「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
我、B級ギターを偏愛す(U)・・・・・・AriaProUの巻


TS600の勇姿

 何だか一回目を書いたら胸に熱いものがこみ上げてきて、勢いがついてしまった。二回目は「U」にちなんで「AriaProU」を取り上げてみようと思う。
 アリアは国産でもA級ぢゃないの!?一回目がフレッシャーやってんし、何でウェストミンスターあたりを取り上げんの?とかツッコミを入れられそうだが、おれの中でアリアプロUはどうしてもB級なのだ。その辺りから書いて行こう。

 実は、おれが初めて買ったエレキがアリアなのである。で、その理由がいかにも「B級」なんですわ。実にもう単純な理由で、要は他のブランドと同クラスのモデルがどれも「定価が一万円安かった」のだ(笑)。カタログがグレコやフェルなんかと比べると、妙にゴチャゴチャ詰め込まれたレイアウトでもひとつダサかったのも理由の一つだろうが、とにかく何でも見事に一万円安かった。

 当時のレスポールやストラトの標準クラスは、どのメーカーも判で押したように「70,000円」が相場だった。グレコでいうならレスポールのコピーが「EG−700」、ストラトが「SE−700」って型番だった記憶がある。当然、我らがアリアは6万円。何故か有名ギタリストのコピーモデルは1万円アップの「80,000円」ばっかしな中で、ここのブランドだけは7万円。実に律儀(笑)。
 でも、それだけなら単に安いだけだが、このブランドの偉かったトコはここからである。

 ピックアップに「本物」を使ってたのだ。

 ま、自社で開発するより安かったからなのかも知れないが、例えばおれが買ったレスポールのシングルコイルのコピーモデルには、本家ギブソンのソープバー「P−90」が搭載されていた。一体、どこから入手したのだろう?それこそパチモンやったりして。
 ハムバッキングには当時人気絶頂だったディマジオの「スーパーディストーション」ってーのが当たり前のようについてたし、シングルコイルもそれなりのものがついてたような記憶がある。これらを別途買うには相当の出費を覚悟せんとアカン時代だったので、初めから標準でついてる、っちゅーのは驚嘆すべきコストパフォーマンスの高さなのであった。

 おれは思い出す。電柱に見つけた「新品ギター何でも3割引」の看板につられて、夏のクソ暑い日、南海電車に揺られて浅香山の駅の近くの住宅街にあった、見るからに怪しげな「F井ギター研究所」って楽器屋に行ったことを。そうして出てきたのは、ピンカラ兄弟を貧相にしたような、これまたムチャクチャに胡乱なオヤジ。
 でも看板に偽りはなく、確かにホントに、ギターは3割引だった。ギター本体は、だ。

 ケースもアンプもシールドもエフェクターも、その他はみんな2割引やんけ!!聞いてねぇよ!そんなん。

 結局高いんだか安いんだか良く分からんまま、ギターに四角い汎用ハードケース、Piggyってミニアンプの走りみたいな15Wのアンプ(それでもリバーブがついてたのが驚き!)、あと当時はBossの後塵を拝していた、これまたB級なMaxonのオーヴァードライヴとかで7万近く払った。それでもようやくマイギターが買えたうれしさでニヤニヤしながら、おれはえっちらおっちら家路についたのだった。
 その時買ったのが、上に書いた通りP−90のついたゴールドトップ、いわゆる56年モデル、ってヤツだ。どこがパンクや?プログレや?R&Bやんけ、って今さらながら思うが、いかにも凝りすぎてハズすおれらしいチョイスだな、こりゃ。
 別のトコでも書いたが、こいつは買って一ヶ月くらいで肘の当たる辺りが一面に緑青吹いたので、結局フツーのサンバーストカラーのに交換してもらった。錆吹いたままの方がカッコよかった気もするが、いかんせん同じフレーズばかり繰り返し練習したせいで、フレットがヘンな減り方してたので、交換は好都合ではあった。

 コイツ、デキは非常によかった。良く鳴ってくれたし、ネックだってその頃のギブソンの特徴である「メイプルの3ピース」を忠実にコピーしたものだったし、何よりそれから10年近く、振り回したり、ネック引っ張ったり、ゴリゴリ押し付けたり、投げたり、とこれ一本でムチャクチャやっても、ビクともしなかったもん。

