味は引き算 |

驚きの味、「curry草枕」のカレー。最近食ったカレーでは最も感動した。
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趣味ってツモリは全くないんだけど、おれは何故か料理を拵えるのがガキの頃から大好きで、今でも休日には何だかんだと台所に立つコトが多い。技術的にもまぁ、ほれ、ありますやん!若いオネーチャン達に街頭でいきなり調理させて、その無知を嘲笑うイヤらしい番組、あれで出来上がってるレベルよりは随分マシであるコトは間違いないだろう。
ちなみにそら確かにエエ歳して料理のイロハも知らんのは恥ずかしいコトだけど、知らんことは知れば良いだけのハナシで、あそこまで番組のレギュラーコーナーでやるっちゅうのも如何なモノかとは思うな。ジジィのIT知識の無さを嗤いモノにするコーナーも作れば良いのに。
そんなこんなで作れと言われれば大体何でも作れる。「料理のキホン」的な献立なら特にレシピとかも必要なく、フツーの家庭の晩ごはんくらいには仕上げられる。
どこで知識を仕入れて来たのか、ヨメが「週に1回カレー食べるとボケへんみたいやで」などと煽るモンだから、最近はカレーを拵えることが以前より増えた。カレーといっても肉とジャガイモ・人参・玉ネギを炒めて煮込んでルー放り込んで・・・・・・みたいなイージーなのではなく、何か色々ダシ取ったり、玉ネギやら何やらをジックリ炒めたり、スパイス炒ったりと手数の掛かるのを目下あれこれ試行錯誤しながら学習中だったりする。
話が逸れるのはいつものコトで今更エクスキューズ入れても仕方ないが、「カレーを食べるとボケない」っちゅうのは正確ではない。それがもし事実なら老人ホームの献立は365日カレーにしちゃえば良いってコトになってしまうではないか。
要はスパイスの重要な要素の一つであるターメリック(ウコン)にアルツハイマーの進行を遅らせる働きがありそうだ、ってなコトがラットを使った実験で何となく判明したレベルである。それに「ウコンの力」ってな漢機能強化ドリンクがあるくらいで、別にカレーでなくたってウコンは摂れるのだ。そうそう、沢庵の色付けにだってウコンは使われるらしい。
また、ウコンには重篤な副作用がある。肝機能に効くどころか元々肝臓疾患を抱えてる人には逆に症状を悪化させることが多い。余り多くないとは申せ死亡例だってあるくらいだから、摂れば良いってモンではなさそうだ。何事もやはり「過ぎたるは猶及ばざるが如し」なんだろう。
さてさて、カレーには一体何種類の素材が入ってるんだろう?というとこれがもう笑っちゃうくらいに多い。市販のカレールーにだって「35種類のスパイス」などと謳ってあったりするくらいで、肉やら野菜やらの具材以前にとにかく色々入ってるのだ。俗に「健康でいるには1日30種類食え!」なんて言われるけれど、そんなんカレー食ったら余裕で達成できるやおまへんか。
代表的なトコだとクミン・コリアンダー・カルダモン・ターメリックあたりから唐辛子やら胡椒なんてのが挙げられる。それにシナモン・クローブ・ナツメグ・ニンニク・生姜、さらにはオールスパイス・ローレル、ちょっと変わったトコだと陳皮やフェネグリーク、バジル、あるいはカカオやコーヒーに山椒、加えて各種ナッツ類、ほいでもってそらもう中華ちゃうんかい!?って言いたくなる八角・花椒、漢方薬まがいに棗やクコの実にサンザシ、高麗人参ってな意見まであったりする。
恐ろしいコトにここにさらにスープや具が加わる。やれ鶏ガラだ豚骨だカツオと昆布に干しシイタケだ煮干しだ、玉ネギにリンゴにバナナ、マンゴー、トロ~リ溶けてる蜂蜜、砂糖・塩・醤油・味噌・味醂・ワイン、牛乳にヨーグルトに生クリーム、チーズ、バターなんてのが容易に諳んじられるくらいに巷間語られてる。台所にあるモノ全てが入っちゃうんぢゃないのか!?
