爆食旅館・・・・・・島原温泉・岩永旅館 |

これで一人分(笑)。
決して誇張して言ってるのではない証拠に大きなサイズで。
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昔、バーミリオンサンズ、って日本のフィメールボーカルのプログレバンドに「北本」って曲があった。その中で何度も何度も「北本へ行け」って繰り返されるんだけど、その「北本」っちゅうんが一体全体どこなのかは未だによく分からない(笑)。ただ、おれは大仰なメロディラインのこの曲が大好きで、良く聴いたし、鼻歌でフンフン歌ったりしたものだ。
・・・・・・何を言いたいのか、って?
いや〜、もしこれ読んだ貴方が長崎県は島原に出向くことがあったなら、岩永へ行け、ってこってす・・・・・・って、それだけかよっ!おいっ!?全然オチになってへんね(笑)。
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商用で島原に行くことになった。
おれは出張の途中では基本的に温泉に入らないことにしてる。泊まるのもベッド嫌いのクセにわざわざビジネスホテルにしたりする。何てーかなぁ、気ままな出張で人目がないからって行楽とかやっちゃうのは、何だか公私混同で良くないことのような気がするからだ。
ただ、ギャラリーご覧の方はご存じだろうが、例えば水・木・金と出張だったりした場合、特に東京に戻る必要がなければ、その後に続く土・日は公休日なので、気持ちをオフに切り替えて遊ばせてもらう。野宿だってする。温泉にも入り倒す。つまり、この場合だと水〜金の間では遊ばないってことだ。
ところがさて困ったことに、今回、おれはネットで見つけちゃったのだ、岩永旅館を。ここは料理旅館であると同時に温泉旅館でもあるから、主義主張からすれば出張中に泊まっちゃいけない。しかし島原にビジネスホテルはほとんどなく、料金も高めで場所がいささかどれも遠い。一方、岩永旅館は料金がベラボウに安い上に立地も良くて、翌日に仕事で行く場所が目と鼻の先にある・・・・・・となれば、翻意しない方がこりゃおかしいわな。堕することを厭い禁欲主義になるのもいいけど、ヤセ我慢のしすぎはやっぱ良くない。よし!納得!(笑)。
・・・・・・こぉゆう他人から見たらどぉでもいいような逡巡が、おれの生きるテンポをトロくしてるのかも知れないな。
ともあれ、おれは予約の電話を入れたのだった。1泊2食で8千ナンボ、とたしかに安い。
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島原駅前近くから南に延びるアーケードの商店街の中を行き、途中ちょっと広い道を横切ったその交差点の西側に岩永旅館はある。外観はモルタル造りで新しくも古くもない感じだ。1階が魚屋と肉屋になってる・・・・・・っちゅうことはつまり、仕入れ価格がそれだけ抑えられるってコトだろうから、噂通り食事は期待できそうだ。
いろんな種類の魚やエビカニ、貝の類が放たれた水槽の並ぶ横の玄関をくぐると、ちょっとしたロビーがあって、その奥が帳場。何せ真横の魚屋にそのまま繋がってるから、何となく生臭い。ゲタ箱にはおれの名前が貼ってあった。
見た目とは裏腹に、旅館の内部は随分と古めかしい。三階の奥まった部屋に通されておれは驚いた。明かり取りの窓が建物の歪みで完全にずれちゃってるではないか。窓だけではない、柱や鴨居も大きく曲がってるところがある。何となく畳の床も水平でないような気がする。おれの表情に気付いたのだろう、案内してくれた仲居さんは笑いながら、「もぉ出来て100年くらい経っとるとですよ〜。この部屋なんかまだマシでねぇ〜、ボールの転がる部屋もあるとです。」等とヘーキで言う・・・・・・今晩台風が来る、どころかすでに外は強風が吹いてる、っちゅうのに(笑)。
ま、今回のネタの趣旨から外れるから、帳場の裏にあった風呂のことはサラッと触れるだけでいいだろう。言えることは、猛烈に熱い湯の浴室は、何とも不思議なレイアウトだったってコトだ。
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時折、突風が建物全体を揺らす中、特段することもなく、刻々と迫って来る台風に関するTVのニュースを見てるうちに夕食の時間となった。さっきと同じ仲居さんがクリーム色の仕出し桶を抱えてやってきて、テーブルの上に料理を並べ始める・・・・・・って、え!?
