「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
クラフトとアートの間・・・・・・備前焼まつりで考えた


当日買った品々。台所に並べてこれから一度煮沸するところ。
奥にあるのは珍しい、高梁産のお茶。

 備前焼には武骨で素朴な雰囲気があって、昔からケッコー好きだった。生産地の方々にはたいへん申し訳ないけど、九谷焼や有田焼のような細密な柄がビッシリ系の装飾的なんはあんまし好きでない。ザックリしててアブストラクトなんが良い。そんなんで丹波の立杭焼や信楽焼もなんか結構好きだったりする。
 ただ、おらぁ陶器コレクターでもなければ、書や茶道を嗜むワケでもない。ただただ日々の食事のための什器として使ってるだけの人間である・・・・・・そらまぁ、陶器の花瓶とか一輪差しくらいはあるけどさ。

 そんな程度ではあったけど、この地に移ったら備前焼まつりって出掛けてみたいイベントの一つだった・・・・・・基本、「ナントカまつり」ってのが嫌いなクセに(笑)。

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 クルマで出掛けると混む、っちゅうんで朝も早よからヨメと二人して電車乗り継いで伊部駅に向かう。ドワーッ!!普段は閑散としてるであろう駅も既に大混雑で、無人駅によくある玄関のピンポンみたいな改札は不慣れな人が多いのか、渋滞が発生してた。
 久しぶりの人ごみを掻き分け表通りに出ると、いきなりそこが備前焼まつりの会場である。駅前に拡がる町全体が要は会場なのだ。備前焼が好きとか冒頭で申し上げといて言うのも何だが、こんなトコに備前焼の本拠地があるって知らなんだ。振り返ると駅舎は備前焼伝統産業会館ってのの片隅を間借りしてるカッコで、もうホンマこの町全体が備前焼なんだってコトが分かる。

 渡された地図を見ると、駅前の空地の4ヶ所が特設のテント村になってるみたいなんでまずはそこから。システムがイマイチよく分かんないまま行ってみると、どうやら窯元毎にブースを借りて市を広げてるみたいだ。個人商店の集合体っちゅうか、卸売市場に鮮魚店が並んでるようなモンやね。手引きのカートに折りコン括り付けたような気合の入った人もいるのに驚いた。備前焼なんだから当たり前とはいえ、まぁどれもこれも赤褐色の焼き物が所狭しと並べられている。

 値段については高い安い言ったって仕方がないものの、想像してたよりはケッコーなお値段だなぁ〜、ってのが第一印象。てっきりおらぁ年に一度の祭りなんだし、持ってけドロボー!みたいなんだと浅ましく思ってたらあにはからんや、それなりにする。元々大量生産がむつかしいと言われ、ワリとお高めなのが備前焼なんだけど、そっからちょっと安くなってるくらいなのと、通常はハネられてしまうようなB級品がそこそこ安くなってんのかなぁ?ってカンジだ。

 しかし、値付けの差が良く分からない。今回はまずは勉強、そいでもって目下不足気味な茶碗をいくつか買っても良いかな?くらいで行ったんだけど、素人目には同じに見える茶碗が片や1,500円、片や5,000円ってのは全くもって謎である。同じ店でだよ。謎を謎のままにしとくのもいささか業腹で、おらぁ単刀直入に店の人に訊いてみた。
 答えは、要は歪みとか、傾きとか、寸法の大小とか(・・・・・・焼成時の収縮で個体差が出てしまうらしい)、決して割れてるワケではないものの傷のようにクラックが見える、灰釉が剥がれた等々の、規格品として外れちゃってるのが安くなり、あとは色とか風合いとかで値段は変わって来る、もちろん誰が作ったかでも違う・・・・・・とのことだった。

 ほぇぇ、な〜んか野菜の値決めみたいやんか。

 神妙なカオして相槌まで入れつつ聞きながら、内心「なんぢゃい!そんなモンかいな!?」と、思ったのが忌憚のない所である。野菜なら食えば分かるが、陶器は食えん。ならば値段の高い低いではなく、身の丈に合った値段のを実際数多く手に取って見て「これエエなぁ〜!」で決めても全然かめへんのんちゃうんか。それこそが審美眼ってモンだろう。

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 狭いようでいざ歩いてみると街はそれなりに広い。両側に並ぶ店の棚の品々を一軒づつ丹念に見てるうちに、おれはあることに気付いた。殆どの店には年に一度のイベントとあって、作家御本人も出てんだけど、やたらとチョンマゲ、作務衣っちゅうよりはちょとヒッピー系みたいなユル〜い服、サンダル履きみたいなんが多い。
 御本人達は如何にも現代陶芸作家ないでたちと思っておられるんだろうが、ゆうたら悪いが何だかレゲエバーのマスターにでもいそうな雰囲気だったりする。キメまくりのリリリのラリリで「Jha!」とかゆうてそうな雰囲気。どうだろ?中年以下くらいの、恐らくは「若手」と称されるであろう世代くらいにそれはむしろ顕著な気がした。これがそれなりに年寄ならまた違って見えるんだろうが。

