「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
イタァ〜リアン!・・・・・・過剰に、無駄に、美しい


素晴らしくピン浅で撮れました〜♪

手の込んだエアブラシ塗装・・・・・・にしても周辺減光が目立つなぁ〜・・・・・・。
 コツコツとパーツを集めてた自転車がようやく組み上がって家にやって来た。仕様的にはこの前述べた通りで、単なる型にハマりまくったスタイルでイマジネーションも工夫もゼロ。クラシカルな鉄フレームに鉄板とも言えるアテナのシルバーセットを合わせた定番スタイルである。結果的にシートポストはDedaElementiのフツーのに落ち着き、サドルもごくごく平凡なSelle Italiaの穴開きをチョイスした。これがコンコールなんかではあまりにクラシカルでおれの目論んだ路線と違ってしまう。
 強いて拘ったのはクラシカルなシャローのマースハンドルの送り具合と、足回りに今風なセミディープリムのホィールを履かせたことぐらいだろう。スポークの多い手組みのシルバーリムにチューブラーなんかもそらもちろん悪くはないけど、おれ的には余りにベタベタでクッサいレトロ趣味に思えたのだ。

 これで元からのとロード二台体制になる。古い方にも愛着があるし、ワークホース的なタフさがあって売る気はない。まぁ「普段着/余所行き」・「テレキャス/アレンビック」みたいなモンで使い分ける。距離がどーのアヴェレージがこーのといったことは従来のでやれば良いと思ってる。だからもうサイコンは装着しないことにした。最低限の灯火類があれば十分だ。ゴタゴタとハンドルやステムにブラケットホルダー付けてちゃスッキリしない。どだいMUREXのスレッドステムは形状がたいへん特殊で色んなものの座りが悪くて取り付けられんのである。

 自転車屋から引き取って自宅までチョロッと乗ってみたんだけど、性能的な面での感慨は特に浮かばなかった。「鉄フレームだからしなやかだ」とかアホ抜かせ、って思うぞ。路面からのショックが柔らかく感じるのはちょっと奢ってみたラテックスチューブのお蔭である。リムの空洞部分が多いからかコォーッってな感じで残響音みたいなんが僅かに足許からするくらいで、かつてのカンパ系の爆音フリーも随分静かになったモンだ。おらぁあのジャーッって鳴り響くの好きだったんだけどな。

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 取り敢えずは家の中に上げて、しげしげと眺めて悦に入る。

 「鉄特有の細身のフレーム」なんて安易に言われてるけど、ホンマに細いなぁ〜、頼りなさそうだなぁ〜って思うのは1インチ管だけだ。今はオーバーサイズ管が普及してるので、実はアルミをちょっと細くしたくらいなのである。ましてやアンカーのネオコットなんかになると端を圧掛けて随分膨らませてるので結構集合部分はゴツくなってたりもするのだ・・・・・・で、これはそんな1インチ管。マジで細い印象。おれの体重だと折れるんちゃうかって不安になる。

 ともあれその至る所に繊細極まりない細工がされている。イタリア製のくせに装飾的なメッキのコンチネンタルラグ(但しカットではなくロストワックスのようだが)はメーカーロゴがキッチリ肉抜きされてたりする。気になってフレームに幾つロゴが散りばめられてるのか調べてみたら13ヶ所もあった。メーカー名は6ヶ所。その割にモデル名は単なるゴシックで小さく記されてるだけだ。この辺が何でもかんでも控え目に仕立てる日本のセンスとは違うところだろう。

 同じくオールメッキのフォークは古典的な撫で肩クラウンで、ここにも打刻や色入れがなされており、ひじょうに手が込んでいる。さらにその描くカーブもまた端正なもの。元のチャリが直管U字型でややカックン曲げなので、同じ鉄でも比べ物にならない。昔はオールメッキフォークなんてフロントつぶして交換したモノ、ってイメージがあってあまり好きではなかったのだが、今になってこうして見るとむしろ好ましく思えてくる。
 さらにはヘッドマークが昨今のデカールではなく、昔ながらのメタルバッヂになってるのも手間暇がかかった印象。当然ながら軽量化には何の役にも立たないどころか、むしろ重量増になるんだろうけど(笑)。

 アテナのブレーキキャリパーには色気がある。性能ではイマイチどころかイマサンくらいなんだけど、肉抜き加工されたアームがバフ掛けでピカピカに磨き出されているのはとても繊細で、機械のクセに優雅でさえある。ケチってヴェローチェにしなくて良かった。やはりメッキフォークにはこういった華奢なルックスのパーツが合う。

