「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
やっぱ鉄だね!!


繊細な美しさで鉄に優るものはないっすな(DE・ROSA "NEO PRIMATO")

 ・・・・・・そんな結論に達した。いや、チャリのフレーム素材の話ね。

 おれが懐古趣味でおっさんだから、ではない。ただもう吝嗇だからだ。カーボンはおれにゃ勿体無いって思えてしまうのである。何が勿体無いか?っちゅうと、「見栄を張ることのできる期間」が短か過ぎるのである。ステータスの償却期間、と換言してもいいかも知れない。決して安くはないものを買う以上、そこにヴァニティが滑り込んでくることは人の情からして仕方ない。虚栄心だな。カーボンはその費用対効果が低すぎるように思えるのだ。

 言うまでもないことだけど、もしおれがバリバリのアスリートで、たとえ趣味とはいえいろんなレースに毎週のように参戦しているのであれば、結論はまったく違ったものになってたろう。求められるのは結果を出すためのウェポンであるからして、少々重くたってなんて有り得ない。永く使う、なんてのも勿論なし、1年で使い捨てだ。ひたすら1グラムでも軽く、しかし硬く、強く、全身の筋力を全て推進力に変換してくれるようなピュアで精密な機械、それだけを求める。そうなるともう今の時代カーボンしか考えられない。実際世の中、レギュレーションの関係で鉄しか使えない競輪の世界以外は、すべてカーボンの独壇場となってる。

 現代のカーボンはパイプをラグで繋ぐ方式がすっかり少数派になり、金型に入れて焼いて作るのが主流になった。基本的にプラモデルやたい焼き、あるいはモナカの皮みたいなもんだ。だからどんな形でも自由自在に拵えることができる。鉄パイプの溶接では到底ムリなマッシヴなフォルムがいとも簡単に作り出せるし、30トンだ40トンだとカーボン繊維の強度を組み合わせることで、これまた自由自在に掛かる応力に合わせた強度としなり、反発性の配分ができる。リサイクルに難があるのが目下最大の課題とはいえ、21世紀はカーボンの世紀とも言われるほどにとても優れ物のマテリアルなのである。

 ただ、趣味の乗り物の素材としてみた場合、この「自由自在に」とか「いとも簡単に」がネックとなってくる。次々に新型が出て来るもんだから、陳腐化のペースが異常に速いのだ。驕る平家は久しからず、栄枯盛衰がひじょうに激しい。例えばスコットのCR−1なんてフレームが代表例だろう。卓越した軽さで一世を風靡したのも束の間(正しくは4年)、いまいちパッとしなかったこのブランドをトップメーカーとして世間に知らしめたその功績は極めて大とはいえ、後継モデルのADDICTが出た途端のバケツで一気にセカンドグレードに転落しちゃった。値段もバカみたいに安くなった。ホンマ最初にクソ高い値段で買った人、泣きまっせ。

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 一方、それに較べたら今ある鉄はどれもこれももぉ呆れるほどにモデルサイクルが長い。有名なコルナゴのマスターXなんて四半世紀も変わってない。デ・ローザのネオプリマートなんてーのも前身のプリマートから基本設計ほとんど変わらないまま70年代から綿々と継続販売されている。チネリのスーパーコルサに到っては一体いつからあの形で売られてるのか分からんくらいに古い歴史がある。国産も忘れちゃいけない。アンカー(ブリジストン)のRNC7なんてフレーム、もう発表されて20年だ。えーっとパナモリはもちょっと長かったかな?・・・・・・ともあれ、どれもこれも細部はチョコチョコ変更を受けつつも、カラーリング以外の全体の見た目は何も変わっちゃない。

 もちろんこれには訳がある。90年代以降急速に進んだ素材革命の中で、鉄は戦う素材としての主役の座を追われ進化が止まっちゃったのである。重量と強度では新素材に勝てっこない。でも、そんな流れの中でも懐古趣味な連中は絶えることがないから、昔ながらのものを支持する。そのうち取り残されて変わらないことそのものが価値となって来る。だからブランドステータスさえ確立されてりゃ手堅く売れる。繊細な鍍金や凝ったラグの飾りなんて性能に些かも影響を及ぼさないが、とにかく細身のシルエットも相まって無駄に美しい。まぁ機械式時計みたいなもんだな。絶対性能では3千円のデジタルクォーツの足許にも及ばない。

