「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
煽るな!・・・・・・チャリ雑誌の欺瞞


ザーッと並べただけでこれだけ。
さらに「自転車**」ってなタイトルで甘口な内容の不定期刊のムックがいくつもある。


  「CYCLE SPORTS」って八重洲出版っちゅうトコから出てる月間誌がある。自転車の専門誌では古くからの老舗で、また、もっともポピュラーなモノだろう。書店でも平積みになって売られている。

 公称20万部の発行部数だから、未曾有の出版不況の中、自転車バブルのおかげもあるんだろうが、雑誌としてはかなり頑張ってる方だろう。 ちなみに同じような老舗では「NEW CYCLING」っちゅうのもある。ヤマ雑誌で言えば「山と渓谷」vs「岳人」みたいなもんで、こっちは昔も今も変わらずマイナー。今や 後発の「BICYCLE CLUB」や「FUN RIDE」にも抜かされて公称5万部・・・・・・ああ、「岳人」に喩えたのは失礼だった。「岩と雪」・・・・・・ってそりゃ廃刊になったがな。あれあれ、あれっすよ!「新ハイキング」だな(笑)・・・・・・って、ナカナカこれも作りがファンジンっぽくて、内容も草の根的かつマニアックで、実はおらぁ大好きなんだが・・・・・・チャリや山遊びにおけるインディーズやな(笑)。
 いちびるのはともかくとして、今のおれはまぁ、久々に自転車の世界っちゅうのを見て、あまりの多様化に目を丸くしながら情報をかき集めてるのが実態なので、あまり「これ!」といって指名買いで定期的にどれかを買ってるわけではない。けれど、結果的にはこの「CYCLE SPORTS」がいっちゃん多い。

 何故なら値段が安いからである・・・・・・ミもフタもねぇな(笑)。

 大判で300ページからの厚みがあって、カラーページもふんだんにあるくせに、定価はたったの570円。ア〜タ!首都圏一円に支店を構える「ア★タレス」こと●'s ROADだとカタログは1ブランドにつき210円取られる。今時、現代やポスト、文春、新潮といった週刊誌だって350円する。そんな御時勢に、こんな立派な造作の本が570円とはいくらなんでも安すぎると思うが、そのカラクリの理由は簡単だ。
 とにかく広告が多いのだ。各メーカーの広告もあるにはあるけど、大半は全国津々浦々の自転車屋さんの小さな広告ばっかだ。明らかに昔から何も変えずに版下使ってて字がツブれちゃってるもの、フェルトペンで殴り書きしただけのようなものといった、いかにも零細産業ならではな内容のものも多い。そんなんがおおむね紙面全体の半分近くを占めてる。そりゃぁ〜、これだけ集めれば塵も積もればナンとやら、で結構な広告収入にはなるのだろう。
 でも、待てよ。なんぼ自転車バブルとはいえ、そこまで全国の自転車がどこも笑いが止ま らぬほど儲かってるようには思えないし、そんなに儲かってるならもうちっとはマシ な広告出すだろうから、実際それほど掲載料は高くないのかもしれない。

 そんなことをあまり真剣ではないにせよツラツラ考えながら記事を読んでいて、だんだんさらに仕組みが分かってきた。いやなに、そんなむつかしいことではない。要は製品に関する記事そのものが全部、広告になってんだわ。いわゆる「提灯記事」、ってヤツだな。

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 多かれ少なかれあらゆる品物に関する雑誌、殊に乗り物雑誌には同様の傾向がある。とは申せ、自転車はヨイショがあまりにもひどい気がする。ひとえにそれなりにマーケットはあるのに自動車や単車ほどメーカーの寡占化が進んでおらず、群小メーカーが林立してるのが最大の原因だと思われる。「別に自転車屋はアンタんトコばっかりちゃいまっせ!!他にいくらでも売りとうてたまらんトコはおまっさかいにな〜」ってなチョーシで、タイアップ料を吊り上げることができるのだろう。
 この点で、乗り物雑誌っちゅうより、何かスノッブかつペダンティックなグルメ雑誌に近い気もする。「いやいや、オタクのお店、今度大きく取り上げようと思ってるんですけどね〜。つきましてはですね〜・・・・・・」ってないやらしさがどこか漂うのだ。下衆の勘繰り、っちゅうヤツかな?

