「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
永遠の吉本バンド・・・・・・CheapTrick頌



 え!?え!?え!?おめぇマジかよぉ!?ってフツー思うよね?
 ここまでノイズやインダストリアルやプログレや、辛気くさくもややこしい音楽ばっか取り上げてきたところに、いきなりチープトリックだもんなぁ。

 いや、ちょと最近書くもののトーンがミョーに暗くなってもてさぁ、自分でもここまで暗くする気はなかってんけど、どんどん思考がスパイラル状にリクツっぽく、痛々しくなってくるのを止めることができなかったんですわ。これはもう、能力のない者が文字やコトバと向かい合う罰みたいなもんで、ドンドン引きずり込まれるんです。
 ・・・・・・・で、こりゃちょとマズいな、と、ちょっと揺り戻しでノー天気に書き飛ばすネタ、ってコトで取り上げたんっす。

 でも、おれ、ホンマ好きだったんですよ。彼等のシンプルかつキャッチーな曲作りが。

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 思えばチープトリックに初めて触れたのも、これまたNHK「ヤングミュージックショー」だった(笑)。中坊にはとにかくこれしか動画の情報源がなかったのだから仕方ない。日本で大ブレイクする前夜で、時間はたったの15分しかなく、やったのは4曲くらい。「Hello There」「Dawned」「Southern Girl」「Clock Strikes Ten」だった記憶がある。正解ならおれの記憶力は大したもんだ。

 おもろいバンドやな〜、っちゅーのが第一印象。だってルックスバラバラなんやもん。正統派美形のボーカルとベースに、コミックバンドな二人。ま、これがその後30年近く続く、彼等の最大の芸風なのだが、そのスタイルはすでに確立されていた。殊に、赤いカーディガンに蝶ネクタイ、野球帽かぶってチェッカー模様のストラップでギターを低く構え、あちこちウロウロしてはワケの分からん見栄を切り、ピックを投げまくるリックさんの個性は際立っていた。・・・・・・際立っていたが、決してカッコよくはなかった(笑)。
 これは、それまでの「バンドはボーカルとギターのカッコよさがイノチだ!」という、おれの価値観にコペルニクス的転換を迫る事件だった。ともあれ、ギタリストがヘン、っちゅー点ではこの人、AC/DCのアンガスヤングと双璧をなすとおれは思ってる。

 二番目の印象は、大変失礼ながら、「歌は上手いけどテクはあんましねぇなぁ〜」ってことだった。まだおれは楽器マトモに弾けないガキだったけど、何だかそのことはすぐに分かった。でも、全体のノリはとにかく楽しそうで、これまたテクニック至上主義のハードロック少年にはとても新鮮に写ったものだ。「あ〜、こんなんもアリなんやねんなぁ〜」と。

 分かる?パンクだけがおれを色んな決まりごとや制約といったしがらみから解放してくれたワケではないのですよ。

 ギター買ってからも、チープトリックのナンバーは譜面買ったりコピーしたりして、かなり色々マスターした。今でもケッコー弾けたりするのだが、あまり威張れたことではない。とにかくカンタンなんやもん。
 しかし、「カンタンで記憶に残るリフやメロディーライン」をこしらえることは、実にとても困難である。この辺の作曲センスにはホント、感心させられる。よくもネタが続くもんだ。

 さてさて、音楽誌「ミュージックライフ」のヨイショもあって、おれとはちょっと違う切り口で、日本で彼等は絶大な人気を博する。クイーンみたいに。
 本国では前座バンドに甘んじてたのが、いきなり初来日は武道館満館でソールドアウト!!一番驚いたのはメンバー本人たちだったに違いない。極東の国に来たら、若いオンナの子が山のように押し寄せてきて「キャ〜〜ッ!!ロビィ〜ン!!」「トムゥ〜!!」って絶叫してるんだもんな。「リックゥ〜!」と「バニィ〜!」はなかったようだが・・・・・・(笑)。
 このときの模様を収めた「At Budokan」は日本限定発売のツモリが、本国アメリカでも試しに売ってみたら大ヒットとなり、一躍メインストリームに躍り出たのは有名な話。とにかくファンの声援(・・・・・・っちゅーか悲鳴、笑)がすごいのだが、そのオーディエンスノイズをほとんどカットせずに編集したのが、かえってライブアルバムとしては功を奏したのだった。歴史的名盤の一枚だろう。


初期の三枚

 実のところ、おれが好きなのはしかし、この「ブドーカン」までの3枚なのだ。その後ポップ路線をひた走るようになってからの作品は、自分自身がドンドンややこしい方にシフトしていったこともあるとはいえ、あまり心に響かない。キャッチーなメロディラインにセンスの良さが光りつつ、全体としては抜けきってない、どこか「70年代初頭のB級ブリティッシュハードロックのヘタなコピー」といった風情を残した作風が彼等の身上だったようにおれは思っている。
 それかあらぬか、彼等の人気は後が続かず、80年代のビートルズだなんだと騒がれたわりには、段々とジリ貧状態になって行く。美形の片割れ、T・ピータソンの脱退も痛かったに違いない(80年代末に復帰するけれど)。案外、曲つくりへの彼の影響は大きかったと思われ、復帰後の「Lap Of Luxury」や「Busted」は久々にかなり好調なセールスを記録してるが・・・・・・絶頂期は正直言ってすでに終わっていた。

