「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
クリムゾンキングの・・・・・・


実はスケベな「Lark's Tongues in Aspic」ジャケット

 ・・・・・・「八百屋」でも「魚屋」でも「肉屋」でも「トコ屋」でもよかったんだが、今回はキングクリムゾンについて書いてみよう。とは申せ、彼等に対する様々な評論はそれこそ星の数ほど出ており、いまさらクソ真面目なこと書いたって面白くもなんともないんで、まぁ、聴き始めて腐れ縁もはや20何年、あくまで私的なことをツラツラ述べ立てることにしよう。

 1stはジャケットのインパクトも含めてロック史に残る名盤なんだろう、と他人事のようには思う。初めて聴いたのは中学くらいだった。動機はどう言えばいいんでしょ?タシナミ、ってモンですかね。「やはり名盤って言われてるんだから押さえとこう」みたいな(笑)。アオかったっす。
 中学生だから小遣い少ないし、値段は輸入版でも2,000円くらいしたから、あの頃LPを買うなんてーのはスゴい一大事で。気合と決断が必要だった。取りあえず買っちゃえ〜!、なんてそんな大それたこととてもできなかったのである。

 ・・・・・・で、意を決して購入。フンガゴ〜ってな感じのSEに続いて「21世紀の精神異常者」・・・・・・何やこれ!?ラッパ入ってるやんけ!みたいなんが第一印象(笑)。それまでハードロックとかばっかし聴いてた中坊には高尚過ぎた、っちゅーか、とにかく初めての世界ではありましたが、正直、さほどのインパクトは感じなかった・・・・・・いや失望した
 リズム隊のヌケは悪いし、太鼓のオカズはトントコトントコ間抜けだし、歌詞も思わせぶりなわりに何もあらへんし、何かコード進行は「エピタフ」とかド演歌だし、中途半端にジャズっぽいような湿っぽい4畳半フォークっぽいような・・・・・・「ホンマにこれが名盤中の名盤なんかよぉ!?」ってカンジ。
 それでも買った以上は聴き込まねばならない。それが金のないガキの正しい所作であろう。かくして毎日頑張って聴くのだが、どうにもこうにもいつまでたっても印象は日光の手前、イマイチのままなのである。実のところ、初めて聴いてから四半世紀が過ぎた今でも、おれはこの1st「宮殿」がそれほどの名盤には思えないのだ。

 だが彼等は気になるバンドではあったわけで、しばらくしておれは「太陽と戦慄」ってーのがマニアックで優れたアルバムであるってことを知ったのだった。とはいえ一回騙されてるんで、なかなか購入には踏み切れず、買ったのは高校に入ってからだったような気がする。
 ・・・・・・音入ってへんのんちゃうんかい?と最初思った。カリンバらしき音がピンポロパンポロなってるのが、蚊の鳴く音みたいに小さい。で、バイオリンやら何やら増えてきてジャンジャンジャンジャンジャンジャン、呪文みたいなギター、再びほとんど無音状態からバイオリンソロ、最後は元に戻ったかのような盛り上がりでメロトロンの大層なテーマ・・・・・・・10数分に及ぶ一曲目「Lark’s Tongues in Aspic Part One」が終わって「Book of Saturday」が始まったとき、おれは少しホッとした。
 何ぢゃこりゃぁ!?である。後の5曲はともかく、一発目。メロディがほとんどなく、バンドアンサンブル、っちゅーたらええのか、みんなで合わせて弾く、という部分もほとんどない。良いのか悪いのかの判断さえつかなかった。

 それでもやはり買った以上は聴き込まねばならない。しかし1stよりこれは難物であった。当時のおれのフェバリットはプログレはプログレでもカラフルなジェネシスやイエスだったので、この調性感に乏しい異様にモノトーンな音群にはほとんど食いつけなかったのだ。我慢と苦悶の日々が続いた。
 そうして十日ほどたった晩のことだ。布団に入ってうとうとしかけたおれの頭の中で、いきなり件のメロトロンの大層なテーマが鳴り響いた。タ〜ラァ〜タラララララタラララ〜、ってアレね。

