「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
単純明快、スノボ教室


有名なヨハン・オロフソン(JOHAN OLOFSSON)のアラスカでの狂った大滑降

 初めてスノボを履いてもう15年くらいが過ぎた。不惑はとうに過ぎ、日頃の運動不足も祟ってのこの見事な中年太りで無茶なワザ繰り出した日にはどえらいことになりそうだ。元々そんなにやらんかったし。
 それでも普通にゲレンデをカッ飛ばすだけなら今でもまずまずな方だと思ってる。自惚れでもなんでもなく、客観的にそうだからだ。普通のソフトブーツ系の板・・・・・・フリーライドなんて呼ばれるうなぎパイ型の板で、深いカーヴィングとスピード命なハードブーツのアルペンボードをつつき回すことも出来る。寝かし込んだ立ち上がりでのスイッチスタンス(180度回って進行方向を逆にすること)や、一枚バーンから分岐して沢に下りてくようなコースで、ギャップを減速せずに飛び越えてくなんてのもまぁ、百発百中とまでは行かないまでも、出来る。

 本当、自慢してるのではない。ここからが大事なことだんだけど、実を言うと今挙げたレベルのことは、ある程度の基礎的な練習と、少々の経験、そして正しく理屈を理解すれば誰でもわりかしすぐに出来るようになることばかりなのである。

 ところが初心者向けの本を読むと、どうにも効率的で迅速な技術向上には繋がらないような無駄な基本、もしくは回りくどくも格好つけるようなことばかりが書いてあるように思う。もっともっと分かりやすく、手っ取り早く上達できればそれに越したことはないのに。また、早く上達するというのはそれだけ早く安全に滑れるようになるということでもある。

 今回はそんな視点で、自分の体験を元に少し理屈の面も織り交ぜながら、なるだけ促成栽培的に基本的なカーヴィングまで覚える方法を書いて見たい。

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 まず何より第一に、「ズリズリ(板の方向と直角にソールを滑らせながら斜面を真っ直ぐ下って行くこと)」なんてちっとも巧くなる必要はない、ってことだ。たしかにあれは初歩の初歩、基本中の基本と言われる技だけれども、一番肝心なことが強調し伝えられていない。ズリズリとは「滑る技術ではなく、止まる技術である」ってことだ。
 スキーだけでなくスノボ人口も減少気味とはいえ、それでも毎年不幸にして亡くなる人が後を絶たない。その殆どは雪面で頭部を強打したことによる硬膜下出血というのが原因なのだが、専ら初心者で多発している。スノボが危険と言われる所以である。しかし理由は簡単、ズリズリだけが最初に妙に上達しちゃって、それでスピードを出し過ぎるからである。
 スノーボードは板の前後(ノーズとテール)が緩やかに反り返ることでゲレンデの上の凸凹を乗り越えることが出来るようになってるが、両側の長辺部分は砥いだ金属のエッヂである。どんなに切れ味の良い包丁でも引かずに押し当てるだけと引っかかるのと同じ理屈で、引っかかりやすいのである・・・・・・というか、そういう風に作ってある。
 そんなのがつま先と踵の真下にある。何かちょっとした雪のコブにでも当たろうもんなら、当然ながらスッコーンと足払いを掛けられたかのようにふっ飛ばされてコケる。速度が遅ければまだ受け身が取れるかもしれないが、ある程度スピードが乗ってくるともう駄目だ。アッ!と思った瞬間に雪面に投げ出される。頭打たない方が不思議ってもんだろう。
 緩斜面をひどく快調に、それも膝を突っ張ったままのズリズリで流してる人をたまに見かける。本人は曲がりなりにも(・・・・・・って、ズリズリ自体は直滑降なので少しも曲がってないが)滑れるようになったんで悦に入ってるのかも知れないが、あれは実に危険極まりない。殊にバックサイドの高速ズリズリなんて、転倒即後頭部強打に繋がる自殺行為だ。どだい前を見ずに後ろ向きに滑るだけでも危ないよね。


ヘタな絵ですんません。

 次は出来る限り早いうちから身体全体での屈伸を覚えよう、ってことだ。コツは公園のブランコを思いっきり立ち漕ぎする要領、と当面は思っていただいて構わない。前後の上死点で棒立ちになってる馬鹿はいないでしょ?必ずそこでしゃがみこむようにして、今度は下っていきながら再び伸び上がるを繰り返すことでブランコはドンドン加速して大きな振幅となって行くものだ。
 ・・・・・・で、ブランコが前方に行った時の姿勢がヒールサイドで曲がる(レギュラースタンスなら左回り)、後方に行った時がトゥサイド(同じ条件で右回り)の姿勢、下死点がカーブとカーブのつなぎ目の一瞬の直線区間の姿勢、鎖の長さは回転半径、と考えちゃっていい。実際、ボードではもっと身体に対して大きく脚は前後するし、視線の置き方も異なるし、前傾もないから厳密に言えば違うのだけど、屈伸の一点ではひじょうに似ている。
 このブランコの動きをイメージして滑ることは、荷重と抜重の効いた力強い滑りを身につけるのにとても役立つ。今からでも遅くないから、児童公園に行って身体の動きと加速の関係を良ぉ〜く考えながらブランコの立ち漕ぎに取り組んでみることを是非お勧めする。

 三つ目は後ろ足をずらすのは直ちに止めよう、ってコト。今のブランコの喩えに即して言うなら、立ち漕ぎするのにどっちかの脚だけ前後に動かすなんてバカなことは誰もしないでしょ?そんなことすると踏み板が揺れてまともに前後に振れへんやんか。それと同じで、後ろ足をずらすと結局エッヂが雪面に乗らず、板の面で滑ることになるのでバランスも悪く、スピードがモサモサしてしまうのだ。こんな滑り方を「ドリフト」などと得意がってるうちは決して上達はないと断言してもいい。
 では何でついつい後ろ足をずらすのか?というと、それは詰まる所、滑って行く方向に対して身体が恐怖心から棒立ちになって後ろに逃げてるのが最大の原因だ。しかし、身体が後ろに逃げると、板は先行して加速しようとするから余計に怖い。それに板が本当に先行すると、たちまち尻餅ついてコケる。でもそれはカッコ悪いから嫌だ・・・・・・で、後ろ足で板をずらして速度を殺しつつ方向転換をする、と。

 じゃあどうしたらば後ろ足だけを出さないようにできるか?判じ物みたいだけど、要は怖がらずに両脚均等に出せばいいのだ。そのためには思い切って前足の位置のさらに5〜10cmくらいノーズよりのところにまで頭の位置を持ってくるように、後ろ脚を前脚に引き付けるようにすればいいのである。どうですか?その姿勢で後ろ足だけ出すのはツラいでしょ!?
 この「前足のさらに5cm前に身体」は自説ではない。10年来のスノボのお師匠さんから教わった。彼曰く、「それくらい身体を前に入れたつもりでも、それでも重心が板の真ん中に来てない人が大半です」とのことだ。つまり、大袈裟なくらい上半身を進行方向側に持ってったつもりでも、それでも全然前方への重心移動は足りてないのだ。ちなみにトリックの基礎であるオーリーもこれくらい重心移動を派手に入れることでポンと綺麗にテールで跳び上がれたりする。

 まぁ細かいことを言い出すと、踵と膝を充分に曲げて姿勢を落とす、膝は一定に締めておく、無理に回転方向に対して身体を向けない、腕の振りを先行させない、肩の力は抜く、肩越しに前方を見る癖をつける(自然と上体が真っ直ぐになる)、必ず身体の軸と板の面が直角になるようにする・・・・・・等々、三日三晩語っても語り尽くせないくらいに実はものすごくいろいろ重要ポイントはある。でも、あれもこれも一度にマスターしようとしたところで混乱するだけだし、上達するに従って自然と習得できることもある。
 上の3つだけをまずは徹底的に心掛ければ、それなりにエッヂに乗ったカーヴィングはすぐにマスターできる。メロウだなんだと、ろくに滑れもしないのにパークに入って怪我する前に、この「当たり前に滑る」ってことを確実にマスターしといた方が、絶対に後からの上達も早い。

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 さて、こうした精進による技術の上達ぶりは、別に友達にビデオ撮影してもらわなくったって、シュプールと滑る音で大体分かるものだ。以下の図を見て欲しい。シュプールの変化を模式的に表したものだ。


お分かりでしょうか・・・・・・。

 左端が後ろ足ずらしの状態、真ん中がけっこう乗れてきた状態、右端がかなり上級者になった状態である。要は板の前後の軌跡のずれが無くなって来ているわけだ。板をずらしているうちは、まるで巨大な蛞蝓が這いでもしたかのような跡が残る。それがだんだん細い三日月形になってきて、ついにはエッヂを切り替える際に雪面から板が離れるくらいになる。つまりは軽く飛んでいる。そこで思い切って身体回せばスイッチスタンスである。狙ってやらずともけっこう自然と出来るようになる。無論、ここまで行ければ板は思いっきり深く寝かしこまれてるから、自慢のソールの派手な柄を見せ付けることも出来るだろう。
 ともあれ、緩〜中斜面くらいで滑りながら、たまに振り返って自分のシュプールをチェックすることは本当に上達に役立つ。ま、自分ではカーヴィングのつもりなのに、どうしても今一歩スピードに乗り切れない人は騙されたつもりでやってみても損はない。
 なお、上達に伴って変化する滑る音については大昔に書いたことがあるんで割愛します。アーカイヴを適当に探してみてください。

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 ・・・・・・と、ここまで書いたのはオーソドックスなポジションの例である。おれは体重増加に伴いスタンスを標準より少し広げ、板が長くなったのもあってセットバックはやや強め、それでも回しやすいように角度の入れ方を今は前足12度、後ろ足3度とかなりの浅め(ちなみに昔は24度・12度)にしてる。でも、おおむね基本セッティングからは大きくは外れていない。そんなんだから、ダックスタンス(所謂「ガニー」)でスタンス幅もガッと広めにして、スケートライクにちょっと後ろ乗り気味で、な〜んて路線を目指してる人には一見合わない点もあろうかと思う。また、腰まで雪につかるようなバフバフのオフピステでは浮力を稼ぐためにかなり後傾になったりもするので、あくまで通常のゲレンデを例に取ってることもご理解いただきたい。

 しかし、理屈を突き詰めると必ず同じところに行き着く。これは間違いない。また、上にも書いた通り、パークで跳んだり跳ねたりを目指す人にもこの基本的カーヴィングの習得は役立つ。「GO BIG!」とかナンボ口でいくら言ったって、バランスと荷重が効いてスピードが乗ってなくてはまともなトリックは決めれないし、却って危険でもある。ハヤる気持ちはここは一つ抑えてクールになった方がいい。少なくともおれは上の3つのポイントに気づくことで劇的に滑りが変わったし、転倒も減った。

 そんなこんなで、ちょお〜っどじっかんっとな〜りまっしたぁ〜っ♪
 オールドスクールなオッサンの話に最後までお付き合いいただきましてありがとうございます。怪我せんようにね〜。
 それではみなさん!ごぉ〜きげぇ〜んよぉ〜〜〜〜♪

2009.12.31

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