米菓一代


これが千枚。おれが食ってたのはもっと海苔が細かったけど。

 あられ・おかき・せんべいといった米菓が子供の頃から大好きだ・・・・・・ってーか、偏食の激しかったおれにとっては基本、塩味か醤油味しかしなくて味がシンプルな米菓は安心して食えるものだったのと、生家の五軒長屋になった文化住宅の通りを挟んだ隣の角が零細なおかき工場で、そこからいつも一斗缶に入った「千枚」って薄くて四角いおかきのクズを買っており、家でオヤツと言えばほぼそれしかなかったのである。
 虫歯になるからって甘い物を親から制限されてたのも影響してるかもしれない。母親が自分の歯が弱かったこともあって、人一倍虫歯に対しては神経質になってたのである・・・・・・その割には本人は羊羹とか最中、饅頭等を食ってた気もするが(笑)。

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 おかきが糯米(もちごめ)から、せんべいが粳米(うるちまい)から出来てるってコトを、この歳になるまでおらぁ知らなかった。てっきり四角いのがおかき、丸くて大きいのがせんべいだと永年思い込んでたのだった・・・・・・って、あながちこれは間違ってはないみたいで、どうやらおかきはカッチンコッチンに干した生地を薄く削り、それをさらに裁断したもの(だから四角い)を焼いて作るのに対し、せんべいは練った団子状のを丸く延ばして乾かしたものを焼くみたいだ。あられはちなみにおかきの小さいモンなんだそうな。

 ・・・・・・って、そう説明されてもあまり両者に明確な味の違いは感じ取れない。そもそもどっちもコメなんやしねぇ。スンマセン。エラそうに食について語ってるくせに、これまで違いを意識して食ったことがないからマジでサッパリ分からんのですわ。
 だからって、米菓なら何食っても同じ顔してるか?っちゅうとそんなことはなくて、好みはやっぱしそれなりに、ある。

 まず苦手なのはフワフワして歯応えのないの。具体的な商品名を出して申し訳ないが、「ハッピーターン」とか「ぽたぽた焼き」みたいな軽いの、関西で言えば「おにぎりせんべい」とか、そぉいった系統のはどうも性が合わない。まぁ今時そんなコト言うヤツは顎の力が弱くなった現代人からすればアナクロニズムの極みなんだろうけど、おれはやっぱ米菓にはある程度の歯応えをどうしても求めてしまうのだ。
 だから草加煎餅なんかによくある、迂闊に噛んで割ると口の中を怪我しそうなくらいにバッキバキに堅いのは、もぉナンボでも食えちゃう。有名な深川・門前仲町にある老舗煎餅屋「其角」の看板商品である「げんこつ」なんて最高だよね・・・・・・値段もそれなりだからナンボでもとは行かないが(笑)。神戸の「花見屋」の「鬼瓦」だったかな?あれもカチカチで、ひび割れに濃い口のたまり醤油が染み込んでてムチャクチャに美味い。もう随分以前だけど、三宮を友人たちとウロウロしてた時に勧められて買ったのがナゼか忘れられない。
 しかし、この手の極厚・激硬は個人的にはやっぱし醤油味でないと今一つ収まりが悪い気がする。塩味でそこまで堅いのはちょとバランスが悪いように思えてしまうのだ。
 味もまず甘いのはアウト。ザラメをまぶしたようなのは絶対に手を付けない。砂糖を絶対ダメとまでは言わないが、ちょっと甘辛いな~、くらいが我慢できる限界だ。要はソリッドアンドハードでエエんですよ。

 こう書くとなんかおれが醤油味党のように思われそうだが、実のところ7:3くらいの割合でおれは塩の方が好きだったりする。まずは食べ飽きしないのが良い。あと、豆やら海老やら青海苔やらを練り込んだのはナゼか大抵塩味って相場が決まってるのも、塩味に手が伸びる理由の一つかも知れない。
 この塩味には激硬よりはやや硬~堅くらいの方がマッチする・・・・・・って、なんか博多ラーメンの硬さ談義みたいな話になって来たな(笑)。要は究極にシンプルな塩味に硬すぎる組み合わせだと、口の中で噛み砕く前に味が無くなってしまうような気がするのだ。

 ただ最近は塩味さえも高度化しつつあって、ダシを効かせてみたり、隠し味にニンニクや山椒、胡椒等をチョコッと入れてみたりとややこしくなってきてるのはちょっと残念なように思う。いや、それらのヒネリを否定する気はないが、シンプルに塩だけっちゅうのもいま一度見直してもらえたらな、とは思う。

 そぉいやいろんなフレーバーも大概出揃ってる。味噌、カレー、ワサビ、梅、チーズ・・・・・・変わったトコでは柚子胡椒やオリーブオイル、麻辣なんてのまであったりする。味に変化が出るのはもちろん悪いこっちゃないけど、そればっかだと却って飽きてしまうのはいささかいただけない。

 やっぱ米菓はシンプルな塩味か醤油味やね。

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 塩味で思い出したが、おれの実家では昔、なぜかそんな塩味のあられを冷やご飯の上に乗っけて、それだけでは味が薄いからさらにちょっと塩振ってお茶漬けにするってコトをよくやってた。そらまぁスーパーのお茶のコーナーにもクルトンのように浮かせるおかきが売られてたり、永谷園のお茶漬け海苔にだって棒状のあられが含まれてたりするから、そんなにおかしいことではないんだろうとは思う。けど、そんな全国的な風習とも、かといって我が家のオリジナルとも思えず、永年これは謎のままだった。

 昨年、ひょんなことからそのルーツが判明したのだった。要は父親の田舎である三重方面でこの「あられ茶漬け」はワリと一般的だったのである。
 たまたま旅の途上で、夜の缶ビールや翌日用のデカいペットボトルの烏龍茶なんかを仕入れようとスーパーに立ち寄ったら、他の地方からは想像も付かないくらい広いスペースを占有して塩あられが大量に売られてたのだった。アイテムの画一化が進んで平板な品揃えになってると思われがちなスーパーマーケットでも、店内をよく見るとまだまだ地方色は豊かだし、えてして地元民ほどその事実に気付いてないモンである。

 それはともかくそれで気になって袋の説明とか読んでみると、どうやら本来的な伊勢のあられ茶漬けは米も入れず、あられだけで作るらしい。そぉ言われればごくたまに父親は茶碗にザラザラとあられだけを入れてそうして食ってた気がする。まぁそれでノスタルジーに浸ることができるんなら悪いことではない。ただ100%あらればっかしだとコストも嵩み、それはケチな彼にしてみると我慢できなし・・・・・・で、折衷案で冷やご飯に載せるっちゅうセコくもいじらしい工夫をしてたのだろう。

 詰まらないことを想い出しながらも、おれは試しに2袋ほど購入して、帰宅してからレシピ通りにお茶漬けを拵えてみた・・・・・・が、結果はマコトに残念ながら、あられそのものがフワフワのパフパフで大して美味くなくて、「こんなモンにオヤジは拘わとったんか~い!」と叫びたくなっただけだった。多分、たまたま選んだメーカーが宜しくなかったんだろうと思いたい。

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 三重県の米菓生産高なんて微々たるモンなんだけど、米どころ新潟はサスガである。全国の2/3近くを占めており、その半分近くをガリバーである亀田製菓が占めてると昔から言われてる。ただ、食の嗜好の多様化や少子化なんかもあって、やはり業界全体としては長期低落傾向にあるのは事実みたいだ。
 余談だが、新潟は米どころだけあって有名なトコでは日本酒、あとメシには欠かせない漬物なんかもトップだったような記憶がある。日本の食文化はやはり米を中心に回ってきたのだ。
 それはともかく亀田、最近ではマツケンをCMに起用した三幸製菓や、豆煎餅をトコトン売りまくって新潟の三強の一角に躍り出た岩塚製菓あたりの猛追を受けて、昔みたいな殿様相撲とは行かずだいぶ苦戦してるみたいだけど、おらぁぶっちゃけ亀田のファンだ、押しだ・・・・・・ったって別に回しモンぢゃないよ。

 ただもう各社のを手当たり次第に買ってフラットに食べ比べてみたら、亀田がアタマ一つ抜けてる感じで美味いってコトが判明したからだ。いやいや、そんなんゆうたかて値段ちょっと高いやん!って声があるかも知れないが、実はシッカリ入れ目もあって、結局はお得でもある。特に定番の柿の種や海苔巻き、珍味のアソートなんかは明らかに今申し上げた点で優位性があると思う。その一方で、単に味付けとかのイージーな方法に逃げず、製法や食感に拘ったユニークな品揃えが厚いのも嬉しい。
 判官贔屓でとかくマイナーなモノ、マニアックなモノに走りがちなおれだけど、大手にはやっぱしアドバンテージあると知って、少しくこれまでの自分の姿勢を反省したのだった。

 ちなみに都道府県での2番目は草加煎餅の地元・埼玉県なんだけど、新潟に比べるともぉメチャクチャ少ない。統計が使用した米の量ではなく、金額ベースの順位であること、概してそれなりに良いお値段のが多いことからすると、量的には新潟の1割にも満たないのではなかろうか。恐るべし新潟である。

 しかし、その他諸々の大半がおそらく細々とは申せ、ほぼすべての都道府県に米菓メーカーが残ってることを知って、おれは若干の安堵を覚えもしたのだった。やっぱ食文化は多様な方が面白いし、零細なのは零細なりに生き残って欲しいもんな。

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 今はもうおれもスッカリ雑食性で、米菓だけでなくスナック菓子も食えば、チョコだろうがケーキだろうが何でも食べる。職場で土産物が配られたりすれば真っ先に口に放り込んでしまう。俗に言う「走食性」っちゅうヤツやね。ちなみにアソコは大好きとは申せ、アンコだけはこの歳になってもあまり好きではない(笑)。でもまぁ食わないってコトもない。

 しかし、デスクワークで口が寂しい時、だからって乳をしゃぶるワケにも行かんので(笑)、お菓子を摘まむことにしてるんだが、それで机に忍ばせてるのはやっぱし米菓が殆どだ。最近はこぉいった需要を見越して小分けにされてたりするんでとても助かる。

 ネットニュースで読んだ記事で、アンケートを取ってみると実は職場で一枚づつ配るようなお土産で一番喜ばれてるのは煎餅だ、ってのがあった。コンビニに行っても、意外と米菓類はしぶとく頑張ってる印象がある。
 オシャレさも派手さもモダンさもない・・・・・・どころかむしろいささか野暮ったくさえある米菓なんだけど、実はみんなやっぱし大好きなんですよ。ポリポリパリパリ。


これが「あられ茶漬け」です。

http://mie-career-base.com/より

2019.07.26

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