「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
不快生物の宴


一般的に入手できるものではかなり強力と言われるイカリ消毒の「ヤマビルファイター」。

https://www.amazon.co.jp/より

 散々これまでアウトドア関係のネタを振っておきながら、マコトにヘタレだとは思うのだけど、おれには結構色んな苦手な生物がいる。まずはイモトアヤコぢゃないけれど蛇。もぉホント、マジで悲鳴を上げるくらいニガテだ。

 とは申せ、蛇というのは随分用心深く、また憶病な性質のようで、大体こちらの気配や物音を察知したら逃げてってくれる。マムシやヤマカガシといった毒蛇にしたって、こちらが攻撃でも仕掛けない限りは咬んで来るなんて余程でないとないことなので、まぁあまりズカズカと踏み込まないようにして逃げる余裕を与えておけば実害は滅多にない。
 この点では熊に似てるような気がする。熊もバッタリ出くわすモンだから吃驚して攻撃して来るのであって、人がいることをシッカリ知らしめれば向こうの方から寄って来ることはまずない。あくまで結果論だけど、北海道にいた頃は一人で山の中とか出掛けて行ってた。夕張あたりでもちょっと入ると、道に羆の糞が落っこちてたりする。足跡なんかもある。それでも山の中のチンドン屋みたいに熊鈴ぬ加え、スマホを鳴らし、缶々ブッ叩いたりしてれば何もなかった・・・・・・もちろんビビリつつだったけど。小樽の奥でも、定山渓の奥でも・・・・・・あったらノー天気に今こんなコトしてないわな(笑)。

 猪についてはハッキシ言って良く知らない。実のところ、事故の件数でいうと熊よりも猪に襲われる方が多いらしいから、むしろこっちの方をよく勉強しとかなくちゃいけない。何せ多産な動物であるのに加えて近年の耕作放棄地の増加もあって、本州では個体数が爆発的に増えてるとのことでちょと怖い。ウリ坊は可愛いけどね。
 そぉいや先日、茨城と福島の県境くらいで廃校を見ようと村外れの道を登ったら、もぉ鼻でほじくり返した穴だらけだった。いや、村外れったってすぐ横には公民館があるような場所でですよ。こんな人の住まいのすぐ近くをフゴフゴ鼻鳴らしながら我が物顔に闊歩してるのかと思うと、おれは恐怖と共にいささか暗澹たる気持ちにもなったのだった。

 さて、今日あれこれ書こうとしてるのはそんな生きるか死ぬかみたいな凶暴な動物についてではなく、これから暑い季節を迎えると増えるキショク悪くて鬱陶しく、実害もあるような生物についてだ。

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 筆頭はまず虻。ハエを巨大化させて目玉を緑色にしたようなアレ。これはもぉホンマに鬱陶しい。関東以北で真夏の日差しがカンカン照り付ける河原みたいなところに多いような気がする。何となくなんだけど、流れのある水場が近くにない所には居ないのではなかろうか。
 いくら追い払っても視界に入らない所から殆ど羽音を立てずいつの間にか接近して吸血する。吸われてしまうと、いつまでも鈍痛を伴ってひどく痒いだけでなく患部がシコリみたいになったり赤くグジグジしたりして治るまでがひじょうに長いのも困りモノだ。
 ハラ立つことに、いつの間にかクルマの中にまで入り込んでるときさえある。数年前、やっとクルマ一台通れるくらいの狭い道を歩くような速度で下ってたら、いつの間に忍び込んだのか、大きなのが数匹飛んできて、払いのけた拍子にハンドルがブレてバンパーの角を擦ってしまったコトがあった。その時はもう、シートのバックポケットに突っ込んである殺虫スプレーをブシブシに吹き掛けて殺してこましたった・・・・・・が、それで修理代がチャラになるはずもなく、戻ってから数万円のたいへん痛い出費になってしまったのだった。
 この虻をウ~ンと小さくしたようなのがブヨである。ブユとかブトとか色々地方によって呼び名があるけれど、漢字で書くと「蚋」と書くらしい。生息域は虻と似てる気がする。小さいクセにこれはこれで鬱陶しい。痒さの質や後の尾の引き方なんかはまぁ大体虻と同じだ。

