「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
前室は偉大・・・・・・モノポールテントを買ってみて


とにかく良く目立つ!(笑)

 以前から興味のあったモノポールテントを買った。な〜に、エラそうに自慢できるほどの道具ヲタ心をくすぐるような逸品ではない。ドッペルギャンガーっちゅう新興安物ブランドの製品で「T3−12」という恐ろしくド派手なライムグリーンの物である。
 いやいや、いきなりゴーライトの「シャングリラ(旧HEX)」辺りでも良かったんだけど、何せ特異な形であるからして、使ってみて気に入らなかったらどうしよう?なんてケチな料簡が働いてしまったのである。だから、「買ってみた」という言い方が正しい表現だろう。

 この数年はこのモノポールテント、山ガールだか森ガールだか知らんが、とにかく女性を中心にトンガリテントなどと呼ばれて人気があるらしい。形がムーミンに出てきたスナフキンのテントみたいで、いかにもなのである。カワイーのだ。ちなみに原型はインディアンのティピなんだろうけど、あれほど極端には尖っていない。構造的にはフレームは中央の心柱1本だけで、幕体の多角錐の裾部分をペグダウンすることで立ち上がる。当然自立はできず、舗装された広場等では設営できないし、バランス良く立てないと倒壊しやすいリスクもある。

 アウトドアテントとしてはどうだろ?モスの「スーパーフライ」やディナデザインの名作・「ヌクタク」あたりが嚆矢なのではあるまいか。特に後者がとあるアウトドア用品の野外展示会かなんかで張られてたら、幸か不幸かその会場を竜巻が襲って、すべてが薙ぎ倒されたり吹っ飛ばされたりとムチャクチャになった中、唯一残ってた・・・・・・ってなエピソードがまことしやかに流布して、「モノポール=耐風性が高い」というようなことになったと思う。記憶違いならゴメン。
 ちなみに復活なったディナデザインはどうも気に食わない。ヌクタク出す気もなさそうだし、どうも以前の緻密さとタフさが同居したような感じに乏しい。どだい資本がどうやらコールマンなのも面白くない・・・・・・って、それはさておきその後、マウンテンハードウェアの「キーヴァ」や前述の「HEX」、或いはシエラデザインズの「オリガミ」なんかが出て、ブームは決定的になった。今ではウルトラライト系の登山やトレッキングにも取り入れられるケースが増えてるように思う。

 なるほど実際テント張ってて怖いのは雨よりも絶対に風の方である。いつだったか秩父のとある山のてっぺんでテント張ったら、夕方から夜中にかけてもはや暴風と言っていいほどの恐ろしく強い風が吹き荒れて肝を冷やしたことがある。カンカンにガイロープ張ってんのに、それでもテントがグニョグニョ撓って揺れまくるんだもん。張り終えたのがまだそれでもそんなに吹き荒れてない時だから良かったものの、遅れてたら設営そのものが出来なかっただろう。

 そんなんだからかなり以前からモノポールテントのユーモラスな形だけでなく、その耐風性伝説にもちょっと惹かれていた。

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 発注して2日ほどで届いた段ボールの荷姿は意外に小さかった。アマゾンは通販の吉野家だ。安物テントの常で、どぉせ畳んでも小さくならんだろうと思ってたので、これはちょっと嬉しい誤算だった。早速、荷物をほどいて細部をチェックしてみる。あちこちに糸くずが目立つものの、縫製そのものはそんなに悪くはいない。全ての縫い目ではないものの、まぁ一応主だった箇所にはシームテープ。比較的シッカリしたY字型のペグは紫色にアルマイト染色されている。ジッパーもそこそこスムーズだし、ポールの当たる個所へのターポリン補強も為されている。
 スタッフバッグ(収納袋)が大きめになっているのにも好感が持てる。えてして国産テントはこいつがキツキツで小さく、詰め込んで片づけるときにひどく苦労するのが常なのだが、ホントのことを言うと大き目の袋に放り込んでからタイラップベルトで締め上げて小さくした方が使いやすいのである。この点で外国のテントはおおむねどれも袋が大きめだから、トータルでの機動力に優れてるものが多い。ちなみに縛るための紐が2本付いてたけど、情けなくなるほどにそれは単なる「紐」だった。

 しっかし好い事尽くめではない。最も基本である生地がまず良く分からない。フライで2,500mm、ボトムシートは3,000mmっちゅう、ちょっと前なら相当の山岳テントにもなかったような防水性能を謳ってるワリに、何ともペラペラ・カサカサした摩訶不思議な生地だ。ポリウレタン系の少しネタッとした感じでもないが、シルナイロン系の異常に滑ってカサつく感じでもない。どれだけのデニールなのか明示されてないのも不気味。それに薄手の生地には格子状のリップストップが定番なんだけど、それもない。これで裂けたら一気に破れ目が広がるのではないかと思う。
 さらには、肝心の力の掛かる部分が全体的に華奢に出来ている。ポールは鉄だからアルミよりは同じ強度でも細く作れるだろうが、それでも繋いでみると何だかクニャクニャした感じが残ってるし、最も重要なフライの裾のペグダウンのためのテープの縫い付けは見るからに頼りない。おまけにガイロープも倒壊を防ぐ上でひじょうに重要なのに、初めから何本かはほつれてたりする。やはりどっかでコストは吸収してるのである。