 それでも・・・・・・いや、それ故に、か、純粋にステータスだけが残った。

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 一方、カーボンにはモデルチェンジの問題だけでなく、耐久消費財としての欠点がある。アルミは破断する、とつい先日書いたが、カーボンだって割れるらしい。焼き固めたモンだからまぁ茶碗みたいくパリン、と。それも上質の引っ張り強度が高いものになるほど剪断性は落ちてく。つまり高い製品ほど想定された方向以外から掛かる力に対して滅法弱く、取り扱いに細心の注意が必要っちゅうから厄介だ。ちょっと倒しただけでパリンと逝っちゃった、ってな話を良く聞く。オマケに割れたらそれでお陀仏。フレームだけで50万も60万も遣って、コツンと当ててパリンでは泣くより前に茫然とするだろう。嘘だと思うなら「落車 カーボン」とかでネット検索したら分かる。面白いように真っ二つになったフォークとかの画像が見つかるはずだ。
 そんなんだから組み上げや締め付けにだって神経を遣う。サドルの上下なんてけっこう頻繁に行うことの一つだろうけど、そんな些細な調整でもトルクレンチが欠かせない。規定以上の力で締め上げるとパリン、だからである。かといって緩く締めては部品の脱落とかが起きる。走ってて分解したらシャレにならん。維持・メンテがかなりめんどくさいのだ。

 耐候性の問題もまだクリアされたわけではない。カーボンカーボンちゅうけれど、CFRPってカーボン・ファイバー・レインフォースド・プラスチック・・・・・・要はカーボンで強化されたプラスチック、って意味だ。プラモデル、と最初に書いた通りで、実際プラスチックなのだ。だから、年々素材的な改良が施されてるとはいえ根本的に紫外線に弱いし、加水分解の問題もある。通常は表面を化粧カーボンで覆った上からさらに分厚いクリア塗装を掛けることでこれに対応してるけど、チャリだから石跳ねたりして小傷はどうしたって付いて行く。小まめにタッチアップしてやらないとそこから劣化が始まってしまう。

 素晴らしいマテリアルといわれながら、一般に普及が進まないのは、作る手間賃が掛かったりロスが出やすいことに加え、この辺のシビアさがあるからだろう。また、好事魔多しっちゅうか、手につくとかぶれたり、粉塵吸い込むとアスベストなんて足許にも及ばない悪影響があるのもちょとコワい。そのうち環境問題になるんちゃうかな。

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 一方、鉄はとにかく頑丈。アルミに対抗しようとした軽さ以外を敢えて犠牲にしたようなデダチャイ・EOMとかコロンバス・ウルトラフォコ、あるいはカイセイ015辺りになると、最薄部は0.4mmほどしかなくてホンマに大丈夫なんか?って肉厚で、実際気合入れて乗ると寿命は超短いらしいが、それらは極端な例外といえるケースで、一般的なパイプなら耐久性は申し分ない。ぶっちゃけ当てて少々チューブに凹みが出来てもへっちゃらなタフさがある。そいでもって値段はうんと安い。
 錆びるっちゅうたってよっぽど雨の中走ってずーっと放っといたとか、海辺の潮風の吹きつけるトコに1年中置いてるとかでなければ気にするほどのことはない。現に昔、雨の当たり年の夏にクロモリランドナーで走り回った時も、錆に悩まされるなんてことはまったくなかった。フレームの中に水入ったと思ったら、サドル外して逆さにして干しときゃあエエのだ。カンタンなもんだ。

 何のこっちゃない、残る問題はただ一つ、重量だけなのである。これだけは如何ともしがたい。もし分子配列をキチンと方向性持って並べることができれば、劇的に軽くて強いパイプが作れるって聞いたことがあるが、残念ながら今のテクノロジーでは実現できていない。

 でもさ〜、重い重いゆうてもカーボンのハイエンドよりせいぜい2kgほど重いだけっしょ?今のおれはそこ削るより、体重削る方が先決だし、そっちの方が遙かによーさん行けそうなんだもん。ボトル2本積んで(それだけですでに1.5kgくらいある、笑)、滝のような汗かいてハァハァ口で息しながら乗ってるんだもん。そんな人間に800グラム台のカーボンフレームなんて、豚に真珠だ。いや、ブタにカーボンだ。
 もっと笑える話がある。ハイエンドのカーボン乗ってると盗難の恐れがあるもんだから、バカみたいにゴッツいチェーン錠やワイヤー錠を何本も持ち歩かなくてはならず、それが余裕で数キロの重さになってしまうというのである。大枚はたいて極限の軽量を追求した揚句、デッドウェイト担がんとアカンて何やねんな。これぢゃ本末転倒も甚だしいってもんだ。

 こうしてあれこれウダウダ考えてるうちに、詰まる所一般ピーポーは鉄に乗ってるのが、所有欲や虚栄心も適度に満たされつつ、日常の使用にさほどナーヴァスになることもなく、維持も手間要らずで良いんぢゃなかろうか、ってな冒頭の結論に達したのだ。

 そんなこんなでまだ頼んだ安物フレームも到着してないのに、次に金掛けて拵えるのもやっぱし鉄にしてこましたろかいなぁ〜、などとノー天気に画策するおれなのでありました。チャンチャン。



付記:書き上げて気付いたのだけど、4つほど前に書いたのとほとんど中身が一緒だった!!どうもチャリネタは話題が広がらんなぁ〜・・・・・・ま、御愛嬌ってコトでお許しを・・・・・・。


日本の古典的傑作、PANASONICのクロモリ。進化も退化もなし。

2010.01.30

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