「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
騙すな!・・・・・・続・チャリ雑誌の欺瞞


走るしゃちょお〜!(笑)

 世は相変わらずロードバイクブームが続いているみたいである。余分なものが一切付いてないスリムなシルエットが、ひょっとしたらカネ余りの結果、いささか贅肉まで余ってしまった世代のダイエット志向と合致しているからなのかもしれない。
 決して安くはない買い物だけど、パーツ交換にハマったりせずフツーに乗るだけなら、実は初期投資以降はタイヤとかチューブ、ブレーキシューといった消耗部品の交換コストがチョコチョコ掛かる程度でそんなに金食い虫ではないし、30万も出せばまずまず所有欲の満たされるのも手に入るし、ってあたりもウケてる要因かもしれない。

 一昔前までオッサンのスポーツと言やぁゴルフ、と相場が決まってた。こっちは間違いなく金食い虫である。道具自体は20万もあればそこそこのが一式揃うが、そっからが高くつく。一回コースに行けばド田舎はともかく都市近郊だと安くても1万5千円くらいは掛かってしまう。さらに握るだのオリンピックだの馬だの何だので別途金が掛かることもある(笑)。練習だってタダではできない。会員権なんて買った日にゃもぉ大変で、ン百万の金がぶっ飛んでしまう・・・・・・で、そんなに投資したんだし、それを印籠にすれば一生そこでタダで遊べるんか、と思ったらそうではないらしい。ちょっと割引になる程度なんだそうな。実にバカバカしい権利もあったもんだ。

 そんな世界からすると自転車なんて実に慎ましやかで可愛いもんである。上記の通りランニングコストは知れてる。何台も保有するならいざ知らず、1台だけなら家の中にあってもさほど邪魔にはならないし、趣味性の強いものゆえ度を越さなければ気の利いたインテリアにもなる。いささか道路行政や法整備が付いていってないのは問題だけど、これから不景気だエコだ少子高齢化だ、とシュリンクしていかざるをえないこの日本という国にはまずまず身の丈にあった趣味ではなかろうかとも思ってる。

 随分前説が長くなってしまった。そろそろ本題だ。

 おれも再びチャリ熱が高まってきたことで、先日、肩に「111台徹底試乗」なんてコピーが大きく出てるのにつられて表紙もロクに確かめず「ロードバイクインプレッション2010」(竢o版)って本を買った。いわゆる新型車の乗り較べガイド本である。そして深く後悔した。無論、本を買ったことを、である。内容があまりにムチャクチャなのだ。
 以前、チャリ雑誌のメーカーや代理店と癒着した目に余る翼賛構造について書いたが、その傾向がより一層ひどく現れているように思えたのである。こんな出鱈目な内容ではガイド本にも何にもなりゃせん、と思う。そんなんで今日はこの一冊に絞ってコキ下ろしてみたい。

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 まず何よりの問題はコメンテーターに今中大介が入ってることだ・・・・・・っちゅうか、後はも一人だけ。最初の超高級車紹介コーナーにはチャリヲタで有名な俳優の鶴見辰吾が入って3人だが、いわばこれは素人代表みたいなモンである。こんなコメンテーターの構成、どう考えてもズルいよね。
 そりゃ〜、日本人で初めてツール・ド・フランスに出場したことがある人だしむっちゃ凄いことなのかも知れんが、それももう随分昔の話だ。今は自転車総合商社「株式会社インターマックス」の社長である。シャチョさんあるよ。自社でINTERMAX(今中大介の「中」と「大」でインター、マックスね)ってブランドを持ち、輸入ブランドとしてもKUOTAやDEDACCIAIなんてーのをかなりの言いお値段で取り扱ってるが、どれもマーケットでは相当のシェアを持っている。商才あるのだ。ちなみに鶴見はインターマックスから機材をスポンサー提供されてたりしてひじょうに密接な関係にある。ほれほれ、もうカネの腐臭が漂って来たでしょ?
 ・・・・・・で、紹介される111台のうち、何と14台までがここの取り扱いの製品。日本で売られてる自転車のブランドはザッと見渡しただけでも5〜60は軽くある、っちゅうのにだ。いやもう実にあざといマネをしてくれるものだ。

