「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
台湾を嗤たらアカンで


台湾製だけあってとてもコストパフォーマンスの高い、いいチャリっす。

 自転車に再び目覚めたおれは、目下モーレツな勢いで最近のチャリについて学習中である。

 メーカーであるとか、トレンドであるとか、パーツであるとか興味の範囲は多岐にわたる。アッちゅう間に書架には自転車関連の本が増え、ブラウザの「お気に入り」は自転車メーカーやお店、マニアのサイトがズラ〜ッと並ぶようになった。この辺がまぁ脳内系ヲタの面目躍如たるトコだろう。知識でまず武装しないと先に進めない。何て鬱陶しいヤツなんだ、おれは!!

 一方でしかし同時に、おれはものすごいイラチでもある。

 ビアンキ(BIANCHI)ってイタリアのメーカーがある。イタリア、っちゅうだけで何かマニアックな工房のようなものを想像される方がいらっしゃるかもしれないが、いや、日本で言えばブリヂストンのようにママチャリも手がけるフツーの大手だ。実はおれ、昔からここのブランドカラーである「チェレステ」と呼ばれる薄青緑が好きで、値段も比較的手ごろなもんで買おうとしてたのだが、日本ではものすごく高人気で、いつになるか分からない入荷を待たなくちゃならない。待つのも待たせるのもおれは大嫌いだ。
 そんなんでわずか数週間でしびれを切らせて、偶然フラッと立ち寄った自転車屋で現品限りの爆安の出物があったのをこれ幸いと買っちゃった。何かあまり知られてないメーカーのだし、ホンの僅かおれの体格には大きかったんだけど、パーツ構成が良かったんで決めた。

 乗ってみたら全然OK。いやもう、こんなカッチリしたロードが10万ほどで買えるのだから、ガキの時分の自転車の値段の高さを知ってる世代としては、感涙モンである。実にありがたい話だ。

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 この、高性能と低価格、っちゅう相反する要件を満たすモノ作りをするのは、かつては日本のお家芸だったが、今や台湾である。この国は世界のパソコン工場にして、自転車工場でもあるのだ。溶接技術は今や世界一とも言われる。おれの買ったのにも「Made In Taiwan」のステッカーが貼られてある。
 余談だがこの国、今やプラモデルにもめっちゃ強い。どうやら金型を使う系も何かと得意なようだ。まぁ、カーボンフレームなんちゅうのもプラモデルみたいなトコあるから、ホホイのホイで作れるのかもしれない。

 さて、その隆盛を支えるのは、自社ブランドもあるものの、大半は海外へのOEM供給だ。チャリの一流はイタリアだと言われるが、かの国の製品にしたってそのほとんどは、メーカーのロゴこそ違えみーんな台湾の数社で作られているのが実態だ。マツダのクルマがバッヂだけ付け替えてフォードとして売られてる、アレと同じ。一概には言えないけれど、完成車でおおむね40万円くらいまでのものは大体、メイド・イン・タイワンって考えて良いだろう。イタリア本国で作られるのは、ホンの一握りのバカ高いのだけだ。

 だがここに、この厳然たる事実をどぉ〜しても許せない一群の人たちがいる。それでナニクソ〜ッ!ってもっかい頑張って、さらにもっといいもの作るならともかく、努力もせずウダウダと貶したり蔑むことで惨めったらしいナショナリズムを満足させる人、あるいはコンプレックス丸出しのブランド志向と拝欧で、台湾製っちゅうだけで歯牙にもかけない人、どっちもひじょうに多い。
 前者はもう処置なしのクズだからどうしようもないが、後者は案外、薀蓄野郎としてエラそうにしてたりする。実にナサケない。

 彼ら、白痴的ヨーロッパブランド信奉者の論理は、整理すると実にタンジュンである。

 ----台湾にはそれでレースしたりするような、古くから根ざした自転車文化がない。
     だからどんなけ頑張ったってホトケ作って魂入れずで、ダメなんだ----

 「台湾」の代わりに「日本」「韓国」あるいは東南アジア諸国、「自転車」の代わりに「クルマ」「バイク」「カメラ」「腕時計」・・・・・・まぁ最近流行の中年金満オヤヂ向けの薀蓄雑誌が取り上げるモノなら何入れたって、このロジックは成り立つ。ま、今回は自転車ネタなので風呂敷は広げないけれど。

 主張するのは一向構わない。構わないが、「古くから根ざした国の文化」なんちゅう、ビミョーでややこしいトコまで掘り下げて他人を貶めるのなら一貫性が必要だ。言行不一致は良くなかろう。
 だから君たちは、洋服なんぞまかり間違っても着てはいけない。正しく着物を着るべきだろう。無論カーチャンの作る洋食もどきも食べてはいけない。朝、食パンをかじっても、ハムエッグも、サラダもダメだ。食べるんならその国の人が調理する店に行くか、それぞれの国出身のコックを雇わなくてはならない。ましてやカツ丼、なんてーモノは文化の野合だから言語道断の極み。アンパンももっての他だ。カステラなんかもアウト。家も長屋でも何でもいいから木造でなくちゃならない。ホンの100年前までおれたちゃみんな木の家に住んでた。「古くから根ざした」鉄筋コンクリートや輸入建材なんてないんだから。

