「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
低山めぐり(1)


ある雨上がりの朝。それはまるで啓示のような光景だった。

 ・・・・・・タイトルは田山花袋の名作・「温泉めぐり」から取って見た。

 それはさておき、この地に来ていつくらいからだったか、専らダイエットを目的に低山に登るようにしてる。平地を散歩するよりしんどいけど効率が良いってコトに気付いたのだ。それに瀬戸内に面した一帯って低山の宝庫と言って良い。ポコポコポコポコ、200~300mくらいの山がナンボでもあったりする。

 どうだろ?いつもの慣れた道で言うと、稜線を上がったり下がったりがあるから累積標高でせいぜい500mほど、距離にして7~8kmくらいを2時間ちょいくらいで行っちゃう。トレランとまでは行かずともそこそこペースとしては速い方だろう。下りは昔教わったやり方で、左右にピョンピョン跳びながら走ったりもしてる。ガニ股であんましカッコ良くないけどこれがいっちゃん速いし、実は身体を左右に振ってることで脚のもつれるリスクが少ない。オマケに律義に帰り道の途中で神社寄ったりして1円玉ばかりだけど賽銭あげたりもしてる・・・・・・って、前回も同じようなこと書いてたな。
 そんなんを月に20日くらいのペースで朝食後にズーッと続けてたら効果テキメン、イトメンのチャンポンめん、体重が10kg以上落ちた。そらそやわな。大体1回行けば800~1000Kcalくらい消費してるから、累計すると月に1週間断食するくらいの運動量になってるんだもん。今ではすっかりスリムだ・・・・・・って、実は何か別のコワい病気罹っとるんちゃうやろな!?(笑)
 永年、増え続けてた体重のせいで懸垂もマトモに出来なかったんが、今では軽々と身体を持ち上げることが出来る。夜の寝つきも良くなった。血圧も下がった。すべては座職ゆえの運動不足のせいだったワケやね。まことにありがたいハナシである。まぁ、たまに頑張り過ぎた日は膝が痛むこともあるが。

 いつも同じ山、同じコースだと飽きてしまうんで、ルートを変えたり、午後の予定がない時なんかはクルマで出掛けてちょっと遠くに行ったりもしてる。登山道はしかし、標高が低いからと言って侮ってはいけない。こちらの地質的な特徴からかどこも大体取り付きが直登でエラく険しく、稜線は比較的なだらか、火成岩が多くて土地が痩せてるせいだろうか上の方では急斜面で岩場が剥き出しになったところも多い。どこの山も比較的ザラッとした岩肌で乾いてりゃそんなに滑ることはなさそうだけど、ロープ/鎖場なんかもチョコチョコあったりする。小さいながらもスラブやリッジがあったりもする。何だかんだでコンパクトながらけっこう変化に富んでるように思う。ガキの頃に登らされてた金剛山や岩湧山より余程ハードなルートだ。

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 ・・・・・・本題はこっからだ。いや、実は今日は全然山の話ちゃうねんけどね。マジメな山の話は次から書きますよってに、許してぇな。

 不思議なコトに、街中をウロウロしてても知り合い増えることなんてこれっぽっちもなかったのに・・・・・・ってーか、田舎社会はみんなクルマばっかしなんで、そもそも通りを歩いてる人自体殆どいなかったのに(笑)、山にはスゴく沢山の人がいて、そしてこうしてテコテコ山に登るようになってから、親しくさせていただく方が急に増えたのだ。もちろん基本的に年寄りが多いものの、子供の登校後なんかの空き時間でサクッと登ってる主婦の方や、在宅ワークの空き時間なのか一人で近所を散歩するみたいなカッコで上がる若いリーマン風、初歩の山ガールっぽいグループなんかも多かったりする。東屋で何となく話すうちにちょとづつ親しくなって、実はこぉこぉこぉゆうコトしてます~、なんて流れになって、そっからまた色んな人を紹介されて・・・・・・みたいなんが多い。これ書いてる今もそうなんだけど、もうすぐそんな風にして知り合った方が家に遊びに来ることになってる。あぁ、数日前もまた別の方が来たっけな。

