「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
年寄りの冷水・・・・・・山


石狩平野が一望出来て実に爽快

 「Mt.RACEY」などと小洒落た当て字のマウントレースイは、GALA湯沢になり損ねたゲレンデだろう。

 いや、その素性はガーラよりスゴいかも知れない。なぜならガーラは改札出てから長い長い登行ゴンドラに乗らないとゲレンデまで辿り着けないけれど、レースイは拠点となる三角揚げみたいな形のホテルの真下に線路が突っ込んでて、そこからホテル抜けて回廊を渡るともう目の前がゲレンデなのである。リフト券売り場兼センターハウス兼ゴンドラ乗り場の建物がドーンと建っている。100mくらいしか離れていないのではなかろうか。駅前がスキー場と言うのはあながち大袈裟な表現ではない。

 しかし、そのかつての夕張線、現在は石勝線支線となった路線の終着駅である夕張の駅はあまりにも寂しい。かつては巨大な石炭積み出し基地として、ターンテーブルに巨大な車庫、給炭・給水設備と機関支区なみの駐泊所まで備えていた駅は、2度の移転を経て信じられないくらい劇的に縮小された。取ってつけたような1面のホームは2両分ほどの長さしかなく、線路だって単線の線路が突っ込んで、ぷっつり途切れてるだけでポイントも何もない。もちろん無人駅。ダイヤは1日9本、乗降客数は僅か60人・・・・・・つまり鉄道使ってここにやって来るような酔狂な客は今はもうほとんど存在しないのだ。
 もちろんおれもクルマで出掛けてった。だって、下道走っても1時間ちょいで着きそうなんだもん。

 おそらく街がバブルに踊った頃は、本州からの客を当て込んで札幌や新千歳空港駅から直通列車走らせる計画なんかもあったに違いない。実現してたらそらもうムチャクチャに便利だったろうと思う。飛行機降りて1時間少々、駅前がホテルでそのままゲレンデ直行なのだから。ルスツやキロロ、サホロ、ニセコなんかよりはるかに便利だ。こりゃ儲かりまっせ〜!
 しかし、すべての甘っとろい目論見はバブル崩壊とともに瓦解した。邯鄲の夢っちゅうヤツである。今や北海道観光の引導師とも言える(笑)、加森観光の傘下で、何とか糊口をしのいでるといった印象だ。

 悪口言っちゃいけないな。加森観光だったからおれは安く滑れたのだった。っちゅうのも、その前々週、おれはテイネに出かけた。まぁ新参者なので取り敢えず近場をあちこち順繰りに制覇してってるワケだけど、そこのリフト券売り場に使用済の1日券を持って加森グループの別のスキー場に行くと半額になると宣伝してあったのである。同じ場所を再訪してもダメで、違うトコっちゅうのが如実にスノーリゾート人口の減少に対する苦肉の策であることを伺わせる。

 ルスツは如何せん遠い。喜茂別やで喜茂別。日帰りで中山峠越えて行くのはどうにもダルだ。その中山はまだ閉鎖中だし、サホロはさらに遠い。トマムより遠いやんか。サンライバはマップ見ても規模小さすぎだし、カルルス温泉の近くやんか、これも遠いがな・・・・・・ってなワケで、消去法的にマウントレースイに行ってみることにしたのだった。

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 北広島からジンギスカンで有名な長沼を抜けると、由仁だとか栗山、錦沢だとか鹿ノ谷といったかつて鉄道少年だったころに読み知った地名が続く。部屋を出て1時間少々、そんなにトバしたワケでもないのに呆気なく到着した。夕張は何となく山奥って思い込んでたので意外な気がした。
 駐車場は死ぬほどお粗末で、未舗装でデコボコなだけでなくドロドロの泥濘になった道を上がって行かなくてはならない。小さな川を挟んで反対に銀色にピカピカ光るホテルが聳えている。もぉちょっとデイユースの客にも投資しろよ、って感じ。

 オープンの15分くらい前に到着したのだけど、クルマはほとんど停まっていない。10台くらいだ。こりゃやっぱみんなホテルに泊まって何日も滑るのかなぁ〜?と思いながら坂道を上がるとポロッとゴンドラ前に出た。天気は快晴で、名前の由来となった冷水山のてっぺんの方まで綺麗に整備されたコースが見渡せる。左側のコブだらけになった絶壁みたいなのがおそらく52度の超スティープなコースだろう。
 やはりしかし、上天気の日曜だっちゅうのにほとんど人がいない。こんな疎らな人出でちゃんとリフト動くんだろうか?と不安になるほど閑散とした風情だ。

 不安をよそに定刻になるとゴンドラは動き始めた。パラパラと客は集まっただけでまったく行列に並ぶことなくラクラク乗車・・・・・・しようとすると、係員のニーチャンに呼び止められた。リーシュコード(流れ止め)付けてないと乗せないと言う。「ぢゃ売店行って買って来ます」と言ったら、50cmほどに切ったポリプロの荷造り紐を渡された。言い訳でもなんでも、それらしきものを足首に着けてたらOKみたいだ。何か妙な拘りではある。

 玉子が割れるようにパカッとドアが開いて背中合わせに3人づつ座るっちゅう、あまり見たことのないコミュニケーションの取りにくい形のゴンドラで5分少々。到着したてっぺんにも人がいない。そりゃまぁそうか、今日最初の客なのだから(笑)。
 それにしても景色が物凄くいい。石狩平野が一望でき、若干霞んではいるけど札幌の街も分かる。さっき走って来た谷に沿って、公団の団地みたいな集合住宅が点在してるのは昔の炭住だろう。そう、このマウントレースイは炭鉱を潰してできたゲレンデなのである。雪の下にはかつての産炭施設が眠っているのだ。

