「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
別府は別格

 これまでツラツラ書いて来たエピソードの数々は、殆どが間抜けでドジなんばっかしである。でもまあ実際、そーゆーモンなんだよな、行楽って。とはいえ、舞台も名の通ってない所が大半だ。いくら何でも色気っちゅーか、華っちゅーか、スケールのでかさみたいなものには乏しい。そんなワケで、3話連続で別府特別巨編と名付けて、お送りするとしよう。

 別府、それは仏像マニアにとっての奈良みたいなもんだ。うわ!いきなりシブ過ぎた。全然譬えになっとらへん。それは、クルマ好きにとってのフェラーリであり、バイクマニアにとってのビモータであり、スポーツマンにとっての五輪であり、ギターキッズにとってのギブソンレスポールスタンダード’58であり、パンク少年にとっての西部講堂であり、オタクにとってのコミケであり、フーゾク好きにとっての新宿歌舞伎町・・・止めとこう!

 つまりは、頂点であり聖地なのである。別府を嗤う者は別府に泣く、ったって構わない。ここに幾つかのデータがある。王将のCMみたいだな。

  ●湧出量・・・・・・世界第2位(ちなみに1位はアメリカのイエローストーン)
  ●泉質・・・・・・・・植物モール泉以外の全て
  ●旅館数・・・・・・450軒以上
  ●最大収容力・・・2万7千人以上
  ●共同浴場数・・・250ケ所以上

 ね!?こんだけざっと並べただけでも如何にデカいか分かるでしょ?これ程の規模で、観光やら行楽のあらゆる要素を全方位的に持ってる場所は、日本では他に例を見ない。

 一口に別府と言うが、実際は8つの地区から成り立っている。別府・浜脇・亀川・観海寺・堀田・鉄輪・柴石・明礬と分かれており、俗に「別府八湯」とも称される。
 どべーんとその巨大さでは東のハトヤとタメを張る「スギノイパレス」は、観海寺にあって、これを筆頭に巨大観光旅館は大体ここと、別府に集中している。亀川や浜脇は何だかただの路傍の温泉だ。年寄りの湯治は鉄輪(かんなわ)に尽きる。珍しい、噴気を利用したカマドを備えた自炊旅館、コテコテの大衆演芸場、土産物屋等が狭い坂道に立ち並び雰囲気を盛り上げる。有名な地獄の多くもここにある(実は入ったことがないのです)。「山峡のいでゆ」とゆー表現がピッタリの、落ち着いたたたずまいの柴石・明礬。結局地味ーな堀田。
 街全体が湯気を上げて、観光客を待っとるよーに見える。実際、随所で湯気が上がる。

 ・・・・・・と駆け足で書いたが、まあとても1日2日で回り切れるものではない。これにさらに、高崎山のサルやら、ロープウェイやら、遊園地に水族館やらとオプションがテンコ盛りなのだ。ホンマ至れり尽くせりと言おうか、町全体が過剰サービスと言おうか、もはや「観光の横溢・行楽の氾濫」とでも呼ばずにはおれない。2〜3年、住んでみたいものだ。

 嬉し過ぎて発狂するか、一文無しになるか、どっちかだろうけれど。

 しかし、こーんな基礎知識の羅列をするためだけに、ワザワザ改めた稿を設けたのではない。以上、書いて来たのは、来週以降の前フリである(枕で引っ張りまくる落語家みたいやな)。別府が決して分かり易い観光地ばかりではないというお話をしましょう。それではお楽しみに。

 尚、この特別編、毎週サブタイトルを付けましょう。今週はこれですな。


    〜〜 温泉ワンダーランド別府入門 〜〜

附記:今稿をまとめるに当たり、別府市観光局より詳細な資料を提供して頂きました。謝意を表してここに記します。




 さてさて、団体客で溢れ返る市内の歓楽街を抜け、地獄の看板を横目に眺め、自衛隊の演習地のある十文字原高原に向かう道を登って行く。明礬温泉がすぐそこである。大分自動車道の巨大な橋脚が望まれる。ここに「保養ランド」とゆーとってもダサい名前の施設がある。昔は紺屋地獄と呼ばれていたそうだ。

 この保養ランド、名前は全くアカ抜けのしないヘルスセンターだが、その内容はちょーシブい完全な湯治場なのである。おまけに料金がとても安い。
 コロイド湯(割りとフツーの酸性泉)と鉱泥湯(以前にも書いたが、見た目は丸きりヘドロの真っ黒けのドロドロの湯。非常に珍しい)、地熱と噴気を利用した天然のサウナの3ケ所が内湯で男女別になってる以外は、全部露天風呂で混浴。水着なんざ当然禁止である。どだい、入ってる客は、年寄りばっかしなんだから、この場合目クジラ立てる方がバカである。

 これも以前紹介した白泥湯(天プラの衣に浸かるのを想像して頂きたい)、白濁した池みたいな露天風呂。足だけ入れて、流れる湯で菌を殺して水虫を治す治療湯、青く煮えたぎる熱水池(これが又広いんだ。落ちたらアウト)、動力ではなく斜面の上からホントに落としている打たせ湯、どれもこれも、思いっきりジャパネスクな光景だ。
 ここには、取って付けたよーなまがいものは一つもない。物見遊山の観光を拒絶する雰囲気がある・・・・・・でだ。

