「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
スポルティーフ再考


一部のレトロマニアだけのモノにしとくのは勿体ないって思いません!?

 不便だな〜、と思うことがロードバイクに乗ってるとままある。

 まず、何より雨が降った時。なんぼ綺麗なアスファルトとはいえ路面は意外に汚れているもんで、泥ヨケがないから多少の雨でも巻き上げた水でけっこう全身ドロドロになる。雨に濡れるのはまだ我慢できるが、跳ね上げは汚ねぇったらありゃしない。次に、積載性の悪さ。出先で何かを買い込んだ時、背中にリュック背負ってればそれに詰め込めるとはいえ、やっぱそれだと蒸れるし、夏の日などリュックでは背中からの放熱が十分にできないためか暑さにバテるのも早い。キャリアがあればなぁ〜、と思うのはやはり人情だ。

 オマエなぁ〜、ロードバイクっちゅうんは純粋にスピード出して走ることだけを目的に作られたモンや、自転車のF1や。そんな泥ヨケだキャリアだとは不純の極みっちゅうねん。初めっからロードなんか乗るな!選ばれし者だけが乗って然るべき自転車がロードバイクなんぢゃわいっ!・・・・・・と、お叱りを受けてしまいそうだけど、そんな誰も彼もがひたすらスピードだけを追求したくて目を三角にしてロードに乗ってるわけでもあるまいと思うし、使い方や所作を限定しようとする厳格主義にはどこか狂信の影がある。

 MTBが普及した頃からか、すっかり自転車の泥ヨケはママチャリのようにダサいものになってしまったし、カーボンフォークの普及と共に控えめなフロントキャリアでさえ見掛けなくなってしまった。そいでもって鶏ガラみたいにスカスカでシンプルなのこそが自転車なり!みたいな風潮になっちゃった。

 いくらシンプル・イズ・ベストとはいえ、本当にそうなのだろうか?

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 今やもう絶滅寸前だが、かつては「スポルティーフ」と呼ばれるカテゴリーがそれなりの人気を博していた時代があった。「快走車」などとも呼ばれていたような記憶がある。ギアレシオはロードと同じでフロントが52×42(昔はやたらとインナーまでデカかったのだ)、リアが11×23くらい、タイヤは27インチでちょっと細身の1−1/4くらいの幅のW/O履いて、泥ヨケと小さなフロントキャリア付きだが、ダイナモランプは重くなるから付けず懐中電灯だけ、なんてーのが概ね標準的なスタイルだったように思う。
 いわばランドナーとロードの合いの子のような仕様だった。そぉいやブレーキもセンタプルっちゅう、サイドプルとカンティの中間みたいなものが付いてたような気がする。自転車文化の例に洩れず、元はフランスのブルペ(長距離耐久レースみたいなもん)なんかに使うのための様式が発展して出来上がって来たカタチらしい。
 今の市販車のラインナップで言うと、ラレーとかビアンキその他、いくつかのブランドの片隅にそれらしいものが残ってる。

 ところがこれらのスペックを見てると、どぉにもこぉにも懐古趣味一辺倒なのである。Wレバーに飴ゴムのグリップ、スリッパみたいなトゥークリップ、皮もどきのバーテープ、古めかしい暗めの色遣いや塗り分け、ロゴマーク、36Hの細かいスポークのホイール、取って付けたようなブルックスのサドル・・・・・・etc。
 ホントはね!ね!変速はユーレーやサンプレなんでしょうけどね!フロントはTAとかルネ入れてね!やっぱブレーキはマファックでしょうな!サドルもイデアル欲しいんですけどね!・・・・・・ってな道具ヲタな様式美への憧れが露骨に透けて見えつつ、その割に肝心のフォルムを決定づけるフレームだけはスローピングになってたりして、いささかどころかかなりこっ恥ずかしい。金貯めて素直にトーエイでオーダーしろよ、って(笑)。
 誤解のないように申し上げると、レトロ趣味をおれは決して悪いとは思わないし、そぉゆう古めかしいカタチに惹かれる自分がいることも事実だ。ビルダーが良くこしらえそうな淡いメタリックピンクとかブルーグレーなんかで綺麗なラグの細工の入ったクロモリフレームにシルバーパーツ主体、ってな古臭い仕上げ見ると、懐かしさと共に確かな美しさも感じる。でも、その枠組みの中にのみ閉じ籠ったようなんは嫌いだ。

