「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
火鉢、でアホになる


実用性もあって愉しめるんだからこりゃぁスグレ物っすよ。

 ・・・・・・タイトルだけでもぉ殆ど言い尽くせちゃってるよね。

 先日、縁日の古道具屋を覗いてたら火鉢がどれも1つ千円で売られてた。リサイクルショップの相場が大体三千円なんで、こりゃぁエエわ、と駐車場まで運ぶ手間も省みず即決で一つ買い込んでしまった。まぁ今時、火鉢なんて庭で金魚飼うか睡蓮浮かべるくらいしか用途のないモンだろう。手火鉢ならともかく、基本は図体デカいし。あちこちの旧家で無用の長物と化してるんだろうな。

 勿論、目論見は炭を燃やすためである。燃やして何するか?っちゅうたら、暖を取るのはまぁ当然として、おらぁどうしても餅を焼いてみたかったのだ。火鉢で餅、何かエエっすやん。
 家も広くなったことだし、実は夏頃から出物がないかナニゲに捨て目を利かせて物色してたのだった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 買って来た火鉢は火事の心配もあるんで玄関の土間に鎮座することとなったが、これだけでは二進も三進も行かない。必要なのは炭よりも何よりもまず灰である。いやいや、炭は何だかんだで既に沢山あるんですよ。以前から七輪で焼肉やったりしてるし。安いマングローブ炭とか、点火するだけで簡単に燃えるチョコモナカジャンボみたいなんとか段ボールに入ったまま積まれてる。着火剤にしたって何種類も持ってたりする。
 しっかし、灰くらいどうにか調達できるだろうと思ってたおれは甘かった。きょう日これがナカナカないんですわ。調べてみると、炭10kgから取れる灰ってせいぜい1kgらしい。たしかに七輪に残ってる灰なんてのも改めてチャンと袋に取ってみるとホンの僅かやもんな。これぢゃ毎日庭で焼き肉やっても火鉢に十分な量は確保できそうにないし、その前に春になってしまうやんけ。
 引っ越して来てから懇意にしていただいてるオッチャンに頼もうかとも思った。薪で風呂焚いてるっちゅうてたし、畑で野焼きもやってるみたいだから少しくらいは言えば分けてくれるだろう。だけど、何だか引っ越して来たばかりの新参者の分際で図々しい気がして、やはりいささか憚られる。
 それで買うことにしたんだけど、これがもぉメチャ高いのね。高いのだとキロ1,500円とかヘーキでする。別に茶道のセンセやるワケでもなしそんな上等のは要らないんで、あちこち探しまくって10キロ3,500円っちゅうのを買った。容量に換算すると12~3リッターってトコだろうか。それでもソロソロと火鉢に流し込んだら半分にも満たない。ちょっとデカ過ぎたのかも。仕方ない、あとの分はせいぜい自分で増やすコトにしよう。

 早速炭を並べて点火・・・・・・うわ!外ではそこまで気にならなかった臭いが凄まじい。こんなんアッちゅう間に家が山小屋の中みたいになってまうがな。不良在庫になってたチャコールブリックスを下に並べたのはやはりマズかったか。
 こうして何はともあれ灰が確保でき、火がとにかくは熾せるようになったら次に必要なのは五徳だろう。そしたらどうせ火箸も欲しいし、均すヘラみたいなんも欲しいってなるんだろうが・・・・・・何だかんだでケッコーな物入りやんか。

 五徳・・・・・・これがまたなかなかちょうど良いサイズのが無いんだよね。近所のホムセンやリサイクルショップにもなく、こんなんのために田舎の古道具屋を探し回るのもアホらしく、またまたネットをウロウロ。火鉢の直径からジャストサイズはどうやら6寸らしいんだけど、とにかくこのサイズは少ないし、見付かっても南部鉄器のどーたらこーたらって能書きの付いた高いのんばっかし。何で素朴なカッコの鋳物に万単位の金を払わんとアカンねん!?妥協することも考えたがあまりに小さくては不安定だし、あまりに大きいと今度は上に載せるモノまで大きくしなくちゃいけない。
 火箸もそう。100均の揚げ物用の箸でエエんちゃうか?って思ったね、ホンマ。灰均しもお好み焼きのコテで代用できそうやんか。

 家の顔たる玄関に余りみすぼらしいグッズが並ぶのも如何なモノかと堪えて新品を頼んだが、これで1万円・・・・・・ガスレンジ買えるで、いやマジ。

 結局、炭も新たに購入。ホムセンの安物木炭はすぐに火は点くものの最初の煙と臭いがナカナカだし、燃え尽きるのが早いし、オマケにパチパチと爆ぜる・・・・・・いや、炭の爆発(爆跳)は上等のヤツの方が激しかったりするんだけどね。そんなこんなで見た目はちょとばかし味気ないが、爆跳がなく性能が比較的安定してそうな「オガ備長炭」ってのにしてみた。第一安い。10kgで2千円ちょっとならホムセン炭より少し高い程度だ。届いたのを開けてみると、要はオガライトをさらにギューッと圧縮して炭っぽくしたモノだった。ケッコー硬いやん。スカスカのホムセン炭よりは10倍くらいマトモそうだ。
 着火も楽勝。レビューで「全く火が点きません。もぉ二度と買いません」とかディスってる人って、炭がボーボーと炎を上げて燃えるモンだと思ってんだろうね、多分。それって根本的に勘違いしてるか無知かバカかのどれかだ。炭ってのは本来とても燃えにくいモンなのである。焼板塀を見たら分かるやん。ありゃあ腐蝕を避けるだけでなく、万一の火事の際の延焼を避けるためにワザと板の表面を一度燃やして炭化させてある。それくらい炭って燃えにくく、たとえ着火してもガンガンに空気を送り込まない限りは真っ赤に熾るだけなのだ。だって炭素のカタマリなんだもん。マトモに燃えるには恐ろしく大量の酸素が必要だったりする。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ようやっとお膳立ても整ったので、念願の餅を焼いてみた。ただのサトウの切り餅なのにハッとするほど美味い。電子レンジでチンしたような、ただ単に柔らかくなっただけのとは、焦げた香ばしさや表面のカリッとした食感が断然違う。それにこれが遠赤外線っちゅうヤツなのか、思ったよりも早く焼けるのがありがたい。普段は滅多に喰わないし、喰ってもせいぜい2個で十分なのがナンボでも行けてしまう。折角毎日山に登って痩せたのに、これぢゃリバウンドしてまうやんけ・・・・・・って餅食い過ぎて太るって、昔のマンガの手垢のついたネタぢゃあるまいしねぇ。

 炭が重なった中心辺りではそれでも炎らしきものがトロトロと揺らめいたりもするけど、まぁ余程息を吹き込まなければ炭は静かに仄赤くなりながらしんねりしんねり燃え尽きて行くだけだ。一旦温度さえ上がってしまえば、炭はとにかくしぶとい。そこには焚火のような威勢良さは微塵もない。そしてそれはとてもダウナーな絵だ。
 上がり框に腰掛けてジンワリとした熱気を前に背を丸め、崩れた炭を火箸で整えたりしてると、アッちゅう間に1時間や2時間過ぎてしまう。本当にアタマの中から何もかもが消えて行くようなカンジだ。夾雑物だけが消えるんならともかく、何もかも消えて空っぽになって行く。まるでアホっちゅうかこの虚無と静止感の心地良さは一種のタナトスなのかも知れない。

 ・・・・・・火鉢、こらホンマにヤバいっすよ、マジで。

2023.12.23

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved