「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ガタガタ抜かさずストームクッカー


昔のストームクッカー。殆どその姿を変えていないが、横の丸みが今より直線的

https://kevin-phillips-jvaf.squarespace.com/より

 ・・・・・・を初めから買っときゃ良かったなぁ〜、って最近つくづく後悔してる。

 これ読まれる方がよもやストームクッカーについて知らないことはないとは思うけど、一応簡単に説明しとくことにしよう。ストームクッカーとはスウェーデンのトランギア社っちゅうアウトドアメーカーが出してるアルコールストーヴを核としたシステムクッカーのコトだ。もう60年か70年、殆ど姿形を変えることなく売られ続けてるひじょうに息の長い製品である。写真はちょっと前の駄文の冒頭にあるんで参考にしていただきたい。
 LサイズとSサイズがあるけれどどっちも構成は同じで、フライパンに二つの鍋、ティファールのシステム同様の別体式ハンドル、アルコールストーブ、全体をまとめるベルト、そして最大の特徴である即席竈とも言える上下に組み合わさった土台兼風防からなる。ヤカンが追加で組み込まれたり、素材がただの銀アルミのペナペナやら、耐熱の黒塗装が施されてたりやら、陽極加工(アノダイズド)を施したものやら、意外にそのバリエーションは広い。昔、一時期チタン製もあったみたいだけど、熱伝導の悪さのせいかはたまた値付けが豪快過ぎたせいか(笑)、いつの間にかなくなって今は素材的には全部アルミだ。限定の赤く塗られたモデルも昨年出たくらいだから堅調な人気がある。

 ちなみに今回おれが買ったのはヤカン付きの黒のLサイズで、最大で4人分くらいまでの食事を作れる程度の大きさと言われている。不思議なことに鍋の蓋はない。どうやらフライパンを蓋にしろってコトなのだろうが、サイズがも一つ合ってないんで、100均で湯切り蓋を買い込んだ。
 実のところ、ガソリンや灯油、ガスを燃料とするストーヴが一般に普及するまではストームクッカーはワリと一般的な存在だったようで、かつては国産のデッドコピー品なんかもいろいろ存在してた。たまにバカ高い値段でオークションに掛かってるのを見掛ける。

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 一人の野宿旅でのストーヴの燃料をガソリンやガスからアルコールに切り替えてもう随分長くなる。そのことは10年ほど昔、「ローテクの誘惑」ってなタイトルでまとめたことがある。アルコールストーヴはとにかく手軽ですぐに火が着けられて気楽なのと、殆ど燃焼音が無くて静かなのにすっかりハマッてしまったのだ。
 ガソリンやガスはたしかに性能的には優れてんだけどどぉにもゴーゴーうるさいし、めんどくさがりのおれには儀式めいた予熱やら予圧、あるいは空になった缶の始末、使用後のメンテとかがどうにもかったるく思えて来て、壊れようがないくらいに単純な構造で、トポトポとアルコール注いで火を点けるだけのプリミティヴさがとても魅力的に思えたのである。

 しかしアルコールストーヴには欠点も多い。一つはカロリーが低くて火力がさほど強くないこと、そしてその炎が極端に風に弱いことだろう。だからエクストリームな環境で使う道具としては淘汰された。おれだって南極や北極でどれか選べと言われたらガソリンを選ぶだろう。
 実際、それからのアルコールストーヴとの付き合いは結局、いつも風との戦いだったように思う。とにかく呆れるほど風に弱いのである。加熱による内圧の高まりを若干利用しているとはいえ、ガソリンやガスみたいに十分に圧力をかけて霧化した燃料を噴出させて火にしてるわけではないからあくまで炎はユラユラと上がり、少しの風にもそよいで鍋底に当たってくれない。だからウィンドスクリーンは必携である。
 ところがこのウィンドスクリーンっちゅうのがまた曲者で、あまりコッフェルに密着させると空気が抜けなくなって酸欠で火が消えたり、不完全燃焼でなかなか温度が上がらなかったり、かといって離し過ぎると吹き飛ばされてしまったりする。これを丁度好い感じに置くのはかなり難しい。また、ストーヴを地面に直置きしてると輻射熱なのか何なのか、アルコールが必要以上に熱くなって熱暴走、っちゅうのを起こしたりもする。こうなると燃料のムダばかりだ。

 しかしそれでもストームクッカーには手を出さなかった。一人で使うにはいささか大きすぎる気がしたからだ。実際、Sサイズでも昨今のウルトラライト系と比べるとズングリ大きく感じるし、それに一番キモのパーツである竈部分がホンマにそんなに効くのかな?って疑ってもいたからだ。大枚叩いて効果ないと泣けるモンねぇ・・・・・・。

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 おれは今、自分の不明を深く恥じている。慙愧の念に堪えないでもいる(笑)。「疑って済みませんでした。トランギアさんごめんなさい」と、誰かスウェーデンまでの旅費を出してくれるなら出掛けてって直接謝りたい気分だ・・・・・・誰か旅費恵んで〜な(笑)。

 結論から言うと、ストームクッカーは練りに練られた素晴らしく巧妙な仕組みだ。ストームの名を冠するのもダテではない。邪魔なはずの風を味方に付けて頼りないアルコールの火を安定させ、鍋底だけでなく側面にまでにその熱をしっかりと行き渡らせる工夫がなされている・・・・・・って別に複雑でもなんでもない。土台部分に空けられた沢山の空気穴から風を吸い込んで、それを煙突効果とやらで上昇気流に変えてアルコールをちゃんと燃やすってことをしてるだけだ。だけなんだけど鍋とあまり変わらない高い風防、風が吹き抜けないように土台の片側にのみ空けられた空気穴、風防と同じカーヴで丸みを帯びた鍋の形・・・・・・全ては限られたアルコールの熱を出来るだけ無駄なく加熱に使うっちゅう熱効率向上ために生み出されたものだったのだ。

