「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
サードパーティーの喜びも悲しみも幾歳月・・・・・・クルマ・バイク編


70年代、一世を風靡したマーシャルのフォグランプ。ちなみにアンプのマーシャルとは綴りが違います。

http://www.ford-trucks.com/より

 家の近所を散歩してて、オートバックスの近くまで来てることを思い出した。そぉいやウィンドウォッシャー液が大分減って来てるし、走行距離も1万キロを超えたんで、まじない代わりにガソリン添加剤なんかも入れてこましたろかいな?と立ち寄ってみることにする。最近は車内グッズなんかもネットで調べて尼でポチ、ばっかしになってる。思えば、こうして自動車用品店に立ち寄るのは随分久しぶりだ。
 おれの買おうとしたのはたいてい店頭でワゴンセールになってるような詰まらないモンばっかしなんだけど、しばらく来ないうちにちょっと品揃えも変わってるようなんで取り敢えず店内をウロウロしてみることにする。

 まずはエンジンオイル。大体手前から0W−20といったファミリーカーや軽自動車向けの軟らかいのから始まって、最後はターボで全開走行を繰り返さないと却って走らなくなりそうな15W−50といったトコまで段々硬くなってくように並べてあるんだけど・・・・・・はて?何だか以前より、棚が大幅に縮小してる気がするぞ。種類だってとても少なくなってる。
 数年前までは各社の各ブランドで軟らかいのから硬いのまで殆どラインナップは全部揃えてあったし、ストリート系の外装パーツメーカーなんかとタイアップした、チタンだのダイヤだのどこまでホントか分からないようなプラシーボ感丸出しの高性能オイルなんかも置いてあったのに、何だか売れ残ったのを取り敢えず並べてみましたみたいなまとまりのない棚になっちゃってる。
 オイルの次にはケミカルチューン系がズラッと並ぶのが相場なんだけど、何となくこれも棚は寂しい。実際、極圧状態で効く摺動剤って昔ながらのモリブデンだけらしいが、未だにテフロン系とかホホバオイル系なんかも根強く残ってる。鰯の頭も信心から、っちゅうやっちゃね(笑)。

 4WD華やかりし頃はベースにアタッチメントにボックスにキャリアに・・・・・・と恐ろしく存在感を発揮してたルーフラック関係のコーナーも随分縮小されてしまった。なるほどルーフレールの付いたクルマは今でもワンサカ見掛けるけど、そこにバー載せてキャリア付けてっちゅうのはトンと見掛けなくなった。おれだってルーフレールの上に今はは何も付けてない。だって乗るのは殆ど夫婦二人で車内に全部乗ってしまうんだもんな。
 ホンの20年ほど前までは、ルーフレールにゴッツいアルミ押し出し材のキャリアは当然、その前にはいかついステンレスバーと4〜6連でズラッと並んだワークランプなんてぇのがゴロゴロ走ってたのからすると、随分クルマはプレーンで押し出しの弱いモノになった気がする。

 もっとビックリしたのはワックス関係だ。これも随分種類が少なくなってしまった。昔ながらの固形や半ネリと呼ばれた平べったい缶入りが少なくなったのは当然として、その後に出て来た液体タイプやワックスをより進歩させたと言われたコーティング剤なんかもいつの間にかエラく減っちゃってる。タッチアップペイント等のリペア系パーツも何となく少ない。

 そう、何となく店全体がスカスカしてる気がする。冷静に思い起こせばそれは最近になっていきなり始まったものではなく、何年も掛けて売場が少しづつそんな風になって来てたのだった。今更ながらそのことに気付いただけのことである。昔はドンキホーテの店内みたいにもっと商品が雑多でギュウギュウに詰め込まれてた。マフラーなんて天井から吊るされてるのもあった。

 逆に増えたのは無いのか?そんな視点でもう一周してみて気が付いたのは芳香剤と車内の便利グッズとシートクッション関係・・・・・・要はクルマの性能や造りに直截関係の無いモノばっかしが増えてる。そこでようやくおれは変化の理由を悟った。

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 要するにサードパーティーのメーカーが食い込める余地がクルマの世界では確実に減っちゃってるのである。

