「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
スノーボード懐古


なぜかBOAバージョンの画像が見つからないおれの今のブーツ(笑)

 早いものでスノボを初めて早や15年以上が過ぎた。始めた年齢が遅かったのと、将来の臆病さが相まってあまり大して上達はしていない。グランドトリックやハーフパイプ、ジブ、ワンメイクといった過激な遊びからは、いつの間にかいささかの距離を置いたままこの歳になってしまった感がある。

 何事も上達するには2つの心性が重要だ。一つは当然ながら「上手くなりたい!」って強い意志、もう一つは後事を恐れぬ勇気である。おれの場合は、初期の頃の無知による無鉄砲が原因の手ひどい体験が、飛んだり跳ねたり系への気持ちを挫いてしまった。古傷になって残るようなハデな大転倒を、覚えてるだけで4〜5回やらかしてる。単なる大転倒なら何十回、何百回とした。いっちゃん痛かったのは、ゲレンデ外の林の中から元のコースに戻るときに2mくらいの落差を飛んだら、思ったよりスピードが乗ってなくて思いっきり姿勢崩して落ちてコケたことだろう。おれの右肩から頸にかけてがおかしいのは、絶対このときに腱だか筋だかを引っ張ってしまったことによるものだ。
 そんなんで、今はもうただもう中斜面から緩斜面くらいをトバしまくるくらいしかしなくなった。ギャップを飛んで越えてくなんてことももうしない。ちゃんとスピードダウンして下を確かめてから丁寧に降りて行く。安全第一、おっさんライダーそのものである。

 ・・・・・・とまぁ、オヤヂの情けない現状はさておき、こんなシンプルな道具でもいろんな流行り廃りがあって、今は見かけなくなったものも多いので、今日は昔を偲ぶよすがにその辺をまとめてみよう。

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 まず何より見なくなったのはローバックだろう。バインディングの後ろについてる踵から脹脛の裏あたりを支えるアレ。今はどこのメーカーもハイバック一辺倒だが、かつてはあれがブーツをちょっと支える程度しかないのがひじょうに多かった。高さにすれば4〜5cmといったところだろうか。せいぜいアキレス腱あたりまでしか届いていない。
 今はつま先側のベースプレートが高くなってて、トゥーサイドでの踏み込みが容易かつシッカリできるように、またハイバックも足首の上までをきっちりホールドしてバックサイドでも同様の動きができるようになってるのが当たり前である。ところが、かつてのスノボは足の裏全体でコントロールする、とでも言えば良いのか、ブーツが板に留まっておれば良し、みたいな感じだった。シムスから踏み込み用のトゥークランプってーのが付いたリンク、っちゅうバインディングが出て状況は一変したのである。

 そのベースプレートにしたって、今はガッチリした樹脂製の土台をギザギザの付いたこれまた樹脂製の円盤とネジで固定するのが当たり前だけど、かつてはベースレスなんてーのもあった。ブーツは直接板を踏むことになる。土台はブーツの左右、あくまでベルトとボルトの間の「つなぎ」でしかない。専らトリック系の人が雪面の情報を捉えやすくてコントロールしやすいとか言ってよく使ってたが、乗り心地が果たしてどんなものだったかは良く分からない。一説には疲れやすい、とも言われてたっけかな?今はバートンからリバイバルとも言える「EST」ってのが出てるけど、ネジ止め方法が一緒なだけで、クッションがかまさってるんで良く分からない。

 ベースレスが市場から駆逐されるのとだいたい時を同じくして、インサートホールにも消えた形式がある。今はバートンのお家芸である・・・・・・もとい頑ななまでに拘るネジ3本止めの3D、あるいはチャンネルっちゅうの以外はほぼすべて、ネジ4本がおよそ10cmのスクエアに配列される4×4になってしまったけれど、かつては8×5といって妙にネジ穴の列の間が広く空いたのをけっこう見かけた。たぶん、8インチ×5インチという意味だと思うんだけどハッキリしない。96〜7年あたりにはみんな4×4に統合されてしまった記憶がある。そんなんで、どっちにも使えるネジ穴の付いた円盤のあるバインディングはユニバーサル、って呼ばれてた。

 大体ギザギザにしたって、今はベースプレートも円盤どっちも樹脂、それもカーボンやナイロン繊維を混ぜ込んで堅牢にした素材でガッチリ組み合わさってるけど、昔はそれだって随分アバウトで、以前も触れたプレストンみたく、硬いゴムのワッシャで押さえ付けるだけなもんだからすぐにズレて回る、ってなおっかないものは特別として、素材ではどっちもプレスしたアルミの物やら、鉄やらいろいろあったし、そしてどれも噛み合わせは素人が見てもいい加減なものが多かった。おれの長く乗ったモローのM−1にしたって、アルミのプレートのギザギザと樹脂のプレートのギザギザが噛み合うようになってたが、歯と歯がキッチリ隙間なく噛み合う状態からは程遠いデキだった。
 どだいベースプレート自体が・・・・・・あ、洒落ぢゃないよ、とまぁベースプレート自体がグニャグニャで強度が不足してるバインディングなんていくらでもあった。2点で1万ナンボ!とか2万ナンボ!の安物についてくるバインディングはたいていそんなのだった。つま先側のベルトなんて押し込むだけしかできなかったし、それはそれはもうヒドい造りだった。

 バインディング関係で奇妙に思ったのは、カントプレートっちゅうヤツだ。上から見ると丸くて、横から見ると楔形に角度の付けられた板で、後ろ足側のバインディングと板の間にかまして、膝の踏み込みをラクにする補助具である。何のご利益があるのかは良く分からない。今でもアルペン系では生き残ってるようだ。

