「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
Maggot Death・・・・・・山で死ぬということ(4)


滑落直後のスクショ。アイゼンどころかマトモな登山靴さえ履いてないことが分かる。

https://www.asiaone.com/より

 死~んだ、死んだ♪ア~ホがひとり~死~によった~♪

 ・・・・・・などと、最早小学校低学年のガキのように囃し立てるくらいしかリアクションが出来ないような、どこをどう贔屓目に見たって愚劣極まりない山での遭難事故が、よりによって、っちゅうか、こともあろうに、っちゅうかこれから厳寒期に入ろうとする富士山頂上で発生した。

 コトの顛末は既にいろんなメディアに出ており、知ってる人も多いと思うのでサラッと振り返るだけにしとく。
 10月28日、年齢を6歳サバ読んで「TEDZU」なるHNで「ニコニコ動画」上で活動してた47歳、自称・司法(・・・・・・多分、書士だな)浪人で無職の中年男が、アイゼンもピッケルも持たず単独で富士山に登り、14時半ころ山頂での実況中継中に足を滑らせ、「あっ、滑るぅ!ウヮッ!」な~んてトボけたナサケない叫び声と共に滑落死した。滑り始めて数秒後あたりまでの様子は、動画でライブ配信されていた。
 数日後、性別も分からないくらいに損壊し、恐らくはただの肉塊と化した遺体が、約700m下の8合目・標高3,000m付近で発見されたのだった。高低差で700mだから、実際に滑ってった距離は1,300~400mはあったのではなかろうか。二次遭難の恐れさえある中、こんな阿呆の捜索と回収に当たらされた警察や山岳救助隊の人たちはホンマいい迷惑である。

 ホントこのバカ、冬山をナメくさってたとしか言いようがない。そもそもよくまぁ生きてテッペンに辿り着けたモンだと思うんだけど、上述の通りアイゼンもピッケルも持たず、高尾山にでも行くようなトレッキングポールに、ズックの運動靴とさして違わないローカットの軽登山靴、服装もおよそ冬山に登る装備とは言い難い軽装、オマケに単独行、さらにはたとえ明るいうちに登頂に成功できたとしても、100%下山途中で日没を迎えて立ち往生するのが必至な10時過ぎから登り始めてたのである。杜撰極まりない。一体全体何を考えてたのか。

 ・・・・・・こんなん死んで当然だ。一切同情の余地はない。いや、おれたちゃ絶対に同情しちゃぁいけないのだ。この男の死を本当に悼むことのできる資格があるのは年老いた親御さんだけだろう。どれだけ出来が悪くたって我が子は我が子、不憫で哀れに思うっちゅうのは、それはもう仕方ない。その心中は察するに余りある。そしてそれ以外の連中の垂れ流す「心配です」「気の毒です」なんてコトバの羅列は、犯罪的なまでにユルく、軽く、薄ら寒くて無責任だ。

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 新田次郎のたしか「強力伝」にあったように、冬の富士山は遮るもののない斜面に四六時中吹き付ける風によって表面が磨かれて行き、巨大な一枚の氷盤と化す。アイゼンとピッケルって上で書いたけど、それでもいったん滑り始めたら、身体を確保できるかどうかの保証はない。貧弱なトレッキングポールよりはそりゃ断然マシだろうが、とにかくカッチンコッチンで刺さらないのだ。それに完全にツルツルならそれはそれで助かる可能性もあるだろうが、実際はあちこちに大小の岩が飛び出してるし、氷の表面だって平滑ではない。ザラザラ・ギザギザ・ゴツゴツの・・・・・・いわば「卸し金」状態なのである。だからほぼ一瞬で絶命する。
 また、山の気温は標高が100m上がるごとに大体0.6℃づつ下がると言われる。当日の沼津の最低気温は13℃、最高気温は20℃だったみたいなんで、山頂での気温は-9~-2℃ってトコだろう。加えて一般的に風速が1m増すと体感温度は1℃下がると言われる。当日の山頂での風速は不明とはいえ、全くの無風ってコトはありえないから、感じる寒さは実際それ以上だったハズだ。たとえこの時点で滑落してなくとも、吞気にお鉢巡りなんてしてちゃぁ、まず間違いなくこの数時間後には下山路の途中で凍死してた。いずれにせよ、このバカは死ぬしかなかったのである。自殺行為というしかない。