 次は蚊。家に居たって夏場はウザいよね。でも野外で遭遇するのはさらに強力な黒白マダラの藪蚊であることが殆どだ。日向を飛び回るのが虻や蚋なら、ちょっと湿った薄暗い森なんかが藪蚊のテリトリーでキッチリ棲み分けが出来てるのがこれまた腹立たしい。ただ、離着陸のメカニズムの限界か、あるいはただのアホなのか、コイツは何故か接近する時にプ~ンと耳の近くを飛ぶことが多い。そこで発見・捕捉できればすぐに撃墜可能なんが救いとも言える。しかし、すぐに群れを為すのはどうにもタマらない。
 もう何年前になるだろう、夏場、町外れの城跡公園みたいなところで野宿したことがある。その時はクルマではなかったので、なるだけ道具を軽くしようとモンベルのモノポールシェルターにしたのが失敗の元だった。おれのは初期型なので、インナーとボトムシートが別体式になってて、ピンと張ると若干の隙間が出来てしまうのである。
 町に下りて、晩飯食って、銭湯入ってサッパリして戻ってきて、それでテントのファスナー開けた時はマジでシビれましたわ。テントの中をウワ~ンって何百匹も飛んでるんだもん。すぐにもう一回町に下りて殺虫剤とムヒを買って再びテントに戻り、ブシーッと噴霧!
 ・・・・・・結局何の意味も無かった。家のように密室になるのならともかく、何せテントは裾のところが開いてるのである。その時は良いけれど、しばらくするとまた集まって来てウワ~ン、ブシーッ、この繰り返し。もちろんドンドン身体に群がろうとする。
 叩いても叩いても数に勝るアメリカ軍みたいなモンでどうにもならない。寝るどころの騒ぎではない。暑いからシュラフに潜るワケにも行かず、顔はタオル被って凌いだものの、翌朝おれの二の腕は笑えるほどのボコボコになってたのだった。後にも先にも、ムヒを掌全体で塗り込んだのはこの時だけである。

 ダニも怖い。西日本から重症熱性血小板減少症候群(SFTS)っちゅうて怖いウィルス持ったのが段々と北上中らしい。今のところ有効な薬も見つかっておらず、コイツにやられるとけっこうな確率で死に至るんだそうな。
 ダニは森っちゅうよりは日当たりの良い原っぱの草叢みたいなところにいることが多い気がする。防ぐ方法はただ一つ、長袖・長ズボンに軍手に帽子、首にはタオル、ついでに裾はチャンと絞ってまるでお百姓さんなカッコになって肌の露出を避けるしかないらしい・・・・・・それでは野外活動が出来んではないか(笑)。
 いや、実際一度やられたことがあるんだった。あれこれ野外活動が終わって、夜はメシ食いに行って、それで戻ってヨメの腕の付け根辺りを見たら、何か赤いポチッとしたものがある。不思議に思ってメガネ外して顔近付けてよぉ~く見たら(←最近老眼進行中なんですわ、笑)、先っぽを皮膚の中に突っ込んで何となくモゾモゾしてるような気がするではないか!
 「うわ~!こらダニやぞ!」っておれから言われた時のヨメの慌てふためき様!そらもぉパニックでしたわ(笑)。ネットからのニワカ仕込みであーでもないこーでもないとやって、やっとの思いで引き離したのだった。
 場所は北の方だったんでまだ怖いウィルスは到達してなかったんだけど、やっぱしイヤなモンはイヤだし、恐らく温暖化が進めばもっと怖いウィルス持ったダニの生息域も北に広がってくだろう・・・・・・そうなると野外活動に支障が出るかもね(笑)。

 他には何故か脱いだ靴の中に入りたがるムカデなんかも勘弁して欲しいし、毛虫や毒蛾も猛烈な湿疹が出たりしてたいへん厄介だ。おらぁガキの頃に毛虫にやられて、太腿から尻にかけて一面に湿疹が拡がり、何ヶ月にもわたってひどい目に遭ったことがある。

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 すでに体がムズ痒く思えて来た方もいらっしゃるかもしれないが、まだ甘~い!これら不快生物の中でも圧倒的なまでの不快さを誇る真打がまだいる・・・・・・ヒルだ。
 ヒルっちゅうても種類が意外に沢山あって、何と世界に500種、国内だけでも60種類くらいが確認されてる。そんな中で最も困りモノがヤマビルであることは異論のないところだろう。見た目的にはもっとデカくてグロなウマビルなんかもいたりするんだけど、これは実害はない。

