「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
Onnaのタナトス/Onnaのエロス


素晴らしいリトグラフ作品

http://starcollector.jp/ichiran.htmより
 フロイトの重要な概念である「エロスとタナトス」は、手癖フレーズのようによく使われる言葉だけど、宮西計三の音楽を聴くと、マンガやリトグラフ作品同様、ちょっと違うな、って気がする。彼の場合はなんだか、

           「タナトス、とエロス」

 なのだ。タナトス初めにありき、ということだ。

 本業(?)のマンガの方も極めて寡作だが、音楽活動の方はもっと少なくて、80年代半ばに「Onna」なるバンド名義で出された7インチシングルが目下唯一のスタジオ盤である。プロデュースは当時、凶悪なライブで世間をにぎわせていた「TheStalin」の遠藤ミチロウ。スターリンのジャケを宮西が手がけた縁で、このような取り合わせになったのかもしれない。
 おれが宮西のマンガ作品にハマりまくってるのを知ってたもんで、バンドのボーカルだったS年が買ってきたのを聴かせてくれた。当時、何となく日本のマイナーはS年、洋物マイナーはおれって感じの切り分けでレコード買ってたような気がする。しかし、彼はノイズには興味がなかったので、逆に聴かせたことはあまりなかったなぁ。すまねぇ。


「コルティジアーナ・ダル・ヴェーロ/胸を包んで」ジャケット

 さて、「コルティジアーナ・ダル・ヴェーロ/胸をつつんで」の2曲を聴いて、おれはかなりキた。いいんだよ、これが!!元々、マンガの登場人物がルー・リードそっくりだったり、コマの隅っこに「裸のラリーズ」とか出てたり、と60〜70年代のサイケデリックが好きなことは分かっていたが、そこは才人、単なるトリビュートやコピーに終始してはいなかった。
 なに、特にむつかしいことしてるわけではない。2曲ともバックはリズムボックスとディストーションギターのリフに、神経症的なノイズギターとヴァイオリン、あとボーカル、それだけである。前者なんて、F#m⇒C#mを延々と繰り返しているだけ。めっちゃカンタン。コピーだけなら1分でできまっせ。
 それでも、だ。ゆっくり深く沈みこんで行く暗い情念に満ちた曲調・歌詞の、このA面「コルティジアーナ・ダル・ヴェーロ」に感じるのは、タナトス以外のなにものでもなかった。それもハンパでなく。
 
 一方、B面の「胸をつつんで」は、これまたゆっくりとしたテンポの曲だが、打って変わってメジャー7thの三度進行を基本にした上昇感覚に柔らかなクリーントーンのギターとヴァイオリン・・・・・・ま、歌詞はどっちも隠喩に満ちた甘ったるくてスケベなものなんだけどね。「茂みの花を開いて見せるあなたがいる」って、ポルノ小説でも恥ずかしくて書けない、って(笑)。
 ・・・・・・まぁいい。イラストポエム、っちゅーんだろうか見開きの細密なイラストに添えられる詩とも散文ともつかないテキストは、リリカルを通り越して通俗的なまでに甘いのが彼の芸風なのだから。
 
 話を戻そう。いずれにせよ、7インチの限られた時間の制約の中で、見事にセクシャリティにおけるタナトスとエロスという背中合わせの概念を、ビニール盤の表裏に収めてしまった力量は大したものだ。そうして、マンガだけでなく音楽の方でも、おれは彼のファンになったのだった。

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 そうこうするうちに、フールズメイトのヨイショもあってか、ライブを京都でやるという。場所は銀閣寺交差点にあった「サーカスサーカス」がツブれた後地にできたばかりの「CBGB」。対バンはなんとハナタラシ!!ムチャクチャなブッキングだが、一粒で二度美味しいのは事実(笑)。そんなワケでS年、Mそしておれの3人は出かけていった。

 んん!?店のドアに貼り紙が!何や!?