 ・・・・・・って、そのような懐古趣味の感慨は今日は無用、知るかそんなん!ボケ!みたいな(笑)。おらぁとにかく今日はスノボをしに来たのである(笑)。
 実のところ、おれはあまりいろんなテーマを抱き合わせにして出かけるのが苦手なのである。年甲斐もなくクソど派手な板を持ったおっさん、っちゅうのが本日のスタイルなのだ(笑)。どうも上から見下して、右に行くほど急斜面で、左一杯に巻くと緩い迂回下山コース、真ん中が普通コースってなレイアウトになってるようだ。札幌国際もそんな感じだったな〜、と思いながら、まずは真ん中のメインバーンへ向かうことにする。あ!鐘のところから分かれる上級コースは雪崩の恐れありで閉鎖されてるやんか。

 いやいやいやいや、いいねいいねいいね!ピステンの通った縞々の跡だけで、まったくシュプールのない幅広いゲレンデ!まだ板新しくして2回目なのと、朝イッパツ目なんで無理せず、感触を確かめながら丁寧に下って行く。下がちょっと緩斜面過ぎる気もするけど、止まるほどでもないのでまぁ良しとしよう。気持ちよくゴンドラ乗り場の真ん前まで滑り込んで行ける。雪質もこの天気でこれならまずまずだろう。シルキーなバフバフとはとても言えないけど、重さはほとんど感じられない。僅かに下の乗り場付近が上白糖のようにしっとりしてるくらいだ。いくら北海道とはいえ、3月半ばでこの状態なら文句は言えないと思う。
 2本目、3本目・・・・・・板の調子がかなり掴めてきたのもあってか、気が付いたら目ぇ三角にして全開モードになっていた。もう歳なんだし、マッタリとゲレンデクルージングするつもりで短くて柔らかめの板に替えたのに、これではさっぱり意味ないではないか(笑)。雪面こそ綺麗に均されてるとはいえ春近い雪だから、下は締まって舗装道路並みにカッチカチに凍ってるだろう。コケようもんならシャレにならんくらいのスピードが出てる。でもさぁ、だってさぁ、誰も他に滑ってる人がいないんだもん(笑)。

 こりゃマジィわ〜、このまま行ったらブッ飛ぶな〜、って思えて来たので、クールダウンに今度は一番左の迂回コースに回り込んでみることにした。距離的には3,500mと最長だが、どうせナルナルのダルダルだろう・・・・・・って、これはこれで悪くないやん。テイネの下山コースの、もはや拷問と言っていいほどのドフラットなコースに比べたらまだ斜度はある方だ。林道から外れて谷間に下ったり、それなりに変化もある。
 ぢゃ次はクローズしてない上級コースだ。リフト下で大きく落ち込んでは緩斜面を繰り返すコースに行ってみよう。ちと狭いがこれはこれでまずまず面白い。そいでもってゴンドラ乗り場の裏に下ってくコースも行ってみようかい。お〜!リップやキッカーもあるやんか・・・・・・ま、おれは入らんけど(笑)。

 ・・・・・・結局、昼前後に少し人が増えて若干混み合ったかな?、って程度で、実に快適に飛ばしまくれた。1日券の意味は全くなかった。途中でサササッとメシを掻っ込んだ以外はひたすらゴンドラに乗っては滑りを繰り返し、20本以上滑ったあたりから膝がガクガクに笑い始め、何でもないリフト手前の雪の塊に引っかかってコケて、おれはそろそろ切り上げる時間が近付いてきてることを知ったのだった。
 時計を見るとまだ2時だった。5時間でバテバテだ。

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 マウントレースイはおススメのゲレンデか?否か?・・・・・・答えはイエスだと思う。

 そりゃぁ欠点はある。基本的に抑揚やメリハリに欠ける一定した斜度は単調っちゃ単調だし、逆に変化のあるコースはとにかく狭い。ゴンドラ降り場付近の設計にも問題あると思うし、下の雪原に近い広がりもまったくのデッドスペースになってしまっている。メインゲレンデから枝分かれしたコースがいささか分かり辛いのもマイナスポイントだろう。
 しかし、もし貴方がスノーボーダーで、キチンとした高速カービング、あるいはグラトリを覚えたいなら、ここは最適と言っても好いゲレンデだと思う。とにかく安心してトバせるし、急過ぎない斜面はしつこくしつこくオーリーからスピンに至るテクを磨くのにうってつけだ。何より空いてて人が少ないのが最高である。周囲を気にする必要がないのはとにかくありがたい。

 それにしても、この客の入り込みでは経営は相当苦しいと思われる。ゴンドラでたまたま一緒になったジジィ3人組が、今はいろんな資本が引き上げちゃったこと、本当はもっともっと巨大なゲレンデになるハズだったこと、赤字なんだけど、閉鎖してこれ以上夕張が寂れたらそれはそれでどうにもならんから何とか続けてるらしいこと等を話を訳知り顔でしてるのを聞くともなしに聞いた。
 そんなんだからとにかく、ツブれて閉鎖される前に行っといた方がいい。

 ともあれ次の日、おれはひどい筋肉痛でまともに歩けなかった。こんなにアツくなってギンギンに滑りまくったのは久しぶりだ。


かなりチョーシいいっす、この板

2012.03.19

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