 最初に気付いたオイル。スポーツカーが流行らなくなって、エコカーと軽自動車ばかりが溢れ返るご時世に、何でそんなモノに拘る必要があろう?それに大体今は新車でクルマを買うと、何年分かの点検やら純正オイル代をパッケージにして割安にしたディーラーオプションがあったりもする。
 ルーフキャリアにしたって省燃費一辺倒の今の時流には馴染みにくい。いかにも空気抵抗が少なそうな流線型のボックスでさえも燃費悪化の点では効果覿面でかなり下がるし、オマケに重心が上がるもんだからスピードもあまり出せなくなってしまう。ましてやアルミ押し出し材の四角いキャリアなんてさらにタイヘンだ。ゴーゴーゴーゴー風切音だってうるさい。従って流行らない。大体、アウトドアブーム自体が一段落も二段落もしてしまい、そんなにバカみたいにクルマの上に河内音頭の演奏でもできそうな盆踊りの櫓を組むような家が減ったのだ。

 ワックス関係もそうだ。今は納車時点でディーラーでコーティング処理してくれるようなトコが大半だ。シャンプーと水洗いだけで軽く1年は持つし、ヘタに自己流でその上にカルナバだなんだとワックスを掛けてしまうとコーティング自体がワヤになってしまう。

 アルミホィールも鉄チンばかりの時代ならいざ知らず、今はよほど安いグレードでない限り、買えばアルミを履いてる。オマケに今はメーカーの方が遥かに空力特性や省燃費を追求してる状況だ。バネ下重量が軽ければ運動性能が向上するなんて神話も崩壊してしまった。
 スタッドレスセットを買うついでとかでもなければ敢えて買い替える必要がないし、どだいそこまでクルマにシャカリキになってるなんてぇのは、知能程度も所得水準も低いDQNに見られちゃう時代でもある。
 そうそう、ホィールっちゃ名門ダイマグも倒産した(・・・・・・どっかがブランドだけは買ったようだが)。これまたBBSも相前後して身売りされて、今はドイツもクソも随分前からOEMやってたトコに引き取られて純然たる日本のブランドである。しかしそこでさえ経営おかしくなって四苦八苦してる。

 4WD全盛期にはあれほど並んでたバカでかいフォグランプやドライビングランプといった補助灯もすっかり無くなった。驚いたことにあのシビエが無くなってしまってる。元祖キャッツアイなトレードマークのマーシャルを併呑して気を吐いてたあのシビエが、だ。たしかに、ちょっと考えれば今の滑らかで複雑なな曲線で構成され、バンパーやグリルなんかまでがツライチにインテグレートされたクルマだとランプステーさえ取り付ける場所が無いことはたちまち分かる。

 外装系でこんな状態なのだから、吸排気や燃焼系なんてもう手を付ける余地が無い。今や弄れば確実に性能はダウンする。今のクルマはコンピューターの塊なのだ・・・・・・え!?ROMチューン!?マトモなの聞いたことないぞ。せいぜい替えて目立てるのはマフラーくらいなモンだろうが、それにしたって音が太くなるとか見た目がチタン灼けで青紫に光って綺麗だとかそんなんだ。やれソレックスぢゃCRぢゃ、ハイカムぢゃオーバーサイズピストンぢゃ、なんて与太を並べられてた時代が懐かしい

 ・・・・・・結果、芳香剤とか車内便利グッズとか座布団ばかりがいつの間にか売り場を占めてしまっているのである。

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 こうして考えると何となく自動車メーカーのやってることが温泉地の巨大旅館みたいに思えて来る。つまり館内に二次会のスナックやら夜食処やら充実した売店拵えて、なるだけ客を建物の外へ出さないように囲い込んで金を落とさせる。たしかに旅館としては儲かる。
 しかし、そのために何年も掛かって出来て来た温泉街の佇まいや風情はどんどん喪われ、そしていつしか巨大旅館を含めたそこの温泉場自体が閑古鳥状態になって行く・・・・・・そんな状況をおれはこれまで各地で数知れず見て来た。
 サードパーティーがやって行きにくい状況は温泉地同様、長い目で見ればいつかその産業全体を衰えさせるのではなかろうか?

 件のウォッシャー液その他を買おうとして、ポイントカード兼オイル会員券を財布から出して渡したのだが、有効期限はいつの間にか切れてしまっていた。

2016.11.09

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