「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
レッツゴー爆食!!(U)

 東京・神田は神保町界隈にはちょっと離れて行政諸官庁が点在してたりして、仕事柄訪問することがたまにある。元々あの辺は学生の町であるからして、本屋とスポーツ屋、楽器屋が多いことに加えて安い定食屋、そしてカレー屋が多い。若い衆の一人にカレー好きがいる影響もあって、結構何軒か行った。「エチオピア」やスマトラカレーの「共栄堂」、ちょっと離れた「トプカ」・・・・・・どれも名店の誉れ高く、それぞれに個性のある味である。

 さて、また神保町方面に行く用事ができ、「今度はどこにしよう」とググってて偶然引っ掛かったサイトが、おれを爆食道に戻すキッカケとなったのだった・・・・・・え!?仕事もせんと何してんねん!?って?

 その店の名は爆食系では超有名な「華麗まんてん」。おれの「神保町 カレー」っちゅー検索単語が、このページに載ってた店情報に合致したのだ。

 写真を見た瞬間、仰天。「何ぢゃぁ〜っ!?これわぁ〜っ!?」状態ですな。およそ人間の食う量を超越しているように思える。他の店の情報も開いてみる。どれもこれもイカれたっちゅーか、イカした大量自慢の店ぞろい。
 その数分後、おれは忘れかけていた下らないチャレンジングスピリットが甦ってきているのを覚えた。妙な使命感さえ生まれていた。「まんてんのカレーを食わねばならぬ!!」みたいな。
 ・・・・・・妙な使命感から金閣寺焼いたら、逮捕はされるものの小説にでもしてもらえるが、爆食は顰蹙と失笑を買うだけだ。何が使命感かぁ?アホかと思うが、とにかくその時のおれには、ある種崇高な精神が宿ったのだ。

 さらに天啓は続く。ユングの言うところのシンクロニティがおれにも降りて来たのだ。

 テレビだったかネットだったかは忘れたが、偶然おれは滋賀は大津の誇る驚異の爆食系、「美富士食堂」までも知ってしまった。今度関西に帰省した時にでも行ってみよう。これを見て、ますますおれの爆食願望は高まったのである。

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 なにはともあれ、まずは「まんてん」だ。決行の日はやって来た。

 その前にまず店のロケーションとシステムを説明しておこう。神保町の交差点を北に白山通りを水道橋方面に向かって行き、少し東に通りを入ったところにその店はある。カレーはデカいが店自体は小さく、失礼ながら少々小汚い、カウンターだけの店である。店の表には小さな埃をかぶった陳列ケース。隣はおそらく同じ経営なのだと思うが、似たような店構えの揚げ物中心の定食屋になっている。
 付近には有名店が多い。半ちゃんラーメンの元祖「さぶちゃん」や、贔屓にしてる山屋の「サカイヤ」、かつて最強のビニ本屋の名をほしいままにした「芳賀書店」なんかがわりと近い。

  
陳列ケースと値段表

 で、店のメニューは、っちゅーと、基本のカレーが「並」400円、「大盛」450円、「ジャンボ」500円となっていて、たったの50円ピッチ。これにトッピングが数種類。ジャンボの全部入りでも1,000円くらいなので、実に正直で地道な商売だなぁ、と思う。

 さすがにトッピング全部入りはためらわれたので、ごくノーマル(?)に、おれはカツカレーのジャンボを頼んだ。それでも650円。はじめに出されるコップの水にスプーンがさしてあるのは何ともレトロでほほえましいが、出てきたのは予想通りの凄まじい量。

  
左がジャンボかつ、右がジャンボ全部入り

http://www.ousaru.com/curry/より
 さっそく今にも皿のヘリからこぼれそうなのを一口食う。

 ぬぐぐ!!これは予想外!!異常にルーがボッテリしとるやおまへんか。何だか規定量の2倍のルーを溶かしたカレーみたいな粘度だ。
 うあ゛!?よく見るとギッシリとミンチが混ぜ込まれてるではないか。さらにはトンカツも衣タップリだ・・・・・・加えてかなり甘口、いかん!辛くないと満腹感が先に押し寄せてしまう。

 テーブルに置かれた一味を大量に振り掛けながら、それでもおれは、まずまず難なくクリアした。

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 「なんや♪おれもまだまだ大盛、行けるやん♪」

 それがおれの店を出たときの感想だった。さすがに苦しく、腹ごなしにずいぶん歩いたけれども、おれはその夜も普通に夕食が食え酒が飲め・・・・・・そして妙な自信をつけてしまったのだ。

 それからの行状は繰り返しになるが、長野・白樺湖近くの「利休庵」のそびえ立つお化け天丼、山梨・甲府の「ぼんち食堂」のあふれ落ちるうま煮ソバ、そしてとどめが前回のイントロに書いた「やよい食堂」のヘルメットのような焼き飯である。どれもこれもバカバカしく、苦しいけれど実に楽しかった。何ちゅーか、久しぶりに童心に返ったような清々しささえあった。

 しかし、正直に告白するならば、おれは少しづつ身体の変調を感じてもいたのだった。ここから先は、予定してた内容を急遽変更して、爆食の顛末を記して終わることにしよう。

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 実は、「やよい食堂」に行った二日後が、まんの悪いことに人間ドックだった。どうにも体調がすぐれないまま受診して、その結果が偶然にも本日家に届いていた。脚色ではなく、さっき帰宅して、この文章を書くちょっと前に、おれは診断結果の入った病院からの封筒を開いた。そして、愕然とした。 

高血圧症:D
脂肪血症:B
腎機能:B
肝臓:C

 ・・・・・・マズい!実にこれはマズい!

 完食はできても身体の方は寄る年波には勝てず、付いて行けなくなっていたのである。確実にこの数ヶ月の食生活で、おれの身体は立派にむしばまれてしまった。とどめはやはり「やよい」、間違いない。

 名残惜しいが、おれは暴飲暴食を慎むことを決心した。散歩ももっとコンスタンスにしよう。以前から宣言だけして、一向に実行に移さない山登りもやろう。口先だけで止めれないタバコも止めよう。休肝日のない生活も改めよう。早寝しよう。
 こんなデタラメなおれだって、さすがに命は惜しいし、まだまだやりたいこともある、養わにゃならん妻子もいる。爆食ごときで寿命を縮めてる場合ではないのだ。

 それに「身体髪膚之を父母に受く、敢えて毀傷せざるは之孝の始なり。」というではないか。

 おれの親不孝を今さら悔い改めても仕方ないし、その気もないが、「敢えて毀傷」するなら、いささかイケてない爆食よりは、いっそ以前から興味のある身体改造(ボディモディフィケーション)で毀傷してみたい。それにその方が語源により近い気がする。
 通常の訳では「敢えて毀傷せざる」を「怪我しないこと」としているが、それなら何で「敢えて」が必要なのだ?これって「自発的に毀す」ってコトぢゃないの?ならば、プリンスアルバートにボールピアスでも通す方が正解だろう・・・・・・って、おれ、全然格言を逆読みしてるなぁ〜(笑)。

 よ〜し!!おれは今後飲食に関しストイックになってやる。

 ・・・・・・あ!会津若松の「白孔雀食堂」のカツ丼、まだ行ってなかったな・・・・・・なーんて(笑)


白孔雀の狂ったソースカツ丼

http://otooru.s32.xrea.com/umaimono.htmより
2005.07.28
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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