弾みがついてスノボ三連作になってしまった。相変わらずクダらない個人的な話だけど、まぁお付き合いください。
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おれが得体の知れないエンジ色のボードその他一式を買って、何とか滑れるようになった頃だからまだ95年の初頭、1〜2回滑っただけの頃だろう。前回のエピソードの前シーズンのことである。
会社でスノボがおもろいおもろいと話してた相手はOという。入社は4年下で、身長が180cm・体重が100kgもある熊を思わせるカラダと、ソラマメのような顔の巨漢だ。
大学時代、バイト先のコンビニ弁当の残品を食いすぎて肝臓を悪くして、別の部署の仕事にカラダが耐え切れず、替わって来ていきなりおれの下になったものの、不慣れな上にシゴトの覚えがめっぽう遅く、毎日おれに怒鳴られまり、想像以上の激務にかえって症状が悪化しそうな日々を送っていたのだった。そんな彼も、高校時代スケーターだったという。
スケーターと言っても無論、アイススケートでもローラースケートでもない。スケートボードである。夜は近所の公園でベンチに飛び乗ろうとオーリーの練習を必死こいてやってたと言うから、相当ハマってたんだろう。
元々ヨコ乗り系に、素養の程はどうかは知らないけれど、少なくとも興味だけはあったところに、おれが吹き込んだもんだからたまらなくなったのだと思われる。
翌週の休み明けのことだった。
------***さん、ボク、スノボ買っちゃいました。
------オマエ、先週話したときは金もヒマも興味もないとかゆうてたやんけ!
------いやぁ〜、やっぱし話聞いて欲しなりまして。ミナミのスポタカ行ったんですわ。
------で、何買ったん?
------いやぁ〜、それがですねぇ〜・・・・・・(←彼の特徴で割りとネッチョリとしゃべる)、サンタクルズ欲しかったんですけど、お客さんの体重だと柔らかすぎる、って言われましてねぇ〜。
------止めたんかい?
------はい〜。・・・・・・で、リブテックがカッコええなぁって思たんですけど・・・・・・これもお客さんの体重やったら折れる(!?)って言われましてねぇ〜
------はよ言えや!
------結局、ボクの体重に合うんはこれしかない、っちゅーてリキッドの160cmになりました。
------ほう!(←とは答えたものの、まだあまりよくブランドが分かってない)ウェアとかも買ったん?
------はい〜。シムス買いましたぁ〜。
何!?おれが死ぬほどの貧乏でウェアなんか買えもしないでいるのに、コイツはいきなりブランドモンか!?ちょっとムカッと来た。どこか、こいつ道具でおれを圧倒しようとしとるな、って気がしたのだ。
------オマエ、ホンマは金あるんやんけ!
------いやぁ〜、ローンにしてまいました。
------ふーん、まぁええわ。ほたらとりあえず滑りに行こうや。
日時は翌々週、行き先は余呉に決まった。アホ仲間Aオススメの湖北の最奥、福井県境近くにある小さなスキー場だ。あとはHちゃんという同じ課の美人の4人組である。
さて、約束して数日後、Aが妙なことを言う。
------Oさん、酔っ払ってゆうてたで。
------ん!?何をやねん!?
------いや、仕事でRさん抜かせん分、スノボで抜かしたるとか何とか・・・・・・
------何ぃっ!?
よおゆうた!!
その意気やよし!悔しさをバネに上達するのも大事なことだ。けだし、先日の会話でのおれの直感は見事に当たっていたのだ。でもさぁ〜、「道具で圧倒」はナリキンの家の子供みたいでちょとセコいぞ!O村よ!(笑)
しかし、わいも負けてられるかい!シゴトだけではなく、スノボでも、たとえおれのより数等上の道具でも、おれを凌駕しようなんざ100万年早い、っちゅーコトをキッチリ分からしたろやないけ!!
おれは翌週、一人で再び山に出かけ猛特訓したのだった。オカゲでほぼ完全にカービングをマスターした。ちょっとしたギャップなら飛んで行けるようにもなった・・・・・・高さ30cmもなかったけど(笑)。ミカタ奥ハチの中腹のカレー屋の裏の15mくらいのクリフも何とかズリズリで下れるようにはなっていた・・・・・・大した進歩ぢゃねぇな(笑)。
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ついにその日は来た。
中部以東の人に関西の豪雪地帯のスゴさは分からないと思うが、兵庫・鳥取県境や京滋北部は、雪質こそベタベタなものの量的にはすさまじい。特にこの年は大雪の当たり年で、現地は2m以上の大雪に余呉スキー場は覆われていた。オマケに山一つ向こうには日本海が迫っているため、時折、雪起こしの雷がゴロゴロなり、雹のような雪がバチバチと降ってくる最悪のコンディションだ。
ここのスキー場も下は思いっきし平坦だが、上部は距離的には短いながら急峻な壁のようなバーンがそびえている。Hちゃんはまだ初心者なんでムリはいけない。Aは典型的なヤンキーモーグル系で、フォームはお世辞にもきれいとは言えないが、どんなコブだろうが急斜面だろうがビビらず突っ込んでいく根性の持ち主だ。
おれも上記の猛特訓済である。
ともあれこうして役者は揃った。あとは、スケボーの経験で何とかなるだろうなどと楽天的に思い込んでるO村を、ゲレンデトップにまで引っ張り上げるだけだ。フッフッフッフッフ。
・・・・・・後の展開は前回と同じだ。同じだが、Oはセコイ野望のワリに、なかなか粘り強く頑張った。雪ダルマ状態になりながらも、何とか一日で下まで滑って来れるようになったのだ!