・・・・・・これがホンマに一人分の料理かよ!?噂以上ぢゃねぇか!
最初に並んだのを列挙してみよう。
●ワタリガニの一種でこの辺の名物「タイラガネ」の蒸し物
●同じく蒸し物で30cm近くある巨大シャコ
●鰻蒲焼
●鮭とろろ和え
●もずく酢
●鯨ベーコンとさらし鯨
●めかぶ
●肥後牛しゃぶしゃぶ
●ふぐ湯引き
オバチャンは次のを取りに部屋を出てった。ここですでに9品。既に通常の一人前の量は余裕で超えている。間もなく第2弾到着。
●肥後牛鉄板焼き
●造り4品盛(ニシ貝・平目・鱸・車海老)
●鱧湯引き
●茶碗蒸し
●握り寿司6貫盛(イクラ・鯵・シャコ・マグロ・鰯?・金目鯛?)
●メロン
・・・・・・色とりどりに展開された合計15品、テーブルの上はとんでもない状況になっている。どれもこれも申し訳みたいな量ではなくしっかりと一人前、ある。しかし、一人でこれなら、二人以上で泊まったら一体どのように並べるのだろう?床にまで並べるのか?
思わずおれは笑い出してしまった。無論、それが人が圧倒的なものに気圧された時に洩らす笑い、あるいは発狂したときの笑いに近いものだったのは言うまでもない。情けないことにおれは一瞬怯んだわけだ。
しかしその内、ほとんどこれは客に対する挑戦、あるいは嫌がらせではないのか?と思えて来た。お気づきだろうが、蒸し物が2品とか、肉料理が2品とか、献立の組み方にしたって畳み込むような執拗さがある。実は板場の奥に「ホッホッホッホッホ、ほ〜れほれ。かかって来なさい!この量、食えますかぁ〜?」と、不敵に笑う板前がいたりして。
そんなクダらぬ想像をすると、俄然闘志が湧いて来た。「お〜、よぉ言うた!上等ぢゃい!受けて立とうやないか!絶対の絶対に完食してこましたるわい!」みたいに(笑)。
大荒れの外の天気も却ってこの決戦の場にはふさわしく感じられる。吹けよ風、呼べよ嵐、龍虎相まみえる、ってなモンだな・・・・・・たかがメシごときで勝手にテンション上げて大層な(笑)。
約1時間半かけておれは全制覇した。予想に反し、色んな種類がある分食べ飽きすることがなかったので、単品テンコ盛り系なんかよりはまだ楽に(あくまで相対比較で、だよ)片づけることができた。下げ膳に来た仲居さんは、綺麗に残さず平らげてある皿を見てものすごく驚いていた。滅多に完食する人はいないのだそうだ。
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紛うことなき爆食系。安くて料理がたくさん出る旅館、なんて生ヌルい表現ではなく、もはや爆食旅館と呼んで差し支えないだろう。最近ハヤリの言葉で言うなら「漢の宿」だ。オンナ子供が安易な気持ちで近付けるところではないと断言してもいい。しかし、決してその事実を派手に謳うことなく、いかにもフツーの佇まいでその旅館は建つ。
翌朝、出発までの間、ロビーのソファーで新聞を読もうとして、ここが改めてタダモノでないことを思い知らされた。マガジンラックには朝日新聞と聖教新聞、そしてしんぶん赤旗が同居してたのである。
繰り返そう。
長崎県は島原に出向くことがあったなら、岩永へ行け。
・・・・・・ただし貴方が大食漢ならば、の条件付きだが(笑)。
※ここの存在を知るきっかけとなったホームページに感謝するとともに、紹介しておきたい。
「kentaの極楽温泉」http://www2s.biglobe.ne.jp/~kenta_T/gokuraku.html
※2010.04.21追記
残念なことにこの岩永旅館、2009年に廃業してしまったらしい。 |
2008.07.20 |
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