具は・・・・・・もう並べるのも面倒くさくなってきましたわ。好きなん入れとくれやっしゃ。
もぉグッチャグチャで何が何だか分からないよね・・・・・・いやいや、流石におれもこんな入れまくりの愚は犯してないよ。
ぢゃぁ本場インドのご家庭ではこんなにややこしいコトして毎日料理してるのか?っちゅうと、実は全然そんなことはなくて、スパイスは大体4~5種類、ケッコー雑っちゅうか目分量でチャカチャカと手早くやってしまうのが一般的らしい。そりゃそうだわな。そんな何十種類も配合考えてあれやこれや呻吟しながらシンネリやってちゃ、たとえ一日中台所に立ち続けても料理が終わらないモンな・・・・・・で、そんなシンプルかつアバウトなんでカレーの味がしないか?っちゅうと、チャンとカレーとして成立してるらしい。それどころかグニグニ弄り倒したモノより余程エスニックで個性的な味らしい。残念ながらインドに行ったことが無いんで、「らしい」ばっかしの仄聞の羅列になってしまうのが申し訳ないが。
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先日、新宿の外れにある最近ちょっと話題の「curry草枕」って店のカレーを食べた。往年の札幌スープカレーの仕掛人でもあったカレーマニアの元・北大生である店主がが数多のカレー遍歴の末に辿り着いた味らしい。
出て来たのは札幌時代に良く食ってたスープカレーではなく、かといってトロミのあるカレーでもない。ついでにいうならインド料理屋っぽくもない。細かく刻まれた玉ネギが半ば崩れかけて結構沢山入ってて、具は鳥モモ肉をブツ切りにしたのが何切れか、あとはオプションでミニトマトとナスビを追加したので、それらもチョロッと入ってる。
一口啜って口に入れたその味はかなり衝撃的だった。複雑玄妙、何が入ってんだろう?って考えさせられるような味・・・・・・ではなく、その太極拳もとい対極にあるようなメチャクチャにシンプルでアッサリ・スッキリした味だったのだ。
スパイスも基本的にオーソドックスなのだけでそんなに色々とは入ってないと思われる。たぶんダシも殆ど入ってなかったような気がする。恐らくはカシワ煮込んで自然と出た旨味くらいではなかろうか。玉ネギだって殆ど公式のように語られる「飴色になるまで炒められた」ものでもない。メイラード反応もクソも、多分ただひたすら煮てカサを減らして甘味を出しただけのように感じられた。
ぢゃぁそれで不味かったのか?っちゅうと全然そんなことはなく、これがもぉ美味いのである。決して弱々しくもない。キッチリとカレーとしての心柱が一本通ってる・・・・・・っちゅうか、色んな味をブチ込んだカレーよりも余程味がボケてなくてカレーらしい気がした・・・・・・まぁ、おれの舌だからそれほど鋭敏なワケではないけどね(笑)。
同じような話でNHKの「ためしてガッテン」って番組でのカレーの話がある。4人の人に同じカレールー、具材を渡して作り方は自由、味のチューニングも自由に作らせて結果はどうなるか?って実験だ。出来上がったのを4人の官能試験検査員が味見して5点満点で採点したのである。3人までは色んな隠し味をブチ込み、一人は説明書通りに特に何の手も加えずそのまま拵えた。
そいでもって一番はフルノーマルな人だった、っちゅうのはいささか話がデキ過ぎな気もするけれど、一番評価が低かったのは料理酒やらケチャップやら最も数多くの隠し味を加えた(・・・・・・ってそんなに入れたらそもそも隠し味になりませんがな、笑)自称ベテラン主婦だったのは何とも示唆的な気がする。
やはり何でも入れりゃぁエエってモンぢゃないのだな。
しかしすぐその後に市販のルーに加えてマトモに味が引き立つモノの紹介もやるところがNHKらしくて芸が細かい。入れて間違いなく味に深みが出るのは「バター」「唐辛子」「ニンニク」「砂糖」とのコトだ。おれはあまり脂分を入れたくないのでバターは試したことが無いけど、後の3つは何となく分かるような気がする。特に砂糖はヘンにフルーツを入れて甘味出すよりも雑味が無い分、却って好ましいのではないかと考えてたトコだったので、ちょっと嬉しくなってしまった。
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ともあれこれほど多種多様の素材からなるカレーに於いてさえ、やっぱし味っちゅうのは足し算ではなく引き算なのではないかとおれは思う。そして「況や***に於いておや」っちゅう勿体ぶって古風な表現せずとも、凡そあらゆる料理の味付けは、足すことよりもむしろ「何か余計なことをしてやせんだろうか?」ってな観点で、絶えず細心の注意を払って引き算を心掛けるべきなのだろう。
そうして見渡すと、少しづつではあるものの世の中に引き算の味で勝負する店が現れ始めてる。
例えばこれまで散々に批判してきた行き過ぎたラーメンの世界で、今これ以上はないっちゅうくらいにシンプルなスープで売る店が大行列となっている。何でもあまりに行列が凄まじくって近所迷惑なんで整理券を朝早くから毎日発行するのだが、それさえすぐになくなるほどの盛況ぶりらしい。言わずと知れた湯河原の「飯田商店」だ。
おれはまだ食ったことが無いんでエラそうには書けないけれどこの店、何とスープには鶏しか使ってないんだそうな(・・・・・・って、調べてみるとその嚆矢は相模原にあって今は尼崎の塚口に移転した別のラーメン屋らしいが)。それはともかく長ネギも生姜も酒も、なぁ~んも無しっちゅうんだから余りに潔すぎて恐ろしい。ただし、その代り鶏にはかなり拘って数種類を使い分けてるとのことだ。
また、どこの店ってワケではないものの焼肉屋で粗塩と胡椒、あるいは山葵とかだけで食わせるメニューが増えて来てるのも、まぁちょっと良いコトのように思う。手放しで賞賛できないのは、あくまでこれがトレンドで、ちょっとスノッブな趣味が無批判に広がってるだけのようにも見えるのが残念だからだ。
とは申せアホなニーチャンでもネーチャンでも通ぶって我慢して塩と山葵で焼肉食ってるうちに、逆にホントにこりゃぁ美味いや!って心の底から気付かされることだってあるかも知れない。僧形に身をやつして逃げてた悪人が、あろうことか村人から敬われてしまってそれで仏心が芽生えるようなモンだ(笑)。
いずれにせよこの業界も揉みダレ/付けダレ、甘口/辛口、甜麺醤にヤンニムに・・・・・・とテーブルの隅っこの壺が増えてワチャワチャになる一方だったコトから思えば喜ばしいことではなかろうか。
ぢゃぁオマエはどうなんだよ?と問われると、これが何ともむつかしい。幾つかは頑張って自分なりに実践しそれなりに良好な感触が得られつつある・・・・・・って、ウガ~ッ!放っとけや!わしゃ別に飲食業やってるワケちゃうわい!単なる料理好きのオッサンなだけぢゃわい!(笑) |
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2018.03.24 |
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