 本日予定しておりましたライブについて。

 ハナタラシは飲食店としての衛生とお客様の安全が確保されないため、中止とさせていただき、ONNAのみの演奏となります。あしからずご了承ください。
 ンガ〜ッ!!んなこたぁ初めっから分かってるこっちゃろぉがぁぁぁ〜っ!!・・・・・・詫びのツモリかドリンクは2ドリンクついたけど、それでもチャ−ジはそのままだった。半分にせぇ!っちゅーねん。

 まぁ、ハナタラシのライブがなくなったコトは確かに、観客の安全は保証されたということだ。安心して、3人でいっちゃん前に座って開演を待つ・・・・・・?????客が誰も来ない。
 ・・・・・・待つこと約1時間、客は結局おれ達3人だけのままで照明が暗転し、メンバーが奥からめんどくさそうに出てきた。トホホ。全然人気あらへんねんやんか。

 エピフォンのコルネットかなんか、見慣れないギターを抱えたアロハ姿でサンダル履きの小柄な宮西と、サイケのお約束であるSG持ったんがもう一人、あとはタイコ。うわ!ベース不在やんけ。
 その頃おれ達が勝手に「水平ドラム」と呼んでいた、バスタムの8分連打とスネアの裏打ちという、まんまヴェルベッツなドラムで演奏は始まった(この表現が分からない人は、「WhiteLight/WhiteHeat」を聴いてください)。オクターバーでも掛けてるのだろうか、SGなのに不思議と低音の効いたファズギターが単調なリフを刻み、宮西がうつむいて自分のギターをビリビリ言わせ始める。

 ・・・・・・長い長いイントロの後に歌い始めたのは、何度も聴いていたはずの「胸をつつんで」だった。何のことはない。レコードとアレンジが全く違ってて分からなかったのだ。

 さて次の曲、何せ予習は2曲のみなので何だか良く分からない(笑)。続いて3曲目・・・・・・ゴメン!これだけは言わせて。全部いっしょやんけ!!!
 そう、ライブは単なるサイケデリックのトリビュートやコピーに終始していたのである。

 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪
 ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪ダンダンダンダンダンダンダンバッ♪

 原曲自体長い「シスターレイ」をさらにストレッチして、延々と聴かされてるような感じだな、これって。

 宮西は電気ドリルでギターをギヨギヨいわせたりして頑張ってたが、さほど大した音も出ず、こうしてイッツオンリーおサイケなライブは観客3人のまま静かに終わった。
 レコードだけ聴いてりゃ良かったなぁ、とおれは少しく後悔した。

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 実は今回、宮西のことを書こうと思ったのはかなり気まぐれだ。おれのネットの師匠である会社のオネーチャン(ちなみにものすごい美人です)と絵の話をしていて、彼女が「デューラーが好き、印象派にはピンと来ない」と言ったのに、おれが「光よりフォルムなんやね」とかなんとか相槌を返したのが頭に残ってて、ふと思い出したのである。
 デューラーのほとんど均衡を欠く一歩手前のフォルムと、宮西の細密だが、全体としてはゆがみの感じられる画面に、共通したものを感じたのだ。

 なお、上に挙げた2曲はオマケまでついてネット上で聴けることを発見した。こうして宮西についてまとめようと思って、ネット漁ってたらありましたがなありましたがな!!20年ぶりくらいに全曲聴いて、何だかおれは涙が出そうになったね・・・・・・って大げさな(笑)。絵の下にアドレスを挙げておいたので、よぉーく探して是非聴いてほしい。
 ただ、オマケでついてた曲「母なればこそ」は、恐らく同時期に録音されたものだろうが、ちょっとねぇ・・・・・・当時10インチとかにして入れなかったのは正解のように思える。これ最初に聴いてたらずいぶん印象は変わってただろう。

 もう一つ余談。90年代半ば、ペヨトル工房が廃業する前に、目黒鹿鳴館でのライブを収録したCDが「Eros−Onnaの世界−」と題されて出ているようである。おいおい!タイトル間違えてるよぉ!何だかここまで一生懸命テキスト考えたのがバカみたいやんけ。
 おれ!?あの時の印象があるから、あまりもうライブは聴きたくないなぁ。画業も含めて彼には密室での内省的な作業の方が向いているように思う。スタジオ盤で新作出してくれないかな?
 それより何より、新作マンガを読みたい。始めにタナトスありき、のセクシャリティの氾濫に、久々に触れてみたい。


http://starcollector.jp/ichiran.htmより

http://www.tctv.ne.jp/members/peyotl/miyanishi/より


同上

2005.04.23

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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