 もし「自動車乗り比べ」ってな本があって、そのコメンテーターが2人で片方がカルロス・ゴーンだったらどうなる?それで公平性が保てるかい?いや、読者がそんなんで公平な評価と納得するかい?誰も納得しないだろう。つまり、マトモな本としてそれは成立しない。
 なのにチャリでは当たり前のようにこんなヤクザなやり方がまかり通ってる。まことにもってとんでもない話だと思う。徳大寺有恒は自転車には乗れんのか!?(笑)。

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 それでも、カラフルなチャリが各ページに大写しで並んでるのを見るのは楽しいし、買った以上は読まんともったいないから読んで行く。でも、そもそもの基本がなってないものが細部でマトモな筈もなく、あちこちにこれまたエグエグの小細工が散りばめてあるのが読み進めてくうちにだんだん分かってくる。

 例えばこのテの本ではやたらと低く評価される感のあるBIANCHIとGIOSなのだけど、完全シカトはいくらなんでも流石にマズいと思ったか、申し訳程度にそれぞれ1台づつ紹介されている。ビアンキなんて自転車メーカーとしては世界最大なのにねぇ。
 紹介されてるのはどちらも今年の新作で、前者が「INFINITO」、後者が「ALCANO」である。ま、微妙に悪意の感じられるコメントはさておき(・・・・・・ってーかいちいちそこまで噛み付いてたら紙幅に余る、笑)、端的にエグさが良く分かるのが値段の紹介だ。どちらも「完成車価格」を「フレームセット価格」として載せてるのである。
 大体、フレームセット価格に対する完成車価格はパーツチョイスにもよるけれど、概ねシマノの105クラス使用で10万円、アルテグラ使用で20万円くらい跳ね上がる。カンパニョーロだと同グレードでもちょっと高い感じか。
 ・・・・・・で、前者・INFINITOが定価252,000円でクランクがFSAの安物なのを除くとコンポは全部105組みでホイールはマヴィックのアクシウムエキップとまずまずの構成、後者・ALCANOが312,900円で何とカンパニョーロ最新のアテナ11S組みで、ホイールだけ安物のカムシンだ。要は全体としてかなり頑張っていいもの奢ってるのである。
 それをこのようにすり替えて表示する、なんて小手先の姑息な手段で一蹴しているのである。嘘だと思うなら104ページと118ページを開いて、それぞれの公式サイトで値段を比較してみるといい。
 一方でどのモデルも手放し絶賛状態のLOOKなんて、アテナ組みでフルクラム・レーシングゼロ履かせたのを完成車価格で249,900円などと記載している(127ページ)。事実ならば100台くらい買って転売すれば大いに利ざやが稼げるだろうが、こっちは逆なワケである。フレームセット価格を完成車価格として表示してるのだ。どれだけ代理店から袖の下をつかまされてるんだ!?

 ・・・・・・ま、如何にこの竢o版ってトコが卑怯か良く分かる好例だ。

 そんな一方で、インターマックス関連の紹介はどうかっちゅうと、これがもう露骨にヨイショ。ここは一部の廉価グレード以外は基本どれもフレーム売りなんだけれども、かといっていちいちパーツ選ぶのも面倒だろうってコトで、デュラエースまたはアルテグラでのオススメパックみたいなのをチョイスして簡便に完成車に仕上げる売り方をしている。ならばそれを試乗車として持って来るべきだろう。
 なのにどれもこれもLIGHTWEIGHTのホイール履かせてある。世界最高峰の自転車ホイールと言われるカーボンホイールだ。安いのでも前後セットで60万近くする。会社の名前そのままで恐ろしく軽量だし、チューブラータイヤ専用なのでさらに全体としては軽くなる。文字通り「下駄を履かせて」るのである。
 車輪の付いた乗り物にとってはバネ下重量がとても重要なファクターだ。特に回転部分の重量差の走りへの影響は大きく、ここの1kgの差はバネ上の15kgに相当するとまで言われる。だからクルマだってバイクだって大枚はたいて軽量の鍛造ホイールに換装したりするのだ。そんなキモの箇所を世界の逸品みたいなのに交換しといて、オマケに大半が乗り心地で劣るクリンチャー履いてる中、しなやかさでは今でも一線級のチューブラータイヤではインプレもヘチマもなかろう。初めから比較にもならない。

