「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ダウンサイジングの潮流


これがレヴォーグ。4代目レガシィと酷似したスタイリング。

 スバルから新しく「レヴォーグ」っちゅうモデルが出て、バックオーダーだけでかなり凄いコトになってるらしい。

 要はデカくなり過ぎた5代目レガシィが市場からソッポ向かれて、こりゃぁイカン!と4代目に戻そうとしたんだけど、アメリカでは依然デカいのが売れてる。そんなんで、日本専用の別モデルとして立ち上げた、っちゅうのが実態のようである。だから見た目が先祖返りしてる。
 そらそうだ。そもそもあのクルマがなんでバカ売れしたのか?っちゅうと、5ナンバーサイズで、それもワゴンで280馬力を絞り出す、っちゅうのが最大の理由だったワケで、コンパクトさが喪われてしまってはアイデンティティを放棄したことに他ならないではないか。オマケに過去のスリムでグラッシーなデザインはどこへやら、妙にウィンドウ面積が小さくてボディのマッシブ感が強調された、勘違いした高級感溢れる押し出しの強いデザインでは、あまりに路線が違い過ぎた。

 それでもこのレヴォーグ、車幅は1780mmと、3代目までの5ナンバー枠からすれば随分幅広だし、実際、どぉにもズングリムックリだった5代目と緒元上は変わってなかったりするんで、あくまで見た目のスリム感重視のようではある。
 これにはメーカー側の事情もある。新しい水平対向エンジンは燃費を稼ぐためにピストンのストロークが伸びただけでなくバルブ挟み角がさらに狭角になってシリンダーヘッドが高くなった関係で、従来よりもさらに横幅が広がってる。だから以前の5ナンバーサイズにはどうしても収まらなくなってるのである。
 前置き水平対向エンジンのフロントサスペンションがストラット式から離れられないのもこの理由による。ドーンとエンジンや補器類が横方向にスペースを取る構造のために、ダブルウィッシュボーンとかマルチリンクといったサスペンションアームがショックとコイルの上下に必要な仕組みが物理的に入らないのだ。マトモにそれらを突っ込もうとすると2mくらいの車幅が必要になるらしい・・・・・・トラックやんけ(笑)。低重心のメリットばかりが標榜される水平対向だけど、実はそぉいったクリティカルで構造的な問題も抱えてるのである。水没しやすい、なんてーのもあるな。

 そんなこんなで1780mm。それでも1800mm以内に収めたんだから良く頑張った、っちゅうべきだろうし、メーカーの見識を感じる。

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 日本の道路のおよそ8割は道幅が3.7mらしい(ちなみに一般道路全体の平均幅員は4.2m)。半分にすると1.85mである。つまり、それを越えるランクル等の車幅のクルマ同士は離合できない。もちろん退避スペース等はそれなりにあるんでつっかえることはないにせよ、車幅の広すぎるクルマが日本の道路に馴染まないのはデータ的にも立証されてるワケだ。オマケに道には電柱もあれば溝もある。人も歩いてる。カーヴも当然ある。車幅が広すぎると色んなリスクが高まるのは理の当然っちゅうヤツなのだ。それはそのまま運転時のストレスになる。

 何年か前にクルマの車幅について思うところを書いたことがあった。当時はまだクルマ作りにバブルの残滓があったのと、衝突安全性能を上げるにはデカくするのが手っ取り早いっちゅうのもあってだろうが、際限なく車幅が広がってた時代であった。
 ところがここに来て、ようやっとダウンサイジングの流れが少しづつ広まって来た感がある。まことに喜ばしいことである。一つには、そもそも論でフルサイズの4WDやミニバンブームが終焉を迎え、リッターカーを中心とする小型車にトレンドが完全に移行してしまったことが大きい。おれもたまにレンタカーで使うんだけど、狭い道でもチョロチョロ入って行けるし、まぁそこそこに高速道路でも流せるし、見た目よりは車内は広大だし、足回りがバタバタ安っぽいのと、ちょっと踏み込んだだけでワンワン回って喧しいエンジン以外は素晴らしく完成度が高い。
 軽自動車も世界的にはガラパゴスだなんだと言われながらも頑張ってて、最近のダイハツ「タント」に代表されるようなトールボーイタイプのワゴンの快適さには舌を巻く。とにかく広い。後席倒すと自転車2台くらい余裕で入る。窮屈さなんて微塵もない。そいでもって意外なまでに良く走る。鉄板が薄くて、本気でぶつかったらクシャクシャになるリスクはともかく、縮み志向の日本人ならではの恐るべき作り込みだ。