 個人的な話はこれくらいにして、アリアプロUのそれからを続けよう。

 おれがコピーモデルを買ってしばらくした頃、ここは価格破壊の点で革命的な製品を出す。それが「TSシリーズ」である。
 たしか4万円・6万円・8万円の3種類があって、さすがに4万円のは普通のセットネックだったが(それでも値段からすればすごい、4万円だもんな)、6万円のから上のラインは何と、当時一世を風靡し、最低でも10万円はした「スルーネック」だったのである。スルーネック、いわゆる「通しネック」はBCリッチが嚆矢で、その人気にあやかってあちこちのメーカーがハイエンドクラスで作り始めていた。ヤマハ「BB2000」、グレコ「GO」なんちゅーのは当時の傑作だろう。

 そしてこの「TS」。ボディシェイプは別物だったが、配線までBCリッチのテンコ盛り系をそのまま節操なく取り入れ、木目が鮮やかなカラーリングも見事なもので、それでいていて定価は僅か60,000円でやっちゃったのだ。F井ギター研究所なら42,000円だ(笑)。
 これで売れないワケがない。おれはもう高校生になっていたが、同じ学年でこれ持ってるヤツが分かってるだけでも三人いた。

 まぁ、実を言うとこれ、肝心のデキはもひとつで、特にネックの握りの悪さや、通しネックの割にボディが鳴らない、等、さすがに値段なりでしかなく、おれ自身はあまり欲しいとは思わなかったけど・・・・・・。
 しかし、TSがセールス的に大成功だったのは事実である。一時はこれが楽器屋にズラーッと並んでいた。これに気を良くしたかアリアは、この後ものすごい怪作を出す。それが、形式名は忘れたが「セミアコのクセにスルーネック」っちゅー実にワケが分からない代物であった。何でセミアコでスルーにする必要があったのか、おれは未だによく分からない。
 ベースのSBもスルーネックで、これまたちょっと安かったため使ってるヤツは非常に多かったが、音は素晴らしく良く、プロでも愛用者は多かった。おそらくは後世に残る傑作国産ギターの一つだろう。そういやネックが平行ではなくちょっとオフセットしたWネックもあったな。12弦&6弦、ベース&ギター、どっちもあった。

 元々は、リッケンバッカーのコピーモデルで定評あるブランドだったとオールドタイマーの人は言うけれど、おれが知った頃はすでに上記のようにオリジナルモデルに力を入れていて、他にはレスポールを弾きやすくしたようなカッコの「PE」シリーズというのがあって、どうやらこれがオリジナル路線の元祖らしい。これはこれでデキのよいギターであったが、かなり大切に売ってる印象で、一番安いのでも6万円くらいした。フュージョン系のギタリストに愛用者が多かったから、実際いいギターだったんだろう。独特の箪笥みたいな色合いで、ネックの付け根がスリムだったり、ボディの木が三層構造になってる、等、なるほど派手さはないけど誠実な製品だった。
 一方で価格破壊を極限まで進めた「CS」ってーのも出た。実用一点張りのWカッタウェイの薄いボディにシンプルなコントロールのなかなかパンキッシュなモデルで、ギターが35,000円、ベースが38,000円。ちょっと気になって楽器屋で試奏してみたが、意外に音のヌケが良くて、初心者用としては充分にいいギターだった・・・・・・が売れなかったな、これ。だってカッコが悪いんだもん。

 いずれにせよ、この辺がアリアの絶頂期だったような気がする。

 その後のヘビメタブームの時も相変わらず他社の1万円安路線をとんがったギターで貫き、さらには普及価格帯の製品の生産を韓国に移したり、色々頑張った。でも、時代はすでに中学生が本物のギブソンなんざ買う時代になってたし、そもそも少子化とギターなんてめんどくさいモン頑張るガキが減ったダブルパンチで、ついに力尽きたか、最近は非常に高級なものをごく少数、あとはメチャ安のモデルをいくつかチョロチョロ売るブランドになって、細々とやっている印象が強い。
 そんな中で、アップライトのフレットレスのエレキベースは他の追随を許さず、確固たるポジションを築いているのが、せめてもの慰めと言えるだろう。でもなぁ・・・・・・

 やっぱ他社の1万円安!の路線を復活して欲しいなぁ、と切に願う次第である。

2004.11.18

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