「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
カムイ・ミンタラ・・・・・・山で死ぬということ(2)


これ見て、タイトルとの繋がりが分かる人は超マニアやね(笑)。

 以前、かなり辛辣な内容で中高年の登山ブームについて書いたことがあるけど、またまたとんでもない大量遭難事故が北海道で起きた。みんな中高年、っちゅうかジジィ・ババァばっかし。それが大雪山系縦走中にいっぺんに10人近くもトムラウシ山周辺で亡くなった。夏山遭難では過去最大らしい。

 それにしても、だ。現時点ではまだ色々報道が錯綜して事実関係が良く分からない点も多いものの、分かってる情報からだけでもいささか呆れる他ないような顛末である。あまりにショボくてアイタタタタだ。
 結果だけ切り取って言うのも悪いとは思うけど、同情の余地は正直ほとんどない。登山については耳年増なだけであまり経験のないおれでさえ、さすがにこれぢゃぁグダグダ過ぎると思うのだ。要は遭難は起こるべくして起き、そして、みんな死ぬべくして死んだ。生き残った方がむしろおかしいくらいにすべての状況はマヌケだった。

 ザッと事実を総括する。山岳専門の旅行代理店が募集した大雪山系縦走ツアーに参加した、全国から集まった年寄り15名とガイド3名の総勢18名が行程の3日目、台風並みに大荒れの天気の中、トムラウシ山への登頂を強行しようとして(あるいは下山宿泊地であるトムラウシ温泉へ向かおうとして)遭難、ガイド1名を含む8名が凍死した。この日は他にも遭難が相次ぎ、死亡者は全部で10名に上った・・・・・・これが全貌である。

 これだけ読むと何だか天気が原因のように思えるが、背景も含めて細かく見て行くとこの遭難が人災であることがだんだん見えてくる。

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 まずは一行の編成。端的に言っちゃうならこりゃ「烏合の衆」っちゅうヤツである。どんな性格か?どれだけの体力か?どんな行動パターンを取るのか?どれほどの登山技術か?知識か?経験か?そもそも名前が何なのか?・・・・・・何一つお互いに知らない、いわばまったく気心の知れてない初対面の年寄りが揃いも揃って15人、単に目的が同じってだけで集まって北海道の最深部の一つである大雪山系を泊まりがけで行くのである。言っちゃ悪いが、こんな群れてるだけの寄り合い所帯なら単独行の方が100倍マシや、っちゅうねん。まぁ、交わされた会話も百名山登頂数自慢くらいなモンだろう。お世辞にも「登山パーティー」などと呼べる代物ではそもそもなかった。

 次にガイド。3人のうちこのコース行ったことがあるのはなんと1名のみ、っちゅうのがこれまたスゴい。それも地元に住んで自分の庭のように知悉してたのならともかく、数回行ったことがある程度、ってんだからもぉムチャクチャおっかないやんか。ほとんどブラックジョークの世界やね。
 こちらも山岳ガイドと呼ぶにはあまりにチンケ、添乗員とかツアコンに毛が生えたくらいでしかない。オマケに登山客数に較べて3名は余りに少ない。客が体力に余裕のある若者ばっかならまだいいかも知れないが、メンバーは60代が大半である。何か異変があった時のフォローは極めて難しい。

