「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
わたしのクルマ遍歴

 ・・・・・・ったって、おれ、さほどクルマに凝りたいって思ったことがないんだよな〜。以前書いたとおり、おれとしてはバイクの次に来た「乗り系」ブームはスノボなのだ。
 単車やってまうと、クルマには「全身で操る歓び」があまり感じられへんのですわ。

 そんなおれだが、それでももう4台くらいクルマを乗り継いできている。今回はそれぞれで起きたエピソードを紹介しながら、話を進めてみよう。

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 初めて身銭切って買ったクルマは、ホンダの「ビガー」っちゅーヤツだった。「FFミッドシップ・ストレート5」だとかなんとか、分かったよーな分からんよーなコピーで、バブル真っ盛りの89年暮れに売り出された中型セダンだ。発売後すぐに買った。兄弟車には「インスパイア」があって、こちらの方がメジャーだな。どうにもおれはハズすクセがある。


1994秋、ボロボロになって引き取られていく直前



 変わったクルマではあった。ホンダお家芸のFFに無理やり縦置き直列エンジン。そのためドライブシャフトがたしかオイルパンを貫通してたはずだ。基本構造も一筋縄ではいかず、通常はバランスが取りにくくて嫌われる奇数の5気筒に挑んだのに、なぜか敢えてOHC、でもちゃんと4バルヴ。んでもって、9千回転までビュンビュンに吹け上がる超高回転型。
 こんな基本設計だから、FF最大のメリットである「室内の広さ」はまったく犠牲になってた。4ドアのクセに車体全体は異常に低いし、リアシートはつま先が前シートの下に入らない(笑)。その割に長大なホイルベース。スタイルと運動性能だけを追求した結果だろう。

 でも、これには乗りまくったね〜。ターボにゃ負けるが、NAのリニアな吹け上がりが愉しめ、それなりに速くて燃費も良い。いつだったか夜の高速を1時間でメーターどおり180km進んだこともある。FFにしてはアンダー出にくいし、足回りもシートもいい味付けがしてある印象だった。4年半で8万キロくらい乗ったかな。通勤が徒歩だったので、私用オンリーでこの乗り方はまあまあなトコだろう。

 ビガーの名称はしかしこの代で消滅し、後継車種は「セイバー」ってよく分からない名前に変わった。やっぱ包茎矯正下着として有名な「ビガーパンツ」の印象が強かったんやろうな〜(笑)。

 今考えればセダンの異端児で、あのバブルの時代だからこそリリースでき、かつ大ヒットしたのかな?と思う。当時はスバルやいすゞまでがF1エンジンに進出しようとしてたし、セドグロの車体だけ乗せ替えて、不安定な神輿のような寸詰まりの足回りのシーマがバカ売れしたりもしたことを思い出す。みんなオーセンティックなものより、キワモノ的な要素に金を遣ってたのだ。

 最後、酷使されまくって満身創痍となり、オマケに10円パンチまで入れられて、元値の1/10くらいでコイツは下取りに引き取られて行った。でも、何かもう、「ダシ取りまくったあとのカツオブシ」みたいなもんで、後悔はなかった。

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 替わって家にやって来たのは、これまたメインストリームのパジェロやプラドではなく、いすゞの「ビッグホーン」。どこまでもハズすなぁ〜(笑)。時は94年。バブル崩壊をはさんで、どうしたことか日本は空前の4WDブームに沸いていた。
 思うに恐らくは、バブルは崩壊したけど、まだまだこの頃は金融・生損保・不動産関係で直接かかわった人々が大ヤケドを負ったくらいで、一般市民にそれほどその痛みはまだ届いておらず、一方でアーバンでうわっついた消費生活から、自然への回帰志向が出てきたこと、それとパリダカでのパジェロの快進撃・・・・・・あたりがブームの要因ではなかったか。


初代ビッグホーン。1996秋、全損の直前。隣に立つのは若き日のT。


 おれは元来山系のことが好きだったし、温泉巡りをしながら、セダンの限界を痛感してもいたのだった。秘湯系や野湯系では最後のあとちょっとがダート、ってコトはしょっちゅうある。その数kmをストレスなく行きたかったのだ。そこにこのブームだ。