 ・・・・・・やってへんやろ!?悔しかったらそこまで徹底してから主張してみぃ!ほしたら聞いたるわ(笑)。

 いや、それよりもすぐに自殺しろ、とも言いたい。なぜならおれたち今の日本人は、古くから根ざした文化なんてものにまったく縁のない諸外国のさまざまな道具を、安く、より高品質に作ることでもって戦後、ここまで豊かになれたのだから。もちろん、死に方は古式ゆかしく切腹で頼むぞ。介錯はおれがしてやってもエエで。

 おれは北欧メタルの白人至上主義で兇悪な連中が、行き着くトコまで行った挙句、「今までやってたメタルはロックだ。だがロックはルーツが黒人音楽だ。だからメタルはもう止めた!」って宣言してる方が、まだよほどこの手のバカ共よりもスジが通ってると思う・・・・・・これはこれでムチャクチャ滑稽だけど。

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 文化のルーツに敬意を払うことは大事だ。

 しかし、それに追いつき追い抜こうとする情熱と努力にも敬意は払われなくてはならない。ましてや蔑まれることがあってはならないと思う・・・・・・って、アウトドアで言うと、おらぁスノーピークの露骨な模倣と換骨奪胎は大嫌いだったりするのだけど(笑)。

 そりゃ〜台湾の自転車だって、最初は単なるパクリと模倣から始まったのだろう。出自においてはとても褒められた代物ではなかったと思う。シマノがBSAまがいのギアから始まったように。
 出だしはパチモンなのかもしれないけれど、しかし、彼らは死に物狂いで一生懸命努力してホンモノになろうと努力し、結果も出してるではないか。今のロードの主流であるスローピングフレームにしたって、ジャイアントがその嚆矢だ。いい加減、嗤うのは止めてはどうかと思う。氏より育ち、だっせ。

 それになによりおれたちは、日本が最早チャリのOEMの供給元としてさえも選ばれなくなっていることに気づくべきだ。そりゃそうだ。人件費は高いわ、職人は減ってるわ、アルミの溶接技術も遅れをとってるわ、カーボンの金型もないわ・・・・・・で一体誰が頼むか、っちゅうねん。
 ところが、内情スカスカなそんな国で、ちょっと小金を持っただけで、実はものの真贋も良し悪しも分からない連中が、偽の比内地鶏食って「歯応えがあって美味い」ってヌかす連中が(笑)、無闇にイタリアを称揚し、台湾を嗤う。イタリア製だと思って買ったら、中身台湾製と知ってガッカリしてるくせに負け惜しみホザいてるガキとか見るとヘドが出る。最低の光景だ。脱亜入欧から百数十年、この国の落日はホンモノだ。

 個人的な話で混ぜっ返して終わろう。

 ・・・・・・とは言いつつ、ロードについてはおれもいつかイタリア製のが欲しくなる時が来るだろう。無論、絶対的に優れてるから買うのではない。純粋にヴァニティを満足させるためだけに買う。ブランドモンやでヘッヘッヘ〜!みたいなバッドテイスト丸出しで(笑)。
 そのとき台湾OEMを買うかと問われれば、買わないと答える。ヴァニティがそれで満足しないからでも、台湾製を貶めて買わないのでもない。マツダにフォードバッヂが付いたの買うよりは、フツーにマツダのクルマをマツダブランドで買った方がいいのと同じだ。

 だから逆に彼らが誇りを持ってシグネチャーを入れた「ジャイアント」や「メリダ」のハイエンドモデルを、正しく「ジャイアント」や「メリダ」ブランドとして自覚的に買うことはあるかも知れない。まぁ、ジャイアントのロードの特徴である、スローピングのキツいフォルムはちょっと好きぢゃないけれど・・・・・・。

 ああ、それより今は衰えていく一方の国産を忘れちゃいけない。思えば子供の頃、大阪、特に隣町の堺では自転車産業がひじょうに盛んだった。友人にも家業がシマノの下請けなんてーのがいた。遊びに行くと、自宅の片隅の工場ではプレス機でドッカンドッカン、トーチャンが黙々とギアを作ってたりなんかしたもんだ。あのような零細な町工場は沢山あったと思うけど、今はどうなったのだろう。

 そうだ、自転車に対する郷愁と産業復活へのエールも込めて、フレームは東洋フレーム(テスタッチ)、パーツ群を全部シマノにした「メイド・イン・ジャパン、大阪リミテッド仕様」なんかもいいかも知れないな・・・・・・。


COLNAGO「CLX」も巨大自転車製っす。スローピングがたしかにそんな感じ。

2007.11.14

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