「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
もしもピアノが弾けたなら


シュタインウェイのピアノ。低音が硬くってテクノやハウスが似合いそう。

 みうらじゅん/いとうせいこう共著の「見仏記」を読まれたことがあるだろうか?
 異常天才型の二人が、日本にとどまらず東南アジア各地の仏像を見て回って、キッチュでフェイクでキャッチーな論評をして行くという本で、佐和隆研「仏像研究」とかの堅苦しい今までの仏像鑑賞がバカバカしくなるような奇本である。
 仏像鑑賞とか寺巡りなんちゅーのはどうも、アカデミックとゆうか衒学的とゆうか高踏趣味とゆうか、大阪弁で言うところの「何イキっとんぢゃい!?コラァ!!」と怒鳴りたくなるようなスカしたカンジがあるところに、ユルユルの本書は何ともキモチいい(とはいうもののみうらじゅんの仏像に対する正統的な造詣は相当のものみたいだけど・・・・・・)。

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 こんなものをツラツラ書き連ねているくらいだから、おれは音楽が好きだ。もちょっと正しく言うと「好きになった」のである。中学生くらいまでのおれは、音楽が、というか「音楽の授業」がキライでキライで仕方なかった。
 今、こんなことを我が子がしてると聞かされたらやはり叱るだろうが、おれは授業中、悪友たちといっしょに机ごと後ろ向いたり、教室内をウロウロしたり、部屋を出て準備室にあったヘフナーのヴァイオリンベースのコピーモン(弦は3本しか残ってなかったな)を持って振り回したり・・・・・・とまぁ、今で言うなら「学級崩壊の問題児童」みたいなコトしてたのだ(笑)。

 何でも他人のせいにするのはよくないが、子供が音楽を嫌いになるのは子供のせいではない。日本の音楽教育のせいである。これだけは断言できる。日本の音楽教育のシステムは、音楽の楽しさをちっとも教えてくれないのだ。大きな声で歌うこと、楽器を合わせて弾いたり叩いたりすること、その楽しさをスポイルするようなコトばかりしている。
 技術や知識や理論なんて後からでも全然かまわないのに、中途半端にピアニカやらせたり、ソプラノリコーダー吹かせたり、唐突に作曲家の名前覚えさせたり、ハ長調とか変ロ短調とか嬰へ長調とか何だか細切れの教養をたくさんたくさん教えてくださる。
 そんなもんどうでもエエのになぁ〜、と思うで、ったく。子供をナメてはいけない。子供はそれが楽しいものであると興味を持てば、放っといても必死で習得するって。

 そんな中でおれが小さいうちから学んだ方が後々何かといいと(今になってかなり後悔しつつ)思うのは、鍵盤楽器だと思う。別にピアノとは言わない。ブーカブーカ鳴る足踏みオルガンでいい・・・・・・ったって今時売ってないから、カシオトーンでいい。強いて条件つけるなら両手が使えたほうがいいな。だからアコーディオンはちょっとダメ。ピアニカも両手はむつかしいし、吹きながら歌えないし止めておくべきだろう。

 ・・・・・・オマエは意外に権威主義者だ!保守的だ!と非難されそうだが、ちゃんとワケあって言ってる。
 鍵盤楽器は、音階とポジションの絶対性、高音でも低音でも均等な鍵盤の幅、和音の出しやすさ、理論にかなった鍵盤配列(Key=Cだけどね)、両手で弾くことによるリズムとメロディーの習得、さらに弾きながら歌える、といった様々の点で、ベストではないけど他の楽器に比べて平均的にイイ線行ってるからだ。ベストではないよ。
 無論欠点もある。極端な分散和音、連打、ピッチベンド(ギターで言うならチョーキングやスライドですな)に弱い。調性が変わると同じスケールでも弾き方が変わる、何より習得に相当の鍛錬を要する・・・・・・こういった点は圧倒的にギターとかの方が優れてる。

 とりわけ一つの音程には1ヶ所しか該当する鍵盤がなく低音でも高音でも鍵盤の幅はいっしょ、というのは、音感を養うのに非常に都合が良い。音感が養えるといいコトが沢山ある。気に入った曲もほいほいコピーできるしさ(笑)。
 一つ言い忘れてた。さらに楽譜というものが、鍵盤楽器を基本に作られてるというのが、何より大きなメリットだろう。普通、五線の下に一つポチッと横棒ついてあるのが「ド(C)」なんだけど、低音をあらわす(ヘ音記号、ってヤツね)方では五線の上にポチッとあるのが「ド」になる。妙なルールだが、鍵盤における両手の位置を考えると良く分かる。つまり、親指が置かれる「C音」から指の動く方向で、自然に上下に流れるような仕組みになっているワケだ。

 そうして別にバイエルでなくたっていい(バイエルを否定する気は毛頭ないが、あれは「メカニカルトレーニング」だってことを知らない人が多すぎる気がする。音楽に興味を持ってからやるべきもので、興味を持つ前にやらされるとよほど技術水準を上げることにしか興味を持たないヘンタイ以外は嫌気がさす)。興味を持ったものを適切に教わりながら、みようみまねで一生懸命やってれば、誰だって必ずそこそこ弾けるように、そして楽譜は読めるようになるはずだ・・・・・・おれはできないけど(笑)。