 不治は日本一の病・・・・・・もとい、やっぱし富士は日本一の山なのだ。その過酷さにおいても。

 山だと個人的にはー20℃くらいまでは体験したことがある・・・・・・っちゅうても全然ワイルドな環境ではなく、北海道のキチンと整備されたゲレンデトップでだ。たしかテイネだったと思う。あ~そうだそうだ。行った日がたまたま雪の後の晴れで猛烈に冷え込んだ日で、「市内なのにこれかよぉ!?」って思ったもん・・・・・・って、市が広すぎて、バフバフの札幌国際だって市内なんだけどね。
 いや、スノボで滑ってる時はまだ良いんだけど、リフトに乗ると風に曝されてそれはそれはもぉハンパなく寒い。二重になった靴履いてても寒い。ゴツいミトンの手袋ハメてポケットに手を突っ込んでても寒い。ヒートテックを分厚くしたようなのにフリース着て、ネックゲイター巻いて、帽子も被って、ほいでもってさらにその上にジャケット着てフードを目深に被っても寒い。とにかく寒い。

 そんなトコのアイスバーンがどんなんか?っちゅうたら、これがもぉホンマにエッヂが効かない。みっともないズリズリで目一杯踏み込んで体重載せてもカーッとかコーッとかイヤ~な音立てて板が流れまくる。実は北海道のゲレンデは本州よりも気温が低くて昼間にあまり溶けないこともあって、アイスバーンはむしろ少ない気がするんだけど、一旦なってしまうとカンカンに固まって手強いのだ。
 当然ながらコケるとチョー痛い。実際、バーン上で転倒して手首や肘を骨折したって話を聞いたことがあるから、その硬さは押して知るべしだろう。それに痛いだけではなくよぉ滑るんですわ、これが。アッちゅう間に十mくらいは軽く落ちる。それでも所詮はピステンで整地されたゲレンデに出来たアイスバーンだし、そんなに長く続かないから止まれるけれど、これが遥か下まで続いてたらエラいコトになるだろう。

 もちろん単純に比べるなんて出来ないとは分かってる。でもまぁ、こうした経験があるからある程度の想像は付くし、だから冬山には安易に登りたいとは思わないし、もし登るんなら最大限の装備を整えて、シッカリした体制で行くだろう。
 ・・・・・・自慢話をしたいのではない。また、分別のあるところを見せたいワケでもない。どだいおれだってかなり無分別なんだし。ただ、誰だって概ねこんな風にして、フツーはちょっとづつステップアップして行くんぢゃなかろうか、って言いたいだけだ。

 ところが最近の、特に富士山ではどうも事情が違うようだ。たまたまこの男は滑落の瞬間が実況中継されてたこともあって大きなニュースになったっちゅうだけで、似たような恐ろしいほどの無知に基づく無鉄砲・無謀・無計画な遭難がとても増えてるみたいなのである。ネットから拾って列挙しようと思ったけど、メンドくさいから止めた・・・・・・それくらい多いんだ、これが。
 ホントに困った話だ。ブームの裾野が広がるとそれだ混じるけアホの数が増えるのは何だって一緒なんだし、やれ世界遺産だとか、日本一のパワースポットだとか、ヨイショしまくった連中の罪も無視できないと思うな。もぉニュースとかで、山開きだの初冠雪だのと富士山ネタを取り上げること自体、止めてしまったらどうかとさえ思う。
 富士吉田の浅間神社の・・・・・・いや全国に散らばる浅間神社の氏子たちだって、本来もっと怒るべきだ。エアーズロックにズカズカ登る連中に対して声を上げたアボリジニーたちのように、「これ以上おれたちの聖地を汚すな」って訴えたらいいんだ。

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 ・・・・・・しっかし、アレやね。こんなテーマでの駄文が4回目にもなるとは思ってなかった。ホンマ世の中想像を絶するようなエクストリームなアホばっかしだ。頼むからアホは山に登らんといて、って言いたい。あるいは一人3万円くらい徴収して登山口で装備チェックと登山実技と知識の試験やったら良いのかも知れん。
 どうもこの10年くらい、山関係の事故のニュースを聞くと、気の毒だのなんだのって感情より先に、言いようのない不快感を感じるようなケースが増えている。

 そんなんでいささか過激なタイトルにしてしまった。直訳すると”Maggot”とは「ウジ虫」って意味である。スラングでは「どぉにもならんクズ」っちゅうような風に使われる。今回のコトの次第を知って真っ先に浮かんだ言葉がT.G.の”2nd Annual Report”に収められた曲のタイトルの一つであるコイツだったのだ。

 だってそうでしょ?老親からの仕送りに頼り切って、資格取得を言い訳に倒れそうな古いアパートでうだうだとモラトリアムの惰眠を貪り、マトモに正業に就くこともなく、エエ歳ぶっこいてヒマを持て余した挙句の果てにユル~く富士山に登って(何と今年になってから30回近く登ってたみたいだ)、その動画の配信で幾許かの収入を得ましょう・・・・・・ってか?クズ以外の何物でもないじゃんかよ。

 大嘗祭に2,700億の税金が投入されたことをあれこれと批判するプチ左翼なメディアや市民団体がいるけれど、そんなんよりもこんなしょうむないヤツの無知で無謀な行動の尻拭いに税金が投入されたことの方が、おらぁよっぽどハラが立つな。

2019.11.23

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