「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
トービーに良く似たニクい奴・・・・・・SVEA123頌


これが原作らしい。"Toby the Tram Engine"とある。

http://wikiwiki.jp/kei0420yuu/より

 「きかんしゃトーマス」は昔から大好きな絵本だ。鉄道についての広範な知識をバックボーンに、幼児向けの話の体裁を取りながらも、喪われ行く古い事物への深い敬意と哀惜の念に満ちた作者の眼差しが全編に貫かれているからだ。

 その中にはおよそ日本では見たことの無いような形の蒸気機関車が擬人化されて沢山出て来る。大体、日本の場合汽車は最後まで黒一色、せいぜい金モールが入れられたりナンバープレートが赤くされたり、ワンポイントの飾りが付く程度だったのに比べると、とにかくドイツもコイツもひじょうにカラフルだ。主人公のトーマスだって真っ青だしね。

 そんな中でとりわけおれが好きなのはトービーという、まったく蒸気機関車に見えない箱型の貨車みたいな妙ちくりんな形をしたヤツだ。たしか、登場する機関車の中では一番小さくて馬力もないのではなかったか。車体全体が木の板で囲われてるので、キャラの中では最も地味な色目だったりもする。
 史実の考証にうるさかった作者らしく、これにもチャンと実在のモデルが存在する。スチームトラム、あるいは路面機関車と言って、チンチン電車ならぬチンチン汽車がそれで、なぜか日本では全くと言って良いほど流行らなかった形式だ。併用軌道上を走るため人馬の安全も考慮せにゃならん、ってコトでボイラーやら車輪が囲われてあんな形になっちゃったらしい。

 まったく本題から外れてしまったまま勢いでナンボでも書けそうなんだけど(笑)、おれは昔からSVEA123を見ると、どぉにもこのトービーを思い浮かべてしまうのだ。

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 SVEA123・・・・・・現行モデルは正確にはOPTIMUS”123R”という真鍮でできたこの小さなガソリンストーヴは、実に60年以上に亘って殆どその姿を変えることなく売られ続けているっちゅう、ストーヴの古典中の古典である。基本設計そのものには100年以上の歴史があるらしい。もう無くなる、もう無くなると言われて早や何年になるか、後発の8Rや99なんかはとっくに無くなったのに未だしぶとくカタログには載ってるし、それなりに堅調に売れ続けてもいる。

 このクラシックなモデルは、他の縦型ストーヴとはまったく異なった外観が特徴だ。通常、液体燃料を使うストーヴは下がドラクエのスライムを思わせる形の土台兼ガソリンタンクになっており、その中心から延びたジェネレーターの上に花形のバーナー部分が乗っかる。五徳や風防も概ねそこにくっ付くことが多い。ラデュースやホエーブス、コールマンのシングルバーナー等、大同小異でそんな形だ。まぁ、SVEAも中身自体はそうなんだけど、全体を覆うようにゴツい真鍮の風防兼五徳が装着されるため、見た目はまるで金色の茶筒のように見えるのである。そこにさらに安っぽいアルミ製のフタ兼コッフェルやらそのハンドル、レンチを兼ねた火力調整用の棒等が一式、セットとして加えられる。

 そう、こんな風にボイラー部分が無骨に囲われてる様が、何だか「きかんしゃトーマス」のトービーに似てると思うのだ。

 トービーとの共通点は他にもある。何せガソリンストーヴとしてはひじょうに小さくて設計が古いこともあって、火力は最新のストーヴのまったく足許にも及ばない。例えば現在ガソリン最強と言われる新富士バーナーのSOTO”MUKA”っちゅうのは実に4,000kcal/hの熱量を誇る。まぁこれはケタ違いのバケモノで極端な製品だけど、同じOPTIMUSの最新モデル”NOVA”で2,700kcal/h、MSRがもう少し下回る程度だったか。
 ・・・・・・で、SVEA123はナンボか?っちゅうと、これが1,300kcal/hしかない。上に挙げたモデルの1/2〜1/3以下のパワーってコトだ。とても非力である。ちなみにおれが愛して止まないトランギアのアルコールストーヴがおよそ1,000kcal/hと言われるので、まぁ、それに毛の生えた程度の性能と思って間違いなかろう。もちろん炎の強さの違い等があるから、実際は着火後で較べればアルコールよりはよほど早く湯は沸くのだけど・・・・・・しかし、ちょっと前に書いた通り、注油から予熱等の時間を考慮するとアルコールがむしろ早かったりする時もある。要はトータルで大差ない(笑)。

