サードウェーヴ餃子・・・・・・福島・円盤餃子 |

餃子が小さいので、せめて画像は大きめにしてみました(笑)。
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何年前のことだろうか、門前仲町界隈を発信地に「サードウェーヴコーヒー」なるものが降って湧いたように流行の兆しを見せた。ちっとも意味が分からんのだけど、それまでのスターバックスに代表されるシアトル系みたいな大量に作り置きするチェーン店ではなく、吟味した豆を丁寧にローストして丁寧に挽いて一杯づつ丁寧に淹れる・・・・・・みたいなんがウリだったように思う。
おらぁコーヒーは自分で淹れるのがいっちゃん美味いって思ってて、外で別段そんなスペシャリティ感の押し売りみたいなんを飲みたいとも思ってないもんだから一向に興味は沸かず、その内、辛酸なめ子だったかな?「サードウェーヴ男子」なるネーミングで、「上質で丁寧な暮らし」とかゆうて要は中途半端にチャリ乗って近所をプラプラしてるだけの半病人か若年寄みたいな軽くて気持ち悪いタイプのニーチャンを揶揄しだしたりして、いつの間にかブームは萎んでしまったように思う。まぁおれも嫌いだわ、こぉゆう意識高い系で枯れたようなのは。
何が第三の波だか結局分からず仕舞いのままだ。ああ、アルビン・トフラーって人の「第三の波」ってな本が昔ベストセラーになってたっけ・・・・・・いずれにせよまぁ、どうでも良いんで敢えて知りたいとも思わないけどね(笑)。だって所詮、「波」なんて要するに「大衆化」っちゅうコトの耳触りの良い換言に過ぎないんだから。
さてさて、何事にもこうした波やらムーヴメントやらは存在するワケで、思えば餃子にもサードウェーヴがあるんぢゃないのか?って気がして来た。それが今日の本題だ。
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最初の波は何か?っちゅうと、近所の中華料理屋でとにかく餃子が食えれば幸せだった時代だろう。70年代前半くらいまでだろうか。個人的な経験でいうと昔、駄文に書いたように、母親に連れられてった「ヤマトウンジョウ」(←未だにどんな漢字だったか分からないままだ)で食った餃子なんかがこれに当たる。あくまで餃子は中華料理屋の数あるメニューの中の一品に過ぎなかった。
セカンドウェーヴは?っちゅうと、「珉珉」(←宇都宮ぢゃないよ)辺りを開祖とする、低価格の餃子を全面に打ち出した大衆餃子チェーンの広まりである。言うまでもなくこの路線は「王将」の全国展開によって完全に一般化した。ここでお断りしておくと、おれは「珉珉」や「王将」の餃子が大好きだし、実は味を判定する上でのベンチマークともなってる。ちなみにおれも大概歳食って余計な知識が身に付いたせいで、今では色んな餃子の有名な店に行ってはいるものの、ぶっちゃけこれらの味を越えてると唸らせるほどの店は実は大してなかったりするのが実態だ。
餃子チェーンとしての「王将」は言わずもがなのガリバーだけど、他にも各地方で頑張ってるトコはある。まるで信玄餅みたいな特異なフォルムと、煮るわ蒸すわ焼くわ揚げるわな独特の調理方法の異端児・「ホワイト餃子」や、東京西部を中心に数多く出店してる「ぎょうざの満洲」だとか北海道の「みよしの」だとか各地方にチェーンが存在したりもする。
そして肝心のサードウェーヴは何か?っちゅうと、宇都宮餃子ブームに始まる、いわば「地方餃子」ではないかと思う。ちなみに宇都宮と言えば「みんみん」がとにかく有名なんだけど、ぶっちゃけおれは「正嗣」の方が好きだったりする。
これもそのうちドンドン地域が発掘されて、添えられた茹でもやしが印象的な浜松が宇都宮の対抗馬となり、さらに博多の鉄鍋や福島の円盤、津のジャンボ等が知られるところとなった。何とまぁ津のルーツは学校給食らしい。何やねんそれ!?って思っちゃう。ともあれこうして考えると福島は二重の意味でサードウェーヴなワケやね。
そんな福島餃子、名前だけは聞いてたものの、食べに行くには遠くってナカナカ実食の機会に恵まれずにいた。それが先日、ようやく念願叶って食することが出来たのだった。
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福島市は市の真ん中にドーンと信夫山が横たわってるおかげで地方都市としてはまとまりに欠けるっちゅうか、散漫っちゅうか、とても地理感の掴みにくいヘンテコリンな町である。大体において県庁所在地なのに、県内の他の大きな町である郡山や会津若松、いわき等と比べても華やかさに乏しくて地味な印象のトコだ。この点では栃木や群馬に相通ずるものがある。
目指すは元祖と言われる名店・「満腹」だ。駅東方の繁華街から外れたあたりにポツンとあって目立たないものの、現在「福島餃子」を標榜する店の多くが、この店で働いたり、教えを乞いに来た人たちによって開かれたと言われている。
クルマを近くの神社の駐車場に停め、葬儀屋だとか仏具屋だとか、何だか辛気臭い系のお店の並ぶ通りを裏手に入った非常に分かりにくい所に「満腹」はあった。以前はもちょっと表通りに面してたらしいが、立ち退きかなんかでそこから数十m移転してむしろ奥に引っ込んぢゃったらしい。東北人は奥ゆかしい所があって、有名な白河ラーメンの元祖である「とら食堂」も表通りからは随分引っ込んだところにあったっけ・・・・・・まぁ、これだけ有名になれば場所が目立たずともお客さんは来てくれるって自信の表れなのかも知れないが(笑)。