 話が横道に逸れたが、この一部好事家のためのランドナーと同じくらいクラシカルで、ランドナーよりさらにマイナーなカテゴリーであるスポルティーフ、現代の良くなった道路事情やその本来的な用途を踏まえて冷静に見てみるとしかし、とてもマルチパーパスなことが分かる。
 基本、足回りやハンドルはほぼロードといっしょで、他はランドナーに近いから最初に挙げたような不満も解消できる。その気になればロード並みのペースで軽やかにシャカシャカ走り続けることができ、雨が降ってもドロドロになることもなく、小さいながらもキャリアがあるから大きめのフロントバッグを取り付けることもできる。リュック担いだ時の背中の蒸れを気にせず、旅館泊まりなら空身で数泊は可能だろう。

 おれらくらいの世代に大きな影響を与えたブリヂストンのロードマンだって、今思えば構成がスポルティーフに極めて近かったのが何よりの証拠だろう。かなり記憶がアヤフヤだけど、カスタマイズすることでロードっぽくもランドナーっぽくもプロムナードっぽくも仕上げるようなパーツが揃ってたような気がする。中途半端っちゃ中途半端だが、やはり便利で使い勝手がいいのだ。
 現在のこのカテゴリーの問題はどれもこれも市販モデルがわざとレトロにこしらえてあったり、あるいはそぉゆう方向付けがみんなの意識の中でもなんとなくなされちゃってることだ。日本人は型にハマるのがホントに大好きだと思う。

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 もちょっと柔軟に考えたらエエのに、って思う。そもそもはスポルティーフなんて、スプリントな作りのロードバイクを長距離に使えるように転用してできたモンなんだから、今の技術を用いてその通りこしらえたらばいいだけなのだ。

 まずは変速。ムリに使い辛いWレバーにすることもあるまい。STIやエルゴはやっぱし楽で便利で確実だ。ホイールだってスポーク切れるのは怖いけど完組で安くて性能良くてカッコいいのがいくらでもある。カーボンフォークがアカンとも言わん。荷物から掛かる応力に耐えるようなダボ穴を途中にくっつけてくれりゃいい。前述の通りクロモリの繊細さは好きだけど、別にそれだけに限るべしとも思わない。安価なアルミだって、カーボンだってチタンだって構わない。泥ヨケだって古風なバフ掛けアルマイトのピカピカしたものである必要はないし、それこそポリカーボネイトやカーボンといった最新の素材と技術を使えば,もっと軽くて機能的でカッコいいものが作れるだろう。塗り分けも地味なマルーンだとか紺とか緑とかばっかしぢゃなくて、ド派手な原色、あるいはおれはあまり好きぢゃないけどヌードカーボンだって構わんやん。ほいでもってタイヤは25Cくらいにワンサイズ上げればいい・・・・・・ま、23Cのままでも全然問題ないだろけど。

 ・・・・・・いろいろ書きまくったけど、要は基本的にロードバイクに泥ヨケとキャリアが付いてくれたらいいのだ。要はそれだけ。

 そんな視点で自分のチャリの細部をツラツラ眺めてみた。ほしたら、ア、アカンではないか・・・・・・事態は実はそんなに単純ではないことが分かった。カーボンフォークぢゃキャリアはどうしようもなくムリだし、フルサイズの泥ヨケにしたってダボ穴ないからステーが付かないのは最初から分かってたが、何より土台となるフレームがビミョーに厳しいのだ。ホイールベースを極力短くするためかタイヤとフレームの間が殆ど空いてない。余程ペラペラのものでなくてはこの隙間は通らないだろう。そんなんあるんかいな?

 もう「クラシカル」とか「古き良き」とか「落ち着いた」とか、そんな修飾のまったく似合わない、最新技術とパーツを目一杯詰め込んだモダンなスポルティーフをどこか出してくれんもんですかねぇ?使いやすくていいと思うんですけどね〜・・・・・・え!?最近ハヤリのクロスバイクがそぉだ、って?でもあれ、ドロップハンドルとちゃうしな・・・・・・。

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 しかし、こうして書き散らかして数日後の会社帰り、何たる偶然か、おれは見かけてしまったのである。

 フロントバッグはなかったけど、アルミフレームで派手なロゴと塗り分けのロードに樹脂製の丸っこい泥ヨケむりやりつけたのが駐輪場に停まってるのを。律義にスタンドまで付いてた。

 ・・・・・・やっぱクラシカルな方がいいかも、と思った(笑)。

2009.05.19

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