 だが、4WDは高い。大した性能・装備でもないのに300万は下らない。妻と生まれたばかりの子を抱えた貧乏サラリーマンに、おいそれと買える額ではない。
 そうしてシゴトも上の空で悩んでいるところに、ちょうどビッグホーンでお得な限定車が出たのだ。元々5ナンバーボディをオバフェンでストレッチしたクルマとちがって、車体やトレッド自体が広いビッグホーンは実用性にすぐれてるので注目してた。金利も安く、これなら何とかおれでも買えそうだ。たしか「フィールドスター」とかゆうペットネームがついてたように思う。

 乗ってた期間は短かったが、コイツに関するエピソードは枚挙にいとまがない。

 買ってはみたものの、よく考えると、家族がそんな状態で今までどおり温泉になんざ行けるワケがない。結婚を期にヨメは仕事辞めてたし、広い賃貸マンションに移ってたせいもあって家計は逼迫し、手取りから家賃その他の諸経費を払うと、実質可処分所得は4万5千円しかなかった(笑)。そのうち二人目の子ができて、さらに家計は危機的状況を迎えた。
 4WDはあっても、それ使わなきゃ行けないような温泉に行けないのだ。お金なくて(笑)。

 宝の持ち腐れもイヤなので、おれは林道に出かけるようになった。ヨメの実家は幸い(?)山奥なので、関西を代表する長距離林道始め、何本もの林道があって、転がす場所に苦労しない。走ってみるとこれが案外面白い。熱しやすいおれはかなりハマりまくった。
 しかし、貧すれば鈍す、だ。金がないから遠出はできない。林道というのは本来木材伐り出しのための作業道路であるから、実は、都市近郊に残った林道ほどメチャクチャに荒れているケースが多い。

 二人目の子の安産祈願に京都の「わら天神」に出かけた帰りのことだ。

 止しゃぁエエのに、おれは亀岡から林道越えで高槻に抜けて大阪に戻ろうとしたのである。そして枝道に迷い込んで(・・・・・・っちゅーても10mほどだったが)、バックしてるときに路肩が崩れた。
 クルマは大きく傾き、杉の木に当たって止まった。杉がなかったら、5〜6m下の沢まで転げ落ちてたかもしれない。

 ・・・・・・夕暮れ迫る山道をトボトボ村まで下り、JAFを呼んだおれは、無言のままのヨメの冷たい視線に合わす顔がなかった。

 ともあれクルマは、隊員達の崩れかけた路肩にかました鉄板と巧みなウィンチワークのオカゲで抜くことができたが、修理費実に35万円!!ますます家計は苦しく、金の切れ目が縁の切れ目か、良かったはずの夫婦仲まで険悪になってきたのである。

 それでも、「趣味のためならニョーボも泣かす」おれは、ない金やりくりしながら、年明けには4WDが活躍できるスノボを始めたりもしている。ちょうど阪神大震災が起きて近畿がエラいことになってるときに呑気な話だ。
 ホント、あの頃どっから金が湧いてきたのか、今でもよく分からない。


オフロードパークで前転しそうな急阪を下るところ。こんなことばっかしてりゃねぇ・・・・・・
坂の下から撮影してこれだけルーフが見えるのだから、斜度がどれほどかお分かりいただけるだろう。



 他にもアホな話はあるが割愛しよう。運命の日はやってきた。

 前日もおれと、二人目が生まれたばかりで育児で疲れてるヨメとの間でひと悶着あった。翌日の用事は会社の課でのレクリエーション、っちゅーヤツなので、断るわけには行かない。しかし、それでさえ難クセをつけずにはいられないほど、ヨメもストレスに追い詰められてたのだ。
 まぁ、元々の非はまったくもって、遊び呆けてるおれに100%あるのだが、それでも理不尽に絡まれるとハラが立つ・・・・・・で、ハラ立ちのあまり、おれはその夜眠れなかった。

 そして夫婦ケンカと寝不足で苛立ちまくった状態で、バーベキューか何かのあとオフロードパークに行き、そこでクルマを全損にしたのだ。アジャパ〜!!
 原因はドリフトしようとして、4WDのミッション外したツモリが抜けてなかったことによる「タイトターンブレーキング現象」。初心者以前のミスだ。

