「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
P−Model、つまりは平沢進というトリックスター

  
もっとも好きなのはこの3枚かな


 YMOに端を発するテクノムーヴメントっちゅーのが、70年代末期から80年代初頭の日本に突如として起きた。

 基本はシンセの無機質な音を核に、軽くて覚えやすいキャッチーなメロディが特徴で、何でこんなにブレイクしたのかおれにはサッパリ分からなかった。YMOのコンセプチュアルな業績に水さす気は毛頭ないけれど、当時のおれには、どうにもクラフトヴェルクの焼き直しにしか思えなかったのである。

 2匹目・3匹目のドジョウを狙って、新人テクノバンドも次々もデビューした。プラスチックス・ヒカシュー・ジューシィフルーツ・一風堂etc、あの「シーナ&ザ・ロケッツ」だって、最初の「You May Dream」はテクノそのものの売り出し方をしたし、沢田研二も「トォ〜キィ〜オ〜」とかテクノになったし、忘れちゃいけない「時代の3ヶ月だけ先行く男」(笑)、近田春夫もきっちりテクノに変身して上記バンドのプロデュースしてたなぁ。ああ、イケてない。

 ローランド・ヤマハ・コルグからは中高生でも何とか買える価格でモノフォニックシンセが発売され、楽器屋に行くと学生服着た連中が「ライディーン」とかのイントロをビヨビヨ弾いたりしてた。シンドラ、なんてーのもあった。叩くとヒョンヒョンヒョヒョンヒョンなんてマヌケで1時間で飽きてしまう音が出るのだけれど、テクノのオカズにゃ欠かせない。これは確かイシバシ楽器オリジナルで1万円くらいのキットが売り出された。ドラムのフープに咬ませて使う。これまたテクノにハマる中高生にはバカ売れしたものだ。

 こうして猫も杓子もテクノテクノで、日本中をピコピコと席巻したテクノムーブメントだったが、今でも一つだけみんなの日々の生活に残っているものがある。

 散髪屋の「もみ上げ」だ。

 カットの最後の方で、必ず「もみ上げどうしますか?」と訊かれる。おれは長年、「普通にしてください。」と言って来たが、数年前、意を決して「どぉゆうのがあるんですか?」と、あえて確認してみた。
 店主は一瞬意外そうな顔をして言った。「普通にするかテクノにするか、です」・・・・・・残ってたんだなぁ(笑)。

 ・・・・・・イントロが長くなってしまったが、今日はそのYMO以後の雨後のタケノコ集団にあって、独特の存在感で今なお続く、平沢進率いる「P−Model」についてである。

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 その後バンドのベースに無理やり仕立て上げられる同級生のMは、高校の頃からP−Modelのファンで、おれは大学に入ってすぐの頃にはすでにカセットにダビングされた「ポプリ」を聴かしてもらったりしていた。ピコピコちゃうんかい?って思ってたら、意外に暗くて重くて硬質でモノトーンな感じ。ほぉ〜けっこうエエやん、っておれは思った。テクノってことで歯牙にもかけてなかったけど、思い込みで聴かんのも良くないな〜、みたいな。

 その翌年か、彼だったか坊主のT岡だったか忘れたが、とにかく誘われて、色んなマイナーバンドが集まる初夏の西部講堂での3DaysLiveに出かけて聴いたのが多分、彼らを生で観る最初だった。後にやはりバンドのボーカルになるS年に引き合わされたのもこのライブだったと思う。S年もP−Modelは好きで、ライブで無料配布されるアルバムとは別テイクのソノシートなんかもかなり集めていた。

 つまり、おれたちのバンド活動に大きな影響を与えているんです。彼等は。

 
丁度そのあたりのライブを収録したアルバム。左側に写ってるのはおれが探し続けてるフェルナンデスぢゃあーりませんか!?


 1曲目が「Solid Air」で、平沢の抱えるギターがタルボだったこと、キーボードのスタンドがグラグラで今にも倒れそうだったことは覚えている。「シーラカンス」や「Heaven」もセットリストに入ってた気がする。余計なMCは全くなし。もう既にサウンド的にはすっかり脱テクノで、重たいリズムに絶叫ボーカル、調性感とコード変化に乏しい暗くヘビーな演奏だった。

 カッコエエやおまへんか!

 それから彼等のライブはずいぶん観た。翌年、その翌年の西部講堂も行ったし、三条木屋町を少し下がったところにあった「ビッグバン」ってライブハウス兼ディスコであった「アナザーゲーム」発表ツアーのライブとか、何だかんだで少なくとも7〜8回は観てるだろう。そして観て、アルバムを聴きまくるうちにだんだん分かってきたことがある。

 ・・・・・・「パクリ」が多いのだ。「パクリ」っちゅー直截な表現が刺激的すぎるなら「引用」としてもいい。

 それも引用の仕方がウマい。彼らが「マンドレイク」というプログレバンドを母体としているのは有名な話だが、その縁あってか(笑)、プログレ系に元ネタがケッコー多い。そんなん本人が認めるわけないから、確証はないけど。