 こういったあらゆるセコい真似を駆使してていくらなんでもそのアンフェアさに良心が咎めたのか、或いはそれでも権威を守りたい卑小な保身故か、苦し紛れの実に下手な言い訳や襤褸、矛盾が出てくる。例えばその肝心のホイールに関してだ。
 たとえば41ページ、エヴァディオって国産ブランドの「ヴィーナス」っちゅうモデルに関してもう一人のコメンテーター山本健一という人の評はこうなってる。

 ----非常にとがった印象だったが(註:最初に発売されたのは2009年)、ライトウェイトのホイールの恩恵か、ほどよくマイルドなバイクのイメージになった。ショック吸収性は4点としたが、以前に較べポイントアップ・・・・・・(後略)。

 jじぇんじぇんフレーム関係あらへんやんか!!ちなみにこの自転車、基本はフレーム売りなのであるが、もぉ岩のように猛烈にガチガチなことで知られている。そんな発言が出てくる一方で後半、「ロードバイク座談会」というコーナーでの細沼達男、菊池武洋という人からこんな発言が飛び出してくる。

 ----(前略)・・・・・・よくホイールが異なると、印象も違うだろうと言われるけど、そこは経験に基づいて評価にブレがないように心がけています。
 ----(前略)・・・・・・今は用意されたまま乗るようにしています。そうは言っても、気になる場合はホイールを入れ替えることもある。ただ、原稿にするのはスペックに書かれたモノです。

 何なんだよ!?この歯切れの悪さは、曖昧さは!?もぉハッキリ言っちゃえばいいのだ。自転車なんてホイールとタイヤでガラッと乗り味が一変します、って。正直、よぉ分かりまっしぇん、って。
 こんなド素人のおれだって、タイヤをコンチネンタルの4000からヴィットリアの安物であるルビノに交換したら、イッパツで滑らかさや振動吸収性が落ちたの分かったくらいだもん。クリンチャーの銘柄変えただけで、それだけ変わるんだよ。クルマだってほれ、ノーマルタイヤからスタッドレスに替えると、車線変更の時とかに腰砕けになってヒヤッとすることあるけど、それ以上ですよ。

 いろんなパーツのコンポーネント化とメーカーの寡占化が進んだ結果、自転車のメーカーとしてのオリジナリティの差なんて今やフレームの差、だけになってる。あとはまぁパーツチョイスのセンスくらいか。そしてその差にしたって剛性の高いモデルになればなるほど、つまり上級モデルになればなるほど僅少になってくる。だってひたすら硬くなるんだもん。残るのはキャスター角やトレール量、ホイールベース等のスケルトンの差くらいだろう。しかしその良し悪しなんて乗り手の属性に大きく左右される部分でもある。
 つまり答えはもう出てる。こんなにも条件がバラバラ、かつ取材用に特別に上等パーツを組み込んだのを並べて乗り比べしたってマトモな比較も評価も出来る訳がない、って答えが。
 公平に比較するにはフレームは全部塗りつぶしてブランドを分からなくし、それ以外のパーツ、特にホイールとタイヤを揃えることが重要なのだろうが、どうしてそこまで徹底してやらないかっちゅうたら、それだと望まない結果が出て自分たちのメシの種がなくなるからだ。上出の菊池は「フレームとの相性の問題」なんて言うけれど、それがホンマにあるんなら、何種類かのホイールセットを用意しといてそれぞれを載り較べてみれば済むことだ。否、そもそも「フレームとホイールの相性」なんて実は下駄履かせの言い訳に過ぎない。何となれば、本のあちこちに「もっと軽量ホイールに履き替えればこのフレームの性能が引き出せるかもしれない」なんて調子いいこと書いてあるのだから。

