「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ヴァニティの総括


凝りに凝りまくったラグの造形。

 ニコン「D810」のコトはあれこれ書いてんだけど、そのちょと前に大散財したチャリについては全然触れてなかった。

 ・・・・・・っちゅうのも、インプレを書こうにもそもそも論でエンジンが同じ中年太りの情けないオッサンで骨格がこれまで通りの鉄フレームである以上、劇的なまでの性能差はあまり感じられないのである。オマケにコンポ類はカンパニョーロだ。ディレイラー性能なんてもぉ全然シマノの足許にも及ばないのである・・・・・・ま、ホィールはけっこう良いかも知れないな。

 今回、イタリアンハンドメイドのフレームを買ったのはただもうひたすら己が虚栄心を満足させるためだった、っちゅうても過言ではない。要は見栄とかハッタリっちゅわれるモノのためである。ぶっちゃけ、鉄なら定評あるパナモリの丹下フレームとかアンカーのネオコットにアルテグラ組みでホイールを7800シリーズにアップグレードして換装しておれば、乗り味その他はひょっとしたら勝っていたかもしれない・・・・・・値段はおよそ6割で(笑)。4割は「本物のイタリア」に対するお布施みたいなモンである。
 そんなこたぁ初めから分かってたんで、全く後悔なんてしてない。それどころか、未だにおれはひじょうに上機嫌だ。

 今日はそのような前置き付きで、この数ヶ月乗ってみた感想を書いてみたい。

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 まず、フレームについて言うならば、これまでのよりも軽いが硬い。軽いったって鉄だからカーボンのように激軽なワケではないが、乗り味が軽い。漕ぎだしからの加速がギア1〜2枚分軽くなったような、所謂「掛かりが良い」印象が強い。これは明らかに違いを感じる。やはり、古典的とはいえ、その辺はレーシングフレームなんだろうと思う。しかし、硬いとは申せフレームの一番薄い部分は実に0.4mmしかないらしい。シャーペンの芯ほどもないのである。
 この剛性感はフレームの材質だけでなくBB廻りがシッカリしてることも大きく影響してるのではないかと思ってる。少々立ち漕ぎで踏み込んでも全く左右のブレは感じないし、ホイールがハブのところから倒れ込むような感じもない。もちろん、ホイール自体の剛性も影響してるんだとは思うが・・・・・・。
 ヘッド廻りもシッカリしており、長い下りでスピードが乗った時にも不安を感じることがない。繊細なラグ飾りのついた細いヘッドチューブにムレックスの細いスレッドステム、さらには見るからに頼りなげな剣先フォークなのに、これまでのTIG溶接されたオーバーサイズ管/スレッドレスのヘッド廻りに劣る点がない。

 さらに感心したのが、これだけカンカンに硬く作ってあるフレームであるにも拘らず、路面のショックが大きく掛かったときにはそれなりにしなやかにいなしてる感じがあることだ。もちろん、ラテックスチューブとハンドルに仕込んだ衝撃吸収ゲルの働きがあるので、全てがフレーム性能か?と問われるといささか自信はないが、例えば亀甲状態で波打って荒れまくった路面をトバして行くときに顕著な違いを感じる。堅いのにポンポン弾まない、と言えば分かってもらえるだろうか。メインの前三角はビクともしてないけど、フォークとリアステーは細かく仕事して路面に追従しようとしてる感じがある。
 上等のスポーツカーのサスペンションのチューニングを連想させるこの乗り味には、丈夫だけどゴワンゴワンしていささか鈍重なこれまでのフレームに較べると官能的とも言える心地良さがある・・・・・・ま、あくまで乗り比べての違いだけどね。