 そしてこのツアーのプログラム自体がすごい。パッケージツアーの登山が存在するってこと自体はおれも以前から知ってたが、興味もないし、まさか内実がこんな体たらくだとは知らなんだ。
 ポイントは3つあると思うが、まず一つには天気の悪化による停滞を見越し、連泊の縦走の場合は予備日を織り込んでおくのがフツーなのに、それが一切ないってコトだ。それだとやはり心理的に無理が出るし、帰りの飛行機とかも気にせんといかんし・・・・・・ってーかおれみたいなんの普段のクルマ使った旅行だって、日数に応じて適当にブランク作ったりするけどなぁ(笑)。
 2つ目は遭難には直接関係ないが、宿泊場所を初めから避難小屋に設定してることだ。避難小屋は山小屋ではない。その名の通り、何かあった時のために設けられたものだから、そこにウジャウジャ泊まるのを大前提にするなんてのは言語道断、横着である。本当に万一のことが起きた時に、他の登山客を殺すことにもなりかねない。
 3つ目は恐ろしいことに、空身でも行けると勘違いさせるくらいのイージーな誘い文句。ハッキリ、「自分たちが本来背負うべきモノまで背負わなくていいよ」と謳ってたことだ。食事、作りまっせ〜。テント・シュラフ、用意しまっせ〜・・・・・・どんなカラクリか、っちゅうと、別の歩荷が件の避難小屋にそれらを用意して待ってるワケだ。
 しかしそれは行動中に不測の事態が起きた時、自分の身を守る物がないってコトの裏返しに過ぎない。いくつものルート・小屋のある日本アルプスならともかく、いったん歩き始めるとエスケープルートも逃げ場も乏しい北海道でどないすんねんやろ?と素朴に思う。

 日程プラスできれば2日分くらいの行動食兼非常食は自分で用意してたんだろうか?
 予備も含めた化繊のアンダーウェアに厚手・薄手のフリース、タイツ、ソックス・手袋は持ってたんだろうか?
 低温下でも着火するプロパン系のガス、あるいはガソリン・アルコール等の火器やキャンドルは用意してたんだろうか?
 ツエルト(※)、できれば軽量山岳テント、エマジェンシーブランケット(あ、MPIのね)、嵩張るが断熱性の高いリッジレスト系のマットは?

 ・・・・・・全部で何リッター・何キロになんねん?(笑)

 まぁ、自分で担ぐんだからジャンジャン持ちゃぁ良いってモンではなかろうし、それでも死ぬ時は死ぬんだが、人跡果つる大雪やろ?ほんな「手ぶらで行けまっせ〜!」みたいな宣伝文句、いくらなんでも緊張を弛緩させ、遊びキブンを助長しやせんかい?観光ちゃうで。
 ともあれこれで、見た目楽勝、一皮むくと万一のリスクヘッジがどこにもあらへん、っちゅう危険極まりない貧弱装備の御一行様いっちょあがりである。これまでこの企画が無事故だったのは、単に運が良かっただけにさえ思える。

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 何もなければいかにも山のベテランに見えるが、その実態は本州の低山ハイク程度の脆弱極まりない体制のまま、このハッピーな御一行様は致命的な判断ミスを犯す。

 7月16日、恐らくはメンバーのだれかが帰路を急いで下山を強く主張したのか、あるいはガイドがツアー中止によるクレームや上からの叱責を恐れたのか・・・・・・ま、その辺は追い追い明らかになってくんだろうが、夏とは思えない西高東低の気圧配置で朝から強風と横殴りの氷雨が降る中、彼等は避難小屋からトムラウシ温泉に向けて出発したのだった。いくらか躊躇・逡巡はしたものの、結局はリスクの高い方を選んだ。もし、を今さら言っても始まらないが、避難小屋に停滞してジッとしておりさえすれば、恐らく全員助かっていた。
 行くのは出発点より標高の高いトムラウシ山を巻きながらのコースである。ティンバーラインを超え、雨も風もモロに吹き付けるルートだ。あとはさらに自らの寿命をいたずらに縮めるかのように、判断は悪い方ばかりを選択して行く。恐らく、最初に動けなくなった者が発生したあたりでみんな完全にテムパッてしまったのだろう。

 ルートと所要時間を見れば彼等が最初から如何にヘロヘロだったかよく分かる。フツーに歩ければ10時間くらいで全踏破、めでたく国民宿舎到着だが、5時間で全体の2割くらいしか進めていない。雨風でマトモに歩くこともできなかったのだ。なのに何故か彼等はそれでも前進を止めなかった。動けなくなった者を残して進み、さらに動けなくなった者を残し、そいでもって最後は散り散りバラバラ・・・・・・最悪だ。