 ブーツにしたって今のソフトブーツなんて完全にハードブーツの硬さやんけ!って思う。見た目がガンダムの足みたいなカラフルな樹脂製ブーツとさほど変わらないレベルになってる。昔はソフトブーツは本当にソフトだった。足首なんて前後左右いくらでも動かせた(笑)。余りにも柔らかいからホールド感と硬さを稼ぐためのベルクロの補強ベルトが売られてたりもした。たしか2種類あって、一つはブーツの筒口の周囲を締め上げるもの、もう一つは靴底から踵側と足の甲側の2方向に回して、踵の浮きと甲側から脛にかけてのホールド感をシッカリさせるものだった。ちなみにおれはどっちも持ってて、カンカンに締め上げて使ってた。
 当時としてはかなり硬くて上級者向けと言われたノースウェイヴのナントカゆうバカ高いのにその後しばらくして履き替えたけど、何年後かに同じノースウェーヴでエントリークラスから2番目くらいのに買い替えたら、遥かにそっちの方が固くて驚いたもん。今はライドの「オリオン」って同じくらいのレベルのBOA 履いてるが、何がエントリークラスなのかおれには分からない。もぉムッチャクチャに硬い。

 そぉいやインナーブーツにしたって随分進歩したものである。かつてはインナーも靴紐で締め上げるようになってた。紐の結び目がバインディングのベルトの下に来ると痛くてたまらなかったことを覚えている。その後巻きつけるようにしたウレタンフォームのインナーやらいろいろ変遷があったけど、今はおおむねギューッと細い強化繊維の紐を引っ張り上げて留めるだけのものが主流のようだ。ディーラックスで有名な、焼いて個々人の足型に固めるサーモインナーなんかも結構広まってるみたいだ。
 それより何より、アウターのBOAレースの登場はノーベル賞上げてもいいくらいに革命的だった。丸いダイヤルを回すだけでどんどん締め上げて行くのだからチョー楽ちん。それまでの、かじかむ手で緩んだ紐をホールごとに締め上げて行くあの苦労から完全に解放されたのだから。余ったひもは脚首に巻いてさらに締め上げて蝶々結びにする、なんていじましい努力も含めて今や全く不要のものとなった。そぉいや非力な女の子用に靴ひもを引っ張る太い針金みたいなのも売られてたっけ。
 インナーレスブーツが流行ったこともあった。今でも一部のメーカーでは細々と作られてるようだけど、インナーがないっちゅうよりはインナーのバッド類が全部アウターにくっついたようになってるのである。履いたり脱いだりがしやすいのと引き換えに余りホールドが良くないと言われ、結局おれは試さず仕舞だった。

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 こうして振り返って行くと、バインディングとブーツ関係での変化が著しいことが良く分かる。板そのものはロッカーボードの登場がこの10数年で特筆すべきことだと思うものの、あまりまだ一般的ではない。マテリアルからポリウレタンが消えてなくなり、CAP構造が流行らなくなったことが目立つくらいで、あとは細部のブラッシュアップに力がそそがれてるような印象だ。むしろウッドコア+ファイバーグラスっちゅうオーソドックスな構造にみんな画一化されて、木の違いだとかそんなんばかりが強調されてるように思う。
 ソールにしたって年々番手が上がってったのはかなり昔の話で、未だにハイエンドでシンタード7200とかグラファイト4000とか、そんなに変わってはいない。やはり、あまり高性能ソールだとメンテナンスが大変すぎるからだろうか?おれの個人的な感想で言わせてもらうと、ホビーユースで使うのならせいぜい2000番くらいまでのが扱いやすい気がする。ソーメンソールとバカにされる基本の1000番なんて、傷入ってもすぐに直せるしワックス掛けはしやすいし、素人が使うには最適だと思ってる。

 ウェアーもあまり見た目的には変化がない。若干ハデでファッショナブルになったかな?とは思うけど、基本的にダボッとして、上下セパレートな、言っちゃ悪いが「雪道に立ってる交通整理のおっさん」的なシルエットは少しも変わってない。素材も安物はエントラント、上等はゴアテックスなんてー展開もそれほど変わってないように思う。縫製や細かい使い勝手は随分進歩した気もするけど、劇的に何か変わったかというほどでは無いだろう。
 ゴーグルや手袋にしたってそんなに変化がない。せいぜい袖口の長さがバカみたいに長いのが減ったくらいのものか・・・・・・ああ、ヘルメットかぶる人は増えたな。いいことだ。

 結局のところ、スノーボードは一定の市民権も得て、全ての点で成熟期に入ってるのだと思う。もはやヤンチャな若者のちょっと危険な香りのするウィンタースポーツではなくなった。単なる雪遊び道具の一つ、である。今時、「ハードコアなブランド」とか標榜しても笑止千万である。そんなんにアテられるのは高校生くらいまでだろう。エレキギターみたいなモンだ。だから、上でちょっと触れたロッカーボードの登場は、もっかい「チャラチャラした遊びとしてのスノボ」に揺り戻そうとするメーカーの悪あがきのようにおれには映る。
 そう、大体、今の若者の多くはもはや、一々何時間も掛けてゲレンデに行くようなことをしない。小さなゲレンデは家族連れか年寄りばかりが目立ち、大きなゲレンデではパック旅行で来たアジア系外人ばかりが目立つ。それが現実である。

 スノボの道具の変遷は、洗練と進歩の証であると共に、一つのことを教えてくれる。あらゆるムーヴメントはその洗練と進歩とやらと引き換えに、必ずいつしか社会の枠に取り込まれ、飼い馴らされ、毒気を抜かれちまう、ってコトだ。


ゴーグルは長年使ったスミスがダメになったんでDICEに変えました。

2012.01.31

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