「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
SATURDAY NIGHT CAMPER・・・・・・あるいはショートタイム蒸発


完璧に張れました!(留萌・神居岩キャンプ場にて)。

 一通りの野宿道具一式はクルマのカーゴルームに積みっ放しになってる。湿気ると困るシュラフや、滅多に使わないんだけど一旦使えば最後はちゃんと洗う必要のあるコッフェル、出張にも使う洗面道具入れなんかは必ず部屋に持って上がってってるけど、それらにしたってメンテナンスが済むと、すぐに持ち出せるよう一纏めにしてリュックに仕舞い込んである。

 昨年この地に来た頃は、何だかんだと転居に伴う雑事に追われて野宿に出てく余裕がなかった。そのうち冬になって、迂闊に外で寝ると死んでしまうような状況で出るに出られなかった。少しづつ復活し始めたのは今年の春くらいからだ。

 近頃の出発は大体いつも夜、それもその時の勢いっちゅうか、まぁただの思い付きでワーッと部屋を出てく。翌日が休みで天気が良くて、何となくクサクサしてる時にポッと出掛けてしまう。行ってから風呂探すのも面倒なので、部屋で風呂入ってから出る。だから、かなり遅い時間になることも多い。興味のない人にしてみれば烏滸の沙汰だろう。
 いやいや、休日が十分取れればかように変則的な行動パターンを取ることもなかったろうが、何せ今のおれは実に休みが少ない。管理職だからってここまで滅私奉公せんとアカンのか!?と、たまにハラ立たしくも情けなくなるが、一方で適度に忠実な社畜でもあるんでバックれることはない。普段はもう唯々諾々と社業の隆盛に邁進してたりするのである。どだい今の時代、他にこれだけの収入がそんな簡単に得られるとも思えないから、ってな下世話な勘定がどっかで働いてるのも事実だ。おらぁセコいのだ。しかしそれでバランスが取れてると言えるので、勘弁して欲しい。

 さて、出掛ける時の条件の一つに「何となくクサクサしてる」っちゅうのを挙げたけど、これはウェイトとしてはかなり大きい。要はフラストレーションが溜まってるのである。それが何であるかを一言で言い表すのはとてもむつかしい。とにかくここに居たくなくなるのである。机の前でPC睨んでるのも、ヘビーローテーションのワンパターンな夕食作るのも、洗濯するのも、部屋を掃除して片づけるのもそれほど嫌いではない。仕事だって生活のたつきを立てる行為である以上、四の五の言ってられないワケだし、それに結構自分のやり方・組織に仕立て直すのはまぁまぁ得意なので、さほど不満はないハズなのだ。であるにもかかわらず、イ゛〜ッ゛!ってなって来る。それは今に始まったことではない。もう何年もそんなんだ。

 だからおれの野宿旅は一種の「逃避行動」に近い。どっか根っ子の部分でおれは軽度の社会不適応者で、この世、あるいはこの世のシステムっちゅうモンに向いてないんだろう。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 夜に出かけて何するワケでもない。ただもう、大人しくテント張ってマット敷いて、シュラフを袋から引っ張り出して寝る準備だけ済ませたら、ほの暗いキャンドルの光を頼りに途中のコンビニで買った酒を啜りつつ、弁当や唐揚げ食ったりするくらいのものだ。無人駅なら待合室が夜中でも煌々と蛍光灯点いてたりするんで、その冷たい光の下で飲み食いする。テントの中で食事するのは本来あまり好きではない。
 んでもって眠たくなればそのまま寝るだけである。本も読まない。大体、最近は老眼が進んだもんだからちょっと光が足りないと文字がマトモに読めないのだ(笑)。蛙やら虫の鳴く音がやかましいくらいだ。北海道とはいえ夏の低地であれば寒さの心配はまずない。むしろ暑いくらいだ。寝冷えしない程度にシュラフ広げてかぶればOKである。そぉいやおれのシュラフの番手は#4なんだけど、どうにも不人気だったらしく、モンベルのラインナップからはいつの間にか消滅していやがる・・・・・・ッントもぉ、何買ってもマイナーなのを選んでしまうヤツだわ、おれって(笑)。