 ニュースで彼等がビバークに使ったテント見て驚いた。生地の色分けとサイズからすると、どうやらクソ重たいコールマンのファミリーテントである。フライは吹き飛ばされ、ジオデシックらしき骨が近くに転がり、インナーだけになっちゃってる。当然っちゃ当然で、フライとフレームの接続はバックルではなくフック、あとはちっこいベルクロ、ちったぁまともな耐風性を確保するにはビンビンにガイロープ張ってようやっと、ってな仕様のヤツだ。図体もデカく背も高く、あんな岩場でキチンと張ることなんて到底無理だ。無論、インナーだけだと雨はダダ漏れ。ちっとも山道具とは呼べない。とまれ、これが旅行屋の用意した装備とやらの実態だった。

 それでなくともこの辺の有閑ジジババには莫大な年金持ち逃げされてるっちゅうのに、その救出に多数の自衛隊員が・・・・・・つまるところ多額の税金が投入されたことにおれはものすごくハラが立つ。盗人に追い銭だ。ちゃんと遺族と生き残った連中で費用を弁償しろ、と言いたい。
 甘言を弄して募集した方も募集した方だけど、こんな杜撰で各人の主体性ゼロな内容の山行に応募した方も応募した方で、つまり、どっちもどっちとおれは思うのだ。TVで助かったオヤジがガイドを非難するようなことをヌかしてたけど、おれには妙に癇に障った。どのツラ下げてエラそうに言えるねん!?テメェだって同じ穴の狢ぢゃねぇかよ!と。

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 アイヌ語であの辺は「カムイ・ミンタラ」と呼ぶらしい。その意は「神々の庭」だそうな。短い夏には可憐な高山植物の花々が咲き乱れ、その美しさは天上の楽園とも言われる。しかしそれは詰まる所、地衣類だとか這松だとか、そんないじけたようなんが地面にへばりついてようやっと自生できるだけの峻烈過酷な地であるってコトに他ならない。

 何だか今回の遭難事件、おれには10年前の神奈川・玄倉川での水難事故に近いモノを思い出させる。山の天気をナメ切った無知な連中が、再三の避難勧告/要請を無視どころか罵倒し続けた挙句、増水した川の中州で孤立し、最後は濁流に流された。彼等は死ぬべくして死んだ。あれも天災ではなく人災(それも120%自業自得の)だ。ネット上で「DQNの川流れ」と揶揄されるのも頷ける。
 道具をいっちょ前に揃えてただけで、彼等はオートキャンパーと呼ぶのさえいかがわしい連中だった。キャンプする資格はなかった。まったく同情はできないし、他のオートキャンパーがこのような連中といっしょくたに見做されることにおれは不快感を覚える。

 まぁ、あそこまでひどくはないにせよ、しかし、このジジィ・ババァ達、いくら業者の甘言に乗せられたとはいえ、自分たちが厳しく選び、背負わねばならない荷物まで放棄した時点で、思考回路は既に玄倉川のバカヤンキーにけっこう近い立ち位置にいる。つまり、彼等に大雪縦走なんて登山の大ネタかます資格なんざハナッからなかったのだ。

 そして、今の日本の中高齢者の浅薄な登山ブームを支える連中の大半が、この遭難者たちと大方似たり寄ったりのメンタリティであるのは言うまでもないことだろう。



※附記:ツエルトの有効性について
 素材がゴアテックスならともかく、通常のナイロンツエルトは通気性確保のために耐水性が低くなっている。今回の雨量がどれくらいかは知らないが、大雨ではあまり役に立ってくれない。ピンと張れたらともかく、かぶった場合はテントのインナー同様、触れたところから水が浸みて来たりする。また、結露もすごい。
 したがって必ずしも万能選手ではないし、危機の際の特効薬でもない。必ず携帯すべきものだが、過信は禁物だろう。

※2009.08.17追記:コールマンテントの謎
 TVに映っていたコールマンのテントは登山道整備業者がデポしていたのを偶然この遭難者一行が発見したものらしい。何で10kgを優に超えるのを持ってたんだ?という疑問はこれで解けた。つまり彼等はテントを持っていなかったのである。

2009.07.19

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