 ああ、忘れるトコだった。本の主役であるシャチョー・今中の発言だってナカナカに巧妙な仕掛けに満ちている。
 スチールフレームのモデルはおよそ10台ほど紹介されてるのだが、念押しでもしたいかのように「クロモリだからと言って振動吸収性が良いと言うわけではない」とのコメントがあちこちで出てくる。自分トコの製品については読者の誤解を大いに招くような表現をガンガンしてるくせに、えらく鉄にだけは厳格なのである。いや、むしろ読者に購入を躊躇わせるよう盛んに牽制球を投げてネガティヴキャンペーンを張ってるようにしか読めない。何故だろう?
 引き算していくと理由は一つしか残らない。ただもう自分のトコの取り扱いに鉄フレームがないからである(以前は街乗りピストであった気がするが・・・・・・)。僅かな車種を覗いて全部カーボンで占められているから、鉄にこれ以上復権されちゃ困る・・・・・・邪推と言われちゃうかもしれないが、おれにはどうしてもそう読めてしまうぞ。
 もし、インタマから本格的な鉄フレームがリリースされでもしたら、たぶんコメントはコロッと変わるんだろうな。間違いない。

 とまれ、健全な肉体に健全な精神は宿らないもんだ、っちゅうことが、コイツ等を見てるとホント良く分かるわ。

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 大体、自転車なんて乗る人の体重や体型、筋力によっていくらでも性能や乗り味が変わる。アナタがマドン6.9とかのツール優勝マシンに乗ったからって速く走れる保証はどこにもない。大抵の人にとっては硬いばかりで持て余すフレームだろう。スキーやスノーボード、テニスのラケットでもあまりに上級者用だと硬くて扱いにくいのと同じ伝だ。特化したものは、使える幅が狭いし、性能を引き出せる人を選ぶのだ。

 結局は値段とかブランドとかに惑わされず、たとえ華はなくとも自分の身体能力と乗り方に合ったもの、たとえば今のおれなら硬すぎもせず柔らかすぎもせず、長距離をスピードと快適性をバランスさせられるものがいちばんいい。実はほとんどの人がそぉいった辺りを求めてるのではなかろうかと思うのだけれど、そんなシチュエーションに似合いそうなモデル、あるいは表現は、当然ながらこの本の中には数えるほどしか載ってなかった。
 そのことについて文句言う気はサラサラない。この本に掲載されてるモデルの大半は一般ピーポーにとって「垂涎の的」っちゅうヤツであって、たいていの人は指咥えて見てるだけだろう。それはそれで仕方ない、どころかむしろそうあるべきだ。本が売れるためには必要なことなのだから。

 それぞれのコメンテーターもロクでもないが、こうして考えてくと、版元が竢o版であるってことがいっちゃん問題なのかも知れない。
 この出版社、趣味の世界に関する出版物で近年急速に成長したトコだけど、どれ読んでもいろんな業界や著名人に阿るような感じがあって、それを豊富な図版で糊塗しているようなのが目立ち、少々いかがわしい。
 読者層の狙い方が上手いとも言える。貧乏質に入れてまで、家庭崩壊させてまで趣味に入れ込むほどの変人畸人を相手にするのではなく、円満かつ金満な好事家を狙ってその見栄とペダントリーを刺激するような編集方針が共通してある。コアすぎないそこそこのヲタクとでもゆうたらエエんだろうか、生活力のあるアッパーミドルを対象にして、その世界を何も知らんヤツがオオ〜ッ!と感心する程度の薀蓄を傾けられる程度のペダントリィを演出する・・・・・・。

 しかし、言いたい。物欲や虚栄心が愚かであることを百も承知の上で、言いたい。そんなガキっぽくもピュアな気持ちだけは最低限利用してはならない。つまり、そこに巧妙に商売の都合のバイアスやトラップを掛けるようなことだけはしちゃ絶対ダメだ、と。

2010.02.28

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