 ・・・・・・デビューが1977年だから、何とまぁ今年で28年!!日本ではすでに忘れられたバンドの一つだし、昔のようにコンスタントにアルバムをリリースすることもなく、もうメンバーもいい加減いい歳のはずだろうに、継続は力なり、っちゅーかドサ回りで食ってる、っちゅーか、彼等のオフィシャルサイトを見ると、ライブスケジュールは今年も年末までギッシリ。永遠の旅芸人、もといライブバンドでっせ。同じサイトの写真見ると、エアロスミスのメンバーとセッションしてたり、何だか相変わらず楽しそう。隠居の道楽みたい。死ぬまで続けるんだろうな〜。一曲目が「Hello There」なんは、きっと変わってないに違いないし、これからも変わらないに違いない。上記サイトもトップページ開くとこの曲が流れる。何というこだわり!(笑)

 それがいいんだ。
 そして、それでいいんだ。

 こうして今改めて書いてみると、彼等が進化も退化もない、さりとてキッスのように派手さもない、一貫したシブい芸風を持っていることが良く分かる。これはもう、吉本新喜劇の芸人に近い。
 だから日本での活動については吉本興業と契約した方がいいのかもしれない。小室哲哉がプロデュースしてくれるかもよ(笑)。

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 彼等のイクイップメントについて触れないまま、この稿を終わることはできないだろう。

 まずR・ニールセン。ギターコレクターとしても名高い人なのだが(本も出していたはず)、「ギターは弾いてナンボ」という態度は実に清々しい。家一軒買えるような値段のビンテージ品のレスポールを何本もツアーに持ち出し、惜しげもなくステージで使いまくる。そうかと思うとヘイマーのヘンテコリンな5本ネックやフェルナンデスのフライングVのコピー弾いたり、と「ギター弾けるだけで楽しくてしょうがない」と思ってたギター少年のノリを60近くになっても実践している。
 アンプも実際本当に全部鳴らしてるのかどうか分からないが、マーシャル・フェンダーetc、おっきいのからちっこいのまでステージに並べて、実にアナログでバカバカしくてよろしい。オマケにパネルにはでっかくカタカナで「リック」、親日家だなぁ(笑)。
 ちなみに以前にも書いたが、初期の頃使ってたチェリーサンバーストのエクスプローラーは、おれの今でも欲しい一本だ。


これこれ!これでんがな!欲しいよぉ

ヘンテコリンな5本ネック。一番下はフレットレスのようだが、こんな低くて弾けるのか?

C&P http://www.hamerguitars.com/

 次に有名なのがT・ピータソンの12弦ベース。仕組みとしては、ピアノといっしょ。元のルートに対し、1オクターブ高い副弦が2本付いて3本一組になっている。これもヘイマー製。恐ろしくネックの幅は広く、あまりのテンションでネックが曲がるのを防ぐためか、あるいはマトモに弾けないからか、かなりのショートスケールになっている。
 恐ろしいことに80年代初期、彼は18弦ベース(!!)まで弾いている。本当に実用に耐えうるものだったかどうかは不明だ。

 効果のほどは、倍音が豊かになって中音域が厚くなるので、キーがEとかでも沈み込み過ぎないことで、そういえばスティングもポリス時代は8弦ベース(それもフレットレス!)を弾いて、トリオ編成のスカスカ感を補うような使い方をしてた。考え方は同じだ。
 しかし、今はこんな大変な思いせずともMIDIアウトにして、シュミレーションでコントロールしてもほとんど同じ効果は得られるはずなので、そこを敢えてやらないのは、やっぱ芸風だからなんだろう(笑)。


弦もすごいがコントロールが尋常ぢゃない!!

C&P http://www.12stringbass.com/

 そういやタイコは、今でもモップの柄みたいな巨大なスティックで叩いたりしてるのかなぁ?あれも芸風だったし、4拍の長いスネアロールのオカズも、思えばワンパターンを超えて芸風の域に達していたな(笑)。

 う〜む!!久々に、何だか無性に聴きたくなって来たぞ。

附記

 ネットを漁ってたら彼等のソックリさんバンド、ってーのがいることが分かった。これはこれでかなり笑える。良ければ見てください。・・・・・・でも、そーゆーバンドが現れるってことは、アメリカではCheapTrickは超メジャーってことだよね〜。

http://members.aol.com/IncolorRocks/

 また、世の中にヘンタイはいるもので、12弦ベース、だけを集めたサイトが存在することも分かった。これも必見のサイトだろう。

http://www.12stringbass.com/

2005.04.16

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