「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
Mission is Terminated・・・・・・Throbbing Gristleについて


1978年のショット

 こりゃまた古い!オマケに暗い!(笑)

 知らない人のために言うと「スロビンググリッスル(T.G)」とは、パンクムーブメントに沸き返る1977年から81年にかけてのイギリスで活動したバンドである。彼等の音楽を一言でいうのはむつかしいが「インダストリアルミュージック」や「ノイズ」の元祖と思っていただいて、まぁ間違いはなかろう。ノイズは必ずしもどうかな、とは思うが、「インダストリアル」については、自分たちでそう言ってたのだから間違いない。もう少し分かりやすく言うと「ネクラな裏パンク」とも言えるだろう。

 思えばおれの音楽転落人生は、今はすっかりヴィジュアル系バンドの専門誌に鞍替えしてしまった「Fool’sMate」が、まだユーロロックを初めとする「難解な」(笑)音楽ばかり取り上げてた頃、高校帰りに河内長野の駅の上の本屋で立ち読みしまくり、そして彼等の存在を知ったあたりからである。
 そして大学に入って金回りも良くなり、こいつ等の音に傾倒したコトで決定付けられた。この頃には既に解散していたので、直接リアルタイムで経験したわけではなかったが、ホント、ブートレグに至るまで集めに集めまくってた時期があったのだ。

 それらの音源は全部売り飛ばしたので手許にないけれども、今聴くとどうなんだろう?機器類の進化したと今となっては、かなり音はショボいだろうし、過激ったってもっと過激なのはたくさんいるし、そもそも演奏は「ド」がつく下手さ加減だし、音痴だし・・・・・・なので、つまりはメチャクチャに「素人臭い」音楽なのである。

 ・・・・・・で、オマエそんなんのどこがいいんだ?と言われるとおれも答に窮するが、あれだけハマったのだから、やはり何かを感じ取っていたのだろうと思う。おれはつらつら考えてみた。

 一つは無論、おれの憂鬱愛好症がこれらの陰鬱なサウンドに共鳴した、というのがある。そういやぁ、金属バットの用途の可能性を大いに広げたデブのヒッキー浪人・一柳展也は、TGのコンセプトをさらに進めたようなハーシュノイズグループ、W・ベネット率いる「ホワイトハウス」の熱烈なファンだったそうである(知らない人はhttp://www.neox.demon.co.uk/whitehouse/を見てください)。
 でも、何だかそれだけでは当たり前すぎるし、世界中に現れたフォロワー/エピゴーネンの数を考えても、全ての答えではないようにも思える。おれはさらに考えた。

 彼等の音楽そのものは、確かにコンセプチュアルでユニークではあったが、実際面白くもおかしくもなんともない代物であったのは書いたとおりである。オマケにドヘタ。
 だからこそだ。これらの音は、おれにだって音楽ができることを、ノー天気な3コードパンク以上に教えてくれたのだ。ロックのイデオムに従っていなくても、テクニックがなくても、いい楽器もってなくても、ルックスが良くなくても、金がなくても、コネやしがらみがなくても、少々の機材と気合とアイデアさえあれば、音楽という表現行為は誰にも自由にできるのだという勇気を。
 それにしても少しも楽しくない音で、音「楽」の「楽」たることを証明して見せるとは、何たるひねくれ方か!・・・・・・ま、そのオカゲでおれはマイナー一直線になっちゃったんだけどね(笑)。

 ともあれ彼等の後進に与えた影響はきわめて大きい。繰り返しになってしまうが、もう一度詳しく書いてみよう。

 一つには、前述の通り今聴けばショボいとはいえ、やはり音楽である。彼等はチャックベリー以来のロックンロールの決まりごとみたいなもののひたすら逆をやり、そして無機質なくせに不思議に暗い陽動に満ちた世界を作り出したのだった。

 大体そもそもバンドのくせに、あまつさえメンバー4人もいるくせに、タイコがいない。それに加えてヘタなのでノリが全くない。
 元はストリッパーだったベッピンのオネーチャンがメンバーなのにボーカルではない。座ってうつむいてギターを弾くだけ(たまにコルネットも吹いてたけど)。そのギターにしたってギヨ〜とかキェ〜とか、ボトルネックでテキトーにノイズ出すだけ。
 愛とか恋とかも歌わないが、中産階級の愚痴も、怒れる若者としての幼稚で政治的なコトも歌わない。何だかイヤ〜なコトとか変質者みたいなことを、グジュグジュとヘンな鼻声で歌ってる。
 つまりは、ちっとも楽しい音ではないし、何らかのカタルシスになるような音でもない。あらゆる世の中のいやなこと・くだらないことばかりを注意深く寄せ集めて、悪意でもって一つにまとめたようなものである。この点で彼等の音楽は、コラージュやモンタージュに近い。もっと言うなら「スケッチ」である。何の?無論、この世の、だ。

 もう1つは・・・・・・むしろこっちの方が大きい・・・・・・音楽そのもの以外の部分である。「自分たちでレーベルを主催し、レコードを作り、宣伝広告を行い、流通させる」という、いわゆる「自主レーベル」の嚆矢が彼等なのである。インディーズ、ってコトバはちょっとおれ的には恥ずかしい気がするが、あれのことだ。
 最近は、単にメジャーレーベルと契約していない状態のことを「インディーズ」と誤解している連中が多いが、それは全くの誤り。またセコセコCD作って、取次店に置いてもらうだけが「インディーズ」と思っても誤り。
 宣伝広告や流通も自分たちでマネージメントしてこその自主レーベルなのである。