 しばらくこうして知らず知らずマンウォッチングしてるうちに分かって来たのは、大体、山に登ってる人っちゅうのはそれなりにおうちが経済的にシッカリしてるケースが多いように見えることだ(・・・・・・除、我が家だけど、笑)。そらそやわな、貧乏してちゃぁ体力作りもヘチマもあらへんわな。まずは働いてゼニ稼がんとアカンもんね。いやマジ、人のコトゆうてる場合ちゃうんやけど、うちはまだしばらくは超低空飛行でやってけるんよ。
 我が家のビンボーぶりは置いといて、そいでもってヤンキーがいない。そら多分、元ヤンはヤッパシ八ッ橋それなりにはおったりするんだろうけど、少なくとも現時点ではすっかりヤンキー抜けてるように思う。思うに現役のヤンキーはこの時間、どっかで働いてるか、もしくは開店早々のパチンコに出撃、或いはマクドナルドのイートインあたりでヒマそうにスマホ弄くり回してる気がする。ゆうたら悪いが、そぉゆう人こっちでよぉ見掛けるんですわ。
 さらにだんだん話して行くと、山に登ってる人にはそれなりにいっかどの人が多い。斯界の・・・・・・とまで言うと大袈裟だろけど、オーソリティっちゅうんですか、今は引退してるけど元はなにがしかの専門家だったり、すんげぇ実はマニア/コレクター/趣味人だったりっちゅう確率がひじょうに高いのである。ぶっちゃけ驚くほどに。

 何だかんだで俗物でセコいおれだから、こりゃぁエエわぁ~!何かこれから活動の幅を広げてく上できっとこの関係性はプラスになるわぁ~!ってなしょうむない損得勘定をそこでしなかったと言えばウソになる。いやマジ、思いましたとも。スンマセン。
 ところがどうしたことか、そんなアホのケチな思惑以上にこれらの繋がりは勝手に動き始め、広がりだし、浅ましくおれがジタバタせんでも勝手にどこかに運んでってくれてるような、そんな感覚が今は、ある。溺れた時は暴れずに静かに浮いてろなんて言われるけど、それに近い感覚かな。ん!?感覚ぢゃないな、マジで色んな事が動き始めてんだもん。本当に不思議だ。何なんだろ?
 運ばれて行く先が吉と出るか凶と出るか、鬼が出るか蛇が出るかは知らないし知ろうとも思わない。そこ考えたって詮無いことだろう。今はこうして流されてりゃエエんちゃうやろか?って気がしてる。

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 いやもちろん、良い人ばっかしではない。新田次郎の小説にあったように、悪い人だって山に登るんだから。

 だから知己になりはしたものの、ややこしい人だっている。そらいますわな。最も厄介なのは、いきなり新参者のおれたちに「誰それさんはどぉこぉ!だからもぉ私は一人で登んねん!」とかディスるような人ね。自分の味方・仲間を増やしたいんだろう。でも俎上に上がってる誰それさんどころか、アンタのコトもおらぁロクに知らんのよ。
 でも、それをこぼしたって仕方ない。どんな場所、どんなコミュニティにだってそうした困ったちゃんは一定の割合で存在するモンなんだから、そぉゆうモンだ、決してホンマは悪いやっちゃない、と思って静かな苦笑で受け入れるしかない。
 まぁ大体こぉゆうカテゴリーの人は、何となくオーラ出てるんですぐに分かるんだけどね。

 山に登り始めて早や数ヶ月、山登りのスキルはサッパリに身に付いてない代わりに、人間関係とか、コミュニケーションとか、呼吸とか、間合いの取り方とか、フェイドアウトの仕方とか・・・・・・詰まるところ他者への優しさとかを改めてイチから学び直してるような気にさえなってたりする。

 ・・・・・・低山めぐり、ナカナカどうして奥が深いのである。

2024.01.22

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