「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
フライングVのカスタム、あるいはヒネリのむつかしさ


レスポールのスタンダードとカスタム

 TVを見てたらGAPのコマーシャルをやっていて、LクラヴィッツがトレードマークのフライングVの白いヤツ持ってウロウロしとる。・・・・・・で、よく見るとこれが、ピックアップが三つ・ゴールドハードウェア・ブロックインレイのカスタム仕様なのだ。テレビで見ただけなので細かい仕様は分からないけれど、ボディバインディングも入ってるように見える。
 やられたなぁ〜、と思った。眼のつけ所に座布団3枚。

 ここでカスタムとは何か分からない人のために解説を少々。知ってる人は読み飛ばすコト。
 エレキメーカーの二大巨頭の一翼、ギブソンの製品の売れ筋ラインには、大きく分けて「スタンダード」と「カスタム」、2つの仕様がある。両者の違いは、モデルによって若干差はあるが大体は以下のようになる。
             
スタンダード カスタム
メッキ シルバー ゴールド
ピックアップ 2個 3個
ピックガード 1プライ 黒白黒の3プライ
ポジションマーク セルロイド製の台形・3フレットより 白蝶貝の長方形・1フレットより
ボディバインディング 1プライ 3プライやヘリンボーン

 素材とかはあんまし変わらないんで、見た目重視のゴージャス仕様ってこってすな。巨乳でも何だか庶民的なイエローキャブ系か表面的にはコテコテに仕上げた叶姉妹か、ってトコだろうか。
 一番の売れ筋商品であるレスポールにはさらに廉価版の「スタジオ」なんてものまで存在する。永遠のB級ギター、SGにもカスタムモデルが存在する。

 さてさて、定番のレスポール・SGに対して、ボディシェイプからしてちょっとキワモノの香りがするのが、エクスプローラー・フライングV・ファイヤーバードの変形トリオなのだが(モダーンとか、ややこしいのは割愛します)、これらは形自体がカッ飛んでるからか、仕様自体はシンプルそのもので、「スタンダード」「カスタム」のヴァリエーション展開もない。ファイヤーバードはピックアップの数にバリエーションがあるとはいえ、他は全てスタンダード仕様に準じているし、残りのモデルはドットインレイでネックにバインディングもないから「スタンダード」よりむしろ「スタジオ」に近い(とサラッと書くと、ヲタなボケがゴチャゴチャ言ってくるので触れておくと、厳密には70年代の一時期、ブロックインレイのフライングVが存在したし、最近はサンバーストのがリリースされたりもした)。
 
 大体カスタムは、その「コテコテ感」がも一つロックしてないためか、レスポールカスタムの黒、とかを除くと愛好者は割に少ない。だから、わざわざこれらの変形モデルをカスタム仕様に仕上げてもらうなんて酔狂なオーダーをするヤツはいなかったのだ。
 しかし、こういうちょっとしたヒネリはなかなかクールだ。「ありそでない」って微妙なトコを突く感じやね。おれ自身はチープなギターが好きなので、カスタムを所有したいとは思わないけれど。

 しかしこの「ありそでない」はハズすと寒い。「ちょっとした工夫」の域を超えないような節度が求められる。たとえばR・ブラックモアのトレードマークであるピックアップカバーとノブだけ黒い白のストラト。これって単に70年代中期の白ボディに黒ピックガードの普通のモデルを、ピックガードだけ白に交換したらできるので、お手軽さではナカナカ秀逸な例である。かつてコピーモデルが氾濫した「KISS」のA・フレーリーモデルやP・フランプトンモデルなども、ピックガードとエスカッションを交換しただけなのでねらい目は同じ。
 ちなみAフレーリーに関しては、「ピックアップが火を噴く」ってお座敷芸があったので、3ピックアップモデルはマストアイテムだったが、スタンダードモデルが好きだってコトでああなったのかも知れない。

 もう少しひねりを加えるとなると、メーカーにオーダーするしかない。フライングVカスタムはまさにそれだが、この点では元祖がいる。「CheapTrick」のR・ニールセンである。
 最初に彼らがブレイクした頃、トレードマークであったヘイマー製のエクスプローラーは「チェリーサンバーストのレスポールスタンダード」そっくりの仕様になっていた。即ち、台形のインレイ、トラ杢バリバリのサンバースト、金色のノブ、クリームホワイトのエスカッション・・・・・・敢えて難を挙げるなら残念な点が一つだけある。本家ギブソン製ではなかったのだ。当時はまだ本国アメリカで前座バンドに甘んじていた彼等は、新興メーカーだったヘイマーあたりとエンドース契約するのがやっとで、ギブソンには歯牙もかけてもらえなかったのであろう。
 ともあれこのモデルも国産各社からコピー(コピーのコピー?)が氾濫したので、ご記憶の方もいらっしゃるかも知れない。

 ともあれこの辺が「ありそでない」の限度だろう。シングルコイルをハムバッキングに交換してもそれは単に「改造」だし、Wネックまでオーダーしちゃうとイケてないことこの上ないし、派手なペイントも60年代のサイケぢゃあるまいし、彫り物や螺鈿細工なんてしたら単なる成金趣味か、サンタナのヤマハSGだし、と。
  あくまで色目と仕上げで勝負するのが「ヒネリ」の真骨頂だろう。でも、通常の生産ラインにありそうな、でもなさそうなあたりを上手く見付けるのは本当にむつかしい。

 おれも何かマニアをうならせるような、ちょっとしたヒネリのギターをこしらえてみたいが、どちらかと言うとフェンダー系が好きだし、あそこの製品についてはバリエーションも出尽くしてる感があって、いいアイデアがどうしても思いつかない。ま、単にアタマが固いだけなのかも知れないが・・・・・・

2004.10.11

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