「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ワタシがオフロード4WDを止めたワケ


売られて行く日。ドナドナの気持ちがちょと分かった。

 昨年の今頃だったか、クルマを乗り換えた。思えば途中しばらくホンダのS−MXっちゅうのに乗ってた時期を挟んで、15年くらいの長きに亘ってオフロード4WDに乗ってたことになる。

 乗り換えに至った直接の原因は,あの狂乱とも言えるガソリン価格の異常なまでの高騰だったのだけれども、それで買い替えたのがハイオク指定のヤツだからこりゃもう語るに落ちるってモンだろう(笑)。実はかなり前からもうオフロード4WDもそろそろ潮どきなのかなぁ〜、って気持ちになっていたのは事実だ。今日はその辺をあれこれ書いてみよう。

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 最初に申し上げると、おれは最後までパジェロの陰に隠れて地味だったこのビッグホーンってクルマをひじょうに気に入っていた。1台目に装着してたブラッドレーってホイールが使い回しできたってー実利的な意味もあるけど、同じ型を2台も乗り継いだ専らの理由は何よりサイズに対して車内が広く、ノーマル状態でも十分に脚が長く、なおかつ動力性能がちょうど良かったからだ。以前も書いたが、車幅が1,700o少々というのは1台で街乗りもして山にも行くというのにとても都合がいい。
 ところが、この手のナローボディは見栄えやハッタリの点でいささか劣るモンだからイマイチ不人気で、オーバーフェンダー付けてこれ見よがしなワイドタイヤ突っ込んだようなんばかりが巷に溢れることになってしまった(ビッグホーンにしたってモデル中期にワイドボディが投入されている)。車内が広がらんのに車幅ばっか広がったってちょっとも意味あらへんやんかとおれは思うのだが、世の中の考えは異なるらしい。狭い林道入り込んだらワイドボディなんて邪魔なだけやのに。
 90年代終わりくらいまでは、それでもハイラックスサーフやテラノ、プラドあたりにまだ5ナンバーちょぼちょぼのナローボディが細々と残ってて次の車種選びも辛うじてできたのだけど、それらもその内無くなってしまった。かといって今のまま乗り続けようにもどだい、いすゞ自体、乗用車から撤退してしまった。ディーラーが近所になくなるのは、それでなくてもトラブルが発生しがちなオフロード4WDにとってはまっことツラい。

 そもそも15年の間にオフロード4WDを取り巻く環境は厳しくなり過ぎた。

 何よりブームが去って車種が減ったこともあるし、良く分からないファミリー的ラグジュアリー志向とでも呼べばいいのか、セダンと変わらないような内装やオプションばかりが重視され、前述の通り無駄に車幅が広がったワリに脚は短く、最低地上高は下がる一方で、マトモに林道さえもトバせない「見た目だけオフロード4WD」が氾濫してしまった。CR−VとかRAV4とか、どこをどう考えても最悪だ。格好に見合うだけの意味ってモンがまったく無いんだもん。そんなのどんな理由付けたって、詰まるところパチモンだ。

 年々厳しくなる排ガス規制や、夏の夜の田圃のカエルみたいなエコエコエコエコの大合唱も、基本的に図体デカくて駆動部品から何から堅牢さが求められて重くなりがちなオフロード4WDには極めて不利だった。タフだけを絵に描いたようなランクル70なんてぇ傑作もこれで国内からは淘汰された。積載性だってワンボックスに較べたらボンネットの長さの分、やはりどぉしたって見劣りする(十分広大だけどね)。ガタガタのダート走ってこそのオフロード4WDなワケだ。だからビカビカのビレットホイールでハマーなんぞ乗ってるヤツなんて、間違いなくどうしようもない見栄坊のアホだ。

 その能力を発揮して走れる場所も年々減ってく一方だ。おれがビッグホーンに乗り始めた当初でも既にダートは減る一方だったが、それでも当時は関西在住で山に行きやすかったし、ヨメの実家方面ならば何本も抜け道に使える基幹林道があって随分楽しめた。実際、盆の最中、シビエの強力なフォグランプのありがたみの分かる真っ暗な山中を山越えして渋滞をエスケープしたこともある。
 今はだだっ広い関東平野住まいな上に、アスファルトはドンドン奥地に伸びて未舗装林道はさらに少なくなったし、あるいはゲートが設けられたりして入れないところも増えた。だいたい、ピストン林道を往復したっておれはあんまし面白くないのである。当初の目的としてはどこかに出かけて行くのにセダンで限界を感じて、林道も含めた自由なコース取りができたり、さっきの例ぢゃないが渋滞を避けて山越えしたり、最後の5kmの道程を苦も無く入れるための道具としておれはオフロード4WDを買ったのだ。

