「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ローテクの誘惑(U)・・・・・・キャンドルランタン


最もベーシックなキャンドルランタン、これはこれでいい。

 光琳の屏風や障子は、昼の白々とした明るさの下では単に派手なだけだが、燭台の並ぶ中では何とも妖艶な輝きを放つと言う。俵屋宗達の「風神・雷神図」は左右の端に描かれた風神雷神と、画面の大半を占める金地の部分がアブストラクトだの大胆だのと言われるが、ありゃぁ灯の反射板としての効果を最優先したからに過ぎない。

 ガス燈が登場してせいぜい200年、エジソンが白熱灯発明して130年くらいか。それまでは夜だけでなく灯り自身もぼんやりと暗いものだった。

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 トランギアの出番が増えたおかげでガスストーブを使う機会が減ったと同時に、ボンベを共用するガスランタンもあまり使わなくなった。まぁ、ガソリンのギンギンの明るさに比べると、ガスのは節度のあるまろやかな明るさで好きなのだけれども、やはりそれなりにかさ張るのでソロには不便だ・・・・・・あ、無論、家族で出かけるときには相変わらずガソリンやガスも愛用してるけどね。

 で、もっぱら最近はっちゅうと、これがまたローテクで「キャンドルランタン」なのですわ、これが。リターントゥプリミティヴ、でんな(笑)。

 キャンドル、つまりはロウソクであるが、よく線香やらと一緒に売られてる「カメヤマのローソク」とかは止めといた方が良い。テントの中だと煤が結構気になる。ま、外で使う分には一向に差し支えないし、何たって安いので、上手く使い分けるといいかもしれない。ちなみに空き瓶や空き缶、ペットボトルでもランタンはすぐ作れる。
 おおむねアウトドア用のキャンドルランタンはその形状によって2種類に分けられる。1つは、太いローソクのような棒状のもの、もう一つは直径3cm・深さ1.5cmほどのアルミのカップに入った「タブキャンドル」と呼ばれる平べったいものだ。最近は癒されたがりが多いせいか、アロマテラピー用に普及したのでご存知の方も多いだろう。
 どっちも性能は一長一短で、前者は燃焼時間が長く(7〜8時間)、明るさが最後まで変わらない、蝋が溶け出しにくい等の長所がある一方で、専用のローソクでないと入らない、どうしても形状が縦長なので、置いて使うのに適さないって短所がある。有名なのはUCOってアメリカのブランドのものだろう。ローソクが短くなっても下からバネで押し上げられてるので、芯の位置が変わらず最後まで一定の明るさを保つ優れものだ。コピー商品が何種類かある。
 後者は、比較的コンパクトで、吊るしても置いても使え、ローソクがどこでも入手できる(アロマのおかげで100均でも売られている)というメリットはあるが、明るさがだんだん失せて行くこと、蝋が完全に溶けてしまうのでひっくり返すとめんどくさい、といった欠点がある。ともあれ仕組みがとにかく簡単で素朴な印象。各社から大同小異のデザインで出てる。チロルランタン、なんてーのがそれだ。

 ちなみに道具ヲタなおれはどっちも持ってるが、もっぱら愛用してるのは後者のタブキャンドルタイプの方で、それも今は、ハイマウント商会ってトコから売られてる「フォレストヒルランタン」ってヤツばかりだ。190gの小さいコーヒーの缶をさらに小さくしたくらいの大きさ。
 いや、まぁ、こんなものに拘っても仕方ないのだけれど、これは初めから「?」型のフックが付いてるのと、ホヤの周囲を遮るものがほとんどなくて明るいのと(・・・・・・たってほのかなもんだが、笑)、ホヤをバネの力で上下から挟む、地味だがちょっと精密な構造、そしてスッキリしたデザインが気に入っている。プラケースも耐衝撃性をよく考えたすぐれモノ。
 何やかんやでブラスの無垢のとメッキと2つとも買ってしまった・・・・・・持って行くのは1個だけなのに。性能差はまったくないのに。嗚呼、紛うことなきヲタヲタ(笑)。ちなみに別売で専用のスポンジケースなんかが揃っているのも、激しくヲタ心を刺激する。
 詰め込むとローソクが4つ入るので、長期間の使用にも案外これだけで行ける。それに、100均の安物キャンドルは品質イマイチで、たまに芯の不良品があったりするから、そのための予備にもなるし。