 いやまぁ、分かるよ。分かる。陶芸家ってそんなカッコしてはるコトが多いって。「美味しんぼ」の唐山陶人だってそんなカッコやもんね。でもあらぁマンガやし。とにかく何か記号化してるっちゅうか、コスプレみたいな違和感がある。

 歩きながら考えてるうちに、違和感の正体っちゅうか根本が薄っすら見えて来た気がした。彼等は自分たちのことを陶工っちゅういちクラフツマンだとはこれっぽっちも思ってないのだろう。ハナッから陶芸作家、イッパシのアーティストだと思ってる。ナントカ賞を取りました、ナントカっちゅう国際展覧会に出品しました、ナントカっちゅう国から招聘されました・・・・・・見たら、アーティストとして箔付けるためのそんなキャリアばかりみなさん強調されてる。
 店頭のワゴンセールは実用品ばっかしだけど、少し奥に入れば何だか得体の知れないオブジェみたいなんが鎮座してて、箆棒なプライスタグが付いてたりもする。何だか「湯呑や茶碗はあくまで糊口を凌ぐための方便、私はホンマはゲージュツ家なんだっせ!」と言わんばかりに。でもやっぱし値付けの基本はあくまで「製品」なんで、その規格から外れてたらアウト・・・・・・????おらぁ段々混乱して来た。

 実のところ備前焼って、見た目が華やかで美しい磁器に押されて一時は廃れかけてたっちゅう黒歴史がある。それを大正の終わりだか昭和の始めだかに、「このままやったら先細りなだけじゃぁ!」と岡山だけにじゃーじゃー言ったかどうかは知らんけど一念発起、コネやらロビー活動を駆使して再興し、一発逆転の地位向上を図ったのが今に繋がってる。そう、「土と炎の芸術」な〜んて、それまでは誰も言ってなかったのだ。一枚噛んでるのはやはりここでも出て来る北大路魯山人、そしてイサム・ノグチ・・・・・・あれ!?民芸運動の柳宗悦は?と思われた方は鋭い。その辺が最も巧くやった部分だと思う。民芸ではなくもっとスノッブで、大金を落としてもらえそうなあり方を緻密に計算して営業活動に取り組んだんだと思う。「民芸でも工芸でもなく、これは芸術なんです」・・・・・・それは極めて強かなビジネス戦略だった。もし民芸のカテゴリーに収まっておれば、備前焼は決して現在のようなステータスを得られてなかっただろう。言うまでもなくステータス=プライスだ。
 事実、それまでは生活雑器どころか見た目はアレでもとにかく頑丈なことから、安く買い叩かれて土管なんか作ったりしてたのだ。そればかりか絶縁碍子や手榴弾(・・・・・・実戦投入の前に終戦になっちゃったらしいが)なんかまで作ってた。地下に埋めたり電線の途中にカマしたり爆発させたりするモンに芸術もクソも無かろう。

 ちなみに今年の備前焼まつりの入場者数は土日の2日間で11万人以上だったそうな。平成の大合併で備前市の一部となる前、伊部町だったころの人口が3千ちょっと、今はもっと減ってるだろうから、軽くその30倍以上の人が押し寄せてたことになる。コロナ前よりも人手は増えたのは御同慶の至りなモノの、それでも過去の最高記録からすると減ってるらしい・・・・・・とは申せ、だ。
 来て手ぶらで帰る人は殆どいるまい。仮に一人1万円買ったとして2日で11億やで。ひょぇぇ〜っ!デカンショは半年寝て暮らすが、ここはヘタすりゃ363日寝て暮らすくらいの実入りがあるワケだ・・・・・ゴメン、ネタってコトで作陶に割かれる多大な日数は分かってて省いてゆうてますけど。
 しかし、もし先人たちの営業努力が無ければ、そもそも備前焼まつりなんて存在してなかったろうし、それどころか備前焼の歴史自体が途絶えてたかも知れない。

 クラフトとしての実直さだけではやってけない、食って行けない。アートとしてのスカしたハッタリがヤッパシ八ッ橋どしたって欠かせないっちゅう皮相ででシビアな現実がそこにはあった。

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 上の画像の通り、茶碗だけ贖うツモリがいつの間にか花活けやらマグカップやら小皿等々、そこそこの数を買い込んでしまった。その日の夜から食卓の上はなんだか弥生時代の人のお膳みたいになった。花活けには裏の山から毟って来た山野草を適当に放り込んでみたが、これが意外にサマになってたりする。これが九谷の花瓶ぢゃぁこうもスッとは収まってはくれなかったろう。良いんだよ、たしかに。備前焼って。

 ・・・・・・まぁしかしだからって、あんましアートアートゆうててもアカン思いますよ。今はちょっと明らかにチョーシくれすぎてるもん。まずは風合いそのままに、例えば食器としての洗いやすさなんかも追及して欲しいもんですわ。スポンジ引っ掛かって大変なんっすよ。

2023.10.21

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