「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ローテクの誘惑(T)・・・・・・トランギア讃


ギャラリーでも紹介してるけどね。

 トランギア(Trangia)とは、正しくはスウェーデンのキャンプ用品メーカーの名前だが、通常はそこの代表製品であるTR−B25というアルコールストーブのことを指す。

 真鍮でできた小さな壺のようなこのストーブはローテクそのもので、頑丈、っちゅーより故障のしようがないほどに単純な構造が特徴だ。すなわち、2重になって口の周りにポツポツと小さな孔の空いた壺と、その蓋が2個。一つは密閉用、もう一つは消火と火加減の調整用となっている。3つはピッタリ重なるようになってて、その大きさは350mlの缶を5cmほどに踏み潰したくらい。ABITAXの携帯灰皿と大差なく、ポケットにだって入る大きさだ。
 シンプル極まりないコイツを中心に据えたシステムコッフェルをこのメーカーは各種展開して出している。全体にペナペナして光沢と平滑感に乏しいアルミの質、小さな平べったいヤカンとか昔のアルマイトの弁当箱を思わせるメスティン(飯盒)等々、どれも憎めない雰囲気がある。

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 おれも以前からこのトランギアを1つ所有してる。アルコールの火器っちゅうと、とかく小学校の理科の実験のイメージがあるせいかもしれないが、頼りない印象をもたれる方がほとんどだとと思う。しかしどーしてどーして、実は意外な実力派で、満タンにすると30分近く燃え続け、3合くらいのゴハンを余裕で炊き上げる力がある。

 とは申せ、点火してしばらく、アルコール自身が熱せられて気化が促進するまでは、サッパリ火器としての役目を果たさないし、加圧式ではないので、炎は広がりながら高く上がる割にちょっとの風にもユラユラ揺れて定まらないし、微妙な火加減も一切できない(ちなみに付属の火加減調整フタは、ほとんど無意味)。さらには、そもそも五徳がないので、これは別途買うか、作るかしなくちゃならないし、上記の通り風にも弱いので戸外で使う際には風防も欠かせない。オマケにアルコール特有の青い炎がクセモノで、夜でもハッキリ見えないほど淡いから、うかつに近寄ると服が焦げたり火傷したりもする。
 ちなみに「ストームクッカー」って名前の純正のシステムコッフェルは燃焼効率と熱伝導性、耐風性をよく工夫したもので、これを使うとこれらの欠点はほとんどなくなる・・・・・・らしい。高いんで持ってないんですよ(笑)。でも、オプティマスのガスストーブを突っ込む穴があったりもするので、まぁ、アルコールなりの性能なんだろう。

 一方で長所もある。とにかく壊れないこと、火をつけるだけでとりあえず使えること、燃料であるアルコールがどんな田舎の薬局でも手に入ること、そしてそれが燃料としては格段に安い上に燃費もいいこと、音が静かなこと、ガスのようなイヤな匂いがないこと、空き缶のゴミや煤が出ないこと・・・・・・けっこーエエやっちゃんけ。

 そのローテクぶりにハマる人は多く、どれだけ実際の用途に使われてるのかは知らないが、けっこうな人気商品だったりする。ま、値段も2,000円でお釣りが来るほどなので、買うためだけに買っても大した額ではない。おれも山だけでなく、休日に公園に持ち出したり、ワザワザこれで湯を沸かしてコーヒーを淹れてたりして遊ぶことがある。取り上げたサイトも数知れないし、イマイチ決定打に欠ける五徳については純正以外に色々売られてたり、自作する人も多い。実はおれも3つ持ってたりする。

 一つは純正のアルミの切り欠きのついたお椀みたいなもの、もう一つはWeb上で見つけた(※)クリーニング屋の針金ハンガーから自分で作るもの、3つ目は今はなきハロマークデザインの「アリゾナストーブ」のOD−Boxからの復刻版だ。

    ※針金製には何種類もあるが、ここに載せられてるのが断然いい。
      「極私的写真集」(http://hs4407.hp.infoseek.co.jp/index.html)

 ナサケないことに純正のがいっちゃんダメで、大きさも耐風性もすべて劣る感じ。小さいコッフェルだと中に落ち込んでしまう。いいのは安定性くらいだろう。一方、コンパクトさと使わない時は本体にはめ込んでしまえる収納性では針金の秀逸さが断然光るが、耐風性がゼロなのと、重量物を載せると熱で針金が柔らかくなった際に、何となく歪んで来て安定性に欠けるのがちとおっかない。そのうち太目のステンレスかチタンのワイヤーで作り直してみよう。

 目下一番優れてるのは、アリゾナストーブ復刻版だろう。な〜にが「ストーブ」ぢゃい!?と言いたくなるような、2枚の小さなチタンの板を十字に組み合わせて本体にかぶせるだけのモノなのだが、大きい鍋でも小さい鍋でもいけるし、耐風性は意外と高いし、畳むと小さな櫛くらいのコンパクトさで収納性も良い。これに100均で売ってるレンジパネルを切ってこしらえた風防(※)を巻きつけて使うのが目下最もチョーシいい。ちなみにこの風防、熱で溶けるコトがあるので、常時何枚かを丸めてコッフェルの真ん中に入れてある。MSRのしょーもないのに金払うより絶対いい。

 無論、慣れは必要だけど、使ってるうちに、何だかこんなくらいの性能でジューブンだなぁ〜、って思えてきた。燃焼時間には限度があるし、とろ火が非常にむつかしいので煮込み料理には向かないが、ソロの時にはこれ一つでかなり頑張ってくれる。ご飯最初に炊いて、蒸らす間にアルコールを足してもう1〜2品、なんちゅ ー凝った芸当もやれなくはない。
 どうせ、一人の無人の山中だ。暗くなってからの時間はあり余ってる。ジンワリ沸騰していく湯を眺めながらのんびりやったって別にバチは当たるまい。火力の弱さは少々目を離しても、焦げたり吹きこぼれたりしにくいしね。

 なお、この趣味がもっと進むと、「自作アルコールストーブマニア」の世界が待っている。素材はアルミのジュースの缶。有名サイトに「JSB」(http://homepage1.nifty.com/jsb/)というのがある。ものすごくバカバカしくて楽しいので、これ読んで興味もたれた方はぜひ訪問してみて欲しい。もう実用より、いかに軽く、そしてきれいな炎を上げるか、に日夜腐心しておられるようだ。何だかヘラ鮒マニアが肝心の釣りそっちのけで、バルサと竹ひごでの浮き製作に没頭するのと同質の情熱を感じる。友人のK田など、このサイトに触発されて、傑作(?)「恵比寿T号&U号」を作り上げた。

 おれはまぁ、トランギアがあるのでそれで十分かな、って気分だが、材料費ゼロなので手慰み、あるい旅先でストーブがもう一つ欲しいときにいいいかも知れない。

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 何でおれが山に行くのか、野宿するのか、っちゅうと、一言で言えば孤独ゴッコと不便ゴッコを楽しむためだ。そんな用途に、ともあれこのトランギアは丁度いい感じで働いてくれてる気がする。バリバリ頑張るヤツばっかぢゃ疲れるんっすよ。

 まだお持ちぢゃない人、これからの行楽シーズンにお一つどうですか?

 ・・・・・・って、あ!今回はギャラリーを文章に起こしただけになっちゃいましたね。


純正のお椀型五徳


針金五徳、極めて秀逸なデザイン


アリゾナストーブ(現在はアルコーリックストーブ

2006.04.25

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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