四谷にて |

スゴい店ですよ、ここは!
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http://hw001.gate01.com/izakayajunky/より
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四谷に素晴らしい酒屋があることを教わったのはもう随分前になる。
今はあの辺のとある出版社に勤めておられる、旧知のM氏に誘われたのだ。買いに行ったのではない・・・・・・というのも名を「鈴傳」というその酒屋、酒飲みが思わず唸るような全国から集めた素晴らしい日本酒を大量に地下の倉庫に保管して売ってるだけでなく、併設された立ち呑みで格安に供してくれるのである。
大体いつ行っても10種類くらい出てる。どれもきっかり正一合入って400円から600円、ってトコなので大層安い。アテもあってお惣菜っぽい煮物や何かを中心に大体どれも350円。酒ともどもキャッシュオンデリバリーで、これとこれ、なんて頼むと代金引き換えで小皿によそってくれるシステムになっている。客は右手に酒、左手に小皿を持ってこぼさぬようにソロソロとテーブルに向かう寸法だが、このテーブルが他におよそ例をみないほど狭いのもこれまた面白い。
ともあれかように良心的な商売であるから、会社の退ける夕方ともなると店はすぐにお客で一杯になる。言うまでもなく主な客層はオッサン連中だが、そのようなオヤヂに無理やり連れてこられたと思しき若いOL風のネーチャンが、ノネナール臭に囲まれていかにも落ち着かない表情と追従笑いで飲んでることもあれば、たまに粋に着物を着込んだ玄人っぽいお姐さんが一人手酌で飲んでたりもする。神楽坂が近いとはいえ、今でもこぉゆう人いるんだなぁ〜、と感心してしまう。
フツー立ち呑みっちゃぁ、肴もそこそこ、1杯キュッと引っ掛け、サッと出て行くのが流儀だろうけど、そんな風にいわば「飲み捨てにする」にはあまりに惜しい酒ばかりで、行けばどうにも長っ尻になる。それにいつ行っても知らない銘柄の酒がお品書きの短冊に書かれてるもので、ついつい試してみたくなる。そうして気づけば3合4合と進んで、ベロベロに酔ってる自分がいる。
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そうなのだ。おれは四谷で飲んで泥酔せずに帰ったことが一度もないのだ。
そもそも最初に誘って下さったM氏はじめ、この界隈で飲むときの面子はいつもとてつもない酒豪ばかり。おれは決して下戸ではないが、ウワバミでもない。限界がある。限界を過ぎるとリバースか昏倒だ。しかし彼等には限界がない。そんな連中にとって「鈴傳」はいくらそれだけで素晴らしい店とはいえ、あくまで「最初の1軒目」に過ぎない。何杯も冷で飲んで、なんだけれどね。
「立ち呑みだけで終わったら立ち呑み屋に失礼や〜!」とかなんとか意味不明の怪気炎を上げて、2軒目の物色が始まる。これだから酒飲みはしつこいと言われるのだろう。もちろんひたすら日本酒でGO。次の店は地下に屋台を埋め込んだおでん屋や、おれの大好きな新潟・十日町の幻の酒「天神囃子」を扱う居酒屋等に繰り出すことが多い。ビールなんぞ妖怪のようなこの輩(・・・・・・って一応おれも含まれてるんだけれど、笑)にかかれば水みたいなモンで、日本酒の濃さにいささか辟易したときの箸休めならぬ喉休めみたいなもんだ。おれはだんだんこの辺から意識が朦朧としてくる。
--------おお!お前、酔ぉたんかぁ〜!?よっしゃ!ちょっと酔い覚ましにライブ見よ、ライブ。
--------う゛ぁ゛!?、ライブ!?ライブ・・・・・・ほやけど暴れたら酔いが回りそうやな〜。
--------アホォ〜!アコースティックやアコースティック。
--------静かなんやったら、まぁダイジョーブかも・・・・・・。
・・・・・・って、店入って座るなりバーボンのロックなんぞダブルで頼んでりゃ世話ないわな(笑)。硬質なアコギのアルペジオも、酔いの回ったアタマにはホークウィンドの音楽のようにサイケでアシッドに響く。
さらには小腹が減ったといって蕎麦屋に入り、「やっぱ蕎麦には冷酒やねぇ〜」って再び冷酒飲んで、この界隈でちったぁブイブイ言わせてるらしいM氏馴染みのカラオケスナックに行って今度は自分たちが歌って、そしてやっぱりカラオケスナックであるからして水割りが出され、それをジュースのような勢いで飲み干して、でもってここのカラオケセットは古いから、もう一軒新しい曲の揃ったとこに河岸を変えようなどと言われ、他のカラオケスナックに繰り出し、一体全体それのどこが新しいのかツェッペリンなんぞ選んで今度は絶叫してカクテル飲んで、やっぱ酒飲んだらシメはラーメンやなぁ〜、とラーメン屋になだれ込み、「取りあえず餃子とビール!」なんてほたえて・・・・・・。
・・・・・・かなり記憶がアヤフヤなのだけれども、これまでの最高記録はたぶん7軒ハシゴだろう。ん?8軒かな?いやもう死ぬかと思った。
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先日、とある知り合いを誘った。いや、おれよりはるかに年上で社会的な地位もあり、とてもタメ口きける人ではないのだけれど、酒が滅法強くノリも面白い人なので、この人なら四谷をのたくる楽しさも分かっていただけるのではないかと、思い切って声を掛けてみたのだ。
結果は吉と出た。ウケた、という点では、だ。相も変わらず途中から記憶は途切れ途切れになっているのだが、ふりだしの鈴傳にせよ、天神囃子の居酒屋にせよ、おでん屋にせよ、たいそうその方は喜び、盛んに「今度は誰それに教えて連れて来よう。いや、アイツも酒好きだからなぁ〜」、ってなフツーの感想から始まって、最後はまぁちょっと書けないようなNGネタまでワイワイ語りまくっていた。
見込み違いだったのは、そのオヤヂ、おれの予想をはるかに超える酒豪だったってコトだろう。もう冷酒をガンガン行きまくる。これではいつもの連中と変わらないどころか、ヤツ等を凌駕しかねない強さではないか。もう初老と言ってもいい歳なのに、どんだけぇ〜!?。
結局、恐ろしいことに6時間近く飲みに飲み倒し、足許がおぼつかないほど泥酔して、いつものように四谷の夜は更けて行ったのである。あと少し遅れると終電に乗り遅れるところだった。
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思えば、この町で社用で飲んだことは一度もない。会社がらみの宴会もしたことがないし、今後、会場を求めることもないだろう。おれにとって四谷の町は、気の置けないせいぜい数名の仲間とバカ話しながら、心行くまで飲んでへべれけになる、そんな所であり続けて欲しいのだ。ここで詰まらない仕事の話なんて決してしたくない。儀礼的な献杯もしたくない。くだらない上司の説教に相槌も打ちたくない。
いい人と気持ちよく飲んでこそのいい酒、を実践できる場なんですよ、四谷は。ヘロヘロ〜♪
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2008.03.02 |
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----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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