 さて、このキャンドルランタン、ロウソク1本分の明るさを「1燭光」というが、文字通り1燭光の明るさ。ガソリンやガスがやれ100本分だ200本分だ、って標榜してるのに比べると何ともはかなくも頼りない。吹いても倒れてもすぐ消える。だから、あちこちでガソリンランタンがシューシューゆうてまばゆい、昔の縁日みたいな状態のキャンプ場では灯してもほとんど意味をなさない。
 それほどまでに暗いのだが、真っ暗で無人の山のテントの中だと、この「暗さ」がちょうどいい感じなのだ。さすがにこれで読書はムリ、そんな時はヘッドランプの登場となるが、ぽつねんと酒をすすったり、寝入りばなの豆電球代わりとしてはかなり使える。
 いや、外にいてもだ。煌々と明るいランプは近くはものすごく明るく照らすが、瞳孔の働きのせいで眼が明るさに慣れてしまう。したがって光源から少し離れた周囲は、近くが明るいゆえにものすごく闇に見える。ホンマ、真っ暗けのけ。

 ・・・・・・これってかなり怖い。

 ぢゃ、キャンドルならどうなんだ?、っちゅうとやっぱり暗いのだが(笑)、手元も暗いからあまり極端な落差を感じないで済むし、瞳孔が開ききるせいか割と遠くまで見えたりする。夜目が利いて「やんわりと自分が闇の中に溶け込んでる感じ」、っちゅうんですか。だから、恐怖よりも、一種の静かな諦め・・・・・・「ま、夜やねんししゃ〜ないな、はよ寝よか。」って気分が先にたって、精神衛生上たいへんよろしい。何より、揺らめくロウソクのオレンジ色の光が持つ独特の暖かみは蛍光灯やLED、強烈なガソリンランタン等では得がたいものだ。

 実は、家族連れで行くときもキャンドルランプは欠かさない。持って行くのは上記に加えてUCOのキャンデリア、ってふっといのが3本も入るいささか大型のヤツ。これにリフレクターつけると9本点いてるように見える。かなりゴージャスな明るさだが、それでもガソリンやガスとは比べ物にならない。性能より雰囲気重視の珍品ではある。どえらい高かったけど。
 ちなみに上が平らになってて、ストーブとしても使える。説明書にも「ごく少量の水なら沸かせます」ってちゃんと書いてある。でもって、酒を燗したりすると、これがちょっと楽しかったりする。言うまでもなくなかなか熱くならないので、ちゃんとフタして暖めないと、適温になった頃にはアルコールが飛んでしまってたりする。何となくこれを囲んでるとと家族も和んだ楽しい気分になれる。トーチャン、燗酒で酔っ払って、熟柿臭い息してるだけだけど(笑)。
 ああ、でも、このユルユル感はむしろソロの無聊を慰めるのに似合うかも。今度持ってってみよ、っと。

 ・・・・・・と、まぁ、あまり風雅の道を解さぬおれでも、キャンドルランタンは素直にいいな、って思う。さほど高いものでも邪魔になるものでもないので、一つ家に置いてみてはいかがでしょうか?何となく豊かな時間が過ごせた気分になりますよ、って今回も似たような道具ネタ、お粗末さまでした〜。


附記:
 灯油ランプの類はどやねん!?って意見もあるだろう。有名なノーザンライツのウルトラライトとかあるけれど、今は無くなってしまったし、良くスーパーのアウトドアコーナーにあるようなブロンズランタンはどうにも大きすぎてイマイチ好きになれない。


UCOのランタン。良く分からんオプションが充実してます。

2006.04.19

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