 ・・・・・・オマエ、パンクぢゃノイズぢゃゆうてる割に詳しいやんけ!!とまたもや避難されそうだが、おれは全く専門的な音楽教育を受けたことはない。全部ギターやベース、おもちゃのキーボードをいじくり回しながらの独学なんで、さほど詳しいことは分からない。
 分からないけど、西洋の音楽理論は基礎レベルでは非常に明快で、そんなに難しいものでも何でもない。とはいえ、ちょっと数学的であるので、ある程度数学が分かっていると、魔法のようにするすると仕組みがわかるようになっている。だから、もっと長じてから学んだって全然かまわないとおれは思う。

 それでまずヤリ玉にあげたいのは、「ハニホヘトイロハ」!!ありゃ何だ!?って思う。明治時代の尋常高等小学校の読本ぢゃあるまいしさ。普通に「CDEFGABC」でいいぢゃねぇか!?ついでに、「A」が基準音で、でもそこから弾くと、いわゆる「ナチュラルマイナー」で物悲しい響きになるんでCから始めてる・・・・・・そんなんでも既に余分な気がする。「変」とか「嬰」も止めよう。「#」と「♭」でジューブンやで。

 和声、なんてむつかしいこというが、これもショージキ、知ってるに越したことはない程度で、そんなに必要ない。嘉門達夫が言ってたと思うが「全ての曲は3コードで弾ける」、ありゃ大名言だと思う。
 ここでちょっと一例を考えてみよう。元の音に対して5度の音(Cに対してG、ギターでアバウトに言うと一つ細い弦の2フレット上)は、最もシンプルにシックリ響く音だけど、これをCから順に並べていくと次のようになる。

 C⇒G⇒D⇒A⇒E⇒B⇒F#⇒C#⇒G#⇒D#⇒A#⇒F⇒C・・・・・・あれ!?半音ずれて元に戻っちゃった!?そしてオクターブの全ての音が揃っちゃった!?
 こうゆうことに興味を覚えれば、「あらゆるメロディにあらゆるコードは合う」ってことは段々分かってくるのだ。

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 さて、今ではまぁまぁ理屈も分かるようになったのだけど、冒頭に書いたとおり、おれはガキの頃、音楽が大嫌いだった。あんなモンはビンボーな家の子供、それも男の子のやるもんやないわい!!って思ってたのだ。半ズボンにタイツに革靴!みたいなイメージがあったのだ。ドラエモンの「スネ夫」みたいな、ね(笑)。
 しかし、これまでも何回か登場した教育とか素養とかにミョーに熱心な父親は、おれに無理やり習わせようとしたのだった。当然、幼稚園児だったおれは泣いて抵抗した。あんまし泣くもんだからさすがのオヤジも最後は根負けして諦めたのだったが、その時のセリフが今思えば笑わせる。

 ------ショパンコンクールにでも出そうと思ったのに!!

 長じて「お前にはピアノ習わせたかったのになぁ・・・・・・」と言うことがよくあった。それだけならいい。おれだって子供たちにこうしてやれば良かった、と思うことはしょっちゅうあるし、ピアノやっておけば上に挙げたようなメリットがあって、人生が楽しくなるのにずいぶん役立ったことだろう。
 しかし、その後にこう続くのだ。「・・・・・・コンセルバトワールにでも行かせられたかも知れん」

 おれはコンセルナントカがどういうものかは知らない。しかし、断言できる。音楽をそういう権威の文脈でしか捉えることしかできない人間は、欲望の本質に焦点を当てることのできない、つまらない人間だと。もちろん、メシの種にすることを否定するわけではない。むしろそれは積極的に肯定する。おれが言いたいのは、そういう欲の部分に目を塞いでショパンぢゃコンセルナントカぢゃ、などとホザくのはそれこそペダントリーに過ぎないのだ。

 とは申せ、ピアノだけは首に縄つけてでも連れてってくれりゃぁよかったのになぁ〜。進学塾よりよっぽど楽しかったかも(笑)

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 下の娘がピロピロとエレピを弾いている。最近のエレピの性能はスゴい。鍵盤のタッチ、音色・・・・・・アップライトのしょーもない生ピアノより数段上だ。ちなみに娘は背も小さいが手も小さいので、残念ながらナカナカ上達しない。それでも何年か続けているオカゲで簡単な楽譜なら読めるようになったみたいで、笛は楽勝なんだそうだ。
 おれは、自分のアホらしいエピソードについては特に語ることはない。たまにギターやベースでいっしょに合わせて弾く程度で、あとは「オマエが習いたい、っちゅーたから、たっかい月謝払うて行かせてんねんで。ほやからマジメにやれよ。マジメにやらなんだら、自分で金出させるからな。」とだけ言って、好きにさせることにしている。

2004.12.20

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