 例えば上記「Heaven」。シンセでホーンとストリングスを混ぜたような音色のリフが延々と続くこの名曲、メチャメチャ名曲だよ。でもこのリフって明らかにクリムゾンの「Lark’s Tongues PartT」の最後のメロトロンのテーマを倍ノリで弾いたのが元ネタでしょ?コアなファンは怒るかな?ちょっと微妙だから。
 ぢゃ、初期の「オハヨウ」はどう?あれってJ・フォックスの「My Sex」そのまんまやん。さすがに「Bike」はマズいと思ったか、ピンクフロイドのカバーであることが示されているが、発売当初のクレジットはそうなってたかなぁ?まぁ、真剣に探せばまだまだ出てくることは確実と思われる。
 プログレのみならず80年代のニューウェーブ・オルタナ系も無論かなり下敷きにされているんだろうな、とおれは睨んでいる。4ADやファクトリー近辺、あるいはC・ニューマンなんかをよく調べたら、もっと見つかったりして(笑)。

 でも、弁護するわけではないが、彼等の場合元ネタを知ってる者が聴くと、「おお!あれをこ〜ゆ〜風に調理しましたかぁ!?」的な、思わずニヤッとしてしまうヒネリがある。ここが面白い。和歌の技法である「本歌取り」のようなモンだ。「ストップメイキングセンス」のアイデアをそのままパクった構成で倉木麻衣がライブやるのとはワケが違う(笑)。
 話は脱線するが、このコ、そもそもの存在からして「宇多田ヒカル」のエピゴーネンだし、何かC級旅芸人の成れの果てみたいな、イケてないカオした生き別れのトーチャンが泣きながら突然出てくるし、出て何になるのか知らんが立命館入って、ちゃんと卒業するし、何かもう笑えるなぁ。幸薄そう。

 ただ、素知らぬフリして引用はやはりよろしくなかろう。いっそこういうのはどうだ?
 本など巻末に「参考文献」って一覧が出てたりするやないですか。音楽も、ジャケットにもう思い切って載せてしまえばいいんだよ。「参考・引用フレーズ一覧」とかさ(笑)。ミュージシャンの音楽的素養やバックボーンがハッキリして、却っていいかもしれない。

 「引用」とおれは書いたが、すなわち「盗用」や「剽窃」と言い切るにはいささかためらわれ、「オマージュ」や「影響」、「パロディ」で済ますにはちょと露骨すぎるんちゃうんかい!?といった微妙なあわいがP−Model、とりもなおさず平沢進の魅力だし、トリックスターたる所以なのだとおれは思う。
 そしてそれはとても日本的だ。拝欧と換骨奪胎からいつの間にやら独自のものに仕立て上げる、これを日本的と言わずして何と言おう。

 しかし、おれだって偉そうなことはいえない。直接フレーズやメロディをパクッたことはないけれど、コード進行やアレンジなんかを他の楽曲から色々参考にさせてもらったことは数限りなくある。 また、曲の一部をサンプリングして1度5度8度等でループ再生し、それをさらに整理して新たなフレーズやリフを構成したこともある。あろうことかサンプリング対象に自分たちの曲を使ったこともあったな。
 3代目ソアラがデザインに困って、「粘土を机にぶつけたものに光を当て、その影を元に全体フォルムを決めた」ってエピソードを昔読んだことがあるが、その苦労、分かるわ〜(笑)。

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 自分の言いわけ書いても仕方ないな。

 話を戻そう。かなりP−Model、つまるところ平沢進の音楽には付き合った。ソロの2作目「サイエンスの幽霊」くらいまでかな?しかし、「Karkador」以降再びテクノ路線へ回帰し、ハッキリしたメロディとカラフルなアレンジが前面に出てくるにつれ、また歌詞がシュールなコトバ遊びからB級SFみたいなものに移行するにつれ、だんだん興味が失せてきた。とはいえ、ソロ第一作「時空の水」はまぁ名盤といっていいだろう。良く聴いたもんだ。サントリーのCMに使われたりもしてたなぁ(笑)。
 でも、そのポップ路線が、世界の数多くの民族音楽を背景にしていることは明らかで、言っちゃなんだが、様々な引用をこれまで同様の手法で調理しているんぢゃないか?ってやはり思っちゃう。

 こうしておれは90年代初めには聴かなくなってしまったが、その後もコンスタンスに作品は発表され、今や平沢進は日本の音楽業界でそこそこの大御所である。肝心のP−Modelやソロでのアルバム発表は休止中だが、映画・TVのサントラやCMソングを数多く手がけ、NHK「みんなのうた」にも楽曲を提供し(笑)、とスッカリもう業界人。でも、どうしても大ブレイクはしない。あくまで玄人ウケの人ではある。

 おれは思う。何をもって音楽のオリジナリティとするかの議論はさておき、今後はマジで上に書いたような「参考・引用フレーズ一覧」をアルバムに書いてみてはどうだろうか?おっそろしくたくさん勉強してはるんだから、それは膨大な量に上るだろう。
 おそらくそうしたら、もっと人気は出るものと個人的には思いますな。彼の気むつかしげで、どこか学者然とした風貌に、それはむしろピッタリだもん。

 いかがでしょう?このアイデア。

2005.05,15

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