 オマケにいすゞは乗用車から撤退してしまったのである。「撤退」っちゅうけど、そんな表現は経済的な言葉のあやに過ぎない。ユーザーサイドに立ってみればこのことは「ツブれてしまった」のとまったく同義である。それでなくても元々ディーラー少なかったのに、ツブれたことで面倒見てくれる店は30km近く離れた街まで行かねばならなくなった。正直そんな面倒なことやっとれん。

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 やっとれんと言いつつ、ただでさえ酷使してる上に古くなってくりゃ、少しづつあちこちにガタが来るのは理の当然だ。

 何となくハンドルの中立がおかしくなって真っ直ぐ走らない、エンジンの始動性が悪くなりセルを何度も回さないとかからなくなる、球切れしてないのに点かないランプが現れる、エンジンブロックのシールがヘタって来てるのか駐車スペースの下にオイルが滲んでる、夏の日に登り坂を延々と走ってアクセルを戻すとエンジンが止まるようになる、信号待ちで停まってるのに突然スピードメーターが時速100kmを示す(笑)、何だかボディ全体はギシギシと軋み、リアゲートは開け閉めの度にキュウ〜ッと嫌な音を立てる、いくらオイルやフィルター交換しても元から絶望的に悪い燃費はさらに悪化して行く、大雨の中を走ったらパワーウィンドウがおかしくなった、ショックも本来の動きをしていない、あ!タイヤももう2分山くらいになってる!・・・・・・気付けばいつの間にか満身創痍の状態、平たく言えばボロボロのポンコツになっていたのだった。

 最後の車検を通した時、これらの諸症状を逐一述べて、根本的に治すには一体いくらくらいかかるのか訊ねてみた。対応してくれたオッサンは申し訳なさそうに、まぁまず軽く200万は下らないだろう、ってなコトをおれに告げたのだった。

 初代は買って僅か2年少々で亀の裏返しのようにひっくり返って全損にしてしまったからあまりあれこれ述べようもないのだけど、2代目は大活躍して結局10年くらい乗った。年式新しくて距離少ないクセに大食漢のV6ガソリンエンジンだったお陰か、最初の持ち主からは早々に手放され、僅か百万そこそこの破格値で買ったものだった。しかし、とても愛着の湧く1台で、いつしか新車で買った過去のクルマより永く乗ることになった。
 燃費の悪さにもめげず、大量のキャンプ道具やスノボの道具を積み込んではこれで中部以北を大概走り倒した。行ってない県は無いんぢゃないのかな?ここまでのライフスタイルでコイツの果たした役割は極めて大である。しょうもないハナシだけど拙サイトのコンテンツにしたって、この2代目ビッグホーンの機動力あったればこそ成り立ってたと言える。

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 過去に向かって「もし」を言ったって始まらないことは百も承知だけど、もし、いすゞがツブれてなかったら、もし、もう少し旅のコースに組み込めるダートが日本に残ってたら、もし、あそこまでガソリン価格が急騰していなかったら・・・・・・たぶん、少しづつ手直ししながら今でもビッグホーンに乗り続けてたと思うな。それくらい完成度の高さを感じるクルマではあった。弱小メーカーらしく細かい作り込みや建て付けはヘボかったが(笑)。

 今はフツーの平べったいクルマに乗ってる。車重は600kg以上軽くなり、ワハハ、燃費は何と!!3倍に改善された・・・・・・っちゅうかこれが標準か(笑)。ともあれハイオクが1割高いのも余裕でペイだ。今後、オフロード4WDに再び乗る日が来るかどうかはぶっちゃけ分からないが、今の社会の現状、あるいはこのカテゴリーの車種のラインナップ見てると可能性は薄そうな気がする。それならMTBでも買って積んでってシングルトラック走ったりした方がよほど「らしい」もん。

2009.05.17

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