 オマケに小さいもんだから不安定だし、ガソリンは大して入らないしめんどくさいし、結構長時間の予熱は必要だし、かといってあまりにデカい鍋を長時間載せたりすると今度は輻射熱で熱暴走して気化ガソリンが排圧バルブから吹き出して火ダルマになったりするし(←メッチャ危ない!)、シュゴォ〜ッ!と小さいボディを振り絞るように出される燃焼音は「咆哮」と喩えられるほどにやかましいし、火力調整は大して効かないし、燃費は意外に悪いし・・・・・・と、今となっては欠点だらけとも言える。重量的に不利な真鍮製だから、見た目よりはズッシリと重かったりもする。
 ただ、基本構造はシンプルで頑丈そのものだから、滅多なことでは故障せず、昔のホエーブス同様、赤ガス入れ続けても特に問題なく作動し続けるアバウトさもある。要は前時代の遺物なのである。

 便利さだけで言うなら一般的なアウトドアでの火器なんて今はもうガス一択なんだから、今の時代これを機能や性能面で選ぶ人は最早いないだろうと思う。敢えて買う人は所謂「好事家」であり、「不便」とか「味」なんて呼ばれる良く分からないもののためであろうことは想像に難くない。真鍮のレトロ感なんかもいたくマニアの偏愛心をくすぐるし。そして蛇足ながら、当然おれもそんな一人だったりする。

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 話をトービーに戻そう。彼・・・・・・と言って良いのかどうかは分からないが、長年走っていた支線がモータリゼーションの波に呑まれて廃線になってしまい、もうちょっとでスクラップになりかねないところを「ふとっちょのきょくちょう」、ことアニメで言うところのトップハムハット卿に救われてソドー島にやって来る、ってなお話だ。ちなみにコンビを組んでるヘンリエッタという客車はあやうくニワトリ小屋になるところだったらしい。こういった妙にリアルでいささか酷い話の設定は、ピーターラビットのトーチャンが肉パイにされちゃったというエピソードともどこか通底しており、イギリス人特有のブラックユーモアとかアイロニー、ペーソスを感じさせる。何でこんな人等がノー天気なアメリカ人の先祖なのかと思ってしまうな。

 それはともかく、トービーはそんなローカル線にいたくらいだから非力でスピードも出ない。バスにもどんどん抜かされる。その代わり小回りが利いて貨車の入れ替えが得意だったりする。原作では新たに採石場の支線での仕事を得る、って設定になってるのは作者の見識だろう。TVアニメ版では本線にもしょっちゅう出て行くしエラいスピードで走ってるように描かれるけど、ありゃムチャクチャな気がするな。

 SVEA123もまぁ、今ではそんな感じの使われ方をするのが正しいんだろうと思う。第一線での活躍はちょとむつかしい。極寒の吹き荒れる吹雪の中でこんな小さいのでモソモソと注油や予熱なんて今さらやっとれんもんね(いや、大昔は「クライマーコンロ」呼ばれ、そんなエクストリームな使われ方してたのはさておき、ね)。燃え上がってテント丸焼けになったら一巻の終わりやし、オマケに何人分もの食事を拵えられる大きさでもないし。
 ネットで「SVEA123」を検索すると、やたら近所の公園やら低山にこれ持ち出してコーヒー淹れてスローだのマッタリだのと語るブログが見付かったりする。それほどまでに世の中にはおれも含めてクサくてウザいオッサンがワンサカ溢れてるのであるが(笑)、だからこれはこれで正しい使い方なのだろう。

 ホントはより大型の106の称号だったハズの、”King of Stoves”の名前もいつの間にかちゃっかりいただいたこの古臭くも愛らしいSVEA123、他愛ない野山での遊びの玩具としては最高の一つであることは間違いないと思う。



※註
 最近、トービーは「トビー」と長音のない表記になってるが、おれの持ってる1974年初版、1995年第24版では「トービー」となってる。今回は懐古趣味な話でもあるんで、古い方の表記を採用させていただいた。


これがSVEA123。おれの言いたいことが分かっていただけると思う。

http://shop2.genesis-ec.com/より

2016.02.18

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