。ん?三白眼!?はぁ?

 あ、思い出した!間違ったまま紹介されてることが多いので、ついでに書いておこう。この「Leichenschrei」は2ndアルバムなのだが、彼らが主催してた「SideEffekt」レーベルから出たのは結構後になってから。オリジナルの焼死体かなんかをジャケットにしたヤツはテルミドール、ってアメリカの自主レーベルから発表されている。

 そもそもおれが最初に買ったSPK作品がこれ。これ以前のシングルは何曲かテープで聴いたことがあったが、何かペラペラ感が気になってあまりピンと来なかったのが正直なトコだったので、一聴、ブッ飛んだことを思い出す。

      もう、カッコ良すぎ!!


裏ジャケのライブと思われる写真。何か殴ってますね。

 よくもまぁノイズでここまでロックしたものだ。あえて誤解を恐れずに言うなら、ノイズで70年代ハードロックを再構成したような、分かりやすいカッコよさなのだ。緩急・抑揚を工夫して配列された全部で20曲近くが切れ目なしに納められ、なおかつ最後はループになって終わるっちゅー小粋な仕掛けまで入って、まったく最後までリスナーを間然とさせない。
 当時のおれは部屋を訪れる友人たちに、「な!?エエやろエエやろ?」と無理やり色々ノイズを聴かせては顰蹙を買っていたのだが、この「Leichenschrei」だけはウケがよく、乞われて何本もカセットにダビングしたことからもこの作品のスゴさが分かる。

 おれは色々な彼等の作品を買い漁るようになって行った。どれもノイズという文脈で捉えると意外なまでにロックだし多彩なのだが、それのどこが悪い!? カテゴライズを離れて聴くと、何とも才気にあふれた音楽である。

 その後のダンスミュージックへの変わり身を非難する声も多いが、あれはあれでおれは好きだ。ノイズバンドがノイズと心中する義務なんてないんだから。ともあれ才能あるヤツはなにやらしてもスゴいわ。
 少なくとも同じノイズ一派のノクターナルエミッションズが、元々才能ないのを止しときゃええのに、ダンス路線に転向して死ぬほどヘチャチャな作品出して失笑を買ったのに比べると千倍スゴいぞ。才能の有無とは呵責ないものなのだなぁ(※)。
 ・・・・・・とは言うものの、この辺を最後におれはSPKの作品に付き合わなくなっていった。だって、おれぁノイズが聴きたかったんだからしゃーないわな。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 結局SPKとは、唯一最後まで残ったオリジナルメンバーG・レベルの個人プロジェクトだった、とするのが平凡だが一番正解のように思える。

 そして彼は、そこはいかにもオージーらしく、さっぱりきっぱりノイズ/インダストリアルの手垢にまみれたSPKブランドと決別することで、メジャー街道を駆け上がっていった。ちなみに現在の彼のオフィシャルサイト(http://www.graemerevell.com/)にはSPKの「エ」の字も出てこない。SPKというイコンはむしろ、彼の表現行為の足かせになってしまっていたのだろう。
 だから、彼らをノイズ/インダストリアルにカテゴライズしたあげく、そこから離れると変節漢よばわりする聴き手に問題ありなのだ。おれはそう思う。

 ネタが尽きた。いずれにせよ、作り手本人が過去に葬り去ったバンドについて(あまつさえもう一人の片割れは自分を葬り去ったんだしねぇ・・・・・・)これ以上書いて何になろう。
 最後に、今回のタイトルに借りた彼等のデビューシングルの歌詞を、拙訳で申し訳ないがご紹介して終わることとしよう。
 


「Slogun」

S.P.K. S.P.K. S.P.K. S.P.K. OK.
Kill Kill Kill for inner peace
Bomb Bomb Bomb for mental health
Therapy through violence
Working circle explosives


「スローガン」

S.P.K.S.P.K.S.P.K.!異議なし!
内なる安息のためには殺しまくれ!
精神衛生のためには爆破しまくれ!
暴力療法だ!
爆弾製造サークルだ!


これがホンマに同じバンドか!?の「メタルダンス」


ノクターナルエミッションズの中心人物だったN・エアーズも、MIDIの音源集出したりしていまだ頑張ってはいるんだけどね〜。どうも彼等とキャブスはモサモサした感じがして好きになれなかったなぁ・・・・・・。
2005.06.03

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved