「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
も一度ウィングタープ


全てはこれから始まった。MOSS(現MSR)の19’Parawing

 近年、どうにもタープが落ち目なように思う。キャンプ場に行っても箱、っちゅうか小屋状のスクリーンハウスばっかしで、巨大な凧のようにもムササビのようにも見えるタープは年々少数派になってきてる気がする。殊にウィングタープはメーカーのカタログラインからもほぼ絶滅状態で、あってもヘキサやレクタングラーばっかしだ。

 確かに設営後の快適性からすればタープは壁がない分、スクリーンルームより断然劣る。虫は当然のように周囲をブンブン飛び回るし、風が吹き抜けるのは当然としても、横殴りの雨だとタープの中心部まで雨は容赦なく吹き込んでくる。寒くなれば寒いし、暑いときは暑い。だって布の屋根が一枚あるだけなんだもん。
 とりわけウィングタープが絶滅状態なのも分からないでもない。生地の投影面積の割に実際の居住面積が圧倒的に狭いのだ。生地が真四角ではなく微妙に内向きに湾曲したカーブを描いているため、端の方はほとんど天井としての意味をなさないし、低いところでは実用にならない地上高だ。対角線で6m近く、一辺が4m以上の広さがあっても、実際に使えるのは2m四方くらいで、家族4人で折りたたみテーブルやらイス置くともう一杯の狭さなのだ。

 ・・・・・・それでも、と思う。おれはやはりスクリーンルームよりはタープが好きなのである。それも上記のように不便なウィングタープが。

 今回はそのことについて。

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 かように欠点の多いウィングタープだが、実は長所も多い。

 何より第一は張り上がったときの緊張と均衡に満ちた姿が美しいことだ。鈍重なスクリーンルームなど束になっても勝てない。レクタングラーも運動会みたいでダメ。ヘキサもダメだな。
 こんなコト常識で今さら書いても仕方ないだろうけど、そもそもこのウィングタープは「布の魔術師」ビル・モスが考案したものである。一世を風靡したあの「MOSS」だ。そしてここの製品の特徴は見た目の美しさを最優先した作りにある。テントに到ってははシームテープも貼ってないし(末期は貼られていた)、けっこう重いし、フルスリーブなので立てるのが一苦労な上に、ドイツもコイツも悪い冗談のように狭い。出入り口だってオマケでつけたとしか思えないような小ささだ。
 つまり実用性に劣るワケだが、圧倒的にほとんどの製品が美しい。MoMA(ニューヨーク近代美術館)にどれだったかが収蔵されたのも頷ける話だ。
 ちなみにモスさんはまだそんな歳でもないのに亡くなってしまい、その芸術性をイマイチ理解してなかったと思われるヨメはんはMSRにアウトドア部門を売り飛ばしてしまったのだが、その後MSRのラインナップから旧MOSS製品は減る一方である。この事実こそが実用性に劣る最大の証拠だろう(ウィングはまだ残ってるけどね)。しかし、力学がそのまま形になったような、あるいはムダを切り詰めた書のようなフォルムはたまらなく美しい。

 次に構造がシンプルなので立てやすくしまいやすいこと。慣れれば2人で5分ほどで張り上がる。きれいに稜線を出すにはその後にガイロープの微調整が必要だけど、天気が崩れかかってるときや、日が暮れそうなとき、この設営のしやすさはとてもありがたい。いくらスクリーンルームの居住性が良くたって、いつまでたっても立ち上がらなくては意味がないもんな。
 実はおれも一つスクリーンルームを持ってる。寒い時用に買ったのだ。コールマンの「パラワイド」っちゅうヤツで、昨今のフレームが何本もあるタイプではないのだけれど、それでもスタンディングテープをどーたらこーたらし、物干し竿くらいの太さのフレームを力いっぱいしならせたり、と立てるのには一苦労。30分はかかる。それがイヤで、よっぽどの時でない限り使わなくなってしまった。

 三つ目は比較的軽くて、かさばらずに収納性がよいことだろう。スクリーンルームが軒並み10kgから15kgもあって、畳んでも巨大なのに対し、何せ布キレ一枚とポールだけだからせいぜい3〜4kgと軽く、小さくなる。誰もが広大な荷室の1BOXや4WDに乗ってるわけではないのだから、これは大きなメリットだろう。
 四つ目は意外なほどの耐風性の高さ。ペグさえキッチリ打ち込んであれば滅多なことでは倒壊しない。それにあるレベル超えたら、いくらタープが耐えたって、下のグッズが吹き飛ばされるって、ね(笑)。
 五つ目は汎用性の高さだ。本当に真四角なレクタングラーには劣るが、差し掛け屋根代わりに広げて斜めに使ったりできるし、ポールを一本にすればシェルター風に使ったりもできる。ポールを4本にすればレクタングラーとまではいかないまでも、ある程度ヘキサに近い居住性が確保できる。いざとなればツェルト代わりの防水布として包まるコトだって可能だ。

 そして最後になったが、やはり外が筒抜けなコトによる開放感と周囲との一体感だろう。いかにも山にいます、海にいますって気になれるもん。今過ごしてる時間の、某年某月某日の某県のどこどこなんだ、って唯一性が体感できる。
 スクリーンルームをしばらく使って思ったのだが、確かに快適性の点ではタープと比較にならない。外が豪雨でもフツーにご飯が食えて酒飲んでくつろげるし、虫はまったく入ってこない。寒ければ最低限の換気だけ確保して締め切れば、ランタン灯してるだけでかなり暖かい。いやもうホンマ楽チン楽チン。今でこそ鹿爪らしくこんなコト書き立ててるけど、その時は正直「いや〜、立てるのめんどくさい分、こりゃやっぱエエわ〜」って言ってた。

 ・・・・・・しかし、5回・6回と使ううちに分かってきた。どうにもおもしろくないのだ。どこにいても内部の状況は一緒で、味気ないっちゅうか、ワザワザ遠路はるばる繰り出してやって来た感じがしない。快適とはある意味、均質の換言にすぎないことをおれは悟った。均質であるってコトは、当然のことながら「詰まらない」と同義である。

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 ・・・・・・ウガ〜〜ッ!!ゴチョゴチョ長所を箇条書きにしたってウザい、っちゅうねん!いくら長所を列挙したって偏愛への扉は開かない。通常の功利的な価値観とは異なる切り口が必要なのだ。

 その切り口とは実に簡単だ。

 アウトドアの本質的な愉しみの一つには、「最低限」とか「ミニマル」ってーのがたいへん重要な要素としてある。ほとんど世間からは忘れられてるけど、ファミリーキャンプにだって、ある。一言で言って、ウィングタープはその点をひじょうに巧みに具現化していると思うのだ。いかがだろうか?

 ・・・・・・なーんて、最近はタープさえ省略するほどのシンプルネスなんでエラそうには言えないんですけどね(笑)。久々にタープ張ったキャンプしようかな?ってなトコロでちょうど話もオチましたし、今日はここまで。でわでわ。


最近注目してるのはコイツ。KELTY(ケルティ)の巨大な「Noah’s Tarp」(ノアズタープ)

2007.05.19

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