 ともあれ、メリメリバキバキ、異音を立てて横転しながら、ビッグホーンはキロなんぼの屑鉄になっていったのだった・・・・・・。

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 ・・・・・・さすがに懲りた。

 数ヶ月はクルマのハンドル握る気にもなれなかった。30も過ぎて、いっちゃん借りを作りたくはない親に、ローン残債その他を無心せざるをえなかったのも、キブンを凹ませるに十分だった。

 しかし、クルマのない生活はいかんせん不便である。子供が小さいと、オムツやら何やら買い物は巨大になりがちだし、そもそも買い物に出かけて行くだけで疲れてしまう。

 そんな時、ホンダから「S−MX」ってクルマが発売される。ホンダとして初の本格的1BOXとして売れまくってた「ステップワゴン」の派生車で、後ろの荷室をぶった切ったような変わったカッコだった・・・・・・って最近のクルマだし、説明の必要はあまりないかな。
 若者向けのRVのカッコのデートカー、って位置づけだったのでとにかく安かった。125馬力とボロクソのDOHCとはいえ2,000ccで160万だもんな。試乗してみたら中身は呆れるほど広く、目立つスタイルもあって、4WDから距離を置きたくなってたおれはテもなく飛びついた。


手ごろな画像が手許になかったのでネットから引いて来ました〜。

 このクルマ、ホンダは金のない若者のため、真剣に「走るラブホテル」として設計したらしい。有名なのは、フルフラットにすると完全にセミWのベッド状になるベンチシートと、右手を伸ばすとすぐに手が届くところにある、ティッシュケースとちょうどコンドーム6ケの小箱が入る小さな物入れだが、実はもう一つスゴいアイデアがあったという。
 なんと、当初の設計では、スイッチ一つで全面ミラー&濃色スモークガラスに変わるような仕掛けをつけようとしていたのだ。しかし、安全上の問題でお上の認可が下りず、装着を断念したとのことである。

 子供が生まれる前なら、ホンダのコンセプトどおりに使って、色んな汁でシート染みだらけにしてそれなりに重宝しただろう(笑)。ところが、すでにお愉しみの結果は二人もいる。
 一度も淫靡な用途に使われることなく、コイツは黙々と5年近く働いた。ちったぁホンダのカオを立てた使い方すりゃ良かったかな?

 ま、コンセプトが「走り」ではなく、「えっち」だったので、エンジンフィールも含めて走りは少しも面白くなかった。それにカップルでは十分な広さでも、子供も大きくなってくると荷室がほとんどないのは遠出に苦しい。そういう意味では永く乗り続けるには、いささかムリのあるクルマではあった。
 それかあらぬか、爆発的に売れたのは最初だけで、ついに後継車が出ないまま1代限りで消えて行った。ま、珍車ぞろいのホンダの中でも怪作の一つだろう。

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 捨てるにしのびず全損ビッグホーンから外して、ベランダに置いたままになってるブラッドレーのホイルをおれは思いだした。ちゃんと5本揃い。横転事故にもかかわらず無傷。カバーを掛けてあるので劣化はほとんどない。

 完全に4WDブームは去り、ステーションワゴン人気も一段落し、世の中はミニバン一色になってる。今なら4WDの中古は値ごなれしているに違いない。ビッグホーンはいいクルマだが地味だし、いすゞが乗用車から撤退してさらに値崩れしてるだろう。さらにはガソリン車は元々不人気なのでもっと安いかもしれない。一方、S−MXはまだそれなりに高人気だから、元値のわりに下取りは期待できるだろう。

 狙いは見事に当たった。イサイズだったかグーだったか、ネットで調べると程度のいいタマが面白いように引っ掛かる。

 結局、呆れるほど安い差額だけで、おれは今の2代目ビッグホーンに乗り換えた。この車種を乗り継ぐヤツは少ないだろうな〜(笑)。でも、燃費をのぞけば特に問題もなく快調なので、今しばらくは乗り続けようと思ってる。中古なのに、これまでの中で乗ってた期間は一番長くなった。


買ってわりとすぐの頃、春の房総半島にて。
 言うまでもなくコイツにもすでに色々エピソードはあるのだが、ま、まだ現役ってことで、その紹介はいつか乗り換えたときにでもすることにしよう。

 ・・・・・・いつの間にか文章もひどく長くなってしまった。今回はこの辺で。チャンチャン♪

2005.09.24

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