 ステーの集合部の造形も素晴らしい。要はラグに挿し込まれてロウ付けされてるだけなんだけど、強度を稼ぐ意味もあってかそこにもロゴマークがデザインされてあって、かつちょこっとメッキ、オマケに周囲に細く色が入れられてる。恐ろしく手間暇がかかってる。
 さらにはリアアウターケーブルはトップチューブに内蔵加工だし、良く見るとその隠れたラインと、フレームの塗装のカーブが一致してたりもする。
 リアブレーキ台座にしたって、ただ性能を求めるだけなら単純に丸パイプをステー間にブリッヂさせれば済むことなのに、ここも逆V字型のラグ、そして執拗なまでにメーカーロゴの打刻。色入れ。

 シートステー、リアステーはともに剣先メッキ、これをフロントフォークでやらかしてたら昔の5段変速の自転車みたいになってしまうところだったろう。当然のように塗装面との境界は直線ではなくV字になっており、これはラグ類の先端の形状に合わせるだけでなく、ブレーキ台座のV字とツライチになってたりもする。まさかそのためだけにブレーキ台座を敢えてラグにしてるのか?とにかく芸が細かい。
 リアステーの補強台座と一体になったBBのラグも凝っている。もちろんここにも色入れされたメーカーロゴ。しかしながら古典的BBだけあって、ワイヤーがガイドプレートを介さず直接フレーム触れてしまってる。ここは錆に気を付けるポイントだろう。それにしても最近のヤツガシラみたくゴロンゴロンになったBBからするとママチャリ並みの華奢な見た目だ。たしかに梅の花みたいでスカスカなカンパのクランクとチェーンリングの方が似合うわな。

 さらには塗装がこれまた凄い。そりゃもぉクオリティは絶対に今の台湾あたりの方が粉体塗装等で丈夫に作ってあることは間違いなかろうが、ステンシルやマスキング、エアブラシを駆使した手の込んだ多色塗りは、使われてるのは基本三原色だけなのにぼかしで混ざることで良く見ると白地に赤・橙・黄・緑・青・藍・紫のレインボーカラー全てが乗っかっている。それにもかかわらず、全体としては流麗かつシックに纏めてあるのはこらもぉDNAレベルでイタリアのセンスなのかな?と思ってしまう。たしかに似たような配色でパナモリのレーシングカラーがあるんだけど・・・・・・あ、比べちゃダメだな、あっちはたった3,000円のアップチャージで出来ちゃうんだから。

 もちろん、残念な点もある。全体に言えることだが、ここまでラグのツノの形状に拘るのなら、その先端部を鑢で削って薄くするくらいのもう一歩踏み込んだ造作があって良かったかもしれない。
 それと、細かいワリに不器用っちゅうか大雑把っちゅうか、細い線引きの色がちょっと溝からはみ出してたり、何かメッキ部分への色置きがちゃんと色出てなかったり、細かい気泡の混じってるところが僅かながらあったり・・・・・・って、そもそもちゃんとフレームの芯出てるんだろうな!?おい!(笑)。

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 ・・・・・・いろいろ書いてみたんだけど、どのポイントも自転車としての機能や性能には何一つ関係ないのである。目的と手段が逆転してるように思えるところさえある。もっとスッキリとプレーンに作ったって走りは何も変わらないだろう。ギターの華麗なフィンガーボードやヘッドへのインレイ、あるいはパーフリングやバインディングが何一つ楽器の機能や性能に関係ないのと同じである。むしろ悪影響を及ぼすことがあるくらいだ。
 過剰で無駄とも言える装飾が盛り込まれたフレームはただもうひたすらに美しい。もちろんそれは機能を追求した先に宿る美とは真逆のものだ。しかし、ひょっとしたらただただ美を追求した先に必然の帰結としての機能性だってあるのかも知れない。

 いずれにせよおれの自転車道楽はこれで終わりにするツモリだ。大人の上がりナンタラ、ってヤツだ。後半生を彩る洒落た小道具だ。そりゃぁ部品が損耗したり破損したりすれば個々のパーツは買い替えるかも知れないけれど、ロクに使いもせぬままあーだこーだと交換ばっかするようなことは断じてないだろうし、こんな風にフレームから起こすことはもうしない。大切に大切にこれと元のを乗り続ける。

 それほど数多くの自転車を乗り継いで来たワケでもなく、趣味っちゅうにはあまりに断続的で、中年過ぎて偶然に舞い戻って来た世界なんだけど、どこかズーッと引きずってた自転車に対する「何か」に対し、これでようやくケリが着いたような気に今はなってる。

 最後になったが、おっさんのこんなバカな散財を呆れつつも笑いながら、「ん!?全部で50万くらい!?最近ちょっと遣い過ぎちゃう?」くらいでスルーしてくれたヨメに感謝しつつ今回は終わりたい。


素晴らしい造り込みのブレーキ台座回り

2014.08.16

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