 まぁ、好事家のオヤヂぢゃあるまいし、実際に張りもしないであれこれノーガキばっか垂れてても仕方ないので、早速次の休みの前日、おれは近所のキャンプ場に持ってって設営してみることにしたのだった。

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 6角形でインナーとフライとガイロープだから、6×3で全部で18本必要なはずのペグが13本しか同梱されてないのも思えば奇妙な仕様である。そのために秀岳荘まで行って追加でV字型ペグを追加購入して、基本通りに張ってみる。思ったよりもはるかに迅速に、かつ簡単に立てることができた。インナーを6ヶ所ペグダウンして、心柱をエイヤァッと持ち上げれば形が出来てしまうのだから本当にラクだ。ドームテントのフレームをギュウギュウしならせながら4隅のボールエンドに挿し込むのとは比べ物にならない。フライをかぶせて同じようにし、最後にテンションを若干調整すると、稜線がモノポール特有のカテナリーカーブを描いた美しい6角錐になった。八千ナンボで意外にやるぢゃん、ドッペルギャンガー。
 小雨交じりの晩だったにもかかわらず、漏水・浸水は一切ない。そらまぁ予めハイパロンでシームシーリングしてあったとはいえ、生地そのものにかなりの耐水性があることは間違いない。あとは経年劣化が早いか遅いかだろう。

 内部は・・・・・・ぶっちゃけさほど広くはない。高さがあるったってポールの立つ中心部分だけなので、実用空間で見たらかなり狭い。内部から膨らんだように空間を作るドームテントの逆だから、正直こっちに迫るウォールの圧迫感にはかなりの物がある。オマケに中央には大黒柱が通ってるのである。それがモノポールの最大の特徴とはいえ、邪魔なことに変わりはない。また、天頂部が極端にすぼまってる分、熱を発するランタン等は工夫しないと吊るせない(おれはダブルクリップの大きなのを柱の低い部分に挟んで、そこに引っ掛けることにした)。床面積だけはあるけれど、それは詰まるところ前室を無くして得られてるだけである。実際は2〜3人用テント+前室の広さと変わりはない。おそらく真上から見たら、以前から愛用のヨーレイカと同じくらいだろう。

 そう、前室。思えばこれまで前室のないテントを所有したことがなかった。たしかにモンベルのモノフレームシェルターヘキサには前室がないけれど、フライとインナーの間がやたら広く取られているし、さらにボトムとインナーは別体式だから手を突っ込んで物の出し入れができる。だから長辺側が靴や火器の類の置き場として機能する。前室ならぬいわば側室だ・・・・・・ん、ちょっといいな、側室。2〜3人欲しいよ(笑)。
 それはともかく、改めて前室がいかにテントにとって重要であるかをおれは悟った。泥靴や濡れた荷物を室内に持ち込むのはやっぱしイヤだし、鬱陶しい。エクスペディションテントの代表格であるアライのエアライズやダンロップ/プロモンテのV、エスパースとかだって、最低限の前室は確保されてる。それに小さいとはいえテントはやはり家である。靴でズカズカ上がる欧米人と異なり、どしたって靴脱いで上がりたい、ちゅうのもある。

 前室は偉大なのだ。同じ伝でゴアテックス使ったシングルウォールテントなんてもっと不便だろうな、と思った。

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 誤解しないでいただきたい。モノポールテントがダメだ、と言いたいワケではない。何よりこのユーモラスなフォルムは何物にも代えがたい魅力がある。ただ、ある程度不測の状況も想定される野宿に於いて、これ一つで完結させるのはちょっと厳しいかな?八方美人さで行くとちょっと幅は狭いかな?と言いたいだけだ。どだいペグダウンできなきゃどもならんのだから。
 そもそも十全なテントなんて存在しない。全ての要素や性能・機能はマッチポンプの関係にある。だからこれはこれで面白いし、要はユーザーがどのように使いこなすかだけの問題だろう。。

 おれとしては、基本はユル〜い使い方だ。ペグが簡単に刺さる整備された芝生の広いサイトかなんかでしか使わない。んでもって暖かいうちは別に小さなタープを張ってそれを広い前室として使う。寒くなったら使い方を逆にして、別にテントを立て、これをフライのみで立ててコンパクトなスクリーンルームとして寛げる場所にする・・・・・・そんなんだ。そうすると数々の欠点も何だか絶妙にいい感じの不便さに思えてくるような気がしてる。

 みなさんもお一つ如何っすか?モノポールテント。何か天幕に泊まる原初の歓びやワクワク感みたいなんが最も体験できまっせ。

2012.08.27

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