 起きても別に何があるワケではない。顔洗って、歯磨いて、コンタクト入れて、前夜のうちに買っておいたパン齧るくらいのものだ。
時間に余裕があれば火を起こしてカップスープ拵えたり、コーヒー淹れたりもする。ありがたいことにカップ一杯使いきりのレギュラーコーヒーも今では随分安くなったもんである。めんどくさいときはその辺の自販機で缶コーヒーだ。バンダナで豆を包んで石を打ちつけて砕く、な〜んてナルシスティックな行為、今でもやってるヤツおるんかな〜?開陽台辺りには棲息しとるかも知れんな〜・・・・・・などと思ったりする。
 ちなみに起きる時間はかなり早い。遅くても6時頃には目が覚めてしまう。アウトドアのワクワク感の為せる業か?って!?・・・・・・違う。単に高血圧なので寝起きが昔より良くなっただけの話である。おっと、忘れちゃいけない降圧剤!!これを飲んどかないとちょっとばかし危険が危ない。

 野宿で迎える朝の情景はわりと好きだ。そこがキャンプ場なら、早起きの連中にはもうテントの撤収を始めてる者がいたりする。大体において、自転車や二輪のツアラーの方が朝は早い。そもそも積載量が少ないし、それにあくまで寝るためだけにテント張ってるから、仕舞うべき道具類も少ないのだろう。個人的にはもうさすがに身体が痛くなるから使うこともなくなった銀マットが未だに結構使われてるのを見て、若いってやっぱいいな〜、と思ったりする。そぉいやこの手の旅人は若くて金が無いのか、テントだってそんなマニアックなのを使ってるのは少ない。グラスファイバーポールでボトムがPEシートの最も安いドーム型も目立つ。サウスなんたらとかウールなんたらとか、量販店のPBも良く見かける。いいことだ。旅なんてその道具に拘ったり凝りだした時点で、もう純粋さが失せてしまってるのだ。おれもまぁ、元値は高くても激安になった時にしか買わないから、よしとしておこう・・・・・・って自分で自分を納得させてどないすんねん!?

 連泊ならば多少フライが夜露で濡れていようがお構いなしにスタッフバッグに詰め込んでしまうところだが、こちとら1泊が関の山の哀しいおっさんである。だからある程度キチンと乾かさないといけない。シュラフ畳むのもマット丸めるのもノロノロと、早発ちの連中が去った後も場内を散策して写真撮ったりしながら時間を過ごす。そろそろファミリー系も起き始めてきた。

 特に行きたいところがなければ、休日でないと片付けられない用事もあったりするので、おおよそ昼前には部屋に戻る。正味12〜3時間の外出ってトコだ。要は屋外で寝ただけ。
 ともあれ、それでいつの間にかあの在所不明の焦燥感みたいなものは失せている。どうせまたちょっとすると甦って来るんだろうけど、取り敢えずしばらくは平穏な気持ちで過ごせそうな気がする。ハハ、まるでトランキライザーだよ、野宿って。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 中年もそろそろ終わりに差し掛かり、初老と呼ばれる年齢が近付いてるのに、随分青臭くもアホ臭いコトを書いてるという自覚は、ある。でも、仕方ないではないか。おらぁこれで何とか人格のバランス取ってんだから。しかしながらやはり周囲は奇異の目で見る。当然だろうと思うから、別にハラも立たない。これまで何度か同じようなやり取りがあった。

 ------そんな、一人でテント張って寂しくない?
 ------そりゃ寂しいです。
 ------怖いでしょ?
 ------いや、駅とかはそれほどでも。キャンプ場はまぁ安全です。
 ------どしてそんなトコに行くの?お金だってあるでしょ?
 ------う〜ん・・・・・・何というか、気分転換で行ってるんです。
 ------楽しい?
 ------ゲラゲラ笑うような楽しさはないですよ。それに一人で笑ってたらキチガイかムッツリスケベだし。
 ------分からねぇなぁ・・・・・・
 ------自分自身も良く分かってないです。あ!ヨメと一緒なら一人でなくても全然構わんのですけどね。 

 ・・・・・・会話は少しも発展しないまま終了する。もう慣れっこになってるので虚しさは感じない。

 ともあれ、本格的に寒くなるにはまだもう少し間がある。今しばらくはこの奇妙な「ショートタイム蒸発」は続くものと思われる。

2012.09.18

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved