麩、フッ・・・・・・ |

彩りも美しい飾り麩の例
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https://jmty.jp/より
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正面切って声高らかに「麩が大好物です!」って言う人、世の中にどれくらいいるんだろ?って思う時がある。
それにたとえ告白したところでソッコー、「オマエは鯉かよ!?」ってな、直球で心ないツッコミ入れられて終わりではなかろうか。たとえ聴いてもらえたとしても多分あまり真面目に受け取ってはもらえず、「ちょっと変わったヤッちゃなぁ~」といささか憐憫を含んだ奇異の目で見られるのが関の山だろう。
・・・・・・とまぁ、それくらいとーっても麩は地味なヤツだ。そうそう、おれは漢字変換にIMEを使ってるんだけど、「ふ」って入力したらリストの15番目に表示された。「敷」より下、ってどぉゆうこっちゃ!?(笑)ちなみにメイド・イン・ジャパンのATOKは国内事情を配慮したのか9番目だったが。
かように食材としてはケッコー可哀想な立ち位置にいる麩が、実はおれは大好物だったりする。だから今の麩の置かれた現状に対し、マトモに独り立ちした食材としてもっと評価されたらいいのになぁ~、とさえ思ってる。
ちなみに生麩もそりゃぁ美味いけど、ありゃもぉ確固たるステイタスを食材界の中では既に築き上げた存在だろう。この関係は乾燥湯葉と生湯葉のそれにほぼ同じである。もし、麩や湯葉に人格があれば、何で乾燥させる手間が余分に掛かってんのにおれらちょっと軽ぅ見られとんやろ?って思ってるに違いない・・・・・・って、それ言い出すと干物の魚も同じ気持ちだろうな(笑)。
ともあれおれはイキッてる生麩より、乾物の方の麩が親しみが持てて好きなのだ。
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そもそも論で麩、って身近にある割には何から出来てるのかが良く分からないナゾ食材の一つだろう。
あれは何か?っちゅうと、小麦粉の中の蛋白質が水やら塩やらと混ぜ合わすことで出来るグルテンってネバネバしたモノからできている。ただしそうしてメリケン粉を練っただけでは単にパンや饂飩の生地になってしまう。これをさらに水の中で揉んで揉んで揉みまくってデンプンを洗い流すと純粋なグルテンだけが残る。これが麩の素なのだ。ちなみにこの状態でのグルテンは、ザーメンとほぼ同じ匂いがする。口内射精されるのが好きな女性なら好きになるかもしれない(笑)。
それをそのまま干したり、あるいは蒸したり焼いたり揚げたりしてから乾燥させたモノが、乾物の麩ってコトになる。場合によっては再びメリケン粉を足すこともあるらしい。
昨今グルテンはアレルギーの元になるとかで、まるでもぉ悪者みたいに言われ、意識高い系カン違いネーチャンとかから「グルテンフリー」がちょっとカッコ良いモノみたいに思われるまことに失礼な風潮さえあって、おれは何とも歯痒い思いをしてるんだけど、こうした世の流れもまた元々マイナーな麩をより隅っこに押しやってるんではなかろうか?だってグルテンの塊なんだもんな(笑)。
アレルギー!?はぁ!?あれがダメ、これがダメっちゅう前に体質改善して治せや!って言いたくなるで、ホンマ。
かつては蛋白質が不足しがちな日本人にとって、保存が利いて色々使える乾燥麩はかなり貴重かつ重要な食材だった。そんなんで今では発祥の地である中国よりも、工夫を凝らして洗練され独自の個性を持った麩が各地に存在する。
最も地味で定番な山形の板麩でも、あるいは古都らしくミニチュアール的に手毬や紅葉、桜等をかたどった京都や金沢の飾り麩なんかでも、チョロッと汁椀に入ってるだけで嬉しくなってしまうし、麩の中では珍しく歯応えとボリューム感のある仙台の油麩や新潟の車麩なんかは煮物に使うと素晴らしく美味い。最もポピュラーで具材のカサ増しに使われがちな焼き麩にしたって、旨味を吸い込むと主役を食うほどの存在感を示す。
変わったトコでは愛知の鳳来寺山で見掛けた真っ白な「鳳来麩」が忘れがたい。通常、麩はこんがりと焼き目が付いていることが多いのだけど、ここの麩は何とモリアオガエルの卵を模したとかで、メレンゲがそのまま固まったようなヴィジュアル。系統としては玉麩が白くなったような感じなんだけど、さらにもっと軽かった。
コイツ、元々あんまし味のない麩の中でもさらに味がしない。また、麩にしては珍しく酢の物に使ったりもする(袋のレシピにそう書いてあったのだ)。実に繊細な食感だったことを覚えてる。
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そう、麩の魅力は何ぞや?と問われるならば、おれはその食感に尽きると断言したい。グニュグニュとかチュルチュル、あるいはトロッとかテロッとしたあの官能的なまでの滑らかさ、ながら寒天やゼリーとはまったく似て非なる独自の舌触りこそが麩の魅力だろう。実は上に挙げた歯応え命な麩でも、芯の辺りには必ずこの「チュルチュル、トロッ」な部分があって、そこがおれの最も愛する点だ。
だから最近「フェイク酢豚」とかゆうて、乾いたままの焼き麩に薄切り肉を巻き付けて大きな角切りに見せかけるようなんは、アイデアとしてはとても面白いとは思うけど、折角の麩の食感が活かせてないように思う。
だからヤッパシ八ッ橋、煮物に使うのがおれはいっちゃん好きだ。一見頼りなさそうなくせに意外にも頑丈で、ちょっとやそっとでは煮崩れしないから、時間を掛けてシッカリと出汁の味を含ませるとホント堪らない。
どこの地方だったか忘れたけど、輪切りにしたデッカイ車麩をおでん種にするトコがあったが、ありゃもう反則モノの美味さだと思う。どうしてもっと全国的にポピュラーにならないのかおれは不思議だ。
すき焼きにも麩を入れることがあるけど、豆腐や糸コンが煮込んで味が沁みるのとトレードオフで食感がボソボソしたり、縮んでゴワゴワになったりするのとは裏腹に(・・・・・・いやまぁ、それはそれで美味いんだが、笑)、麩は味が沁み込むほどに食感の滑らかさも増して行くのが良い。
・・・・・・ただ、同時にこの事実は麩の限界をも示してもいる。
残念ながらやっぱし、食材としてはやっぱしちょっとばかり弱いのだ。他の味を際限なく吸い込む一方で、自分自身の味の主張は殆どないのだから。上に挙げたおでん種にしてもそうで、同じように出汁を吸って美味い大根と比較してみると分かる。大根はどれだけ煮込んでも大根そのものの味が強く感じられる。つまりは味の相乗効果があるんだが、麩には殆どそれがない。どだいそもそも味がない。大根はおろしで食えるけど、水で戻した麩を刻んでそのまま食えるかっちゅうと、正直ちょと厳しい・・・・・・いや、まだ試したことはないんだが。
この点では、立ち位置としては高野豆腐に近いものなんだろう。高野豆腐も煮込めばとても美味いが、水で戻したので冷奴を作ったら食えるかっちゅうと、まぁいささかしんどい・・・・・・いや、これもまだ試したことはないんだが(笑)。
冒頭で「独立した食材云々」と書いたけど、前言撤回しますわ。どしたってムリなモンはムリっす。
・・・・・・でもでもやっぱしおれは好きだな、麩。いささか嵩張るのが多いのはご愛敬、許してあげてください。みなさんも家に常備しとくと、三度三度の食事の折に、ちょっとだけシアワセになれると思いますよ。 |

まるでバゲットか巨大カリントウに見える油麩。
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https://nenemame-trend.info/より
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2019.06.28 |
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