 小さかろう悪かろう、なんてもう遥か昔の時代の話になってるのだ。逆もまた然りで、大きいから良さそう高級そう金持ちそうなんて今やもぉ全く通用しない。ダサいだけだ。

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 消費者心理も変わって来た。若者のクルマ離れなんて言われてもぉ10年以上になるだろうか、今の大多数の若者は趣味や見栄のツールとしてのクルマなんて必要としてないのである。平たく言って多くの若者が、クルマなんて動けばいい。そいでもって、日常のちょっとした用を果たしてくれればそれで充分、と心の底から思っている。
 実際、会社の若い連中見渡しても、クルマ好きなんて一人もいない。家族持ちはマイカーを所有はしているけれど、みんなリッターカーで実用一点張りなんばかりである。オンナのコにもてたいがために無理してローン組んでクルマ買いました・・・・・・な〜んてついぞ聞かなくなって久しい。

 2ドアFRクーペの復権を目指して鳴り物入りで出されたトヨタ「86」/スバル「BRZ」(←中身いっしょ)にしたって、そらまぁそこそこ売れてはいるけれど、もっぱらその購買層は大型バイク同様、中年以上と言われるし(そぉいやおれの暮らすマンションにも何台かあるが、乗ってるのは見事にオッサンばっか!)、大体かつての例えばお椀みたいなシートのシルビアがバカ売れした時代を知ってる身としては、その売れ行きは全く弱々しい限りに映る。当時は右見ても左見ても呆れるほどに金とアイボリーのツートンカラーのシルビアが街に溢れてたのだから。

 もはや、若者にとってクルマは夢を運んでくれるツールではなくなってしまってる。

 もちろんそこにバブル崩壊以降の喪われた20年、って問題が暗い翳を落としているのは言うまでもなかろう。仕事の口はなく、給料は昔のように上がらず、デフレだか何だか安モノだけは山積みで売られる時代に育てば、チマチマと堅実にもなるっちゅうねん。
 そういった世代が駐車場の出し入れにも難渋するようなバカみたいに幅の広い車に乗りたいなんて思うワケがない。そんな押し出しよりは日常のユーティリティの方がよっぽど大切なファクターだろうから。

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 ここに来てようやっとメーカーもいくらなんでもこのままぢゃマズいって気付いたんだろう。だって、富の象徴たる外車にしたってワーゲンだとかフィアットの500だといったコンパクトカーが売れる時代なのだから。

 間違いなくこれからのトレンドの中心は5ナンバー枠前後のボディサイズになって行くに違いない。その中で、燃費や居住性、積載性といった実用性を最大限持たせつつ、如何にプラスαの価値を盛り込んで消費者の欲望を掻き立てて行くのか?・・・・・・これは従来的な感覚ではかなりむつかしい課題だと思うけど、そこは手練手管のメーカーである。また面白いモン出してくれるのだろう。

 いろいろ書き散らかしたけど、冒頭に挙げたレヴォーグ、これまた主な購買層は中年よりは少し若いものの、30半ば以上くらいにほぼ集中してるらしい。それとやはり従来型の発想が抜けきれず「車格」による差別化を気にしたのか、まったく同じプラットホームのインプレッサより車幅が4cmほど広かったりもする・・・・・・んん〜、まだまだあきまへんなぁ。


これがバカ売れしたS13系と呼ばれる5代目シルビア。
今でも痛車に使われたりしてるのをたまに見かける

2014.06.22

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