 その瞬間、おれはこのアルバムを「了解」してしまったのである。これを言葉で説明しろといわれてもむつかしい。おれは「理解」ではなく直覚的に「掴んで」しまったのだ。観照体験、というコトバがあるけど、そういうものに近いのではないだろうか。
 この経験がなければおれはその後、インダストリアルやノイズといった世界にハマることはなかったと思う。そして、コード進行がどうの、メロディがどうの、拍子がどうのという「枠」から出ることもなかったと思う。だからおれにとってはこのアルバムは1stより何より名盤なのである。
 この後に続く「Starless&Bibleblack」も冴えた名盤だが、鬼才J・ミューアのカラーが強く出た、暴力衝動をバカテクで音に置き換えたような、ピュアで殺気あふれる本作こそが、おれはクリムゾンの、というかロック史に残るべき最高傑作の一つだと思っている。
 では「Red」ほどうか?・・・・・・R・フリップ自身はこれがいっちゃん好きらしいが、おれの中で評価はさほどではない。あの人、どれだけ自分が前に出たかでええとか悪いとかゆうてるんちゃうか?(笑)
 ちなみにこのアルバムタイトル「「Lark’s Tongues in Aspic」・・・・・・直訳すると「肉ゼリーの中のヒバリの舌」とは、太陽と月が組み合わさった意味深なジャケットからも分かるように、恐らくは性交中のチンコとマンコの状態、あるいはクリトリスの隠喩だろう。

 さて、こういう稀有な体験をした直後の1981年、何という天恵か!突如としてクリムゾンは再結成される。もぉそりゃ〜喜びましたよ、ワタシ。ニューアルバムの発売日を、どれほど心ときめかせて楽しみに待ったことか。そうして出された、えんじ色一色ににケルト人の組み紐模様みたいな柄のジャケットのアルバム「Discipline」を、おれはワクワクしながらレコード屋に買いに行った・・・・・・そして裏切られた。でもやっぱし我慢して聞き続けたのだったが・・・・・・
 残念ながら「Lark’s〜」のように神が下りてくることは、ついになかった。

 この後彼等は信号みたいな色で合計3枚アルバム出したが、結局行き詰って再び解散。最後の黄色版には「Lark’s Tongues in Aspic Part Three」なんて代物が入っていた。明らかに蛇足。さらに10年ちょっとして再々結成、今度は「Part Four」に「Fractured」と来たもんだ。何をやってもそりゃ自由だけど、おれにはこれらの活動が、タコが自分で自分の脚を喰ってるような、せっかく築き上げたブランドの名声を自分でダメにしているような、さみしくもさもしいものに思えて仕方ない。自分で自分のコピーをしてる悲しい自家中毒バンドである。恥ずかしくないんだろうか?
 技術的にはすさまじいレベルに到達していることはよく分かる。でも、感じられないんだよ、「暴力衝動」が、全く。音でもってフルコンタクトの空手をやってるような緊張感こそがアンタ達の真骨頂ではなかったんかい?
 なんぼ「メタルクリムゾン」とか謳ったって、やってることはチマチマと職人が寄り集まって手馴れた精密寄木細工をやってるような、小さくまとまった感じが強いんだよ。

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 おれの弾くギターは、フリップ師匠の影響をかなり受けたスタイルだなぁ、と自分でも思う。テクは1000分の1くらいだけど(笑)。無表情なシーケンスパターンなんかがそうだし、ミヨミヨとつかみ所のないソロのフレージングは、ホントはただもうおれのヘタさによるものだが、これも言われれば似てる気がする。でも、おれはグルジェフの思想に基づくとかいう規律(ディシプリン)ではなく、暴力衝動を突き詰めたようなパンクやノイズに行った。
 だから、おれの中でのクリムゾンは中期の2枚、せいぜい「Red」を入れても3枚で終わっているのである。


附記:

 数年前、R・フリップはお忍びで来日し、千葉の勝浦の方の民宿(!)を会場に合宿とギタークリニックをやったそうで、「クリムゾンキングの民宿」が出現したらしい(笑)。コむつかしいことばっかし言ってるが、案外気さくなオッチャンなんかも知れない。

2004.10.23

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