行列必至、ヘタすりゃ開店1時間で売り切れると聞いてたが、開店早々で最初の行列が入った後だったのと生憎の天気も良い方に作用してか、まったく並ぶこともなくスルッと入店。ちょっと拍子抜けしてしまったが、とにかく行列に並ぶのが大嫌いなおれとしてはありがたい限りだ。
カウンターに案内されてメニューを見ると、中華料理屋っちゅうよりは呑み屋な印象で、酒のメニューがひじょうに豊富なコトに加え、その他がお新香や冷奴、枝豆、あるいはモツ煮だったりする。ライスさえない。餃子にはついついご飯が欲しくなってしまう人が多いためか、壁の所々に「ライスはありません」の但し書きまである。要はくすんだ裏町の飲み屋なのである。これが他の地方の餃子とちょっと異なるトコで、ビールのアテに餃子をどうぞ、っちゅうのが元々のスタンスなんだろう。
店内の壁に芸能人のサイン入り色紙がギッシリなのは有名店ならではの光景である。ナニナニ!?石丸謙二郎は2回、黒柳徹子に至っては3回も来店してるのか!?元気なバーサンだな。
餃子の注文は最小30個からで、1個50円であとは10個単位になる。最低1,500円だから餃子としては結構いいお値段と言える。開店前から並んでた人が多かったようで、見渡すとどのテーブルにもまだ殆ど餃子は届いていない。厨房では小さなフライパンを幾つも並べて焼きの真っ最中だ。
よく「カウンターですんません」なんて言われたりするけど、おれは飲食店のカウンターに座って調理の様子を見るのが大好きだ。ライブ感があって、料理がより美味くなるような気がする。
20分くらい待っただろうか、餃子が到着。実はおれも自分ちで焼くときは、均等に火を通しやすいことから同じ並べ方をしてるのだけど、噂通り見事に円盤状になってる。ウンウン、香ばしい匂いも焼き色も良し・・・・・・しかし、だ。
一体全体何やねん!?この小ささは!?
ぶっちゃけ、1個の全長が3cmくらいしかない。小さめのミカンの一房分くらい、といえばご想像いただけるだろうか。皿もだからもちろん随分小さくて、なんだか精巧に出来た餃子のミニチュアを見せられてるような気分だ。こんなんやったら100個でも楽勝で食えるで、ってなくらいに衝撃的なサイズだった。
そぉいやこの10年くらいで大阪土産で「点天のひとくち餃子」ってのを良く見掛けるようになったが、あれはまだ余分な皮がビロッと出てる分、これよりはまだ大きく感じる。とにかくサイズで言えば間違いなく日本最小の部類に入るだろう。有名な神楽坂の一升餃子と比べたら体積比で1000倍以上違うかも知れない。
餡だけでなく皮まで手作りというその味はどちらかというと古典的でアッサリした印象、まったく食べ飽きせず美味い。いくらでも箸が進む。小さくて数が多い分、皮のパリパリ感が通常より楽しめるのも良い。なるほど先ほど引き合いに出した「点天」にしたって北新地という酔客の町がルーツだから、あくまでビールのアテにチマチマとつまむのが流儀なんだろう・・・・・・店の名前は「満腹」だけどさ(笑)。嗚呼、クルマぢゃなければビール頼めたのに。
ヨメと二人で30個づつの合計60個、アッと言う間に食い終えた。
かくしてつつがなく福島・円盤餃子体験は完了したものの、ボリューム的には正直なところ全然物足りない。腹8分目どころか5分目くらいだ。これで3,000円のお代はナンボ名物で手間暇が掛かってるとは申せ、いささか高い気がしてしまう。だって、もし近所に住んでたとしてもそんな気軽に行ける値段ぢゃないもんね。この点で、いささか微妙な感じも残ったのが忌憚のない所である。
ただ、壁に貼られた創業からの沿革の記事等を読むうちに、この「ちょっと割高感」はそれこそ店のルーツと密接に関係してるのではないかって気付いた。当て推量で申し訳ないけど、創業者は終戦を迎えて満洲から着の身着のまま命からがら引き上げて来て、何とか裏町に店を構え、彼の地で教わった味を忠実に再現した餃子で商売して行く中で、料金の中に「寄付」や「篤志」も含めてたのではないか?ってコトだ。だからこそ食堂ではなく利ザヤの良い飲み屋でもあったのだろう。
だとすれば、そんなのを真っ昼間から食えて、あまつさえこのようにノー天気な太平楽を並べられるの今の時代は、実に平和でありがたいことと言わねばなるまい。
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・・・・・・しかしそれでもやっぱし物足りなさは残ってしまう(笑)。
その日の晩、宿泊した飯坂温泉で、おれたちはこれまた有名な「照井」・・・・・・ではなく、知る人ぞ知る隠れた名店と言われる「保原屋食堂」の方に繰り出してったのだった。お膳に何品も並んだ豪華な旅館の夕食食ったばかりだ、っちゅうのに。 |

「保原屋食堂」の餃子は7個単位。
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2017.11.18 |
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