 彼等の主催したレーベル、その名も”Industrial Records”というネーミング、またそのマークであるアウシュヴィッツ/ビルケナウの強制収容所の監視塔、また”Concrete Music For Cocrete People”その他のスローガン、そしてノイジーで無機質な音群や曲のタイトル、アルバムジャケットのデザイン・・・・・・若干の例外はあるものの、ほぼそれらは一貫して彼等自身が作ったものであった。
 もう、ペンションの「手作り感覚」なんて目ぢゃないほどの手作りだったワケだ(笑)。

 ・・・・・・一方で醒めた見方も可能である。

 ひと山当てようと、ロクでもない二束三文の音をごまかすために、大上段に構えたハッタリと思い入れたっぷりのコンセプトのオブラートでくるんで、付加価値つけて売っただけのトリックスターではなかったのか?と。映画でいえば「ブレアウィッチプロジェクト」のような。
 それはおそらく正解だろう。しかし、考えてみて欲しい。それがロックビジネスっちゅーモンの本質ではないのか!?彼等はひたすら決まりごとの逆をやりながら、ロックという「産業」を戯画化しようとしていたことは明らかなのだし、そのような批判はむしろ彼等にとっては、してやったりの名誉であろう。
 ポップでない音楽をやるものが、何も好きこのんで貧困生活に甘んじねばならない義務はない。上手くやってひと山当てる、大いに良いではないか。

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 ともあれ、TGの活動は僅か4年で終わった。原因はかなりナサケないもので、リーダーのジェネシス・P・オリッジが、キーボードのC・カーターにオネーチャンを寝取られたからだ。それでも最後まで彼等はコンセプチュアルだった、ベタに言うと「エエカッコ」を貫いた・・・・・・曳かれ者の小唄のようだけど(笑)。
 解散に当たって、関係者には黒ぶちの葉書が送られ(これ自体メールアートっぽいですね)、そこには素っ気無く「Mission is Terminated T・G」とだけ記されていたという。「任務完了」ってこってす。
 かくしてバンドは二つに分裂した。「サイキックTV」と「クリス&コージー」である。この後のそれぞれの活動内容は、率直に言って精彩を全く欠いているのでもういちいちは書かない。ま、それなりに頑張ってはる。

 公式アルバムはインダストリアルから出された5枚と、ベルリンはSO36クラブでのライブの模様を収めた「Funeral in Berlin」、そして解散後にイタリアのレーベルから出されたスタジオテイク「Journey Through a Body」の7枚だけである・・・・・・あれ!?結構精力的に出してるなぁ〜(笑)。
 凄まじいのはその後に、粗製濫造といってもいいだろう、無数に乱発されたブートレグ群である。おれが把握してるだけで30枚以上が出たと思う。それらのほとんどは驚異の26本組公式ライブカセット「24Hours」をLP化したものであったが、スタジオに残ってたテープの寄せ集め、と言う触れ込みの、ホンマにTGが演奏してるんかぁ?みたいなものや、ピクチャーディスクなのはいいが、ほとんど音が入ってないもの等々、トンでもないまでが一時期売られていたのである。
 
 おれはマニアと化してずいぶん忠実にこれらに付き合った。結論は残念ながら、そんなによーさんあってもしゃーない、ってことだな。私見だが、スタジオライブの一発録りである「Heathen Earth」と、上記「Funeral in Berlin」の2枚あれば充分だろう。繊細で緻密な編集がなされていて非常に完成度が高い。ロック的なカッコよさ、聴きやすさの要素も備えており、どちらもかなりの名盤といって良い。
 前者は今でも普通に手に入る。後者はオリジナル版での入手は困難だが、V・デンハムの手によるジャケットのアートワークも秀逸だし、最後のトラックが拍手をコラージュしたもので、バンドの幕引きを意識して「TradeDeficit(赤字取引)」と題されているのも、自虐的なシャレが効いてていい。音源はイギリスのテクノ系レーベルとして今や大手になった、Muteが全て引き継いでいるので、多分こいつも何か別タイトルで再発になってると思う。

 何のかんのでおれはつまり、彼等の熱心なリスナーで上客だったわけだが、今はしかし、憑き物が落ちたようにそれほど聴きたいとは思わない。自分でやるならもちょっとポップなことの方に興味あるし、ノイズとしてはもっと面白いのがあるし、家でちょっと弾く性質のものでもないし、と中途半端な存在なのだな。
 そう、やはり彼等は作品だけよりも、その活動全体が楽しかったバンドなのですよ。

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 さてさて、解散して20年以上がたったT・Gであるが、ちゃーんと公式サイトが存在したりする。この世代はしつこいでぇ〜♪http://throbbing-gristle.com/またはhttp://www.brainwashed.com/tg/がそれで、上の画像もそっから拝借してきたものだ。メンバーそれぞれも独自サイトを展開してるので興味のある方はどうぞ。

 加えてそこの情報に寄れば、何と再結成までしたんだそうな。しかし、性転換してオンナになっちゃったチビのジェネシスやオバハンになって肥えてしもうたコージー見てもなぁ・・・・・・おなか一杯!もぉいいっす!近影もあるがとても紹介する気になれない。

 それにさぁ、第一アンタ等、20何年前にご大層に「任務完了」したって告知したんでしょ!?(笑)

2004.12.12

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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