「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
30リッターザックで野宿ぢゃい!!


飛騨に向う特急の車内で。マットのデカさがアンバランス。

 どっかから大量にデッドストックでも出てきたのだろうか、超軽量ザックの元祖のような、カリマーの「ホットパラシュート」っちゅうのんが、今年の夏前くらいにあちこちの登山用品店でバカ安で売り出された。

 カリマーとは、元々「リュックサックのロールスロイス」などと誉めそやされたイギリスのブランドだが、実は本国ではすでに倒産しているのか、ホームページの中身はなくなってるわ、ショップは閉まってるわ・・・・・・で、おそらくは日本のどこかが名前だけ買い取って製造を続けるだけのバッタブランドらしい。それに超軽量といっても今は、ゴーライトやグラナイトギアあたりからシルナイロンを用いた驚異的な軽量モデルが続々と出されてるので、以前ほどの驚きもない。
 しかし、それでも必要な機能があらかたそろって、容量も30リッターを確保しながら880gは十分軽い。それに名前の由来ともなった30dnのペラペラで半透明のパラシュート生地は、未だにジューブン異彩を放っている。いかにもカリマーらしいスリムで縦長のシルエットもカッコいい。あ、これが出た頃はまだイギリスに会社はあったみたい。
 なにより定価22,000円と、以前は手が出せなかったのが10,000円以下になってるのが最大の魅力で、デイパックっぽくない30リッター前後のザックがちょうど欲しかったこともあって、買ってしまった。嬉しそうに家に持って帰ったら、4つ目のザックにヨメは呆れかえっていた。

 さて、改めてよくよく見てみると、軽さを追求したワリに機能性は犠牲になってない。容量は実質30リッターないようだが、ま、この手の水増し表示はどこのメーカーでもやることだ。サイドのメッシュポケットは深いし、ウェストベルトやリッド(雨ブタ)の小物入れも意外に大きく、バンジーコードやピッケルバンドその他の引っ掛けたりぶら下げたりするコードも一通り備わってる。背中のパッドも薄さからすると快適だし、若干幅が狭いワリに肩ベルトのフィット感もいい。こりゃ実戦的に使えそうだ。

 こうして眺めてるうちにいたずら心がわき上がってきた。

 ------このリュックで野宿はできんやろか?

 一般的な山行でテント泊の荷物を詰めるなら、夏場は45リッター以上、冬場は60リッター以上のザックが必要と言われる。しかし、その実際の大きさを見てみるといい。かなりひるむ巨大さだ。そこまでせんと野宿もできんのか?ってウンザリする。もっとサラッとやれんのかい?って感じ。

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 前置きが長くなった。

 今回はこのザックに入るだけの荷物で野宿を二度ほど敢行した、その記録と、今後の可能性と限界についてのレポートである。

 この「30リッター野宿」に当たって自分で考えた条件は次の通りだ。ゲームをやる上でのルールみたいなもんだな。

    ●快適であること(修行しに行くのではない)。
    ●駅の待合室や公園の東屋の下で寝ないこと(それなら手ぶらでも野宿はできる)。
    ●手段は一般交通機関もしくは徒歩のみ。
    ●野宿だけを目的にせず、ちゃんと温泉や観光すること。

 野宿で快適に寝ようとするなら、テント・マット・シュラフは必須条件だろう。幸いテントは超コンパクトなモノフレームシェルターがある。マットもこないだセミインフレータブルの超軽量のを買った。問題はシュラフだ。おれのはモンベルのバロウバッグ#4なので、かなり図体がデカい。いっそタオルケットにしようと思ったがこれまた案外デカい。仕方なく、鼓のような形で上下に圧縮する「コンプレッションキャップ」なるものを購入。あまり期待してなかったけど、その効果は絶大で、半分くらいに圧縮できた。これはかなりのスグレモノだ。あとはレインウェア上下とオールウェザーブランケット、補助のグラウンドシート、ザックカバー。
 マットは外にゆわえるからのけて考えても、大体これらでザックの2/3くらいになってしまう。詰め込み方を工夫して、なるだけ隙間が出ず、また重量が偏らないように入れて行く。

 次は衣類。Tシャツとパンツ、靴下を一日一枚、せいぜい3日分が限度。あとは涼しかったときのために長袖シャツ一枚。それとタオルマフラーとタオルを各一枚。洗面用具セット・・・・・・ああ、もうほとんどスペースがなくなってきた。
 さらには小物。デジカメ・ケータイ・充電器・電池の予備2本・財布・カードケース・携帯灰皿・アウトドア座布団・ティッシュ・折り畳み傘・扇子・ヘッドランプ・サングラスケース(オークリーの高いものなんで・・・・・・)。

 地図はいつものツーリングマップルでは重いので、必要最低限をヤフー地図かなんかからコピーしてクリアファイルに挟んで丸めておくだけ。あとは現地の観光案内所で各種無料マップを調達しながら行くことに。

 ・・・・・・ふぅ、何とか入った。ザックはもうかなりパンパンだ。でも、もう少し巾着の絞り位置を上にすればもう1〜2リッターは入るだろうか。重さは7kgってトコだろう。この程度の重さなら背負ってもあまり邪魔にはならない。なかなかに出来上がったその荷姿は美しい。ほぉ!ケッコーエエやんか、と一人悦に入る。

 以上。

 ・・・・・・え?コッフェルやストーヴ、カトラリーの類は?水筒は?ランタンは?スキットルは?

 要らん要らん要らん!そんなん全部パス。食べ物・飲み物は自動販売機やキオスク・コンビニ・よろず屋・スーパー・・・・・・etcでいくらでも売ってる。今の時代、南会津の山奥にだってセブンイレブンがあるご時世だ。酒やツマミもそういうところで買えばよい。それが味気ないのなら外食だ。いやもう、何となれば一食くらい抜いたって死にゃ〜せんわだ。

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 こうして、盆に別稿に書いたように三重山中の関西本線・加太の駅前、そしてつい先日には、飛騨の山奥、町を見下ろす高台の公園で泊まった。

 結果だけ書く。まったくもってノープロブレム。強いて言うなら、「飛騨は標高600mほどやし、もう9月やし、蚊もおらんだろう」などとタカをくくってたら見事に大外れで、100均で買った小さな蚊取り線香セットを持ってこなかったことが悔やまれたくらいで、2回とも水や食べ物、酒・ツマミに困ることもなく、まずまず快適に過ごせたのだった。

 もちろん制約は、ある。

 基本的に人里からあまり離れてはむつかしい。俗に「衣・食・住」というが、この方式は最低限の「衣」と「住」は担いでても、「食」は現地調達だからだ。また、地図を観光案内所等でもらう関係で、あまり観光地から離れてしまうと道に迷う危険性がある。現に飛騨では、山すそを巻いてトコトコ歩いてるうちにマップのエリア外に出てしまい、戻るのにひどく遠回りしてしまった。

 言うまでもなく季節や標高も重要だ。夏場で1,000m以下が一応の条件の目安となってくるだろうが、寒がりの人なら初夏の頃など、標高1,000mでは、冷え込むとオールウェザーブランケットを登場させないと厳しいだろう。相当南の地方で低地なら、どうにか春秋でも可能かも知れないが、衣類が納まるかどうか怪しい。

 これでシュラフをダウンで夏用のものにすれば、ずいぶんかさが減るだろう。その分、小さなコッフェルとアルコールストーブくらいは加えることもできる。でも、それだけスペース空けたって肝心の食料はせいぜい一日分くらいしか入らないだろうし、そもそも水筒が入らない。シュラフを薄くすれことでそれだけ低温は苦しくなるしね。

 つまり、本格的な山歩きには厳しい。バックパッキング、っちゅうんですか、歩きながらタラタラと温泉入ったり物見遊山するのがこの30リッター野宿の限界であり、ふさわしいスタイルだろう。
 日数の制約はない。洗濯物がたまってきたら洗うようにすれば、何日でも行ける。ただ、細かい工夫は必要で、衣類は綿だとかさばるし、濡れて重くなったりするから、速乾性の化繊のものにしたり、バスタオルを諦めたりは必要だけど。

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 旅の途上、はたから見ればおれはずいぶん不審なオッサンだったに違いない。バンダナ代わりにアタマに巻いたタオルマフラーの裾で首筋の汗を拭き、扇子をバタバタさせながら、ひとり電車に揺られ、町並みの中を行き、定食屋でメシを食うのだから。

 しかしその数日間、この上なくおれが解放された自由な気分を味わったのも、これまた間違いない。旅は、セオリーの呪縛から逃れることでこんなにもラクで軽やかになれる。それはちょっとした発見でもあった。

 30リッターザックで野宿、むちゃくちゃオススメです。その内、さらに工夫して夏以外のシーズンや山にも挑戦してみます。

2006.09.15

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