 いつの間にか身体にくっ付いて血を吸うという点では、他の不快生物とやることは大体一緒とは申せ、そのルックス、身体能力、吸われた後の不快さ、どれも他とは一線を画す気色悪さと言えるだろう。
 まず見た目。要は黒くて小さいナメクジやね。しかしナメクジが貝類に属してツノ出せヤリ出せ目玉出せで触角と目玉をユラユラさせてるのに対し、コイツはヌラヌラしてるだけで何もない。身体の前後に吸盤があるだけだ。それでもって尺取虫みたいに身体を登って来る。
 実際、光学的に対象物を認識する器官としての眼は備わってない。にもかかわらずきわめて正確に対象物を捉えるコトが出来る。それは熱感知センサーと炭酸ガスセンサー、あと振動感知センサーが備わってて、これらの組み合わせでほぼ正確に対象物を認識してるかららしい。それ故もちろん勘違いもあって、オフロードバイクを森の中で停めたところ、エンジンの熱や排気ガスによって木の上からポロポロ降って来たってな話を聞いたことがある。たぶん鹿と間違えたのだろう。
 「はぁ~、それからそれから」な民謡みたいな話の展開になっちゃってるが、この「木の上からヒルが降ってくる」という「高野聖」に描かれた奇想天外にも思えるエピソード、ホンマのハナシである。えっちらおっちら木によじ登っていつ来るともしれない相手をシンネリと待つのだ。体長数cmの原始的な動物の分際で、極めて狡猾な行動が出来るのがこれまた薄気味悪い。オマケに絶食に強く、身動きできなくなるだけで低温にだって強い。
 そいでもって血を吸われた後がこれまた厄介だ。「ヒルジン」なる血液凝固阻止物質を咬むと同時に注入するもんだから、いわば一時的な血友病状態になっていつまでも出血が止まらない。ズボンや靴の中が血だらけになったりする。

 オマケに近年あっちこっちの地方で爆発的に大増殖してる。房総半島は昔から有名だけど、関東近辺でも丹沢周辺、群馬の山間部あたりは今や猖獗を極めており、人家の庭にまで出て来ると言うから油断ならない。ちなみにおれはこれまで2回やられたが、いずれも群馬県でのことだった。遥かに肌を露出させてる頻度も面積も多いハズなのに(笑)、どぉしたワケかヨメはこれまで一度もやられたことが無い。這い上ろうとしてるのをおれが見付けて叩き落としたことが一度あるきりだ。あくまで推論だけど、山育ちの彼女は小さい頃は山や田圃とかで良く咬まれたらしく、それで抗体が出来てるので、ヒルが忌避して近寄らないのかも知れない。

 ともあれこんなにも鬱陶しいヒルにも一つだけ良い点がある。いろんな病原体の媒介にはなってないってコトだ。あ!あともう一つ、水と空気が綺麗でないと生きられないから、出る所は自然環境に恵まれてるのだとか・・・・・・だから何なんだ!?って気もするが(笑)。

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 とりとめのない話の最後に、これらを防ぐ薬について。

 今は心配性の母親が増えたせいか、シーズンが近付くと薬局には専用のコーナーが出来たりするようになった。スプレータイプ、ローションタイプ、後は置いとく・ぶら提げとく系ってなカンジだろうか。
 結論から言うとどれもそりゃ効かなくはないけれど、こうして薬屋の棚でフツーに売られてるようなタイプは甘口の子供向けカレーみたいなモンで、強力で持続的な効果はほとんど期待できないのは経験的に学んだように思う。しょっちゅう吹き掛けたり塗り直したりが必要だ。朝に一度塗ったら風呂入るまでは落ちないようなタイプが欲しい。ついでに言うなら身体の表面が白い粉吹いたみたいにならないのがあるともっとありがたいな。
 いや、あれって撮影のときケッコー目立つんっすよ・・・・・・って、そればっかしかい!?(笑)

 何はともあれみなさまも自衛に努めてくださいな。

2018.05.12

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