 それが証拠に今までの自分が工夫して使ってた組み合わせより遥かに速く湯が沸く。もちろんガスよりは掛かるものの、予熱だ予圧だと事前のセレモニーに時間を要するガソリンより、トータルでは余程速いのではなかろうか。風防をあれこれ工夫する必要もない。また、ハンドルが別になってるので熱くて触れなくなることもない。さらには鍋よりも竈や土台が大きく、高さより直径の方が大きい構造故に安定性がひじょうに高く、コケる心配がまずもってない。加えて熱暴走も少なく、最後まで安定して燃えるのも良い。恐らくはストーヴが土台と風防の間で宙に浮いてセットされ、バーナー部分とタンク部分の間でアルミ板が一種の遮熱板となって横たわってることと、タンクが真下から取り込んだ空気で冷やされるからではないかと愚考するが、正解は良く分からない。

 これまであれこれチマチマ工夫してたのが何だかすっかりアホらしくなってしまった。

 重量だって実はそんなに重くない。Sサイズでヤカンオプションの無い一番フツーの銀色のにしたら740gである。ストーヴがズッシリした真鍮製で100gちょっとあるから、その他は600g少々。似たような容量でアルミのコッフェルセットが大体500g少々で、これに五徳や風防合わせれば数十gと大差ない重量になるだろう。それでこれだけのメリット得られるんだから、初めから素直に買っときゃ良かったって思うよね?

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 まぁ今回買ったのはLサイズだし、重量や大きさが気になるソロで使うツモリはまったくない。そっちは今まで通りの構成を使うだろう・・・・・・Sサイズも買っちゃったりして(笑)。それはともかく家族でユッタリ静かに、プリミティヴだけどちょっと豊かな気分で過ごすための道具として入手したのだ。だからそのために、軽量化とは逆のシステム化を行う。実は道具はもう揃えてあったりする・・・・・・用意のエエこって(笑)。

 1つ目は炊飯土鍋である。アウトドアクッキングで最もむつかしいのはご飯を炊くことではないかとおれは思ってる。焦げたり、芯が残ったり、逆にベチャベチャになったりと成功率はかなり低い。でも、外で炊き立てのご飯を喰えば幸せな気分になれるのも間違いない。
 これには「かわせみのうた」(http://www.kawaseminouta.com/)というサイトに載ってたアイデアを拝借させていただいた。銀峯陶器という四日市の瀬戸物屋が出してる「菊花」って名前の2合炊き土鍋が恐ろしいくらいピッタシ竈に収まるのである。値段は3千円でお釣りが来るくらい。他に各社からいろいろ出てる炊飯土鍋と比べてむしろ安いくらいだし、蓋の色が選べるのも楽しい。何より使用法にコツもヘチマもないのが良い。「初めチョロチョロ中パッパ」なんてコトは一切考えることなく、とにかく強火で加熱して沸騰したら20分放置するだけ。信じられないくらいにカンタンだ。これは微妙な火加減のしづらいアルコールストーヴにとても向いてる。当然ながらもちろん家庭でも使えて、ひじょうに美味いご飯が炊ける。言うまでもなくメチャクチャ重いし、割れやすいんだけど。
 アウトドアで使うことを考えると、蒸らし時間に冷めてしまいそうなので一工夫して保温ボックスも作ってみた・・・・・・ったってちょっとも威張れるものではない。家に転がってた発泡スチロール製のアイスケーキの保冷ボックスのサイズがピッタリだったので、その内側にさらに百均の保温シートを詰めただけだ。

 2つ目はスキレット。これには諸説あるが、おれは最近話題の「ニトスキ」ことニトリのスキレットの19cm(7.5インチ)サイズにしてみた。ロッジの8インチより気持小さいのが、絶妙に竈に合うのだ。流石ニトリ、千円でお釣りが来る激安だが、精度としてはも一つで縁の面がキッチリ出てなかったりする。だから、二つを合わせて蒸し焼き、みたいな使い方は隙間だらけでできないだろう・・・・・・そもそもする気ないが。
 ちなみに15cm(6インチ)の一回り小さいのも買ったんだけど、あまりに小さすぎて実用的でないし、竈に付いた五徳に引っ掛かってくれない。だからって丸い焼き網咬ましたりするのも億劫だ。ともあれこれらも先日から何度も油引いては空焼きして馴染ませてるところである。鋳鉄はホント被膜形成がめんどくさい。それと言わずもがなでバカみたいにずっしり重い。

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 オマエ、これまで散々バカにしてたスタイルのキャンプやるだけぢゃねぇかよ!ってお叱り受けるかも知れない。たしかにおらぁダッチオーヴンとか燻製ボックスとかパスタメーカーとか、普段家庭でも使わないような道具を「夜逃げでもしてきたんかいっ!?」ってツッコミ入れたくなるほど大量にフィールドに持ち込んで市拡げるようなんが大嫌いで、逆に道具をどんどん減らしつつコンパクトにしてきていたのだから。しかしながらその弊害もあって、ソロならともかく家族ではいささか侘しげで貧しげ、そしてセカセカしたものになっていたのも事実だ。
 何事もやりすぎは良くない、ってコトに今更ながら気付いたのである。もちろん基本線でミニマムとかコンパクトは忘れちゃいけないし、堅持すべきだろうと依然思ってる。大体、今度のクルマの荷室にかつてのクロカン4WDほどの広大さも無い。

 「ミニマムでコンパクトだけどちょっとだけラグジュアリ」・・・・・・その辺を今年からは狙って行きたい。 


これが銀峯の「菊花」。偶然とはいえあまりに出来過ぎたフィット感。

2016.01.23

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