 最も端的にその矛盾を感じるのは、「BIANCHI」や「GIOS」の取り扱いについてはなかろうか。これらは一応イタリアンブランドだし、ものすごいハイエンドモデルも存在するし、普及ラインはわりと良心的な値付けがされてるもんだから市中でワリとよく見かける。なのに、この雑誌内ではきわめて冷遇されてる印象がある。あくまで推論だが、この2つは黙ってても売れるブランドだから、代理店が雑誌にあまり金を出さないのだろう。

 これに対し、今年からSPECIALIZED(スペシャライズド)に逃げられたダイワ精工で取り扱いが始まった「CORRATEC(コラテック)」はどうだ?これまでの日本国内での販売実績が皆無であるにもかかわらず、なぜか前面に出まくりで、記事はどれも2ちゃん用語でいうところの「マンセー」状態である。
 「WILER(ウィリエール)」についても同じ。昨年までも国内販売はあったし、代理店だって同じなのに、取り上げる記事は皆無だった。それが、昨年暮れくらいからはもう、あちこちで絶賛記事ばっかし。つまるところ生産/供給体制が整って、服部商会が国内販売に本腰入れ始めた、ってコトだろう・・・・・・あと、「MASI(マージ)」なんかもそうだな。何がイタリアなもんか。どれだけ自分とこでこしらえてるのかもよく分からないアメリカのブランドだ。イタリアの本家本元はMASIはMASIでもアタマにARBERTが付く。マジな話・・・・・・失礼しました。
 そして記事の露出度と時期を同じゅうして、そのブランドの製品が店頭に並び始める。これがタイアップでなくして何なのか?あまりにも露骨で、あざとく、デキすぎだ。

  ・・・・・・で、これらが積み重ねられて行くと最終的にどうなるか?っちゅうと、世間一般の実態とのズレ、難しく言うと「乖離」が発生する。

 高単価のモノが売れた方がメーカーとしては利ザヤが良いからだろう、現実社会ではUFOに遭遇するくらいの確率でしかお目にかかれない、目を剥くような値段のハイエンドクラスのチャリ、あるいはその辺の自転車屋で売られてるのをついぞ見たことがない高額で珍奇なパーツばかりがデカデカと紙面を飾り、手放しで絶賛され(そんな値段するんだから良くて当然だわな、笑)、一方で普及品クラスはほとんど触れられないだけでなく、提灯記事だけに決して露骨に悪くは書かないにせよ、巧みにアラを衝いた表現となる。曰く、いいんだけどね〜、ホイールを代えたらもちょっと良くなる、ブレーキがいささかプアだね、コンポーネントが車格に合ってないね、etcetcetc・・・・・・要はもっと金遣え、っちゅうこっちゃな(笑)。コメンテーターの連中なんて所詮、メーカーや代理店の走狗に過ぎないワケだ。

 これがもっとも普及してる一般的な雑誌がやることだろうか?何か、どこか、おかしい気がする。自動車雑誌で言えば「ベスト・カー」とか「月刊自家用車」が毎月、「CG」・「ル・ボラン」・「NAVI」・「GENROQ」みたいな特集ばっか組んでる状態みたいなモンなんぢゃねぇのか?って思ってしまう。

 もちろん、高い製品を載せるな、って言いたいのではない。たとえば毎号毎号、比較的容易に手の届く・・・・・・そだなぁ〜、ロードで言えば15万以下(この金額は人によって異論はあろうけど・・・・・・)のチャリの特集とかばっかしやってては、なるほど華がない。憧憬や羨望の喚起にまったくならないし、欲望も刺激されない。それはそれで寂しいことだ。

 だけど、金満中高年ばっか相手にしててもダメだ。若年層がちょっと頑張れば買えそうな普及品にしっかり光を当て、真っ当に分析的に評価することを軽んじてては、単に金ヅル相手に消費を煽動してるだけで、それこそ「文化」とか「基盤」は育たない。そのうち飽きられ呆れられ、消費者の離反・ブームの終焉っちゅう形で手痛いしっぺ返しは必ずやってくる。そんな気がする。

 その後に残る者がホンマモン、だって!?・・・・・・いや〜、単に金銭感覚の麻痺したバカ、って気もするけどな。

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 平たくゆうと、ビギナーとか若者・子供をもっと真剣に相手にしないと長期的にはやっぱダメなんちゃうん?、ってコトだ。道具の購買意欲を炙るばっかぢゃなく、たとえ安い道具だって面白さはあるんだよ、ってことをキチンと伝えるコトだ。
 どんな趣味にしたってそうなんだけど、情報化社会が進展する中で今やジャンルの細分化----要はヲタク化----が進み、妙に敷居が高くなって大らかさがなくなって来てるし、マニアックでディープでコアな情報ばっかで、一番ベーシックな部分での歓び・・・・・・いわば「原初の感動」、みたいなモンを伝える部分が置き去りにされてるように思う。そしてそれはとても不幸だし淋しいことだと思う。

 そんな、知識だけが最初から肥大化したままその世界にハマって行くなんて、趣味における不感症を助長してるだけのような気がするのだが、どうだろう?

 いやホント、たまに、でいいんだ、たまに、で。たとえば「アンダー15万限定のスペック比較&乗り比べインプレ」とか、「9速化されたSORAの魅力」な〜んてチープな特集をやってくれたら、それはそれでものすごく面白いと思うんだけどな〜、絶対。

2008.03.09

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