これは大事なことだ。テッペンまで連れてかれて放置プレイされるわ、まだ経験数回のおれに対し、過去のスケボー経験からすぐに抜かせると思ってたらあにはからんや事態はそう甘くないわ、気持ほどには前に進まずこけまくるわ、とずいぶん悔しかったろう。それでも彼は辛抱して滑りまくった。帰る頃には手など、雪が中まで染みとおってズブ濡れ状態だった。
おれがよく初心者に勧める、「黙って10回リフトに乗る」を実践したのである。大したもんだと思う。
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そこからがしかし、彼は良くなかった。
言っちゃ〜なんだが、いっこうにちょっとも上達しないのだ。
道具が良くなかった、というのも確かに一理ある。当時のリキッドはライドの下級ラインの位置づけだったが、共に非常に特殊なネジ穴の配置で、適合するのが純正のプレストンのビンディングのみで、こいつが何ともすごかった。スタンス角度を決めるのはふつう、丸く穴の空いた土台の縁がギザギザになっていて、フタのギザギザとの噛み合わせて固定しながらするものなのだが、コイツはそうなっていないのだ。単に硬いゴムの挟まったプレートでギューッと押さ付けてるだけ。そんなんに体重100kgのヤツが乗って、思いっきり踏み込んだり、コケたりするとどうなるか?
恐ろしいことにビンディングがグルッとずれて回転するのである。これは怖い!怖いだけでなく危険だ。おれは転倒した彼の板が、前後ともに90度の状態になってるのを何度も見た。これって板に対して足平行でっせ!!(笑)。モノスキーか!?(註※)
これぢゃぁとても安心して踏み込む気にはなれないわな。
・・・・・・と、好意的に書いてはみたもののこちらの理由の方がより真実だろう。スケボー乗りのクセが取れないのだ。これは過去の経験によるだけではなく、彼の小心さによるところが大である。怖いもんだから、ひざが妙に伸びきったままで後ろに体重をかけて(つまり後傾で)、後ろ足側で板を回すクセがどうしても直らない。これはドリフトターンっちゅーもので、板が滑って方向は変わるものの、エッジに乗っていないから全然スピードが出ない。スキーで言うところの「シュテムターン」みたいなもんだ。
遠めに見ても、ゲレンデを巨大な体躯の男が、アヒルがお尻振るみたいにピッ・ピッと後ろを振りながら、ユックリユックリ下りて来るのは、なんともイケてない。
何度も「軸足もきちんと踏み込まんかいな!」と、おれはアドバイスしたのだが、どうしても彼にはできない。あれは翌シーズンの伊吹山だったか、頭にきて「もぉ何も考えんととにかくガーッと下ってみぃ!!行って行って、行てコマしたらんかい!!」と怒鳴ったら、さすがに温厚な彼もブチ切れた。あろうことか直滑降でホンマに行った(笑)。行ってそのまま小柄な女の子に激突して、相手を数m吹っ飛ばした(笑)。おれは物理の「仕事量」というものを、その時始めて視覚的に理解した。よく何もなかったもんだ。
でも、それをきっかけにそのコを口説いてコマすことはなかったな・・・・・・(笑)。
こうして2シーズンはちょくちょくいっしょに出掛けたものの、3シーズン目に到って、仕事が忙しいのもあろうが、あまりの己の上達のなさに嫌気がさしたか、悲願の「ボードでおれを抜かす」、が実現できず、ゲレンデでも後輩に甘んじてるのが疎ましくなったか、彼は誘ってもあまり熱心にスノボに行かなくなった。あとほんの少しだったのにもったいない話だ。
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最後に滑ったのはいつだったか忘れたが、もうずいぶん経ってしまった。
彼も最近こちらの方に転勤してきて、北関東の町で監督職をやってる。先日、会議で東京に来たついでにおれんちに遊びに来た。遠いようで意外と近かったし、忙しいとはいえ相変わらず独身なので時間の都合はつくだろうし、「ま、久々にいっしょに滑りにいきたいのう」などとおれ達は酔っ払って妙に盛り上がったのだった。
そう!おれを抜かすのは、今からでも決して遅くはないんだから(笑)。
どっからでもかかってきなさい!!
註※:
さすがにこの構造は危険すぎるので、今ではふつうの構造に変わった。しかし、リキッドもプレストンもライドに併合され、そのライドも今やK2傘下に入ったのは日記に書いたとおりである。モノスキーもなくなったなぁ。
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