 ホイールに選択したゾンダはまずまず正解ではなかったかと思ってる。シロッコやカムシンよりは軽くて転がり、シャマルウルトラよりはしなやかさがある。それに大体おれはこれより上のグレードに使われるアルミスポークがも一つ信用できないのだ。転がり感はこれまで所有したシマノのR500やフルクラム(事実上カンパニョーロの別ブランド)のレーシング7、あるいはアレックス等の安物ホイール(・・・・・・いや、左に挙げたのは、実際はコストフォーヴァリューな素晴らしい製品なんだけど)とは比べ物にならない。先ほど「掛かりが良い」と書いたけど、これにはホイール性能も大きく一役買ってると思うし、下りで踏み込んだ時のスピードの乗りや、平地で漕ぐのを止めた時の惰行感が明らかに違うもん。
 見た目的にも3本×7組のG3のスポーク配列は理屈抜きにカッコいい。ただ、チューブレス対応の中空ホイールであるせいか、走ってるとコォォ〜ンってな明らかに空洞で反響する音が前後輪から聴こえてくる。そんな大した音ではないのだけど、何となく気になる。
 それといつの間に仕様変更されたのか、カンパ伝統の爆音フリーがすっかり静かになってるのはたしかに改善なんだろうけど一抹の寂しさを感じないではいられなかった。たしか今は亡きレジナのフリーの流れを汲む、ジャージャーとやかましくゼンマイ車のような音を立てるフリーをおらぁけっこう愛してたのだ。もう一台に履かせてる古いフルクラムを大切にしよう・・・・・・あ、この辺は前回も書いたっけ。
 なお、ラテックスチューブはイラチでめんどくさがりのおれには失敗だったかも知れない。乗り心地は良いもののとにかく空気の減りが異常に速い。一週間乗らないとほぼペチャンコになる。今のタイヤが坊主になったらチューブレスタイヤに挑戦して、乗り味の変化を改めてレポートしてみたい。

 ディレイラーについては「ま、こんなモンでしょ」と言うしかない。変速性能の正確さで完全にカンパはシマノの後塵を拝していることはもう疑問の余地がなかろう。性能には正確さ以外に軽くスピーディーにチャッとギアを跨いでいく変速感も大事なファクターだと思うけど、これはもぉ105どころかティアグラ並みである。それを分かって敢えて買ったのだから文句はない。しかし、その繊細なデザインは素晴らしい。アテナ11シルバーセットとは、そぉゆうコンポなのである。文句付ける方が筋違いっちゅうモンだろう。
 ブレーキについても同様で、もちろんちゃんと効く。止まらないことはない・・・・・・ないが、初期制動でまずガツーンと効くシマノに較べるととにかくマイルドで、不慣れな人だと怖い思いをするかも知れない。まぁ、性能的にはテクトロの安物に毛が生えたような代物と思っていただいて概ね間違いなかろう。しかしながら、こちらも肉抜き加工された上にバフ掛けされた繊細極まりないアーチの造形はひたすら美しい。似たようなんでどこぞのメーカーでCNC加工のがあるが、ぜんぜんあっちにゃ色気がないな。
 チェーンリングやクランクは大きな性能差の生まれにくい所であるけれど、これまた梅や桜の花びらを思わせる繊細でややクラシックな外観がとにかく身上なのだろうと思う。

 サドルは考えるのがめんどくさくなって、入手容易なセライタリアのスーパーゲルフローにしたんだけど、これは意外にアタリだった。見た目では横からが妙に分厚くてあまりカッコ良くはない。でも、今のところ長距離で痛くてたまらないとか、どうにも位置が決まらないといった問題は起きていない。サドルなんてそこが満たされてればおれとしては十分だ。
 ハンドルに選んだ古風なチネリのジロ・デ・イタリアだが、今のハンドルに比べて劣る点は感じられない。むしろオッサンのおれにしてみれば「あ〜、昔のドロップハンドルってこんなんだったなぁ〜」みたいな懐かしさと安心感がある。

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 ・・・・・・何だ、ケッコー良いんやんか。

 そら当たり前である。鉄パイプを半田付けしたようなのに箆棒な大枚を投じて、それで見るべき点が皆目無かったりしたらハナシにならんではないか。泣くで。

 絶対性能では同額を投じてカーボン買った方が遥かに上だったろうが、そんなものはハナから眼中になかった。古典的な鉄をマッタリと大切に、ややこれ見よがしに、そして永く乗るために今回はすべてのチョイスを行ったのだ。しんねりとイヤな趣味オヤヂの買い方をしたのだ。
 実際、「金持ち喧嘩せず」ではないが、そんな目を三角にしてペダルを踏みまくっても仕方ないっちゅう大らかな気分になる。休憩ポイントで立て掛けてると、けっこうみんなの注目を集める。下らないコトだと分かっちゃいるし、別にドヤ顔するワケでもないけど、その優越感はもちろんそれほど悪くはない。

 全てにおいて質素倹約、質実剛健、実質本位だけぢゃ人間はやはりダメなのだと思う。無用の用は必要だ。


ひたすら美しいアテナのリアディレイラー。

2014.10.21

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