 さあ!ここに入ってる時、金髪の若いオネーサン(それもかなりの美人!)が入って来たのである!最初はヘビメタのアンチャンが入って来たんかと思った。

 ああ!生きてて良かった!(以前にもこのセリフ使ったな・・・・・・)

 上から下まで全部見せて頂いて、昔の人が何で白人を「毛唐」と称したのかも理解させて頂いた。だってウブ毛まで金色に光っとるもんな。無論、銭湯のヘビメタとは異なり、或いは最近流行りの茶パツとも異なり、全身正しく金髪であった。

 ・・・・・・と、しかしそこでハタと気付いたのである。確かに素っ裸のキレイな外人さんが露天風呂に入っとる。でも何だか、ちーっともソソらんのだ。わーいわーいパツキンだ〜!、と感動したのは最初だけ。
 吉野屋の牛丼をナイフとフォークで食べるよーな、とゆーか、きつねうどんにタバスコと粉チーズがかかってるよーな、とゆーか、何ともはや周囲のモッチャリした風景にミスマッチなのだ。見ず知らずの異国の人に対して、大変失礼をあえて承知で言うなら、サファリパークで黒松の下にライオンが寝そべる光景を連想しちゃったぞ、オレ。
 何だかとても複雑な気分で風呂から上がり、服を着ながら一つの結論に辿り着いた。

    ・・・・・・ふじには、月見草が、よく似合ふ。(太宰治「富嶽百景」)

 ちゃいまんがな!

    ・・・・・・日本の露天風呂には、日本娘が、よく似合う。(黒髪ストレートのロングかな、やっぱし)

 とムリヤリ、オチを付けて来週に続きます。え!?今週のサブタイトル?そりゃこれしかないでしょう。

   〜〜 別府は地獄だ!金髪だ 〜〜



 いやー先週は品がなかった。何のかんの言ったって金髪ネーチャンに目が眩んどったもんな。自分でも眉をひそめる文章だった。今回は別府シリーズ最終回、ちっとは格調高く、ディーセントに行きたいものだ。

 ・・・・・・・・・・・・

 前回登場の保養ランドの道をはさんで向かいの谷は、別府市営の鶴見霊園とゆー広い墓地である。入口の六地蔵から中の参道をどんどん登り、突き当たりの小さな車の転回場から、草むらの小径を入って行くと、何と露天風呂がある。
 小さな噴気口から湧き出る湯を、地元の有志で石を集め、スコップで沢を堀って風呂の体裁をととのえたものらしい。畳一枚分位のトタン屋根の脱衣場の残骸らしきものもある。ビールの缶が沢山あるところをみると、皆、入りながら一パイやってるみたいだ。湯はかなり酸性の硫黄泉だろう。流れる辺りがすっかり白土化している。

 夜景がきれいそうなので夜中、こわごわ入りに行った。先客もいて少し安心。真っ暗闇の中を、下からユラユラと懐中電灯の光が登って来るのが人魂みたいで不気味だが、遠くに夜景が見下ろせてナカナカよろしい。想像以上に賑わっていて、入れ替わり立ち替わり人がやって来る。
 皆のマネして持参のビールを飲む。少しうとうとしてしまった。

 気が付くと誰もいない。自分は灯も持たずにやって来たので、周囲は漆黒の闇である。多分12時前後だったろう。ひどく心細くなって来た(実はとても小心者なのです)。そこに小さな光と共に、幾人かの足音が近づいて来たのであった。
 後の説明は今回も省かせて頂こう。やって来たのは地元の女子高生!じよしこおせえ!3人組だったんだな、これが。いやーキッチリ一緒に仲良く入らせて頂きました。いやーもう楽しかったー。忘れられん思い出やね。

 ああ!生きてて良かった!

 先週と変わらんやないかっっ!なーにが「格調高く」や!「ディーセント」や!アホかいな。

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 しかし、こんな感じの、殆ど自然のままの野趣あふれる露天風呂が、別府の山中に、少なくとも知る限りではあと2ケ所、この墓場近くにある。他にもボコボコあるらしいのだが、残念ながら調べ尽くせていない。
 一つは、採石場跡のボウボウと茂るススキの原っぱの奥にある。別府湾から遠く国東半島まで見渡せ、背後には鶴見岳がドーンとそびえる。素晴らしいロケーションだ。この解放感と景色は、実に良い。
 そしてもう一つは、山道から暗い沢に下った所に、ドバドバ流れ出す湯を堰き止めてしつらえた露天風呂。眺望は開けないけれど、周囲に覆いかぶさる繁った森が、野性味タップリである。

 もっと詳細な場所の説明を加えようかとも思ったが、敢えて止めさせてもらう。本当に興味のある方だけが、自分で尋ね、探しながら行くのが秘湯の歓びだからである。温泉ブームでこんな場所も減ってはいるが、どっこい温泉大国ニッポンである。探せばまだまだいくらでもあります。
 とまれ、この懐の深さが最も伝えたい別府のすごいトコなのである。ホントこんな温泉地、他にはちょっとありませんぜ、旦那。

 とゆーワケで3話連続の別府特別巨編、最終話のサブタイトルはこうですな、

   〜〜別府は墓場だ!じょしこおせぇだ!〜〜

Original1996 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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