夏の昼は素麺 |

かつては三輪素麺、それも「池利」のがもてはやされてました。
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子供の頃、素麺が嫌いだった・・・・・・いや、食えないほど嫌いなワケではない。ただ、子供には味がないように感じられるのに加え、飽き飽きしてたってのがある。文字通り食傷してたのだ。
6月くらいからの毎土曜日、学校が終わって家に帰ると昼飯は必ずといって良いほど素麺だった。それも必ず、出汁は干し椎茸の戻し汁を使ったモノである。当時のおれは干し椎茸が苦手でイヤだったのだが、母親は素麺がそぉゆうものであると信じて疑わないみたいで、おれがどれだけ勘弁してくれと頼んでも必ず干し椎茸の出汁なのである。ちなみに戻した椎茸は細かく刻んで甘辛く煮つけて素麺に添えられるのだった。
夏休み前はそれでもこうして週に一度なのでまだいいが、夏休みに入るとほぼ毎日判で捺したように素麺だ。まぁ、食えないほど嫌いでもないんで仕方なくズルズル食べるけど、ほとんど食い物を使った拷問のようにおれには思えるのだった。
しかしながらこれはいささか変わり者だったおれんちに限った話ではなく、かかる記憶をお持ちの方はワリと多いみたいである。強いて違いを述べるなら、近畿圏出身の人が素麺であるのに対し、関東や九州ではそれが冷麦だった、っちゅうケースが多いような気がするって点だろうか・・・・・・干し椎茸はともかくとして(笑)。
そんなこんなでおれは素麺を積極的に食おうとは思わなくなってしまったのだった。
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冷静に考えると実は素麺にはメリットが多い。第一にとにかく茹で時間が早いってコトが挙げられる。大鍋に湯を沸かして、麺の束をほどいてブチ込んでそのまましばし、ワァ~ッと吹きこぼれそうになったらやや多めのビックリ水を入れる。そいでもって、もっかい吹きこぼれそうになったら間髪入れず笊にあけて出来る限り手早くシッカリ冷やす。以上、完了!湯が沸いてから1分少々で茹で上がる。これより早く茹で上がるのは博多ラーメンのバリカタとかハリガネ、あるいは湯気通しと呼ばれる超硬茹でくらいではないかと思う。
第二に延びにくいことが挙げられる。中に油を含んでるからとも、生地を切って行く饂飩や蕎麦、冷麦と違って引っ張って延ばして作るから麺の表面が荒れておらず水を吸収しにくいからとも言われるが、そのメカニズムは良く分からない。いずれにせよ、少々水に漬けたままでも延びないことは確かだ。
第三には長期保存が利くってことがあるだろう。何せ、作り立てよりも一夏越した方が風味が良くなるのである。俗に「ひね」っちゅうモンだ。ひねててありがたがられるなんて、ワインか素麺くらいなモンだろう。ガキならドツかれる。ちなみに二夏過ごしたものなんかは非常な高値で売られている。
さらには麺類の中では比較的腹持ちが良いとか、他の乾麺よりパッケージが小さくて仕舞いやすいとか、麺それ自体に存在感がないので和・洋・中何にでも合うとか、意外なまでに素麺はやるヤツなのだ。
余談だけど、これらの点からアウトドア食材として密かに愛されてたりする。とにかく荷物を小さく、軽く、そして燃料消費を抑えたいソロのバックパッカー等にとっては便利この上ないのである。茹で上がりに笊にあけずそのまま味付けしてにゅう麺にするとか、フライパンで堅焼きそばみたいにするとか、色んな山屋レシピが存在してる。
しかしながら優れた点がいくら多くたって、半ばトラウマと化した素麺に対する思いは長年変わらなかった。ガキの時分で一生分食っちゃったわい!みたいな気持にさえなっていた。だから、学生時代に一人暮らしを始めた時も、いくらリクエストしても家では滅多に食卓に上らなかった蕎麦の方はそれなりに買うこともあったが、素麺を買うなんてことは絶えてなかった。
見方が変わったのは30過ぎた頃だ。悪友・S年の実家に遊びに行ったとき、お母さんが地元にしか出回らない極上品のひねを20束ほどビニール袋に包んで土産に持たせてくれたのだった。
家でゆがいて一口食ってみて驚愕した。味ではない。申し訳ないけどそこには特に大きな差異は感じなかった。その滑らかな喉越しに驚いたのである。
喉越し・・・・・・素麺の最大の魅力はそこなのではあるまいか?ガキだったおれにはそれが分からなかったのだ。
改めてその観点で素麺を食ってみると、官能的とも言える滑らかさがある。勿論どこのどのグレードでも良いワケではない。あまり太いのはダメだ。やはり三輪や揖保乃糸、あるいは三輪へのOEM供給でメキメキ実力を付けた島原あたりの上物の食感が良い。この点で申し訳ないけど半田や小豆島はちょっと落ちる気がする・・・・・・って、何事も日進月歩で進歩してる今だから改良されてるかもしれないけど。 あと、あんまし安いのは製法が違うのか何なのか、とにかく喉越しに問題あるのが多い。延びやすい気もする。乾麺王国・北海道でたまに浮気心起こして安い素麺なんかも買ってはみたが、本当にロクなのがなかった。その点安くても蕎麦はまだ食える。どうやら素麺だけはあまり費用を惜しまない方がよさそうである。
しつこいようだけど素麺は喉越しが身上で全てだ。
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ついでで申し訳ないけれど、最後に冷麦にもちょっと触れて終わることにしよう。
冷麦は要は細く切った饂飩らしい。素麺よりは太く饂飩よりは細い、細打ちの蕎麦くらいっちゅうか、稲庭饂飩をさらに細くした感じ、っちゅうかそんな中途半端さがある。素麺は温めて食することもあるが、冷麦は名前に「冷」が入ってるからなのか、まず冷やしでしか食べられない。味的には素麺と大差ないけど、とにかく食感が劣る気がする。いささかブヨッとしてコシがないのである。喉越しも太い分、素麺には劣ってる気がする。
いやいや、それはおれの茹で方に問題あるのだろうと、一時期凝っていろいろ工夫もしてみたのだが、どうにも上手く行かない。大体、どれだけ手早く冷やしても延びるのが早い。なんとなくこれらの点で冷麦は素麺の代用食っぽいっちゅうか、ちょとばかし可哀想な存在のように思える。
ただ、一袋に1本か2本入ってる緑や紅色の麺は何とも愛嬌があるし、素麺に比べてムニュムニュと著しく節度感のない食感にもそれはそれで冷麦ならではの魅力があるのも事実だろう。
学校も夏休みに入り、各地で梅雨明け宣言が出され始めた。夏本番は目の前に来ている。とかく食欲の落ちる季節でもある。気怠い夏の日、手早く素麺を茹でて簡単に昼食を済ます・・・・・・この歳になってようやくそんなのがフツーに「あり」だなぁ~って思えるようになった。それだけおれも歳を取り、少しは分別が付いたのだろう。 |

今は播州「揖保乃糸」が席巻してますな。
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2014.07.22 |
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